■■2章-国王と共に、居城へ。-■■①
解体小屋に現れたレオンは、見知らぬ角が生えた女性を引き連れていた。
レオンは、支度が済み次第、
マサルと彼女と共にハンニバルの領主オルトックの居城へ向かうように告げる。
一度、首を傾げはしたもののルイはしっかりと頷く。
その様子を笑顔のまま、口を出さずに眺めていた彼女がルイの頭を撫でる。
ルイの師匠が再び増えた。
「妾は、リズィクル・ルクシウス・パルデトゥータ。好きに呼ぶといい。
だが教えを乞う時は"教授"と呼ぶように。妾も今日からルイの師匠じゃ。」
頭に黒々とした立派な角を生やし、すらりとしたスレンダーな体付きをした金眼の美人が、細いその腰に手をあて、そう口にした。隣に立つレオンはルイに事実だと頷いて見せる。ここ数日で倍に増えた師匠が、更に1人増えた事に、ルイは頭がついて行かず口を開け放つ。そんなルイをさも可笑しげに窺うリズィクルは、長い薄紫色の髪をゆせり揺らしてルイの頭に再び手を置いた。
「しかし、聞いてはいたが、見事童だな。……なんだ角が気になるか?
"魔族-アスモディアン-"がそれほど珍しいか?」
「い、いえ。初めて魔族の方とお会いしたので、
角もそうなんですが。立て続けに師匠が増えた事と、
そして今度は女性の方で…なんと言うか、とても奇麗な人で。」
自慢の角を見せつけるように、首の角度を変えてそうリズィクルは口にする。
ルイは確かに角もカッコいいなと見惚れもしたが、ルイが知るの中で一番美しい女性である仇花に劣らないその美しさに少し呆然としていた。
見惚れていたとは素直に言い辛く少しルイはその頬を赤らめた。
「くくくっ、世辞まで言えるか。聡い童だ。
おまえは、仇花が側にいたと聞いているぞ?妾をなぞ見てもそんなに
驚くことはないだろう。あれは妾から見ても相当の美姫だからな。」
「とうり…仇花様は確かに美しいですが、
リズィ…教授も本当に奇麗だと思います。」
「それは光栄だ。」
美人と評され、リズィクルは仇花の名前を出してみたところ、
先ほどまで照れていたルイがまっすぐにリズィクルを見据えて、
仇花と同様に奇麗だと口にした。
からかうつもりが子供のまっすぐな目で褒められた事と
ルイに「教授」と呼ばれた喜びに、リズィクルが照れる羽目になってしまい。
照れ隠しにルイを後ろから抱きあげる。
「ルイ、彼女も俺たちと旅していた仲間の一人だ。
毎度師匠が増えるたびに驚かせるのもなんだからな。
先に伝えておくが俺たちが現役で冒険者していた頃の
"班隊-パーティ-"の仲間はあと2人いる。
おそらくその2人も師匠になる。そう思っていてくれ。」
レオンなりに気遣って伝えたのだが、思いの外ルイは困惑してしまったようだ。
言葉を発する事なく天井を見上げている。
「まあ、普通は驚くじゃろうな。少し妾の話を聞くがいい。」
頬の赤みが収まったリズィクルは、抱擁を解きルイを自身の方へ向きなおさせて、
目線の高さに合わせる様に、しゃがみルイの目を見つめそう口にした。
ルイは仇花が大切な話を聞かせる時に見せるその動きに仇花の姿を重ねた。
「妾たちは、己の不得手を友と呼べる仲間たちで補い合って長い旅を乗り越えた。
エドは武器の扱いに長けておる。
だけど魔法は苦手じゃ。レオは楯で皆を守るのに非常に長けているが、
速度で言うならルーファスには遠く及ばない。
大ざっぱな言い方になってしまうが、各々がその弱さを補って皆で
強くなっていった。」
リズィクルの口にした内容は理解出来た。
それに強くイメージも出来た。
エドガーが、敵陣を切り裂く。そこに押し寄せる敵の攻勢をレオンが楯ではじき返す。
そこにマサルがあの凶悪な戦斧を手に躍り出る。
そんな3人を眺めつつも投擲や鋼糸、
時には懐や背後に飛び込み短剣を振るうルーファス。
見た事がない景色のはずだが、鮮明にイメージする事が出来た。
その光景にルイは軽い興奮を覚え身震いする。
ただ、リズィクルが評したレオンが遅いと言うのは釈然としなかったが、
彼女たちから見たレオンの速度はもしかしたらその程度の認識なのかもしれないとまた静かに驚愕した。
「エドとレオンはな。弟子のためにしてやれる事を模索している中で、
2人だけではその欠点を補う事は出来んと考えたのだ。
そして、仲間に頭を下げ力を貸してくれと乞うた。
その考えを聞き我々は快諾した。
皆で弟子のために不足を補って育てて行こう。
そういう事情でルイの師匠が大量発生しとる。ルイ、良き師を持ったな。」
ルイが抱いていた師匠が増えることへの困惑は、そのリズィクルの言葉で霧散した。
自身のためを思ってエドガー、レオンが悩んでいてくれていた事だけでも
感謝の言葉しかない。その上、ルーファスやマサル、
そして、こうしてきちんとルイに説明をしてくれたリズィクル。
どれも素晴らしい人格者だとルイは思う。
レオンに向き直りルイは深く頭を下げる。
「レオンさん、ありがとうございますっ!!」
「礼は受ける、だから頭をあげろ。それにこの件は、
初めに言い出したのはエドだ。あとでエドにも礼を言ってやれ。」
「…伝えるだけ、伝えます。」
頭を下げたルイに手を軽く載せてレオンは優しい声音でルイに告げる。
しかし、顔をあげたルイの表情がなんとも言えない形状をしているのを見て、
レオンは苦笑する。
横でその顔を窺ったリズィクルも少し驚いた顔をして疑問を口にした。
「……ルイとエドは仲が悪いのか?」
「いえ、そういう訳ではなくて。お礼言っても"んなこと気にしてるくらいなら、
武器振れ馬鹿弟子っ"って怒鳴りつけられるだろうなと。」
エドガーにそっくりの仕草で頭を掻き、そう口にしたルイに
レオンもリズィクルも声を出して笑った。
「あははははっ!!確かに言いそうだっ!!」
「くくくっ、確実に言うな。だがルイ、そんな汚い口の聞き方を真似していると
ロクな大人にはならん。気を付けるんだ。」
「それは困りますっ、気をつけます。」
レオンの言葉に、ルイは青ざめ頭を振る。
リズィクルはもう堪らん。と口にしてお腹を抱え、目じりに涙を湛えて笑い出す。
「たまらん、これは傑作だっ…ははっ!…ルイ、末永くよろしく頼む。
妾は基本的に魔法と魔術を担当する。
今日は時間がない故、明日から少しずつはじめよう。」
「魔法っ?!…すごい、僕にも使えますか?!」
リズィクルの言葉にルイが目を輝かせて喰いつく。
そんなルイの急な変化を見てルーファスが口にしていた
"向上心の塊"という言葉がリズィクルの脳裏をかすめ、
なるほど。と笑みを湛えた。
「ああ、どこかの粗忽者みたいに"呪い"でも受けてなければ、
誰でもひとつは使える。安心するといい。
だが、先にも言ったが今日はこれから領主に会いに行かねばならん。」
「どうして僕もなんですか?そんな偉い方にお会いするのに、
僕などがついていってもいいんでしょうか。」
ルイは、辺境伯にこれから会う。と言うことにすっかり委縮している。
リズィクルはそんな態度を不思議に思い、レオンを見て口を開く。
「なんじゃレオン。ルイはまだ知らんのか?」
「会う用事もなかったからな、伝えるのを失念していたな。
ルイ、そんなに身構える必要などない。あれは、たかが領主だ。
国王の弟子であるルイが媚る必要はない。
気に障ることを言われたら居城ごと吹き飛ばして構わん。」
レオンが珍しく悪戯めいた笑みでそう口にするので、
ルイは助けを求める様にリズィクルを見る。
呆れた表情を浮かべるリズィクルはルイの頭をひと撫でして口を開く。
「悪戯はよさんか、レオン。オルトックとガイヤスの話となると、
どうも皆、悪ふざけが過ぎる傾向があるな。
いいか、ルイ。オルトック辺境伯は、もともと我ら"派閥の閥員なんだ。
それだけではない、タイタスもシェラも、ここのギルド職員の
ほとんどが元閥員だ。」
初めて耳にした内容にルイは戸惑う。
マサルが国王だと失念していた訳ではないが、
師匠たちの派閥の規模に驚愕する。
それから、執事をしているお爺さんも閥員でオルトック伯が
実はその執事にも頭が上がらない。など
色々と耳にしたルイは驚き過ぎて軽い疲労感を感じていた。
「さて、そろそろ行くぞ。その作業着を脱いで片づけてくるといい。」
「わかりました。すぐ終わらせます。」
ルイの返事に、リズィクルがどういうことだ。と問う前に、
ルイが詠唱に反応した影が蠢き広がり、すっぽりとルイを呑み込んだ。
少しして影はルイから離れ足下に戻って行く。
すると影の中から制服姿のルイが現れた。
ルイの特異を初めて見たリズィクルはもちろんのこと、
レオンも特異の扱いに手慣れて来たルイに驚嘆の声を漏らす。
「ルイ、明日は色々それを見せて欲しい。少し気になった事もある。」
「わかりました。じゃあ、クロエさんに出掛ける事を伝えてきますね!」
「無理に急がなくていいからな。」
リズィクルに返事を返し、受付カウンターへ駆けて行くルイの背中に
レオンは声をかける。
ルイはその声に反応し、振りかえり手を振って返事をすると、
冒険者でごった返す受付ホールをするするとすり抜け人混みに消えた。
「ふふっ、あの足さばき1つ取って見ても驚嘆に値するな。
規格外、いやルーファスはがふざけて口にした"化物"も
あながち間違いとは言えんな。」
リズィクルはふうと息を吐き、ルイの感想を笑みを浮かべて漏らす。
レオンはそれを受けて同意を示した。
「そうだろ。俺も初めて目にした時は、驚きで声も出なかった。
それでどうだ、直接目にしたルイの特異の感想は。」
「汎用性が非常に高い特異。あれしか見ていないんだ、その程度の感想だ。
ただ確実に言えるのは、あれは魔法でも魔術でもない。」
「というと…技能系統の能力なのか?」
レオンは魔法、魔術の研究者としても名高いリズィクルの言葉に、
些か不服そうな表情を浮かべる。
その思うのも当然だとリズィクルは続ける。
「それに近い…と言った表現が正しいやもしれんな。ただ、レオンが
不満そうな顔が示す通り、力の行使の際に魔力の働きを確かに感じ取れた。
まあ、明日からゆるりと調べる。
そしてもう一つ、現段階でわかる事がある。
ルイはアレの使用方法を間違っている。」
「ああ…着替えや掃除にばかり使っているからな。」
リズィクルが口にした内容に、
心当たりがあり過ぎたレオンは疲れた顔をしてそう答える。
しかし、その言葉にリズィクルは頭を振る。
「…聞き捨てならん話だが、そうではない。
使う工程…手順を間違っていると言った方がより正解か。
余計な手順を無駄に積み重ねて行使している印象を受けた。
あれでは、アレ本来の能力は引き出せていないだろう。
エドとレオの好手だったかも知れんな。
全く"魔力がない"エドと"体内のみで行使する"レオ。"聖魔術しか"使えないマサル、
"魔法、魔術を使えない"ルーファスでは、それに気が付くのは難しい。」
リズィクルの説明を受けて、それは気付きようはない。と肩をすくめて苦笑した。そして、あれで"まだ引き出せてない"と称されたルイの特異に呆れる。
「そっちは俺達まるで役に立てんからな。」
「個々の戦闘能力を鑑みれば釣りがくる。十分貴様らも規格外だ。」
「それはお互い様だろ、リズ。」
「くくくっ、違いない。」
レオンの謙遜をからかい笑うリズィクルに、レオンもその相貌を崩す。
2階へと続く階段から、ルイを伴ったマサルの姿を現せた。
王然たるマサルの隣に続く、ルイは緊張のあまりに顔色が悪い。
それを2人は殊更笑みを深めて眺めていた。
マサル
「ルビいれるの大変だねっ!!楽な方法探さないと、心が折れてしまいそうだよっ!!
主に1章の手直しっ!!あはははははっ
エドガー
「もう笑うしかねーなっ!!かっかっかっかっ




