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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-殿下、殿下、殿下。-■■①

■■2章-殿下、殿下、殿下。-■■


オーカスタン王国最大の都市"王都リクスパスタク"。

王都と冠するこの都市は王国建国から、度重なる大氾濫(スタンピート)、内乱、内戦…

数多のも戦火に巻き込まれるも、その度に強く強固に復興してきた。

そんなリクスパスタクの中央に座す、オーカスタン王城。

白亜で統一されたその姿は、グラウス大陸の"高貴なる白"と称される。


そんな王城の一室。

その居室の露台から、王都からハンニバルに続く街道の向こうを、

じっと見つめる者の姿があった。


秋も深まり、少し冷たい風に母親ゆずりの美しい金の髪を揺らす。

その体躯は大人とそう変わらず、細身ながらも頼もしい体付き。


だが、その表情には、まだ若干の幼さが残っている。

女性とも粉う容姿に優しい目元をした碧眼の青年"ジュリアス"。

オーカスタン王国王位継承位筆頭である彼は、遠い地ハンニバルを見据え、

胸の内に沸く、不安と怒りを必死に留め押し殺していた。


「そんな不安な顔をしておっても、事態が変わる訳でもない。

 元気を出せとは言わんが虚勢を張るのも王族の仕事だと儂は思うぞ。」


ジュリアスの様子を心配そうに見つめ、"獣人族-ビースト-"の男はそう口にした。

白く長い毛を風になびかせ、狼種特有の長い鼻先を軽く掻く。

ジュリアスは、いつしか自分の胸に抱く想いが、

表情に出ていた事を恥じて苦笑いを浮かべた。


そんな彼を見つめる狼種の男は、その大きな尾をゆらりと一度揺らし、

ジュリアスが先ほどまで眺めていた先に視線を向ける。


「"ガラフ"翁…。申し訳ございません、情けない姿をお見せしました。

 陛下やエドたちを信用していない訳ではもちろんないんです。

 しかし、自分の縁者ですら己が手で守る事が出来ない自分が歯痒く。」

「己の未熟を恥じるのは、弟君と妹君の身を思えばこそとではないのか?

 なれば、その事自体だれがジュリアスを責める者などいようか。

 何も恥じる事はない。そして焦る事も必要ない。

 だがな、今せねばならん事はその身を守る事だ。

 王城にいるからと言って必ずしも安全と言う訳でもないからの。」


ガラフとジュリアスに呼ばれた狼種の獣人族(ビースト)は、優しい声音で告げた。

"ガラフ・ルクシウス"先代の王である慈王デオスタより、

王位を授かったマサル・ルクシウス・コンドーの友であり、

狂える魔王を討った英雄の1人。

人種(ヒューマン)より長命の獣人族(ビースト)とは言えど人種(ヒューマン)に換算すると、

100歳近い年齢でありながら、その鍛え抜かれた肉体。

その鋭い眼光は、今だなお衰えを感じさせる事はない。

ジュリアスは自身が、まだ幼子だった時初めて見たまま、

そこに在る武人ガラフを見つめ優しい笑みを零す。


「自身の心配も何も…。王城の守りをお一人で突き崩せる豪の者が、

 ここには2人もいて下さるのだから。自分の心配は不要です。」

「ジュリアス…それを言うなら、向こうには"それ"が五人もいる。

 心配する必要は何もない。戦力的にも不安が"仮に"あるのであれば、

 こちらの方があやうい……のか?」


鮮やかな緑色をした大きな瞳をジュリアスに向け、そう女が口にした。


希少種の証である褐色の肌をした"見長族-エルフ-"の女。

美しくも艶のある健康的な肌を、白雪色した戦羽織で覆い。

ほっそりとしたその腰に、戦羽織と同色に誂えた白い鞘を帯びている。


彼女がジュリアスを安心させようと口にした言葉が、

どうも尻つぼみに終わった事にガラフは嘆息した。


「"ヒイラギ"よ、お主がなんの心配もいらんと口にしようとして、

 向こうとの戦力比を頭の中で思い描いたのかも知れんが。

 そこは、自信をもって言い切って欲しかったのぉ。」

「でも、法国と帝国が攻めてくる分なら2人でどうにかできる。

 他の国まで参戦したら、手が回らない。ハンニバルの戦力の方が充実。」


「ふはははっ、確かにそうじゃな。なにそんな事にはならないであろう。

 そもそもそんな兆しがあれば、マサルもルーファスここを開けたりせん。」


ヒイラギ・ルクシウス・カナンは「なるほど。」と漏らし頷く。

そんな2人のやり取りを口元を緩めてジュリアスは見つめていた。


視線に気づいたヒイラギは、無表情のまま不思議そうに首を傾げる。

その反動で、細い肩口から零れ出したうっすらと輝きを放つ白髪に、

時折混ざる黒く艶めく髪が、不思議な調和を成している。


彼女は如何なる時もその表情に、感情の色を浮かべる事はない。

それが、一層作り物めいた美しさに拍車をかける。

そのため彼女を知る誰しもが、冷たい印象を持たれてしまう事も多い。


だが、自身が幼い時から"今と変わらぬ姿の彼女"の事を、

よく知るジュリアスの目には、とても優しく微笑んでいるように見える。


「うん、ジュリアス。それでいい。」


先ほどまでジュリアスが纏っていた嫌な空気が、

霧散したのを見てヒイラギはたった一言、口にした。


ガラフとヒイラギと話している内に、

心が軽くなり気分も晴れた、ジュリアスは執務机に腰を落とし、

先ほどまでは不安のあまり手につかなかった書類を片づけて行く。


「翁、私とジュリアスにお茶。」

「うむ、良かろう。少し待っておれ。」


ガラフが職務に集中しはじめたジュリアスを目を細めて見やり、

2人が好んで飲む、強い渋みのある茶を淹れはじめた。


もともとはヒイラギが好んで飲んでいた渋い緑茶を、

幼い頃のジュリアスたち兄妹たちは、真似をしたがり一口含んで泣いていた。

シュナイゼルとセリーヌはそれ以降、口にする事はなくなったが、

ジュリアスはいつの頃からか好んで口にする様になった。


今もガラフに礼を述べて、淹れたての茶を顔を綻ばせて口に運ぶ。

亡くなった先王に似て正義心が強く、双子の兄としての責任感も強い。

そして、何よりも国の事を想う気持ちはマサルにも劣る事はない。


マサルに、いずれ王位を譲るつもりだと告げられてからと言う物は、

周囲の者が心配になるほど、訓練と勉学に一層励んでいた。


今では、すっかり立派に成長したジュリアスを、

捕まり立ちが出来る頃より知る2人は、過去の姿を思い返し笑みを浮かべた。


「そうじゃ。」


不意に沈黙を破ったガラフの声に、2人が何事かと顔を向けた。


「エドとレオンが、子供を引き取り弟子にしたらしいぞ。」

「レオンの弟子。ではなくてエドとレオン?」


無表情ではあるが、その口ぶりから怪訝に思っているのだろう。

ガラフは鋭い牙をむき出しにして笑う。


「ふははっ、あのエドが師匠をやっとるなんて、儂も想像出来んがな。

 レオンの文を読むには、エドなりに色々と模索して過ごしているらしいぞ。」

「私も陛下からお弟子さんの事は聞きましたが、あの2人に師事する子供とは、

 どのような子なんでしょうね。確か5っだと聞いてますが。」

「5歳?…少し考え辛い。弟子ではなく、ただ預かってるだけではないの?」


ジュリアスの口から、2人の弟子の年齢を耳にしたヒイラギは疑問を口にする。

年齢の事まで聞き及んでいなかったガラフも、顔を顰めた。


「文には、エドガーとその弟子から訓練用の武器をせがまれ、

 レオンが槌を取り作った所、嬉々として訓練所で2人で打ち合っとると、

 書いてあったはずなんじゃが…。5歳でか?」

「なんというか…不安ですね。無事ですかね…そのお弟子さん。」

「……レオンがいるんだから、きっと大丈夫。…大丈夫?」


エドガーがどんな人物か良く知るジュリアスは徐々に顔色を悪くする。

ヒイラギは顎の先に指を当て、瞑目して唸りだした。


「ジュリアスはともかくヒイラギまで、そんな心配するでない。

 エドも弟子を取って、成長したのかも知れないではないか。

 なんだったら、マサルが戻った後にでも、

 一度、ハンニバルに行ってその目で確認したらいいじゃろう。」


その言葉にヒイラギは、目をぱっと開き「なるほど。」と漏らす。


「ハンニバルに向かったシュナイゼルとセリーヌが、

 そのお弟子さんに迷惑かけてなければいいんですが。」

「マサルが面白がって会わせるに決まってる。」

「ふはははっ、ヒイラギの言う通りになっているじゃろうな。

 2人も王城を取り巻く異様な雰囲気に辟易としていた。

 いい気分転換にでもなっとるじゃろうて。」


大きく笑うガラフの言葉に、ヒイラギは大きく頷いてみせた。

ジュリアスはそう言うものなのだろうかと首を傾げる。

そして、その胸の内で、まだ見ぬ噂の弟子である少年に、

確実に迷惑をかけているであろう双子に代わって謝罪した。


再びハンニバルの方向に視線を向けたジュリアスの横顔は、

先刻まで湛えていた悲痛さは微塵もない代わりに、

困惑が色濃く表情を曇らせていた。


■■■■


王都からそんな憂いを帯びた謝罪を送られているとは、

知らないルイは混乱と緊張に苛まれていた。

全く同じ造形の顔が2つ。

先ほどから、交互に身振り手振りを織り交ぜて質問の弾幕を張り続ける。


「なあなあ、ルイはどうしてエドガーの弟子になったんだ?」

「ねえ、ルイ君はいつもどんな風に過ごしているの?」

「なあなあ、ルイはどんな修行しているんだ?」

「ねえ、ルイ君はどんな食べ物が好き?私はねっ!!」

「おい、セリーヌっ!!俺が今、ルイと話してるんだよっ!!後にしろよ!!」

「シュナイゼルお兄様こそ、私が先にお友達になったのよ!!」

「俺だろっ?!」

「私ですっ!!」

「「ルイ(君)っ!!」」


仕舞いには言い争いを始めた2人の物凄い剣幕に、

気圧されてルイは大きく肩を落として嘆息し、

どうしてこんな事になったのか、頭を抱え込んだ。


両殿下と遭遇するまでの間、

ルイは、リグナットを伴いバイゼルの案内で居城内を案内してもらい、

初めて訪れた"お城"にすっかり夢中になっていた。


教育が行き届いた使用人たちの乱れる事のない立ち振る舞い、

案内される部屋やそこへ続く廊下や階段は、

どこに目を向けても隅々まで清掃が行き届いている。

時折、すれ違う巡回中の近衛達もキレがあって動きの質も高い。


そして、何より身につける装備は、レオンから師事を受けているとは言え、

まだ未熟なルイの目から見ても分かる程、どれも素晴らしい出来栄えに見えた。


すっかり興味を装備に移したルイは、

バイゼルと近衛兵に許可を得て手に取り観察に没頭する。


ハンニバルで経営している工房で作られると説明を耳にし感嘆の声を漏らす。

美しい造型を意識した作品だと聞かされたが、

ルイの目で見ても確かに装飾は多い。


しかし、丁寧に加工されたであろう装備を構成するその1つ1つは、

実戦でも十分に力を発揮するであろう事が分かる。


子供らしくないルイの仕草や態度に、近衛達も初めは困惑していたが、

あまりに目を輝かせて喜色を浮かべる可愛らしさにすっかり魅了されていた。

ルイの湧き出す好奇心を余りなく埋めてくれる、

素敵な時間は、2人の闖入者が出現し終焉ベルが鳴らされた。

ガラフ

「やっと儂らの出番じゃな…、しっかしジジィ好きにも程があるのぉ。

 ダンサイ老、バイゼル老…そこに来て儂じゃ。

ヒイラギ

「私のキャラが定まってないって困惑してるみたいだけど、

 極端な路線変更が無い事を祈るわ。

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