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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-ルイ育成計画本格始動-■■③

「とても厳しい入口でした…あはは。」

「無理せず、そこでいいから寝ているといい。

 素晴らしい制御だった。妾の弟子は本当に誇らしい。」


リズィクルの称賛を受けルイは清々しい笑顔で応えて倒れ込む。


魔力の急激な欠乏によって酷い倦怠感に苛まれているのであろう。

ルイのは少し浅くそして早い呼吸を繰り返している。


大の字で寝転がるルイにリズィクルはゆっくりと近づき、

その場にしゃがみ込んで、汗で乱れたルイの前髪を整え口を開く。


「ルイであれば、被弾の瞬間だけ今の4倍から5倍は展開できるようになる。

 ゆっくりでいいから、確実に自分の物にしていけば良い。」

「5倍ですかっ?!…はぁはぁ、今ので精一杯だからピンとこないです。」

「くくくっ、今はそれで構わん。だが出来る。妾の弟子だからな?」


悪戯めいて笑顔で片目を閉じて見せたリズィクルに、

ルイは眉根を歪ませて困った顔を浮かべしたものの、

はっきりと肯定の意味を込めて頷いて微笑んだ。


「くくくっ…さて、ルイは見ての通り無事だぞ?

 貴様も幼子の様に隠れていないで、姿を見せたらどうだ。」


ルイの頭を優しく撫で続けるリズィクルは、視線を送る事なくそう問いかけた。


すると、ゆらりと背景が歪み上機嫌に笑みを湛えてルーファスが姿を現せる。


「いやいや、普通に声かけるつもりだったんすけど、

 あまりに真剣に後輩ちゃんが頑張ってたもんすからね。

 下手に声かけて邪魔しちゃまずいかなって見てただけっすよ?」

「あっ……先輩。」

「あーあー、無理に起きなくていいっすから、そのまま寝てるっすよ。

 後輩ちゃんは張り切り過ぎるとこがあるっすからね、

 休憩しなきゃいけない時はきちんと休むのもも訓練にっす。」


ルーファスは、手をひらひらさせ起き上がろうとしたルイを制してそう口にした。


「……はい、流石にちょっと辛いので、このままでいます。」

「そうするといいっす、その指輪してるなら数分もすれば良くなるっすよ。

 まあ、回復してもさすがに魔法の訓練は今日は止めとく事っすね。」


再び倒れ込んで深呼吸を繰り返すルイを覗きこんで、

ルーファスは、そう告げるとルイの胸を軽く叩き立ち上がる。


一瞬、リズィクルへ軽く視線送ると、

ルイから少し離れた場所で立ち止まり座り込んだ。


「ルーファスの言う通り、少しそのまま横になってると良い。」

「…はい。」


まだ辛そうにしているルイに笑顔でそう口にすると、

最後にルイの頭に触れて、ゆったりと立ち上がりルーファスの下へ向かう。


「それで、貴様から見てどう思った。

 その手の話がしたくて妾を呼んだのであろう?」

「後輩ちゃんから狼が飛び出した時は、腹抱えて笑いそうになったっすよ?」


リズィクルは、ルーファスにだけ届くように小さな声で問う。

それらルーファスが、さも可笑しそうに笑いながら軽口を叩いて見せたので、

刺し貫く様な冷たい視線で睨みつけた


「…分かってるっすよ、ちょっとした冗談じゃないっすか。

 エドっちと良いどうして短気な人が多いっすからね…。

 まあ、リズが行き着いた答えと一緒…ってところっすよ?」

「ええい、鬱陶しい。そんな答えを望んでいるのではないわ。」


これ以上迂遠な物言いをすると、

本格的にリズィクルの機嫌を損ねてしまい兼ねない。


それはそれでややこしい事になると、

すっかり観念したルーファスは、自身の考えをぽつりぽつりと口にしていく。


「俺っちから見た後輩ちゃんは、他人の感情…んー、機微ってやつっすかね?

 そう言うのに偉く敏感なんすよ…いや敏感すぎるっす。

 悪く言えば子供らしくない、たまに不気味に感じるくらい良い子ちゃんす。」


「…悪い事とは一概には言えんが、貴様の言う事は思い当たる節はあるな。」

「いやいや、俺っちだって後輩ちゃんは可愛いと思ってるっすよ?

 ただ、たまに我慢に慣れ過ぎてるあの姿を見ていると淋しい気持ちになるっすよ。」


ルーファスはそう口にすると、心地良さそうに秋の風をその身で受け、

満足そうに目を閉じているルイに視線を向けた。

リズィクルもそんなルーファスに釣られて視線をやる。


「……後輩ちゃんは、間違いなく頭が良い子っす。

 でもそれが災いして、ついつい人から受ける言葉を過大解釈しちゃうんす。

 リズがさっき助言した、魔力をどーのって言うのもあの子の中では、

 俺っち達では想像出来ない解釈なんすよ、きっと。

 もしかしたら、"魔力の発動を止めて魔力を流せ"くらいに聞こえたかもっす。」

「…そんな馬鹿な。と言えれば楽なんだがな…。」


リズィクルには、ルーファスが口にするルイへの評価は、

表現こそ抽象的で、捉えずらい内容ではあるが、強ち的外れでは無いと感じていた。


先ほどルイに魔法を放つと判断するに至る前。


ルイの今後を視野に入れ、1つの仮説を証明、またはその仮説を否定するために、

魔力障壁(マジック・バリア)を展開させた上でギリギリまで追い詰めるつもりで魔法を放った。


その仮説とは、ルイは特異(ユニーク)及び模倣する技術が高いため成長が早い。

だが、それはあくまでも手本を示された場合に限る。

目にして、分析し、再現する事には長けているが、

逆にその規格外の才能その物が足枷になり、

手本が無い場合は思考停止に陥るのではないか。…と言った物だった。


当然、その仮説には矛盾が生じる。

昨日のエドガーとルイの訓練だ。


昨日のルイは、思考停止に陥るどころか、

羅刹の如く武器を繰るエドガーの猛威、

その悉くに、ルイは対応し適応して見せた。


「これは、恐らく程度に話を聞いて欲しいんすけど…。

 後輩ちゃんは、余計な事を考えらないくらい追い詰められて、

 初めて素になるんす。それぐらい切羽詰まって漸くなんすよ…。

 普段の思慮深さに加え、後輩ちゃんが本来持っている堪、それに経験なんかが、

 上乗せされて本来の後輩ちゃんが顔を覗かせる…。ってところじゃないっすか?」


少しだけ真剣な表情を見せたルーファスはそう口にしてリズィクルを見つめる。

自身の言葉を思い返し、些かの気恥ずかしさがあったのかその場に寝転がった。

ついつい天邪鬼なところが顔を見せるこの男に、

ここまで言わせる愛弟子を改めて見つめリズィクルは笑みを浮かべる。


「どんな言葉を重ねても、そんな物が証明になんぞなってたまるか。

 …だが、貴様にそこまで言わせる程の弟子か。

 全く、エドとレオはとんでもない者を拾って来たものだ。」


リズィクルのその言葉に、ルーファスは顎を摩って可笑しそうに笑った。


「いやいや、自分で言っててぞっとしたっすよ。

 堪は天性の物があるからともかく、経験って…まだほぼ無垢な状態でアレっすよ?

 エドっちから話を受けた時に、おい想像してみろよ。

 なんて言われてその気になったっすけど、

 このまま皆で鍛えていって……いや、なんでもないっす。」


ルーファスはそこまで言いかけて、言葉を止めた。


「戯け……いらん気を使うな、馬鹿者が。ルイは"ルクシウス"ではない。」

「リズ、俺が悪かった。調子にのって余計な事を口にした…。

 だから、この話は仕舞いだ。」


リズィクルが少し憂いを帯びて、仲間達が背負うと決めた家名を口にする。

ルーファスは普段の飄々とした態度を霧散させ、固い口調でそう言い放つ。


5年と言う月日が過ぎてもなお、今も彼らを縛りつける"ルクシウス"。

俯くリズィクルを横目に、ルーファスは大きく伸びてルイの下へ近づく。


「妾だけが背負えば良かったんだ…、

 こんな事を口にしたら貴様らに嫌われてしまうな。」


俯いたまま、小さく。

とても小さく零したその言葉は、誰の耳に届く事なく虚空に消えた。

頭を振り、顔をあげたリズィクルの目には、

すっかり元気を取り戻したルイといつもの表情に戻ったルーファスが笑っている。


「兄様…妾に可愛い弟子が出来たんですよ。

 ほんの少しで良い…妾の可愛い弟子を見守って下さい。」


薄紫の絹の様な髪を冬の気配すら感じさせる秋の風が通り抜けた。

ルーファス

「お、なんか俺っちの喋り方安定してきたっすかね。」

リズィクル

「そんな事はどうでも良い。妾まるでヒロインみたいではないか?」

ルーファス

「いやいや、ルイ5歳っすよ。年増じゃ厳しいっす。後輩ちゃんが可哀そうっす。

 ……冗談じゃないっすか、そのおっかない魔法ガチのっすよね?

 ちょっと大人気ないっすっ!!」

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