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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-殿下、殿下、殿下。-■■②

ひと目で高級品と分かる衣服に纏った双子が目を輝かせて駆けて来る。

ルイはすぐに2人の素姓を理解してその身を硬直させた。


金髪を後ろで一本に結びあげた活発な瞳が印象的なシュナイゼル。

同色の髪を緩く巻き上げ、シュナイゼルとは異なりおっとりとした印象。

ただ、やはり双子。その目元を好奇心で輝かせるセレーヌ。


マサルから王子と王女が近々にハンニバルを訪れるとは聞かされていたが、

今日この場で出会う事はまったく想定していなかった。

それも寄りによってマサルとリズィクルと別行動している時に、

遭遇するとは……この場から逃げ出したい気分になる。


そして、満面の笑顔で2人の殿下がルイの前に立ち塞がった。


「「お主が噂の弟子っ!!」」


奇麗に揃ったその言葉に我に返ったルイは、慌てて膝をつこうとした。

しかし、膝は床に触れる事は無かった。

10歳を過ぎた2人は、小柄なルイ腕に各々腕を巻き付け、軽々持ちあげた。


「あ、あの?殿下?」


左右の同じ顔の殿下たちに問いかけるも満面の笑みを浮かべるだけだ。

バイゼルとリグナットに助けて欲しいと目で訴えるも、

苦笑いを浮かべ、首を横に振って肩諫めている。

バイゼルは笑顔のまま恭しく頭を下げ言った。


「お茶とお菓子をお持ちします。」

「頼むぞっ。」

「頼みますわっ。」


捨てられた子猫の様な表情を浮かべたルイを、

2人の殿下がルイを抱えたまま物凄い勢いで、

走り去って行く姿をリグナットとバイゼルは手を振り見送った。


そして、両殿下によるルイ拉致発生から数分経過した現在。

ルイは居城内に用意されている王族用の来賓室に連れ込まれていた。

バイゼルが案内で目にしたどんな品よりも、

高級感を漂わせる調度品の数々に囲まれ、

誤って傷でも付けてしまったらと恐れ戦いている。


そんな事を気にする気配を見せない両殿下は、

目を爛々と輝かせて、飽くことなくルイに質問を投げかけていた。


「シュナイゼル殿下、セリーヌ殿下。一旦落ち着いて下さい。

 僕の話を一度聞いて頂けませんか?」

「落ち着いてるぞ?」

「落ち着いてますわよ?」


お揃いの色をした大きな瞳をパチパチと、

瞬かせルイが何を口にするか期待に胸を膨らませる。


「そもそも…僕は平民です。

 両殿下の部屋に、立ち入ることで罰されてしまいます。」

「なんだ、そんな事を気にしてたのか?ルイはいいんだよ。」

「そうですわ。ルイ君を叱りつけるような者は私たちが許しません。」


シュナイゼルが、ルイの肩を軽く叩きそう口にする。

それに同意したセリーヌは、

ルイに害成す者あらば許さないと、可愛らしい眉を歪める。


「…では、順にお答えするので一度に、

 まとめて質問する事だけは、勘弁して頂けますか?」


期待に目を輝やかせる2人の圧力に屈し、ルイは小さく嘆息した。

シュナイゼル、セリーヌは、その言葉に歓喜の声を上げ、

仲良く2人で手を平を打ちあった。


いつまで経っても着座しないルイは理由を問われ、

「傷つけるのが怖い。」と、素直に口にした。

その返答にシュナイゼルは、無言で立ち上がり躊躇するルイを、

それはそれはとても高級そうな椅子に無理矢理座らせた。

それを見たセリーヌは使っていた椅子を引き摺ってルイの横に置く。

シュナイゼルはセリーヌを倣って逆に配置した。


「では、僕がどう育ち、どう過ごし、どうして師匠たちの弟子になったか。」


語り出したルイの横顔を2人は左右からじっと見つめる。

あまりに真剣に見つめられ若干の緊張を強いられた。


自身が孤児院で育ち、その孤児院が焼け落ちたため、とある派閥(レギオン)に育てられた。

エドガーとレオンとは"とある事情"で争う事になったと一息に説明した。

それが縁で、派閥(レギオン)から冒険者ギルドへ職員見習いとして預けられ、

エドガーとレオンの弟子になった顛末を告げた。


もちろん、どんな事件に関わったか、ルイはその手で人を殺めたこと。

そして、自分がエドガーとの戦いで、死にかけた事実は伏せて説明した。


「…ル、ルイ。お前こんなに小さいのに…。ひっ…ぐ。えぐ。」

「ルイ君…ひっ…ひぐっ…。ルイ君は私たちなどより、余程しっかりしてる。」

(どうして…こうなった。)


ルイの話を一通り聞き終えた2人は、ついに泣き出したしまった。

収拾がつかない程に泣き叫び、ルイの肩を叩き、頭を撫でまわす。

されるがままでいるルイは途方に暮れた。


このままではいけないと我に返ったルイは、

冒険者ギルドで過す日々を、どれほど楽しいか諭す様に語って聞かせた。

流石に百舌(モズ)を見せる訳にはいかないが、ルイは鎖を手繰って2人に見せる。

これほどの事が出来る様になったのも師達のお陰だと笑顔を見せた。


ルイの見せたその笑顔に、シュナイゼルもセリーヌも惹きつけられた。

2人は目と鼻を赤くしたまま、ルイに釣られる様に笑った。


――トントン。


「バイゼルで御座います。甘い物をお持ちしました。」


ノックの音にやや遅れて扉の向こうから、バイゼルがそう告げた。

シュナイゼルが入室を許可すると、

甘い匂いを漂わせたカートと共にバイゼルは現れた。


手際良く給仕するその手つきに両殿下は目を奪われている。

ルイだけはその動きに違和感を感じていた。

まるで、わざと見せ付ける様な足さばき。

オルトックの執務室で見た動きは、もっと無駄がない動きだった。

今の動きほど、派手さはないが美しい動きだと印象に残っている。


怪訝そうな顔を浮かべているルイの耳元でバイゼルは口早に告げた。


「特にマナーはございません。美味しくお召し上がりを。」


ルイにしか聞こえない囁きと笑みを残し、バイゼルは退室した。


「どうした、ルイ?」

「いえ、初めて見る食べ物なので……。」

「こうしたら良いのですよ。」


セリーヌは悪戯めいた笑顔でカップケーキを1つ手に取り、

シュナイゼルに向けて、山なりに投げて渡した。

それを受け取って大きな口を開け齧りついたシュナイゼルは、

笑って"お前もそうして見ろ"と身振りで伝える。

セリーヌも笑顔で頷き、カップケーキが積まれた皿を差し出した。

これ程までに気さくな殿下たちに、ついルイは笑い声をあげた。

ひとつ手にして口に放り込んだ。


「頂きます……これっ!美味しいですっ!」

「だろ?!だろ?!もっと喰べるといいっ!!」

「そうですよっ!!」

「僕だけ頂く訳には行かないですよ。」

「わかったわかった、セリーヌ俺たちも食べるぞっ!」

「はい、お兄様っ。」


シュナイゼル王子は、笑った。自分よりも幼いルイを友と認め、

新しい友もまた自分に無防備な笑顔を向ける姿を喜んだ。

セリーフは歓喜した。自分よりこうも幼いのに、

自分や双子の兄よりもずっと賢く頼りがいがある友が出来た事を。

ルイは少しだけ困惑し、それ以上に大きく感動していた。

平民の自分を友と心から認めてくれている2人の殿下に。


突然、ルイがピタッと動きを止め、

扉をじっと見つめている事に気づいた2人は、どうしたと問いかけようと

口を開きかけたところでノックの音が響いた。

開けられた扉からマサルとリズィクル、そしてオルトックが姿を現せる。


「随分打ち溶けたようだね。元気な2人に振りまわされたりしなかったかい?」

「陛下、リズっ!俺はルイと友になったぞっ!」

「わたくしもご友人にして頂きましたわっ!」


マサルの言葉に、ルイが反応を見せる前にシュナイゼルとセリーヌが、

マサルとリズィクルに駆け寄り捲し立てる。


「ルイはどうしても周りが大人ばかりで、歳近い者などおらんからな。

 ルイにとって初めて出来た友ということか。」

「とても光栄ですね、お兄様っ!」

「おおっ!いいぞっ!すごく良いっ!これからも良き友で居てくれ、ルイ。」


リズィクルの言葉を受け、2人は更に喜色を増した。

それを受けて、ルイは笑顔で頭を静かに下げる。


「シュナイゼル殿下、セリーヌ殿下。これからもよろしくお願いします。」


しかし、最後まで頭を下げることは叶わなかった。

両の肩に2人の手が添えられ止められたからだ。


「友に頭を下げるって言うのは違うぞ、ルイ。」

「そうです、そんなの駄目ですわ。ルイ君。それと殿下は他人行儀です。」

「シュナイゼル様、セリーヌ様。ありがとうございます。」

「「んー……。」」


"様付け"も釈然としないのか、2人は揃って難しい顔をして腕を組み唸る。

ルイは、そんな2人を困った顔で見ている。

可愛らしい3人のその様子に、マサルはルイに助け舟を出した。


「ルイは君たちの友人なのだろ?だったら友人を困らせるのは感心しないよ。

 これから、いくらでも時間はあるんだ。ゆっくりと友情を育めば良いさ。

 でも、私たちが滞在する"奥の屋敷"に数日後ルイも招待する予定なんだ。

 しばらくルイも滞在させるから、楽しみに待っていたらいいね。」

「それは楽しみだ。」

「ええ、私も楽しみです。」


2人はそう口にすると笑顔で手を差し出した。

ルイは差し出されたその手を強く握り返した。


再会を誓った両殿下は、マサルと共に笑顔で手を振り退室して行った。


「王族とはいえ、あの2人は心根が優しく民にも人気がある。

 ルイもそう硬くならずに話が出来たであろう?」

「初めは緊張しましたけど……、2人はとても素敵な方々です。」


その後オルトック達にも、別れを告げルイとリズィクルは城門に向かっていた。

2人と別れた時は少しだけ残念そうで寂しげな顔を覗かせはしたが、

引き摺ってはいないようだ。


「さて、戻り次第日課の訓練とやらを妾は見学させてもらおう。

 しっかりいい所を見せてくれるのだろう?」

「…期待に添える自身が無いです。」

「今のルイに出来る事を見せてくれたらいい。」


城門に近づくと、門兵達が笑顔でルイに手を振ってくれている。


ルイは一度その場に立ち止まり、彼らに深く頭を下げ笑顔で手を振った。

リズィクルとルイを載せた馬車がゆっくりと動き出した。

シュナイゼル

「うぉぉおぉぉおおおぉぉっ!!なんで双子設定なんかにしてしまったんだ!!

セリーヌ

「うふふ、慣れるまでの辛抱だと小さな声で連呼してる時は、心が壊れたかと心配しましたわ。

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