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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
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1章-冒険者ギルド-②

そんな荒くれどもが住まう辺境都市ハンニバルの冒険者ギルドの一室。

大会議場と呼ばれるその一室に、先ほど轟音を響かせた炸裂音の被害者と

加害者、両名を含めたギルド職員たちが一堂に会していた。


「ちっ。こんの馬鹿力のアホんだらは…あー、まだ目の奥がチカチカしやがる。

 …おう。ありがとよ。あぁ冷てぇ…癒される。」


不機嫌そうに会議机の上座で肩肘をつき座り込む銀髪長髪の男。

職員たちの統一感のある制服姿と異なりラフな服の上に、

動きやすそうな皮鎧を着込み、濃い緑がかった鋭い目でレオンを睨み付け、

タイタスに手渡された氷嚢を頭にあてる、

眠りの国から帰国したエドガー・ルクシウス・ワトール。


「…タイタス、そう甘やかす必要はないぞ。

 エド、少しは、タイタスの気遣いに日頃から感謝しろ。」


その横で腕を組み颯爽と立つ巨躯の偉丈夫。

エドガーとは、異なり一切の防具を身につけずシャツとズボン姿。

全ての髪を見事に剃り上げられた頭と服の上からでもわかる筋肉量。

強暴さを感じさせる容姿でありながら、その顔つきは理知的で、

細いフレームに黒色を湛えたレンズの眼鏡の奥で、

強い知性の光を佩びた薄い茶色の瞳は、柔和な印象すら与える。

そんなレオン・ルクシウス・オーペルは、

頭を押さえて睨みつけるエドガーに小言を漏らす。


「小姑かてめぇは…いやいや、相棒。わかった、俺がわるかった。

 冗談だから、一端、拳を握らないでおこうや。なっ?なっ?」

「お前は…まぁいい。"シェラ"報告を頼む。」


反射的に軽口を叩いた途端、レオンが発する怒気と握られた拳を察知し、

慌ててエドガーは姿勢を正す。

その姿に青筋をたてつつも何を言っても無駄だと短く嘆息をつき、

女性職員に報告を促した。

シェラと呼ばれた女性職員は、片結びにしたゆるやかに波がかった青髪を、

揺らし会議机の面々へ資料を配った。


「では、お配りしたお手元の資料には、我々が調べを続けている連続事件の

 詳細がまとめてあります。そちらに目を通して頂いている間、

 口頭で敬意を説明致しますのでギルドマスターは特に頭の痛さを、

 一旦忘れて、きちんと聞いていて下さい。

 連続孤児院襲撃事件、及び連続商会惨殺事件。

 さすがに記憶にないとは仰らないですよね。」


シェラはメガネの奥の冷ややかな視線をエドガーに向け、

エドガーが苦笑いを浮かべて頷いたのを確認し大会議室を見渡す。

そしてしばし間を置き、ほほ笑むように先を続ける。


「さすがに私たちが、ハンニバルに召集されたきっかけとなる事件です。

 エドに限らず、みんな記憶している様でホッとしました。

 最初の事件と目される孤児院の襲撃から1年の間、

 領主が変わるまで続けられたこの凶行。

 その件数は17件。被害者の総勢は500人にものぼると言われています。

 この解決のため我々は、現領主より依頼を受け、

 このハンニバル支部に集まりました。

 その後、孤児院は襲撃されなくなります。当然です。

 ハンニバルに存在していたおよそ9割の孤児院が壊滅したんですから。

 その後、今度はハンニバルに拠点を置く商会が次々と目標となり、

 襲撃されることになります。

 私たちがここへやってきて現在までの1年半と言う期間で、その件数9件。

 被害者は総勢102人。この数は私どもで調べた正確な数字となります。

 これらの犯人の7割は我々が、残りの3割はハンニバル騎士団が捕縛、

 または処罰されています。流れ者、貴族、商人、犯罪組織、冒険者。

 実にバラエティに富んだ872名の共通点らしき共通点はなく。

 背後にいると思われる"組織"の特定、犯行における本来の"動機または目的"。

 そして"手口"の判明。これら3っがまったく解明されていないため、

 現在も継続案件として捜査しています。」


「商会の事件は初めこそ多発していたが、そこからは低下傾向だったな。」


立て板に水の如くつらつらとシェラの口が、

淀みなく報告書の要点を抑え説明していく。

報告の邪魔にならぬよう、一息ついたところでタイタスがそう口にした。


「その通りよタイタス。

 私たちの調査と一斉検挙の甲斐あって…と言いたいところだけど、

 ここの商会たちが自衛のために私兵や冒険者に、

 護衛を依頼するようになったのも下火になった要因にもなってるわね。

 そして、ここへきて私たちは同一の黒幕による犯行と、

 疑うべく事案を抱えています。若手冒険者たちの失踪事件。

 "昨夜まで"これはまだ憶測の段階でした。」


そこで、シェラは言葉を止めエドガーに視線を送る。


「なるほどな、こんな物が届けばそりゃ叩き起こされるな。文字通り。」


エドガーがそう零し、報告書のとある場所を指でトントンと叩いて頭をかいた。

参加していた他の面々も読み進めているうちに、

同じ個所に目を止めているのだろう。

一様に困惑の表情を浮かべている。


「根に持つのは構わないが、お前を叩き起こすべき案件だ。

 お前も理解しているだろう。それでこれが原本だ。

 シェラの言う通り"昨夜まで"は、関与が不確定だったが、

 ここにある情報共有された失踪者の一覧と俺らが、

 把握している失踪者リストに相違点は見当たらない。」


レオンはエドガーに封蝋の後がある、書類を受けとり目を通す。

報告書にまとめられていた内容と言い回しは多少異なるが、

同じ内容が記されていた。

そして封蝋の後に目を向け、難しい表情を浮かべ口を開く。


「痛い思いをしなければならない事については不満はある。…が、

 事情については納得だ。それにこの封蝋と種類にところどころある"符丁"。

 この情報提供者の奴さんがどこの組織の者か思いあたってしまうんだけどよ。

 これ俺がまだ眠りの国から帰ってきてないって事か?」

「しっかりと起きてるみたいよ、

 少なくても私が知ってるエドガー・ルクシウス・ワトールが、

 そこで違和感を感じたのであれば、しっかりお目覚めよ。」


エドガーは再度、手元の原本に目を走らせる。

そして封蝋を確認し嘆息する。シェラは軽口を叩きエドガーの言葉を待つ。


「最大の容疑者だと噂されている組織。我々はそうは考えていないが、

 王都の騎士団、ハンニバルの一部の商会などでも関与が噂されている

 この組織から直々の情報提供。

 しかも本物だと言わんばかりに"封蝋"までつけた書類で。」


レオンはそう口にして、エドガーが無言で差し出した原本を手に取り再度、

符丁と封蝋を確認し首を縦に振りエドガーの前にもどした。


「王国中の子供たちが寝物語で、聞かされ怖れられている子供たちの

 天敵様から直接のリークってか…。これ本物だよな。」

「子供の天敵云々は同意しかねるが、まあ悩んでも仕方あるまい。

 むしろ書かれている内容の方が俺は気になるからな。」

「まあ、そっちが先だわな。俺たちが動けば向こうも動きがあるかもしれねー。

 わざわざ俺たちに向けて、このタイミングで下手な情報はリークしないだろ。

 それだけは間違いねぇだろ。

 まぁ応援もくることだし、アイツにこの件は聞いてみりゃいい。」

「他のみんなは、気になる事や意見などあるか?」


2人は大枠の方針を決め、レオンが参加者の面々を見渡した。

そのレオンの言葉で1人の女性職員が手をあげた。


「クロエ、受付の仕事さぼって何してんだお前。」

「さぼってないわよ、失礼しちゃうね。エドったら。」


受付担当の職員を取り纏めるクロエはエドガーの軽口に両手をあげて抗議する。

レオンは「お前は。」と短く口にし、

エドガーの頭を報告書で叩き"猫種"の"獣人"であるクロエへ視線を送る。


「それで、クロエ。どうした。」

「受付の子たちが、気にしてたんだけど、冒険者4人ほどここ数日、

 姿を見せてないみたい。

 最後に受けていった依頼が"長槍野牛-ランス・バイソン"の討伐依頼よ。

 担当の子が言うには自分たちの力を過信しない安定感ある子たちらしいわ。

 これが過去のその子たちが受けた依頼と達成報告書のまとめ。

 私が見ても同じ印象。無茶しない傾向が強い。」


受け渡された報告書をレオンが素早く目を通し、エドガーに手渡す。

レオンが目を通した範囲でも長槍野牛-ランス・バイソン程度で、

苦戦する印象は受けない。

過去の達成報告書に目を通してもその印象は変わらなかった。


「クロエの意見と同じ印象を俺も受ける。やはりきな臭いな。

 似た様な指示しか出せなくて済まないが、受付担当たちに、

 冒険者たちに警戒を呼び掛ける様に徹底してくれ。

 特に単独-ソロ-で活動している者に関しては特に注意喚起が必要だ。」


"きな臭い"とレオンが口にしたのには訳があった、

シェラからの報告にあった冒険者失踪事件の被害者たちには共通点がある、

若手の冒険者であり、無茶をしない印象の冒険者たちなのだ。

被害者に若手が多いのは納得がいく、


魔境とも言われるこのハンニバルで経験を積み、

今もなお冒険者を続けている者は技術も戦闘能力も総じて高い。

そういった者たちを狙うには、返り討ちにあう危険が伴う。

問題はもう一つの共通点、


自分の実力を過信しがちな若手冒険者の中で、迂闊な者は数多く存在する。

しかし、そういった冒険者が狙われるのではなく。

しっかり自分たちの力量を把握し、

危険を最小限にとどめて活動する者が被害にあうと言うのが、釈然としない。


「了解、彼女たちも心配しているし、後手に回るしかない現状は理解してるよ。

 レオンがそんなしんどい顔色する必要ないって。

 とりあえず、受付職員全員で依頼を受けたきり姿が見えない冒険者は、

 もちろん、あやしい噂とか動きがどこかで起きてないか、

 冒険者たちに聞き取りする様に頑張るよ。私、受付に戻るね。」


クロエは少し疲労の色を見せたレオンに労いの言葉を口にし、

元気にそう言って大会議室を後にした。

レオンはエドガーに一度視線を送る、失踪者リストが気になるのか、

その顔には難色が示されていた。


「他はないか。」


 周囲の面々を見やり、レオンはそう訪ねた。全員が首を横に振る。


「では、引き続き。

 酒場担当と買取担当の者は、受付担当同様に聞き取りを頼む。

 どんな些細な噂話でも目撃情報でも構わないから全て集めて、

 情報共有してくれ。精査はこちらでする。

 解体担当と総務担当は数人ずつ出してハンニバルの様子で、

 なにかおかしいところがないか巡回してくれ。

 それらの情報はシェラ、タイタス負担をかけて済まないが、

 過去も含めてまとめておいてくれ。今日辺りアイツが合流する。

 あいつからの情報も頼む。」


各担当たちへ指示を終えると、

エドガーが立ち上がって獰猛な笑みを浮かべて口を開いた。


「まぁ、とりあえずだ。色々腹立たしく感じてるだろうけどよ。

 俺の堪では近々に蹴りがつく。そしたらパーッと慰労でもしようや。

 この情報共有の件とそれに書かれている内容に関しては、

 俺とレオン…それとアイツが処理する。

 どこのどいつか知らないが、ハンニバルを敵にまわした事。

 そして、なにより俺たちを敵にまわした事。きっちり後悔させるぞ。」


エドガーから怒気が溢れだす。

職員たちは"大将"が、こういう状況においては誰よりも心強いと知っている。そして彼の"堪"はよく当たることを。

職員の面々は真剣な顔つきでその力強いエドガーの言葉に強く頷いた。


「って事で、俺とレオンは、とってもえらい領主様で、

 あらせられる"オルトック"大名様に報告しねーとだな。」

「領主を小馬鹿にするような言動は控えろ。

 ただでさえ、領主はいつも俺たちの我儘に振り回されて、

 予算取りに四苦八苦し、王都の馬鹿貴族との板挟みで、

 顔色が優れないことが多いんだ。もう少し敬ってやれ。」


「いやいや、予算取りに関しては確実にお前が原因じゃねーかよ。カカッ!!」

「王都から視察に来た馬鹿貴族の倅を、領主の目の前で半死半生にするほどは、

 迷惑をかけているつもりはないがな。エド、書状用意を頼むぞ。

 私は領主の元へ向かわせる使いの者の手配をする。」


「ああ、ちゃっちゃと働くとしますかね。」

「「「「………。」」」」


書状の用意と使者の手配のため、2人は大会議室を立ち去った。

その場に残された面々は、先ほどまで2人の会話に登場したいつも、

胃を痛めている様な青白い顔をした領主に黙祷を捧げる。

良き領主であり、共通の知人でもある南辺境伯兼ハンニバル公的支配者である

彼の身に降りかかる心的ストレスが少しでも、和らぐように心から祈った。


エドガーとレオンはまだ知らない。

この事件の末にルイとの邂逅が待っている事を。

「プロローグ…長くね??」と「なろうデビューしてみたぜ、ヒャッハー」と

粋がって連絡した友人が、深夜にも関わらず目を通してくれた模様で、

そう助言してくれたので、急遽プロローグを作成致しました。

執筆そのモノよりもなろうの操作方法と友人の辛口に右往左往しております。


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