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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-告げられる任務、改めて問われる覚悟。-■■①

■■2章-告げられる任務、改めて問われる覚悟。-■■


冒険者ギルドハンニバル支部。

その2階にある大会議室にルイ、その師匠である5人の姿があった。


リズィクルは、本日行ったルイへの指導内容をその場にいなかったエドガー、

レオン、マサルに順序立てて説明して行く。


"形状変化"の(くだり)に報告が及ぶと、

その中で狼へと形状を変えた事に興味を示したマサルは感嘆の声をあげる。


形状変化は、一般的には無機質な投擲武器の形を取る事が多く、

ルイがそんなところでも規格外な行動に出た事に喜色を浮かべ、目を細めた。


そして、魔力障壁(マジック・バリア)の基礎訓練の成果として初日から、

20枚程度ならば安定して発動する事が出来る様になったため、

今後、自然魔力回復(マジック・リカバリー)を習得させるために、常時発動させて過ごさせる旨を告げた。


「この様に、ルイは魔力の操作にも長けている事がわかった。」


そう締めくくったリズィクルは着席すると、

報告の間もじっと何も言わずに"落ち込んでいるのルイ"を、

黙って見つめていたルーファスが立ちあがり、自身との訓練内容を報告する。


「その後、俺っちが鎖術、気配察知(サーチ)の習熟度を確かめるために軽く手合わせしたっす。

 …ただ、その前にリズの訓練の様子も見てたから捕捉するっす。」


そう告げたルーファスは、そこで一度口を止めルイを見つめる。

しかし、ルイは"まだショックから立ち直っていない"ようで、その視線には気付かない。

そんなルイに呆れる訳でもなく、優しい表情を浮かべたままルーファスは続ける。


「簡潔に言うと、リズの絨毯爆撃みたいな魔法攻撃を後輩ちゃんは、

 障壁を多重展開し防御。20枚程度しか安定して張れないにも関わらず、

 大人気なく最終的には50には届く数の魔法をリズが被弾させるも、

 諦める事なく復元と再構成を繰り返して見事凌いで見せたっす。」


マサルは少し責める様な視線をリズィクルに向け、

今その話は必要かと問い詰めんばかりの目で、

ルーファスをリズィクルは睨みつけた。


ただ1人、その話を聞き少し瞑目して考え込む様な反応を見せたレオンが口を開いた。


「…当然加減をしたであろうとは言え、リズの波状攻撃を初見で防ぐ…か。

 時折、見せるルイの異常なまでの対応能力の高さ。

 それを証明するためにリズ自身の手で試してみたと言ったところか?」


思慮深いリズィクルが、悪戯にその様な真似はしないだろうと考えたレオンは、

リズィクルがどうしてその様な行動にうつったか、予測して口にした。


それまで、ルーファスを睨みつけていたリズィクルはレオンに向き直る。


「最初はそこまで確かめるつもりも無かったんだがな。

 実際、形状変化、障壁共に贔屓目無しで優秀そのもの。

 だが、昨日のエドガーとの手合わせで見せたあの"異常な伸び"は感じなかった。」

「…なるほどな、少し追い込んだら顔を見せたのか?」


「そう言う事だ。10枚程度の維持…まぁ、これでも驚嘆に値する成長ではあったが、

 妾も興が乗ってしまってな、少し試してみようと、さほど指示もせんで撃ち込んだ。

 案の定、少し追い詰めた途端、ルーファスが口にした様に凌ぎきってみせた。

 そもそも修復、再構築など妾は教えておらんと言うのに…。

 予定をどんどん前倒しにしてくれる…愉快な弟子だよ、この子は。」


そう口にして項垂れたままのルイに慈愛を込め笑みを讃えるリズィクル。

そんな彼女の横顔とルイを軽く一瞥してレオンは深く息を吐いて瞑目する。


「結果、証明出来てしまったが故に、

 育成方針も大きく見直さなければならないだろうな。」


レオンはリズィクルの解答に深く頷き、腕を組んでじっと虚空を見つめる。

その表情にはどこか決意めいた雰囲気さえ感じられた。

リズィクルはレオンに声をかけようとした所で、マサルが眉根を顰めて口を開く。


「なるほど、魔法分野でもリズにそこまで言わせる程と言う訳だね。

 んー、失敗したなぁ…僕も訓練見学すれば良かったよ。

 ずるいよルーファス、なんで僕を誘わないんだい?」

「立場を弁えて下さいよ、狂王。我がもの顔で国王陛下が、

 ギルド内うろうろしてたら、職員も冒険者もただただ神経すり減らすだけっすよ。」

「ますます、国王なんてものは少し早く返上したいね。」


唐突に始まったマサルの無茶苦茶な要望をルーファスは一蹴して小さく咳払いをして話を続ける。


「陛下には、寝言は寝てから言ってもらうとして。

 後輩ちゃん斥候職としての能力は、

 一角(ひとかど)の斥候職についている冒険者に匹敵するっす。

 贔屓目無しでそう断言できるっす。」


そう口にしたルーファスは、手合わせ時の状況を細かく報告して行く。


その中でも気配察知(サーチ)を多重障壁の応用で展開し、

ルーファスの気配を把握した事は高く評価した。


ルーファス自身のこれまでの経験上、ルイが看破した陰行を感知できる者など、

S級冒険者の中でもそうはいない。

そのため、ルイが現段階であっても上位の斥候職と肩を並べるだけの実力は、

間違いなくあると太鼓判を押したのだ。


「この面子で陰行の話なんて、リズくらいしかわからないかもしれないっすけど、

 気配察知(サーチ)の能力が高くなれば、必然的に陰行の能力も上がって行くっす。」

「ん?それはどう言う理屈なんだい?」


魔窟(ダンジュン)や敵地潜入で程度は違えど、

気配を殺すくらいならば出来るマサルではあるが、

専門職の技術に対しての理解は当然深くはない。


ルーファスが口にした理屈が腑に落ちず首を傾げて、ルーファスの言葉を遮る。

マサルがそう口にした疑問に、リズィクルはその細い指先をこめかみに当てながら、

自身の考えが正しいかを確認するかの様に淡々と述べて行く。


「妾は、ルーファスやルイの様に気配察知(サーチ)は所持している訳ではない。

 だから、恐らくでしか物を言えんが、なんらかの形で察知能力が向上すると、

 向上した分だけ自身の陰行の粗に気付くと言いたいのではないか?

 妾が気配察知(サーチ)を魔術で模倣する事に至った際に、

 それまでの陰行の拙さに辟易した経験がある。

 ルーファスが言いたい"必然"とはそういう事であろう?」


その回答に、ルーファスは満足そうに頷いて見せる。

マサルの疑問もそれで氷解した様に小声でなる程と漏らした。


「今までと同じ様に気配を消しても、

 向上した自身の察知能力の前では、酷く拙い様に感じるっす。

 当然、そんな不安定な陰行で潜入はおろか、普段使いも怖くてとても使えないっすよ。」

「再度、自分の実力を見直すために再調整され、清廉されて行く…と言う事か。

 鍛治でも同様な事がある。それまで鍛える事の出来なかった武具の手入れが、

 出来る様になった途端に、自身で鍛えた物の至らなさに気づく事は間々ある。」


先ほどまで物憂げな表情を見せていたレオンがそう口にして頷いた。

リズィクルは先ほど不意に感じた疑問を思い出しレオンに問いかける。


「先ほどは、随分と難しい顔をしておったがどうしたレオ。

 何か思う事があるのであれば、1人で抱え込まんで妾達に話してみろ。」

「いや、大した事ではないんだが。」


若干、苦笑いを浮かべて頬を掻くレオンに、先ほどから口を開く事ないエドガーと、余程落ち込んでいるのか今だ心ここに在らずのルイを除いた3人は呆れた表情でレオンを見つめる。


「…わかった。きちんと話すから、そんな顔でこちらを見るな。

 俺もルイにしてやれることはないかと考えていてな。楯術、鍛治、錬金術(アルケミー)

 確かにどれも、迂遠ではあるがルイのためにはなるだろう…。

 ただ、1つ俺だからこそしてやれる事があるのではないかと思ってな。」

「僕は、どれも迂遠ではないと思うけどね。

 鍛治と錬金術(アルケミー)に至っては僕らは何度もそれに助けられている。

 実際未だに愛用している装備はその賜物だ。

 ルイ君に謙虚が過ぎる傾向が見られるのは、

 元来の素養もあるがレオの悪影響かもしれないね。」


マサルがやんわりとレオンの物言いに軽く叱責する。

そこに言下に含まれた手厳しさに、レオンの眉根はへの字に歪ませ肩を諫めた。


「ルイのためにならんと言うのならば、意識する事にしよう。

 確かに、今の言い方は卑下が過ぎたな。素直に詫びよう。

 俺がルイに出来る事なんだが………。」

「いい加減にせぇ、レオ。」

「煮え切らないっすね?!」


なかなか言葉に出来ないレオンに、

リズィクルとルーファスは、痺れを切らして抗議する。


そこで、今まで無言を貫いてきたエドガーが口を開いた。


「やってやれ相棒。」

「…エドにはレオがしたい事がわかるみたいだね。」


マサルは笑みを深くしてそう口にしたエドガーを見つめる。

当人は再び腕を組んで瞑目し、それ以上何も口にする気はないと態度で示す。


「…弟子も弟子だけど、師匠は師匠で頑固で困っちゃうね。

 でも、エドの態度で薄々だけど僕にも分かったよ。

 それには、僕の力が必要と考えるけど、どうだいレオ?」

「……うわぁ、思い当たっちゃったっす。」


口々にそう言う男衆に、リズィクルは冷たい抗議の視線を送る。


「また妾だけのけ者にする気か貴様ら。」

「リズ、へそを曲げないでくれ。俺がちゃんと自分の口で言わなかったのが悪い。

 俺は一度本気でルイを追い詰めて見ようと考えている。」

「レオっ!?貴様、それは正気で言っているのかっ!」


悲鳴にも近い声をあげ、リズィクルは立ちあがりレオンに詰め寄った。

エドガーは無言のまま頷き、マサルは笑みを深めて様子を窺っている。

ルーファスは、自分の予測が当たった事に、額に手を当て天井を仰ぎ見た。


「落ち着けリズ…自分でも愚かな事を言っているのは分かる。

 俺がしてやれる事などルイが覚えた事を全力でぶつける的になる程度。

 だが、エドとの昨日の戦いや、リズ達の報告を受けて果たして本当にそうなのか。

 そう自分に疑問を抱いた。当然、俺はお前たちの様に器用に力加減は出来ん。」

「だから、僕がいる事が前提だね。」

「ああ、そうなる。手間をかけてすまん。」


軽く頭を下げたレオンに、マサルはどうという事はないと首を横に振って見せた。


「…俺っち達の中でも、最高火力を誇るレオっちの攻撃。

 その体験と回避の訓練っすか…、一番過激な訓練内容っすね。」


ルーファスは真剣な表情でレオンを見つめてそう零した。

レオンは真剣に見つめ返して強く頷いた。


「自分で言うのもなんだが、並大抵の硬度を誇る魔物や城門などであればどうとでもなる。だが、もっと絶望的な破壊力を伴う一撃があるのを俺は知っている。その類の一撃は決して受けてはならない。楯職である俺でもそうだ。」

「いやいや、普通に受けてるイメージしかないっすよ。」

「そうだね。レオが回避を選択した姿なんて覚えがないよ。」

「茶化すな2人とも。それはどんな怪我もマサルがすぐ癒してくれる前提であって、

 常時その様な真似など出来ん。ルイにもその内、きっと仲間ができる。

 だが、今はいないんだ。俺達が側にいない時は独力での対応が強いられる。」


レオンは、未だ心ここに在らずのルイに一瞬だけ視線を向けて唯1人納得いかない表情のまま怒りを露わにしているリズィクルを見つめて言葉を続ける。


「触れてはならない程の攻撃。リズ、お前も含めて皆が可能だろう。

 だが、それらは幾ら加減が出来ると言っても、どれも殺傷力が高く危険が伴うはずだ。

 "殺傷力が一番低い"と言う点では、俺が一番適任だと思わないか?」


しっかりと見据えそう問うたレオンの瞳を睨みつけていたリズィクルは小さく嘆息する。

それまで眉根に刻まれていた深い皺も霧散させ、呆れた表情でレオンを見やった。


「…内容に関しては妾も口を出させてもらう。それが妾の出来る最大の譲歩だ。」

「ああ、俺としても保険が多いのはありがたい。ありがとう。」

「ルイのためだ、貴様のためではない。」

「理解している。」


レオンの謝辞を受け、手を軽く振り深く椅子に座り込みリズィクルは腕を組む。

そんな2人の様子にマサルも笑顔で頷いて見せた。


「さてさて、レオっちの爆弾提案も一応全員賛成を得たと言う事で良いっすね?

 大幅な脱線を強いられたっすけど、大事な報告が1つ残ってるっすよ?」


ルーファスは、そう口にしてリズィクルに同意を求める様に首を傾けた。


「ああ、そうであったな…。簡潔に述べるとルイの影が変異した。」


レオンとマサル、これまでほぼ無関心を貫いていたエドガーもこの言葉に反応を示す。

ルーファスとの手合わせの直後、突如発生した不可解な変異を見せたルイの特異(ユニーク)


それは鎖状の物に変異しただけでなく、魔力の消費、詠唱を必要としない事。

そうして発動した場合の方が威力、速度、精度共に既存性能を遥かに凌駕した事。

その後のルイが制御下に置こうと奮闘した甲斐があり、制御可能な物になった事を、

リズィクルは自身の仮説を織り交ぜて説明して行く。


「…と言う訳だ。現段階ではまだ不明な点も多い。

 妾は今の状態でもルイの影は未完成であると考えている。

 恐らく今後もこの様な事が起きる。

 制御下に置ける内はいいが、今後どの様な変異を見せるか定かではない。」

「黒い針山みたいな形状が、本質であるのであればアイテムボックスの様な使用方法が出来る時点でおかしいとは思ってたけど…なるほど、思いの外じゃじゃ馬みたいだね。」

「ルイが制御出来ない程の暴走を見せた場合、少し不味い状況になるな。

 調査は急いだ方が良いかもしれんな。」


「そこで、改めて妾から皆に提案がある。

 マサルがやらかした件も含めて。ルイの持つ力をルイに開示したい。」


それは数日前にマサルが、かけた査定(アセスメント)の結果と特異(ユニーク)の件を、現在ルイ自身には秘匿している事だが、それを開示したいとリズィクルは提案した。


「なるほど、僕は差し当たって反対しない。知る事で好転する事も多いだろうしね。」

「俺っちも問題は無いと思うっすよ。ってか、後輩ちゃんの場合、自覚ない力に振りまわされてる感が強いっす。」

「俺も同意見だ。全て開示する必要はないが、特に影に関しては何故、他人の目がある場所ではいけないかと言うのは"例の件"に巻き込むのであれば知っていた方がいいだろう。」


リズィクルの提案にただ1人反応を示さなかったエドガーに、

ルイを除いた全員の視線が集まる。


「……その件に関しては、俺は漠然とした考えで伏せただけだ。

 必要であるのなら俺から言う事は何もねーよ。」


ぶっきらぼうにそう言い放ったエドガーは再び、鼻を鳴らして目を閉じた。


「…エド、いつまでそんな態度でいるつもりだい?

 それからルイ君、キミもだよ?過ぎた事をいつまでも悩んでいては始まらない。」

「そもそも、さっきのはルイに落ち度はないだろう。」


少し前に起きた"ちょっとしたトラブル"から、エドガーは憮然とした態度を取り続け、ルイもすっかり落ち込んでしまい覇気が無い。

少し放置して置けば普段通りになると考えて放置していた面々ではあったが、流石に見かねたマサルが口にすると、レオンも咎めるように口添えする。


「後輩ちゃん?聞こえてるっすか?」


ルーファスは、立ち上がってルイの肩に手を載せて顔を覗きこむ。


「あ…先程は皆さんに迷惑をかけて、本当にすみませんでした。」

漸く反応を示したルイは、少し狼狽した様子で周囲を見渡し、深く頭を下げる。


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