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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-ルイの属性、迷える師匠の願望-■■①

■■2章-ルイの属性(アトリビュート)、迷える師匠の願望-■■


太陽が中天をむかえ日差しが強くなり始めた頃、

中央区にある屋台街は賑わいをみせ始める。

活気づいた人々の喧騒が、

馬車の窓に張りつき景色を魅入るルイの耳にも届いた。


「この時間を使ってひとつ、ルイにやってもらいたい事がある。」


リズィクルが懐から、封蝋がされた書状の様な物を取り出した。

窓から離れ彼女の対面に居住まいを整え、じっとそれを見つめる。


「これは魔力の適正を調べる魔道具で、

 この封蝋部分に対象の血と魔力を流し込むと"発現-コール-"と言う基本"魔術"が発動する。」

発現(コール)…。基本なんですか?

 "(アロー)"とか"(ランス)"、"(ブリット)"…"(ウォール)"は

 聞いた事があるんですけど、それは初めて聞きました。」

「ほお、良く知ってな。だが、それは基本"魔法"、発現(コール)は"魔術"の基本だ。

 まあ順立てて教えるから、その違いは一旦置いておくぞ。

 なによりまず、ルイの適正を知るのが先だ。

 この封蝋に少しルイの血をつけねばならん………待て。」


リズィクルの説明と魔道具に目を、輝かせるルイを頭を撫でつつ語る。

説明が本題に差し掛かったところで、

影から短剣を引っ張り出したのでルイの手を掴み、リズィクルは嘆息した。


「妾は、そんな物を使って切らねばならぬ量は求めていない。

 それは仕舞って、この針を使え。」


こんな可愛らしい外見で、躊躇なく物騒な行動を取る幼い弟子の悪癖に、

悪影響を及ぼしたであろう銀髪の無法者に胸の内で叱責する。

リズィクルに手渡された奇麗に磨き上げられた針を繁々と見つめ、

影に短剣を仕舞い、針を親指に刺し血が滲むのを確認して封蝋に触れた。


「押し当てたまま、ゆっくり魔力を傷口が触れている封蝋に、

 流し込んでみるといい。」


リズィクルの言葉に頷き、ルイはゆっくりと魔力を流し込む。

しばらくして封蝋が溶けて崩れ、用紙の上を溶けた蝋が激しく動き出した。


「ふむ、もう指を放していい。念のためこの薬を塗っておくといい。

 さあ…始まるぞ、見ているといい。」


受け取った薬を指先に塗り、ルイは興味津々で魔道具を見つめる。

蝋がいくつにも枝分かれし、小さく震え発光しはじめた。


「これが発現(コール)だ、魔力を火や水、風…様々な物に変化させる基本の魔術。」


ルイは息を呑んで見つめる。

発光を沈めた蝋が火を纏う、水を纏う、雷を纏う…ありとあらゆる物を纏って、

魔道具である書状の上を駆け巡る。


その都度、ルイには読み取る事の出来ない文字の様な物が浮き上がり明滅する。

最後に、やや強い発光を見せると魔道具は一面に文字を残し沈黙した。

リズィクルは、その文面をしっかりと確認して懐に仕舞い口を開いた。


「ひとつ、初めに伝えておく事がある。

 これの読み方は、成人までにはきちんと覚えてもらうが、

 属性(アトリビュート)には適正の他に相性、または親和性と言われるものが存在する。」

「適正…相性。」

「簡単に言うと、火魔法に適正があれば使える。なければ発動すらしない。

 相性が良ければ威力、操作性は高いが、悪ければ威力も操作性も低い。」


リズィクルの説明に理解出来たようで、真剣な面持ちで頷く。

少々、緊張感を帯びているのが見て取れる姿が、

なんとも可愛らしくリズィクルは口元を緩め続ける。


「ルイの適正はこの場で告げるが、相性に関しては然るべき時と、

 妾が判断するまでは告げん。エドが数多の武器を扱えるように、

 ルイを鍛えるのと同じ理由だと考えて欲しい。」


「えっと……ちみっこが、得意だ不得意だ騒ぐのは100年早いからですか?」


ルイが発した言葉にリズィクルは絶句した。

エドガーの天邪鬼っぷりを再確認した彼女はルイの頭に手を載せ、

天邪鬼と自身がどうしてそうするかをルイに説いた。


「エドが、ルイに様々な武器の技術を学ばせているのは、

 何も満遍なく扱える様になって欲しい訳ではない。

 日を重ね鍛え上げられたルイは、その身体も大きくなるだろう。

 そして、いずれは何を自身の得物にするか選ぶ時が来る。

 しかし、今のルイはまだ体が出来あがっていない。

 現状使いやすい武器が、成人になったルイに相応しいとは限らない。」


ルイは少し考える素振りを見せるも、すぐに理解したのか頷く。


「それに、多岐に渡る武器の基本をしっかりルイが学んでいれば、

その武器を扱う者の実力や次の動きが予測できたりするであろう?」


その言葉にルイは目を見張らせた。

冒険者たちとの模擬戦で実際、体験していたからだ。

特にその訓練内容に不服など抱いていた訳ではないが、

その裏にあった大きな意味を伝えられ、ルイにしては珍しくエドガーに対して、

素直に深い尊敬と感謝の気持ちを胸に抱いた。


「妾は、エドの話を聞きそれに倣った方針を取る事にした。

 相性が悪い属性(アトリビュート)と言っても、先に伝えた様に使用する事は出来る。

 ならば、鍛えておいて得はあれど損はない。

 まあ実際、独学で成長する道しかない者であれば、

 全てに手をつけてしまうと、いくら時間があっても足らぬ。

 だが、幸いルイには妾がおるからな。」


「じゃあ、適正がある属性(アトリビュート)は全部?」

「そう言う事になる。不適正はきちんと伝える。

 まったく発動出来ない属性(アトリビュート)の訓練は流石に無駄だ。

 知識としてはもちろん教えるつもりだがな。

 ……くくく、何をそんなに嬉しそうな顔をしている、

 時間はたんまりあるとて、身につける知識だけでも、生半可な量ではないぞ?」


自分の手の平を開け閉じしながら、ルイの目は眩しい程の好奇心に満ち、

その纏う空気からも歓喜しか伝わらない。

リズィクルの問いかけに、顔をあげたルイの表情は、

これでもかと言うほど大輪の花を咲かせていた。


「僕は"家族たち"といた時は覚えたい事、教えて欲しい事を口にしても、

 「大人になってから。」「慌てる必要はない。」と言われるだけでした。

 それでも、1人でこっそり練習してみたりはしていたし、

 仇花様がたまに指導してくれる事もあったので不満はなかったんです。

 本当になかったんです……けど。」


ルイがそこで言葉を止め、リズィクルを見つめる。

彼女は軽く微笑み頷いて「続けなさい。」と言葉に出さずに促す。


「だけど今は、覚えたいと口にすれば全部教えてくれる師匠達がいます。

 それどころか、覚えたいとも思えなかった知らない事を教えてくれる。

 それが嬉しくて本当に楽しいんです。」


「一度ルイを弟子にすると決めたからには、とことん教えを授けよう。

 妾は教授だからな。簡単に根を上げて失望させるなよ、妾の愛い弟子。

 ……それとな、ルイが家族に不満があったなど妾も他のも思っていない。

 家族達だって貴様が邪魔で手放した訳でもない。

 お前は愛し愛されている。だから、そこに負い目を抱くことはない。」


胸の奥が少しだけ跳ねた気がした。

ルイは彼女の言う通り、「何故それほど喜ぶ。」と問われた時に、

その答えを口にしている内に、

家族たちに対して心の何処かで不満を持っていたのではないかと影が差した。

しかし、彼女は言ってくれた。そうではないと。


「迷いが晴れて何より。さて最初の講義を始めよう。

 先ほどルイが困惑していた"魔法"と"魔術"なにが違うと思う?」


頭を撫でていた手が止めリズィクルは背もたれに背を預けて、

右手と左手の人差し指をゆらゆらと動かしそうルイに問うた。


「適正があって自分で使うのが魔法で、逆に魔道具の仕組みを魔術。

 …と言う事ですか?」

「くくくっ、長命の種族かと疑いたくなる程、賢いなルイは。

 だが、それでは半分も点数はやれんな。まあこれは妾の解釈になるが。」


そう言ってリズィクルは、極力ルイにわかる様に噛み砕いて説明する。


魔法とは"法則そのものを魔力で具現化または操作する"と言われ、

火弾(ファイヤバレット)を例に挙げると"矢じり状の火弾が生成され射出される"

法則を持つ。魔法の数だけある個々の法則を、

詠唱する事で自らの魔力を転換し発動するのが魔法と定義付けられている。


一方で魔術とは、"具現化、操作に必要な工程を魔力で作り出す"とされている。

魔法の仕組みを分解。部品、工程を魔力で作り出し、

魔法を模倣し再現する事も不可能ではないが、

それには絶大な知識量が必要とされると言われている。


その割には火弾(ファイヤバレット)を魔術で再現させるために、

火を産み出す工程、それを固定する工程、それを矢じり状に変化させる工程、

射出する工程、距離、威力…とトンでもない量の術式を作成せざる得ない。


「魔術は、魔法のより劣る…。」


説明を受けた後、深くその内容を咀嚼してルイは口を開いた。

その回答にリズィクルは、その理解度の高さに驚嘆するも笑みを深める。


「そう考える者が圧倒的に多い。何しろ妾もマサルに会うまではそうであった。

 だが、マサルは鼻で笑ってこう言うてな。

 「火魔法が使えなくても火魔術は使えるって事だよね?」とな。

 ルイはマサルからも軽く教えを受けたと聞いておる。

 "火は空気中の酸素を使って燃え、酸素が無くなると消える。"教わったか?」


「はい。魔法の火には酸素は必要ないとも聞きました。」


「魔法では、魔力を火に変換するからの。

 注いだ魔力が途切れるか、または術者が消すかしかない。

 酸素自体を燃焼する事はあっても、酸素が途切れて消える事はないわけじゃ。

 では、魔術ならばどうするか。

 魔力で酸素をとどめ、硬い物質を産み出しぶつけあって火花を起こす。

 すると火は起こせる。ただし酸素が尽きれば、たちまち消える。

 じゃあ、こうして見てはどうだろう。

 「酸素量を爆発的に増やした上で、魔法で引火させたらどうなるの?」

 マサルのその言葉で、少なくとも妾の常識は吹き飛んだ。」


「あっ!」


昨日学んだ事を思い返す、

瓶に酸素を詰め込んで小さな火を入れると、

大きな火に膨れ上がった実験に思い当たり思わず声が出た。


「威力が…増す?」

「正解、その威力にマサルと妾は死にかけた。」

「え…。」

「初めての試みだったからな。マサルと2人で郊外で試して見たのだ。

 そもそも空気と言う概念はあったが、

 "酸素"と言う概念は、マサルからに齎された知識。

 今でこそ操作は容易いが、当時は適切な量など分からないからな。

 結論としてはやり過ぎたという訳だ。」


マサルが回復職でなかったら、2人は助かってはいなかったかもしれないと、

笑って話すリズィクルにルイは呆気に取られて何も口にする事が出来ない。

当時の事を話している内に可笑しくなってきたのか、

涙を湛え一頻り笑った彼女は、ルイを見つめ直して続けた。


「実験としては大失敗ではあったが、価値はあった。

 知識があれば、属性(アトリビュート)に適正がなくとも扱えるだけの魔術に意義が生まれた。

 妾はその研究者として今も研究を続けている。

 ルイに妾が教え伝えたいのは魔法でも魔術でもなく"法術-フュージョン-"。」


「……法術(フュージョン)。」

「命名はマサルじゃ、彼の世界の言語で"融合"と言う意味の言葉らしい。

 魔法と魔術の融合。魔法を魔術によって高める。新たな魔法として産み出す。」

「凄いっ!!」

「1つ、助言しておく。」

「はいっ!!」


リズィクルが悪戯めいた笑みを浮かべた。


「妾たちの間では通じるが、一般的には使われない造語だ。

 恥をかきたくなければ、余所では口にしない事を薦める。

 妾も弟子が変な目で見られるのは些か心苦しいからな。」

「…あははっ、気をつけます。」


その言葉につい我慢出来ずルイは声を出して笑う。

リズィクルは、そんな様子を満足気に微笑みルイの頭に触れた。


「ルイはどの様な事だって出来るようになる。

 適正がない属性(アトリビュート)があるからといって諦める必要は何一つない。

 それは戦う術だけではない。その事だけは忘れてくれるなよ。」

「忘れませんっ!」


まるで優しい母親が子に話す様な声音でリズィクルが告げた言葉が、

ルイの身体の深いところまで染み込んで行く。

将来、自分が何処までも至れると背中を強く押すその力強い言葉に、

ルイは自身の背筋がぞくりと刺激された様な気がした。


そんな姿を見て、不適正の説明をしても落ち込む事はないだろうと、

判断したリズィクルは、ルイの頭から手を外して口を開いた。


「ルイの適正は多いから、不適正を挙げて行くとする。

 不適正の属性(アトリビュート)は"聖""光""闇"…この3っだけだ。

 これらは、どう足掻いても魔法では発動する事はない。

 将来術式を読み解き魔術として使用する事は可能ではあるがな。

 だが、当分は忘れろ。適正のある"基本属性(スタンダード)"と

 "基本上位(ハイ・スタンダード)"の魔法の習熟が先だ。」

リズィクル

「くくく、ルイと魔法、魔術談義は楽しいな。

 やっとファンタジー、ファンタジーしてきた。

ルイ

「長かったです…本当に長かったです。一章でこの辺まで来る予定だったから余計に…

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