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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-ルイ育成計画本格始動-■■④

急激に魔力を消費したお陰で、酷い倦怠感と酩酊状態にあったルイは、

今だ熱を佩びた身体を心地良く冷やしてくれる秋の風を楽しんでいた。


しばらくして、何やらリズィクルと話しこんでいたルーファスが、

ルイの下にやって来て、その横に寝転がって師匠が増えた事で不満はないか。

名無しと離れて暮らすようになって不安はないか。と口にする。


しばし他愛の無い話をして2人で声を出して笑っていると、

ルーファスが身体を起こしてルイの顔を覗き見る。


「んー…後輩ちゃん、だいぶ顔色も良くなってきたっすねー。

 もう動けそうだったら、少し俺っちとコレでもやってみるっすか?」


手首を軽く動かし、手品の様に取りだした数本の鋼糸をルイに見せる。


花街の夜に出会った時、一度それを目にした事のあるルイは二つ返事で了承し、

その場で屈伸運動や、軽い跳躍をして復調したか確かめる。


「半分…まではいかないくらいは魔力は戻った気がします。

 朝の掃除に影を使うと、夜ゆっくり寝ないと回復しないのに…。」

「ははっ、その指輪のお陰で掃除効率上がっちゃうっすねー。」

「ほんとにそうですねっ!」

「……まあ、好きでやってるなら良いっすけど。

 そんな事より、身体の調子はいかがなもんすか?」


迂遠な軽口は、純粋なルイには届かない事を理解したルーファスは、

掃除の効率があがる可能性に、胸躍らせているルイにそう訪ねた。


「昨日の痛みは多少あるけど、我慢出来ない程の痛みじゃないです。

 師匠を一発殴れるくらいは、ちゃんと動けると思いますよ?」

「エドっちの話になるとルイは口が悪くなるっすね……。

 まあ、いいっすけど。……じゃあ後輩ちゃんっ。

 どの程度、鎖を自在に操れるようになったか試してあげるっすよ。」


ルイの肩をぽんと叩き、ルーファスは背中を向けて距離を取る。


それだけ告げて離れて行くルーファスの背中を見つめながら、

試してくれるのは心から嬉しいのだが、

どうしていいか分からずにただ立ち尽くしていた。


10メートル程度離れた場所でルーファスは振りかえり、

ルイに聞こえるよう声を張り上げた。


「あー、武器も使っていいっすからねっ!!」

「え?」


ルイが疑問を口にしようとしたその時、


ルーファスの手首が微かにぶれた。


「投擲っ?!」


風を切り裂き、一直線に投擲されたナイフの存在に気づいたルイは、

口早に詠唱を唱え、影を()る。

なんとかギリギリのところで短剣を抜き放ちナイフを叩き落とした。


「あらら?俺っち、ちゃんと鎖って言ったっすよね?

 俺っちは、後輩ちゃんの鎖術の出来が見たいんすよっ!」


両手を頭の後ろに汲んで、わざとらしくおどけて微笑みルイを見据える。

いつもと変わらない何も変わらない、飄々とした態度と口調。


だが、その目だけいつもとはまるで別物。

いつもの柔和さの欠片など、どこにも存在しない。

そこにあるのは、猛禽類が獲物の隙を窺う様な危険な輝き。


挑発めいた軽口では隠せぬ程の不穏な空気を纏うルーファスを前に、

ルイの表情からも、笑みは完全に消え失せる。


(……こうして対峙するの初めてっすけど、なかなかどうして…雰囲気あるっすねー。

こりゃ、エドっちが羽目を外したく気持ちも無理ないっすね、ははっ。)


ルーファスは一層笑みを深くし、ルイに向かってまっすぐ歩き出す。


その無防備にこちらに向かって歩を進める姿に、ルイは更に警戒心を引き上げた。

なぜなら、その歩法はルイ自身が良く知っている"溶ける"ための布石。

自身との実力差は歴然、その上溶けられでもしたら手に負えない。


そんな警戒心を高めるルイに、ルーファスは笑顔で口を開く。


「"溶ける"前にこういう動きいれると、効果的っすよ?」


ついつい"溶けさせまい"と歩法にばかり気を取られているルイを、

叱責するようにルーファスの手元からナイフが再び飛来する。


「っ?!」


完全に虚をつかれた投擲。

ナイフに気を取られた刹那、ルーファスの姿を完全に見失う。


迫るナイフの腹を忌々しげに、掌打で叩き落とし、

気配察知(サ-チ)に集中しルーファスの姿を必死に探る。


(捉え…づらい…でも、見つけたっ!)


存在遮断(ステルス)の熟練度が高いためか、完全に捉えるには至らないまでも、

どうにかルーファスの気配を捕捉したルイは、

足下に落ちたナイフを素早く拾い上げ、気配目掛けて投擲する。


――ギィン


気配の先にルーファスが姿を見せ、ルイが投擲したナイフを事もなげに払う。


その一瞬の間隙を逃すまいと、

影から鎖を引き出したルイは、満面の笑顔をルーファスに向けた。


「お待たせしました、先輩。」

「ははっ、なんと言うか……可愛い顔して、意外と気が強いっすね。」


笑顔の下に、隠しきれない程の戦意を見て取ったルーファスは呆れた声をあげた。


ルイ自身には自覚はないが、挑発に対して免疫があまりないのか、

すぐムキになる傾向が強い。


ルーファスはそんな可愛い後輩の精神的な脆さも、

おいおいは矯正して行かなければいけない。と胸の内で吐露した。


「さあ、準備もやっと出来たみたいっすから、試験の時間っす。」


そう告げるや否や、ルーファスは指の隙間に複数のナイフを握ると、

笑みを浮かべたまま、一気に加速する。


(速いっ?!師匠なんかの比じゃないっ!)


驚嘆せしめる速度で肉薄するルーファスに、ルイも負けじと距離を詰める。


逆手に握り直した短剣を、高速で繰るルイの連撃を、

獣染みたしなやかで、巧妙に身体を繰るルーファスは軽やかに回避する。


まるで幼子の相手をする様な笑みを湛えて回避し続けるルーファスに、

苛立ったルイは、足下に忍ばせていた鎖を繰り一気に跳ねあげた。


「おっと。なかなか使えてるっすね。」


そう口にしたルーファスは、風を切り裂き迫る鎖を接触寸前のところで

片足を滑らせる様に滑らかに引き、半身にする事で回避した。


だが、それはルイの思惑通りの回避行為。


引いた事で、体重が偏ったルーファスの足元に身体ごと叩きつける様に迫る。

だが、その一撃ですらルーファスの表情から笑みを消すには至らない。

ルイが放った渾身の一撃は、足甲を纏った鋭い蹴りで容易に相殺される。


動きを止められ、体勢を崩したルイに、

体重差と筋肉量の違いに物を言わせたルーファスの蹴りが、

次々と連続して放たれる。


必死に歯噛みして受け流し、ダメージを軽減するルイ。


(…ここ。)


劣勢である事は変わらないが、なんとか思惑通り、

視線を足下に釘づけにする事に成功したルイは、一気に鎖を手繰りよせた。


ルーファスに回避されたまま虚空を彷徨っていた鎖は、まるで意思を持つかの様に、

ルーファスに牙を剥いた。


「ちょっと過剰演出っすね…。まあ、エドっちなら驚いたかもしんないっすけどね。

 そもそも俺っちは後輩ちゃん相手に油断なんてしないっす。」


身体を反転させ遠心力を加えた長い腕をしならせ振り抜き、取り囲む鎖を弾き返す。

軽い総評を口にして、流れのままルイの肩に足をかけ、軽く蹴り背後に跳躍。

中空から、鉤づめと化していたナイフを一斉に投擲した。


「…これくらいなら、掃除の方が難しいですよ?先輩。」


そう呟き、最高速で投擲ナイフに接近したルイは再度鎖を繰る。

激しく蠢く鎖が一気にナイフの群れを飲み込み叩き伏せた。


「それで終わったつもりっすか?」


鎖で叩き伏したはずのナイフが、鎌首をもたげて足下からルイに襲いかかった。


(これ全部を鋼糸で操作してる?!)


咄嗟に身体を捻って回避するも、巧みな操糸術によって繰られたナイフは、

どれだけ弾いても、まるで意思でも宿っているかの様に執拗にルイに襲いかかる。


「鋼糸だけでも十分良い暗器なんすけどね……。

 先端にナイフの様な目立つ物があるってだけで、

 結果こういう事もできたりするっす。」

「なっ?!」


右足を引き、背後から迫るナイフを弾こうとしたルイは、

意思に逆らって全く動こうとしない右足に目やり、

そこで異変に漸く気づき声をあげる。


なんとか足に絡まる鋼糸を、どうにかしようと短剣を振ろうと足掻くが、

今度はその腕がぴくりとも動かない。


「これで王手(チェックメイト)っす。」


拘束に気を取られ、ルーファスに対しての警戒を怠ったルイの耳元でそう呟く。

その声に更に動揺するルイの首元には冷たいナイフが添えられた。


「じゃあ、もう一回っす。」


そう一方的に告げてルイの拘束を解いたルーファスは、

先程と同じ立ち位置まで下がると、再度、鋼糸付きのナイフを投擲する。


考える暇もなく襲いかかるナイフを回避し、

先ほどの反省を活かして鋼糸の部分を短剣で払い触れない様に意識する。


(鋼糸の制御を簡単にはさせない、それと触れない事が大切っ!)


次々と投擲されるナイフをかわしては、

短剣と鎖を器用に用いて鋼糸のみを狙い、弾き続ける。


初戦とは違い巧みに操作されるナイフの動きにも慣れてきたところで、

ルイはルーファスに向かって突き進む。


「えっ。」


ほんの少し前まで、確かに視認していたルーファスの姿が何処にもない。

それどころか微かではあったが、なんとか気配察知(サーチ)で探れていた気配すら消え失せた。


「ナイフと鋼糸とじゃれてて、俺っちの事を見失ったら本末転倒っす。」


背後から声をかけられ、慌てて振りかえるも、その姿が無い。


「っ!」


無防備に振り返った事が失策だったと気付いた時には、

ルイは首元に冷たい感触を味わっていた。


「じゃあ、もう一回っす。」


先ほどまでと同様、一方的にそう告げて距離を取ろうとするルーファスを、

ルイは思わず呼び止める。


「せ、先輩っ、僕の気配察知(サーチ)が未熟だって事ですか?

 今まったく感知出来なくて…。

 鋼糸にはだいぶ対応できるんですが、気配を捉える事がまったく出来ません。」


ルーファスはルイの問いかけにさも不思議そうに首を傾げる。

困惑するルイをそうして暫く見つめていたルーファスは、

呆れた表情で頭を掻きながら、深いため息を吐いた。


「ルイは、ちょっと皆に甘やかされ過ぎなんじゃないっすかね?

 俺っちは、いちいち教える気なんて無いっすよ。

 悔しかったら何故出来ないかちゃんと悩んで、

 色々と試して自分で解決するっすよ。

 さあ、お喋りは時間の無駄。どんどん行くっすよー。」


お前は甘やかされているとはっきり断じられたルイは、

ルーファスをじっと見つめながら、その言葉を噛みしめる。


(先輩の言う通り、教えてもらえるのが当たり前だなんて、

いつからそんな事思う様になったんだ…。甘えるなっ。)


ルーファスが何故この様な訓練を繰り返すのかと、

先程までの困惑していたルイは、ルーファスの叱責で目を覚ます。


今まで漂っていた重たい雰囲気を霧散させ、

何度かその場で軽い跳躍して、静かに腰を落とした。

ルーファス

「なんすか、俺っちになんか恨みでもあるっすか。」

ルイ

「?」

ルーファス

「口調がめんどくさい上に、暗器を使った戦闘シーン…すごいめんどくさいっす。」

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