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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
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1章-ルイの小冒険-②

そんな愛されて止まない将来きっと大物になるであろうとされている家族の宝。

"末の子"は青々とした草木の匂いを胸いっぱいに吸い込んでいた。


(風"も"気持ちいい、最高だ。

……でも、やっぱりダン爺とかオーリお姉ちゃんに怒られる気がする。)


そんな家族たちの気持ちを知ってか知らずか、ルイは郊外の草原に来ていた。


隠れて家族たちの訓練に紛れこんでいたルイは、

今後7歳になるまで一切訓練の参加を禁じられた。

それでも不貞腐れることなく、ルイは少しでも早く家族の力になれるようにと、

真剣に面持ちで家族たちの後をつけ、夜間訓練を"しっかり見学"した。


家族の中でも比較的、年が少し近い者たちが、

いつも以上に一生懸命取り組むその姿に、ルイは興奮を抑えつつ、

少したりとも油断する事なく、その一挙手一投足を見逃すまいと注視し続けた。

そんな、充実した時間を過ごし彼らより、少し早めに家へ戻ってきた際、

4柱に「どこに行ってたのかしら。」と声をかけてもらったので、

嬉々とそれらを報告したのだ。


(それにしても…すごい誉めてくれたし、喜んでくれたなぁ。)


ルイは昨夜から今朝の出来事を思い返し頬を緩めた。

毎度、問題行動と扱われてしまうが、

彼の行動原理には彼なりの家族への配慮が見受けられる。

ただその配慮は家族たちの多くには伝わらない。

ルイは必ず何か行動を起こす際には、家族の誰かに"相談"する事から始める。


例えば「早く、家族のみんなを守れるようになりたい」。

それに対して家族は「大人になればルイならきっとみんなを守れる。」と口にして、

頭を撫でる者もいれば「今から基本を丁寧に反復していけば、すぐそうなれるわよ。」

と口にする者、「ルイから見て俺が、皆の役に立っている様に見えるのならば、

訓練に打ち込み努力したからだな。」と照れ臭そうに口にする者もいた。

ルイの中でそれらは咀嚼され「大人になるのは努力しようがない。」と却下し、

「基本を丁寧に意識して、訓練に打ち込む。」と言う答えを得る。


そして答えが分かれば即実行。その抜群の行動力をもって目的に突き進む。


昨夜の様に危険な訓練に同行して行ってしまったり、

対集団戦の訓練を家族が攻撃されていると勘違いして、

そのど真ん中に突撃して行ってしまったりと、問題がないこともないのだが、

彼は彼なりに考えて日々過ごしている。

その事に気がついている者もいる。

だが、気付いているからこそ逆に、叱りづらくなっている面もあった。

「店舗には、いろいろな薬がおいてあって子供には悪影響を及ぼすものもあるから。」

と手伝いはないかと声をかけられた親代わりの一人はそう言った。

「訓練は見るのもな…ほら、お前四柱に見つかったんだろ?

 いやいや、そんな顔すんな、俺はルイは悪くねーと思ってるってるぜ?」

訓練の見学をしてもいいかと訪ねたが、今朝発覚した問題行動はすでに周知されており、

訓練監督を務めている親代わりは、ルイに慰めの言葉を述べて断られた。


「お手伝い出来ず、訓練出来ず…ってだけで、そんな絶望に顔を染める5歳児とか、

 ときどき本当に心配になる。ルイはもっと遊んでいても構わないと思うが。」

「あっ、5柱お姉ちゃん。」

「今朝の件で沙汰が決まるまで悶々としてるのも辛いだろうし、

 お外でのんびり過ごしてきたら、どうかな?」


親代わりの中でも序列の高い5柱が、

たらい回しにされ敷地の隅で暗い顔をした末の子の姿を見ていられずに、そう提案した。

故にルイは今"郊外の草原"にいる。なぜか"複数のオオカミと共に"。


(これは、また怒られる予感しかしない…)


狼の群れに呑まれている様に埋もれている件もルイが決して悪い訳ではない。

だが、散々親代わりたちから、お小言をもらっている経験は伊達ではなくこの案件は、

ばれたらお小言確定であると確信していた。


そう考えると少し暗い気持ちになるが、

それでもルイは彼らに手を貸した事に後悔はしていないかった。

ルイの気持ちを察した一匹のオオカミが、ルイの頬をぺろりと舐めあげた。


それが起ったのは、ルイがこの草原に足を踏み入れ散策を始めてすぐの事。


夏の強い日差しが和らぎ、秋を感じさせる風を楽しんでいると、

不意に鼻腔を刺激する血の匂いが微かだが感じた。


警戒心を高めるも、好奇心に背中を押されたルイは、意識を集中して気配を薄めていく。

足運び、そして自身の匂いにも気を配り、風下へ大きく円を描きながら進んで行く。

血の匂いが濃くなって行くのを感じつつ、歩を進めるうちに、

恐らく現場だと思われる場所のすぐ近くで一度足を止めた。

周囲を囲む草むらには手をつけず、自然と風でゆれる隙間から様子を伺う。


「っ!!…だ!…じゃ…だ!」

「お…け!…るな!」

「「「グル…ルル…」」」


すると、草むら隔てた向こうに、恐慌状態に陥っている数人の男と、

オオカミの群れであろうか喉を鳴らしているのが見えた。


(魔物狩りの冒険者なのかな…でも、あれは魔物じゃないな。)


ルイは親代わりに詳細と言える程ではないが、

このハンニバル近辺での遭遇する可能性のある魔物の知識を与えられていた。


魔境などと揶揄されるハンニバルではあるが、大都市である以上、

それを覆う城壁も王都のそれと遜色はない。

そんな堅牢な城塞にも見紛う建築物に、

いくら凶悪な魔物であっても容易に接近などしない。


では、逆にどのような魔物ならば、

この郊外の様なハンニバル近辺で遭遇する可能性が考えられるのかと言うと、

まず知性と警戒心に乏しい魔物が多いと言われている。

そして例外をあげるならば、住処をより強い魔物に追いやられた魔物などが該当する。だから、ルイはオオカミたちを視認して魔物ではないと判断した。

ルイでも知っているオオカミは賢い。

現に彼らは得物を逃がさないように包囲し、

危険を冒すことなどせずに、疲労するのを待っている。


(それに…この人たち、ちょっとおかしい。)


20匹以上いるであろうオオカミたちに包囲されている、

3人の男たち動揺を表情に出し、剣先を震わせて構えている。

そして何故かこの状況に至ってもなお、草むらに隠れている気配が4っ。

オオカミたちも当然それには気づいている。

先ほどから気配を消す素ぶりすら見せていないのだから当然だろう。

じゃあ、どうしてその4人は草むら出てきて3人の男に合流して脱出を図らないのか。


"腹這いのまま"まったく動かない4人の気配が気になり、ルイはどう動くか悩んでいた。


「…おい、仕方ない。こいつらをこっそり売り払うのは無理だ。

 この数をこいつら担いで逃げ切れない。…奥から持ってこい。」

「おいおい、立派な商品だぞ。それなりに手間かかってくすねて来たんだ!!

 なんとかできねーのかよ!!」

「あの方のもともとの命令は待機だ。そもそも商品に俺達が手つけようとしたのが、

 ばれた時点で消される事くらい。お前だってわかってるだろ。」

「ちっ…せっかくうまく集めた商品だってのに…。」

(こいつら"人攫い"だ。)


聞き耳をたててその内容をしっかり聞いたルイは、3人を敵と定める。

オオカミたちにはなるべく被害を出したくないが、どうにかして4人は救いたい。

ルイは必死に頭を働かせる。事態は動く、強く大きなうねり声が辺りに響き渡った。


「「グラァァッッッ!!」」


しびれを切らせた数匹が吠え、オオカミたちの動きが活発になる。

空気に緊張感が走る。

3人を囲っていたオオカミたちも次々に吠え、

包囲に参加していなかったオオカミたちがその周囲を駆けてまわる。

体格の大きな数匹は、得物の動向を注視しつつ、いつでも飛びかかれる体勢低く構えた。


「無理だ、逃げるぞっっっ!!」

「おぅ!!…っておい、置いてけ、それは無理だ!!」


リーダー格とおぼしき男が、声を荒げて逃亡指示を出す。

比較的囲みの薄い場所に剣を構え突撃する。

それに1人の男は槍を振り回し牽制しながら追従した。

槍の男は後ろから続く足音がない事に気付き振り向くと、

先ほどから麻袋に閉じ込めた商品に執着していた男が、

なんとか引き摺って持ち出そうとしている。


「グルゥガッーッ!!」


逃げ遅れた男に、群れの長だろうかひと際大きなオオカミが襲いかかる。

首筋に迫る大きなオオカミの強襲を慌てて転がる様に回避し、

致命傷はなんとか避けたが、肩に深く爪痕を受けうずくまる。


「っ痛!!…ちくしょー!!いてぇ!!いてーよ!!」

「ばかやろー!!」


槍男が逃げ遅れた男の前に飛び出して大きく槍を旋回させる。

群れの長はそれを軽く後ろに下がりかわして睨み付け喉を鳴らした。


「さっさとこっちこい!!」

「いてー!!くそが!!」


逃げ遅れた男の腕を強引に引き、リーダー格の元へ逃げて行く。

そんな得物の姿に10匹ほどの血気盛んな若いオオカミたちが、

唸り声をあげ追走の意思を示す。


「…グラァッッッッ!」

「「「「…………」」」」


群れの長の放つ咆哮に、群れのオオカミたちは平伏する。

その一糸乱れぬ動きと統率された集団行動にルイは心を震わせていた。

まるで、家族たちの様だと。


しかし、あまりのんびり見学している暇はなさそうだ。

人攫いが諦めて置き去りにした麻袋の中の人たちに、

数匹のオオカミたちが襲いかかる。


「ごめん。」


なるべく痛い思いをしない様に、手の平でそっと押し出す様に、

飛びかかってきたオオカミたちの顔を横から、押し出して受け流す。

突撃した推進力を殺さずに、

方向を下方へずらされたオオカミたちはルイの足元に顔を叩きつける。


なにが起ったかわからないうちに、

地面と衝突した襲いかかったオオカミたちは、立ち上がるとすぐ距離を取った。


その素早い立ち直りにもルイは、胸の内で称賛する。


「「「グルル…ルルッ」」」


様子を見ていた他のオオカミたちもルイから少し距離を置き、

喉を鳴らしルイと麻袋を包囲するよう動き出す。狩りのために行動を開始した。

しかし一匹だけルイの瞳を見据え、まっすぐに向かってくるオオカミの姿があった。


「…グラァ。」


立ち止まり小さく吠えた。群れはその場で次々と平伏して行く。

すべてのオオカミが平伏したのを確認した群れの長は、

再びゆったりとした動きでルイに近づいてくる。

黒く艶のある長い毛並みに覆われ、瞳はルイと同じ深い蒼。

人で言う顔にあたる部分もルイの銀髪のような銀色に煌めく毛に覆われていた。


(初めてこんな近くで見たけどオオカミってかっこいい。

きみと蒼目と銀色はお揃いだね、ちょっと嬉しいや。)

「……。」


群れの者たちも自分たちの長が、

小さな獲物と見つめあっている事に戸惑ったかのように様子を伺っている。

ルイは、いつまでも見ていて飽きる事のない長のその姿を眺めていた。

群れの長も同様にただじっとルイを眺めている。

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