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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-狂王は思案する、弟子は城と馬車に心躍る-■■②

広大な田畑は小麦や稲穂の黄金色が広がり、

秋の風をその身に受け波打つ様に揺れている。

その奥には広い牧草地だろうか、整備された緑の絨毯を踏みしめ好きに

駆ける馬やのんびりと芝生に横たわる牛の姿も見受けられる。


黄金と翠玉の鮮やかな対比が目に焼き付いて離れない。


少し遠くに見える風変わりな屋敷、

その回りに点在する美しい建物たちは、

牧歌的な風景を損なうことなく、ひっそりと同居していた。


そんな広大な土地の至る所からは、

家畜を世話する者や、田畑の世話をする者の穏やかな笑い声が微かに聞こえる。


すぐ手前に存在する監視塔に併設された無骨な城は、やや異質ではあるが、

その厳めしい姿すらも前面に広がる額縁の様にすら思えた。


「奇麗だ…違う。なんて言ったらいいんだろ。その言葉が僕にはわからない。」

「あははっ、十分な賛美だよ、ルイ君。僕がここに滞在している間は、

 あの遠くに見える屋敷で寝泊まりをしている。覚えておくといい。」

「この風景に心奪われるか…良い感性だ。だが見学は明日にでもできる。

 あまり遅いとオルトックが気を揉む、今日のところはここまでだ。

 城に向かうぞ。」


いつまでも見ていても飽きないであろう景色に

後ろ髪を引かれつつもルイは、歩き出したリズィクルの背中を追う。

城門からほど近い場所に聳え立つ監視塔、そして無骨ながらも雄々しい城。


つい好奇心でルイは気配察知(サーチ)を展開する。

監視搭中からは巡回している兵達だろうか、

数人で組になり歩く気配をいくつも感じ取れた。


高く聳え立つ搭の上から見る景色はどれほどのものかと好奇心を抱いたが、

流石に口にするのは憚られたため2人の後ろに続いて歩く。

初めて間近で目にした城から漂う、荘厳な気配もこれまた圧巻。

ルイは今さらになって、ここに住まい、

自身がこれかに顔を合わせるであろう辺境伯の事を思い緊張する。

三人の到着に待っていたのだろうか、

重厚な扉の前に立つ執事服の男が頭を下げていた。


「国王陛下、リズィクル様。そして、いと若きお客様ではありませんか。

 ハンニバル領城へ、ようこそお越し下さいました。」


白髪を奇麗に刈りそろえ上品な立ち振る舞いの執事が恭しく礼をした。

小柄な老人ではあるがその佇まいから只者ではないと、

判断したルイは、些か警戒して静かに腰を落とす。

その反面、ルイは初めて目にする執事に胸をときめかせもしていた。


「やあ、バイゼル爺。会いたかったよ、壮健そうでなによりだ。」


マサルは少しだけはずませた声をせてバイゼルと

呼ばれた執事を軽く抱きしめる。

バイゼルは優しそうな表情でそれを抵抗することなく受け入れる。

理由はもちろんわからないが、彼にとってそれほどの人物なのだろう。

するとここに訪れる前に聞かされた閥員(メンバー)の執事の話を思い出し、

それが彼なのだろうと思い至り、警戒を取りやめた。


「バイゼル老、お変わりないようで安心した。」

「マサル様、爺はまだ元気ですのでその辺になさって下さい。

 リズィクル様もご無沙汰しております。相変わらず御美しい…して、

 こちらの大変お若いお客様は、どなた様でしょう。

 お2人とご一緒のところを見ますに…。」

「彼はルイだ。バイゼル爺の察しの通り、噂のエドとレオの弟子だよ。」


マサルがバイゼルの想像通りの人物だと説くと、

ルイを見つめる眼差しがより一層優しい物に変化した。


「これはこれは、やはり貴方様が噂のお弟子様でしたか。

 お会い出来るのを今か今かと大変楽しみにしておりました。

 わたしく、オルトック辺境伯に仕えております、バイゼルと申します。

 以後お見知りおきを、ルイ様。」

「ルイです、初めましてよろしくお願いします。

 だけど、僕は立派な師たちの弟子ですが子供で平民です。

 だからそんな扱いしないで下さい。」


ほとほと門兵の対応に懲りたのか、

ルイはバイゼルにしっかりと丁寧に挨拶した上でそう懇願した。

リズィクルは、そんなルイの姿を見てマサルを睨みつける。


「ほら見たことか。貴様の悪ふざけで委縮してしまったではないか。

 ルイ、バイゼル老はとても優秀な執事だ。

 仮に生まれたての赤子であっても礼を失する事はない。

 どのような客であっても、主人の客には敬称を付けるものなのだ。

 慣れぬだろうが、バイゼル老の矜持。受け止めてやってはどうだ?」

「……矜持。はい、失礼しました。矜持を貶めるような事を

 言ってしまいました。申し訳ありません。」


リズィクルが口にした"矜持"と言う言葉を受け、

真剣な表情を浮かべバイゼルに向き直り頭を深く下げる。


「頭をお上げ下さい。私のような者の矜持を慮って頂いて光栄です。

 ありがとうございます。ルイ様。」


ルイはその言葉で顔をあげるが、まだ不安の色が強く残っている。

突然の変貌に戸惑っているリズに、マサルが耳打ちする。


「ルイはね、エドの影響を強く受けてるから矜持とかは神聖な物だと

 考える節があるようだよ。好ましいことだから、そう戸惑う必要はないよ。」


そう口早に伝えられリズィクルの顔には理解の色が注した。

バイゼルにもその言葉は伝わったようで、

噛みしめる様に深く頷きルイへ言葉を重ねた。


「先ほどの警戒なさっていた際の動き、実に滑らかで素晴らしいものでした。

 そして何より、お歳の割にとても聡明で在らせられる。

 我が主の城にこれほどの御方を招く事が出来て私は大変誇らしい。

 出来れば私の顔を立ててここは、ゆるりとご紹介させて頂けますでしょうか。」

「それは良い提案だ、バイゼル老。ルイはここを訪れるのが初めてで全てが目新しい物ばかりだ。幾分ゆるりと案内してくれるとうりがたい。」

「承りました。ではではルイ様、こちらへどうぞ。」


ルイはそのまま扉の中に招かれるままに足を進め硬直する。

開かれた重々しい扉の向こうには広々としたエントランスが広がる。

整然と並ぶ、使用人たちが一斉に礼をする。

眼前に広がった寝物語で耳にしていた世界に自身が囚われてしまったような、

錯覚に溺れる。


もちろん、その想像していた城と言う物の概念が如何に陳腐なものだったか

ルイは思い知る。

内装の1つを取っても齟齬が見られる。

調度品の1つですら、思い描いた物との違いに息を呑む。

だからと言って、そのひとつひとつは嫌味に豪奢なそれではなく。

ただ並び立つだけで品の良さを漂わせた。


「凄い。」


出てくる感想は幼稚で拙いが、ただただ素直な驚嘆。

バイゼルはもちろん、マサルとリズィクルもそのルイの可愛らしい反応に

相貌を崩す。

その後も絵画や美術品などに、ルイが思わず足を止め目を向ける度に

バイゼルはその足を止めルイにその作品の由来を口にする。

戦闘能力だけでなく、心も豊かに育つことを望むマサルとリズィクルは、

その様子に口を挟むことなくじっくりと時間をかけ、城内を進む。

しばらくオルトック居城を案内し、辿り着いた扉の前でバイゼルは立ち止まる。

ルイは夢中で案内されるがまま、付き従ったがそこが目的なのだと思い至り、

扉の向こうで待つ、辺境伯を思い息を呑む。


――トントン


「お客様をお連れしました。」

「…入れ。」


硬い印象の声の主が扉の向こうから入室の許可を出す。

バイゼルは慣れた手つきで扉を開け3人に入室を促した。

マサルとリズィクルに付き従い室内に入ると、

冒険者ギルドの2階にある迷宮図書室然とした部屋が広がっていた。

執務机に座っていた男が立ち上がりマサルの前で膝をつく。

ルイはそれを他人事のように眺めていた。

この部屋には"異物"が存在するからだ。


「先生、教授。一歩下がって下さい。」


ルイはそう静かにだがしっかりと口にして2人に触れ下がらせる。

この2人にそんな気遣いは必要ないかもしれない。

ただ、師とは言え危険を前にして放置して置く気はルイにはない。


入室とともに、一気に加速したルイは壁を蹴り、天井板を突き破る。

気配察知(サーチ)にずっと引っ掛かっていた不審者の喉と肩を掌打で突きぬく。


「ぐはっ…っ。」


たじろいだ不審者の腕に手足を滑り込ませしっかりと絡め取り、

間接を極めた状態で、もろとも床に降り立つ。


――ドコンッ


落下の衝撃をもろに身体でうけた不審者は苦痛の声を漏らした。

その喉元にルイは静かに短剣を抜き刺しそっと当てる。


「…動かないで。殺すかどうかを決めるのは僕ではない。

 だけど、暴れる様ならすぐに首を掻き切る。

 抵抗する気がないのなら、手を見える様にゆっくりかざして。」


あっと言う間の捕縛劇にオルトックは息を呑む。

止める間も無く行動に移ったルイに、マサルとリズィクルは額に手を当て、

バイゼルは口元を隠して笑っていた。

捕えられた不審者こと"リグナット"は、首元に短剣を添えられ身動きを

取ることすら許されずに狼狽していた。

そんなルイに、マサルが長い吐息を吐き口を開く。


「ルイ、その彼はリグナットと言ってルーファスの部下だよ。

 決して不審者ではない。それからオルトック伯、リグ紹介しよう。

 彼はルイ。エドとレオに弟子が出来たとは耳にしているね?

 彼がその噂の弟子だ。」


その言葉を聞いてルイは顔を真っ青に染め上げる。


「妾もこの子の身の証として保障しよう。ただ、各々方。

 対応を決して見誤るなよ。もし悪戯にルイを刺激し、泣かせてでもみよ。

 その場で消し炭にするぞ。」


そう言い放ち、オルトックとリグナットに冷たい視線を送る。

ルイは誤解と分かり、拘束していたリグナットを解放して只管謝る。

謝罪を受けているリグナットも、自分の発する言葉1つでルイに泣かれては

堪らないと恐怖に顔を染め上げたままルイを落ち着かせる。

マサルに対し膝をついたままだったオルトックは、その様子に固まっている。

バイゼルは笑みを漏らしながら紅茶の支度を静かに始める。

ようやく部屋を纏っていた空気が弛緩する。


それでもなお、しばらくリグナットとルイの謝罪合戦は続いていたが、

見かねたマサルが制止することでお互いが席につく。


「いやいや、ルイ坊っちゃんっ!

 俺も悪いんですよ、国王陛下とリズ様がいらっしゃるのをわかっていたのに

 横着して天井裏から下りて出ようとしたんですから。

 皆様の安全を考えたら、坊っちゃんの行動は褒められはしても、

叱責されるべきではない。だから気を落とさないでください。」


リグナットはルイの短剣から解放されてなお、そう口にする。


「私もリグと同意見だよ。」


オルトックはそう口にし、ルイと視線をあわせてしゃがみ込む。

自身と同じ高さに降りてきたその瞳に目を合わせない訳にもいかず、

ルイはじっとその目を見つめ返した。


「改めて、私はハンニバル及び南部地域を陛下より預かっているオルトックだ。

 君の師匠たちには大変、世話になっている。

 君の耳にどう伝わっているかは定かではないがね。」


そう少し自嘲気味に笑うオルトックの顔は些か青白くルイは感じた。

そんなルイと目が合ったことにオルトックは深く頷き言葉を続ける。


「リグは不審者ではない。それが事実で結果だ。

 だが、それでも君はリグが口にしたように、この場の人間に害が

 及ばないよう、行動に出た。それ自体は褒められるべき行動だ。

 私のその評価に君は否はあるかい?」


ルイは一瞬悩むも、その言葉を受け入れしっかりと見つめ直す。

そんなルイの態度に安堵の息を吐き、オルトックは言葉を続ける。


「私は君の師匠たちに比べて酷く弱い。君が耳にしているか知らないが、

 派閥(レギオン)で一緒だった時から本当に力の面では役に立てなかった。

 だが、ルイ君は素晴らしい才能があると先ほどの動きでわかる。

 今回、君は先走ってしまったのかも知れない。

 けれど、行動すると言うことに二の足を踏んで、

 いざと言う時に救えない命もあるものだ。

 だから私は、君のその判断と行動を支持しよう。

 もう一度言う、君は正しい。」


これが領主。

実際、彼の言葉通り強さや凄みといったものは、一切感じられない。

それでも、オルトックの真摯な態度は小さく幼いルイの心を震わせる。


「どうだ、ルイ。これが貴様の街を預かる領主だ。

 なかなか頼りがいがある男だろう?」

「あはははっ、オルトックがしっかりした伯爵様を

 してくれるから本当に僕も助かっているよ。」


リズィクルの言葉にマサルも同意し声をあげて笑う。

リグナットとバイゼルも笑顔で頷いている。

そんな彼らの様子にようやくルイも落ち込んだ雰囲気を消し去った。


オルトックは立ち上がってルイの肩にそっと触れソファに座る様に促す。

その後オルトックがルイが冒険者ギルドでの生活をルイに訪ね、

ルイは日々の生活を彼なりに丁寧な言葉を選んで説明する。

オルトックとリグナットはその苛烈な日々に息を呑み、

バイゼルは笑みを深めて頷いて聞いていた。


ルーファス

「オルトックが立派な事言ってるっす。

エドガー

「なんだとっ!!

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