■■2章-国王と共に、居城へ。-■■②
受付カウンターのホールは、いつもと違う緊張感が立ち込めていた。突如、階上から姿を現せたオーカスタン王国国王マサル・ルクシウス・コンドーの姿を、ひとりの冒険者が発見。その場で膝をついた。それが発端となり、その場にいた全職員、並びに冒険者たちが臣下の礼をとり静まり返っていた。
「頭をあげよっ。」
ルイは衝撃を受ける、そのマサルの変貌ぶりに。燐とした良く通る声をギルドの広間に響かせ全員の注目を集めるその姿は、王の貫録をまざまざと見せつける。そして、柔和な笑みを口元に浮かべ口を開く。
「ハンニバルの冒険者諸君。君たちは確かにオーカスタン王国辺境都市に住まう者たちだ。君たちが敬ってくれる事は快く嬉しく思う。だが君たちの所属はあくまでも冒険者ギルドであるはずだ。誇り高く強き者たちよ、頭を下げる必要はない。私が見たいのは頭を垂れる君たちではないのだよ…。いつもの勇ましい姿で胸を張ってここに在ってくれっ。」
「「「「「おおおおっ!!」」」」」
オーカスタン王国国王マサル・ルクシウス・コンドーの演説の様な言葉に、ハンニバルの猛者たちが、ギルドの建物を揺らすほどの声援を送った。そんな彼らに優雅な手つきで手をあげ声援に答え、小声で「いくよ、ルイ君。」と囁き建物の外へと歩み出す。そのいつもより大きく感じる背中にルイは心を揺さぶられる感じがした。
「おいおいおいっ、ルイが付いて行っちまったぞ…。」
「王様にも気に入られたのかしらっ!!すごいっ!!」
「変な貴族に絡まれて嫌な思いしなけりゃいいが…心配だな。」
「さすがに、緊張してやがったな!ああいうの見ると年ごろの子供だってわかって安心するぜっ。」
「ルイ君…帰ってこないとかないよね?」
「「「…。」」」
マサルの後に続いてギルドを後にしたルイの姿を目にした冒険者たちがざわめく。
中にはルイが、貴族のいざこざに巻き込まれることを気にかける声もあったが、1人の冒険者がこのままルイは国王の下で働くのではないかと零す。その小さな声きは波紋の様に広がり、ホールが水を打ったように静まり返った。
「なんだなんだ、おい。しけたツラしてんじゃねーよ。ルイは陛下に付き添って領主の居城に行っただけだ。心配しなくても帰ってくる。」
広間でマサルとルイが出て行くのを見ていたエドガーが、情けない顔をしている冒険者たちを見ていられずに声をかけた。
「んな事より、てめぇらはてめぇらの心配しろ。ルイのこと気にして怪我でもして帰ってきてみろ。うちの馬鹿弟子が心配すんぞ。」
「そ…それは、まずいわね。ルイに悲しい目で見られると心が削られる。」
「あ、それわかるぜ。なんかすげー悪い事した気分になる。」
「大将の言う通りだぜっ、気合いれていくぜっ!」
「しっかりしたとこ見せないといけないな。」
皆が一度は怪我した姿をルイに見咎められた経験があるだけに、エドガーの言葉は効果が絶大だった。各々が発破を駆け合い依頼を受け建物を出て行く。その姿に鼻を鳴らしてエドガーは笑みを浮かべた。
「しっかし後輩ちゃんはすごい人気っすね。」
「おう、訓練所で死にそうなツラして俺に向かってきて吹っ飛ばされてるの見てる内に、自然とな。」
「同情票の匂いがするっすね。」
「最初はそうだっただろうがな。ちみっこの弟子が心折れずに訓練している姿に、心動かされないようだったらここで冒険者はやってらんねーよ。」
「一理あるっすね。強くなろうと一度でも思ったことがある者だからこそって事っすね。」
「つか、お前は行かなくていいのか?
「あっちはリグがいるっすからね。軽く古巣にご挨拶してくるっすよ、ルイの事も気にしてるだろうし。」
「そうか。それならよ、伝言頼むわ。」
「いいっすよ、なんて伝えるといいっすか?」
「1人歩きは禁じてるが迎えをよこせば外泊くらいは許すつもりだ。って言っといてくれ。頻繁にこられても困るけどな。」
「それはきっと泣いて喜ぶっすねぇ。エドっちもなかなか粋なこと考えるっす。それじゃあ、そろそろ行くっす。確かに伝えとくっす。」
「さっさと行け。」
照れ隠しに憮然とするエドガーに、笑顔で手を振りルーファスは背景に"溶けて"いった。気付くとレオンが隣に立っており、口元を隠して静かに笑っている。咄嗟になにか言おうと口を開きかけたが、ここでムキになると茶化されるのが落ちだと嘆息して腕を組む。そこで不意に王都に残るジュリアスと、オルトックの下にいるシュナイゼルとセリーヌの事を思い返し、改めてルイを"間に合わせる"と心に決める。
「なあ相棒。あんまし危険に巻き込みたくねぇってのは、俺も一緒だ。」
「わかってる。マサルやルーファス、リズと話している内に、俺もすっかり毒された。お前たちは好きにやるといい。昔と何も変わらん。度が過ぎていると判断したら殴ってでも止めてやる。」
「かかかっ、お前は最高だぜ。…そん時はガツンと頼むわ。」
「任せとけ相棒。」
レオンはそう呟き、エドガーの肩を一度叩き二階の迷宮図書室へ去っていった。エドガーは首を二度ほど鳴らすと直近の問題をどう片づけるか、頭の中で整理しながらレオンの後を追い広間から姿を消した。




