表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
6/143

1章-冒険者ギルド-① 【2019/11/10 改稿】

次も今日中か、深夜あたりに\\٩( 'ω' )و //



改稿、亀速度で現在も進行中です ( _・ω・)_バン

■■1章-冒険者ギルド-■■


―― ルイと来訪者たちの邂逅より、時間は少し巻き戻る。


薄曇る朝靄を霧散させ、しっかりと輪郭を帯びた太陽が、

その仄かな温もりを伝え出す。


昨日と何も変わらない朝を迎えた"辺境都市ハンニバル"。


整地が行き届き、清潔感のある街並みは、

そこに住まう者たちの活気で満ち溢れていた。


そんなハンニバルの中央を、東西に分かつ、ひと際、道幅の広い大通り。


人々から中央通りと呼ばれるその通りに面した赤レンガ作りの建物には、

"冒険者ギルド ハンニバル支部"と武骨な看板を掲げられていた。


そんな冒険者ギルドの、とある一室では、これまたいつものように、

なんの変わらない朝を迎えようとしていた。


「"大将"っ! たーいしょーうっ! 聞こえてますか! 起きて下さいっ!」


白髪交じりの男は、幾度か声をかけても、頑なに眠り続けているこの部屋の主人に、

胡乱な眼差し向け、大きく嘆息した。


夏が去り、秋を迎えた今もグラウス大陸の南に位置する、

このハンニバルには、まだ夏の残滓が色濃く残っている。


むあっと、立ち込める熱と酒精の匂いを追い払うように、

男は窓を開け放ち、外の空気を呼び込んだ。


「今日も暑いねぇ…やだやだ。ねぇ、大将?」


きちんとのり付けされたシャツの胸元を、少し広げパタパタと仰ぎ、

日差しの強さと、朝から感じる熱を帯びた風に、そう零して見せる男。


そんな男の声になど、少しの反応も見せずに、行儀よく一定のリズムで寝具を上下させ、

今だ深い眠りについている、"エドガー・ルクシウス・ワトール"。


振り向いた"タイタス()"は、少し逡巡した後、意を決して激しく揺さぶる。


「たーいしょーうっ! たーいしょーうっ! ()()()が、お呼びですよ! 怒ってますよー!

 俺が、起こしに来てる間に、起きた方がいいですよ!」


ギルド職員による定例会議の時間になっても姿を見せないエドガー。

憤怒の形相で、席を立った()()()()()()()()"レオン・ルクシウス・オーペル"。

それを、なんとか宥めすかし自分が呼んでくるとタイタスは、この部屋にやってきた。


レオン自体が、エドガーを叩き起こす事自体は、よくある朝の光景なのだが、

今日のレオンの表情は、いつもよりも何か切迫したものがあった。


決して、いい予感とは言えない何かに後押しされるかのように、

タイタスは、エドガーを起こすべく声を駆け続ける。


「いい加減起きてくれよ、大将。……おいおい、まじで起きねーぞ。

 どんだけ昨日、ハメをはずしたんだよ…ったく」


その問いに、エドガー本人が答える様子はない。

だが、彼の私室兼、職務室である、この部屋の惨状を見れば察しは付く。


これらを成した本人の性格だろう。

やけに整然と並べられた酒瓶が、所狭しと並べられている。


その数を10を越えたあたりで数えるのを止め、何度目かの深い嘆息を吐いた。


「しっかりしてくれや、大将。……まあ、朝起きない(これ)が無きゃ、大した人なんだがな」


タイタスは、その言葉の通り、10歳以上、年が離れた年下のエドガーを、

心から信頼し、尊敬の念すら感じている。


多少、言動が過激で攻撃的な側面はあるが、()(じつ)、情に厚く、義侠心に厚い。

仕事面においては、粗野な態度からは想像がつかない程、丁寧で几帳面。


その事は、整然と並んだ、空き瓶たち同様、

隅々まで、掃除が行き届き、きちんと整理された、この部屋が証明している。


唯一の欠点、そして、タイタスにとって最大の障害となっているのは、

一度寝ると死んだように眠り続け、決して起きない。この点につきる。


―― ドンッドンッ


余程、苛立ちが込められているのか、力強いノックの音が響く。


「あちゃあ……、ついに、おいでなすったぜ。ご愁傷様、大将」


ノックの主に()()()()()()()()タイタスは、未だ眠るエドガーに両手を合わせる。


タイタスが扉を開けると、想像した通りの人物が憮然とした表情で待っていた。


出迎えたタイタスに軽く頭を下げ、エドガーを一瞥すると、

みるみると、つるりと剃りあげた頭に、夥しい青筋を浮かべて行く。


「……こいつ」


「すんません、統括。ちょっと昨夜、俺が長々付き合わせちまって…」


「そんな嘘までついて、庇う必要などないさ。むしろ申し訳ない、

 いつも、こんなくだらんことに時間を使わせてしまって」


咄嗟に、庇うような嘘を吐くも、早々に看破され、タイタスは苦笑するしかない。


「……まぁ、寝坊が過ぎると言えば過ぎますが。これが普通に起きて来ても、

 なにやら、とんでもない事が起きる前触れみたいで、薄ら寒いもんを感じますけどね」


タイタスが、少しだけ遠い目をしてそんな言葉を口にした。

彼の言葉に、レオンも思い当たる事があるのだろう、眉根の皺を深くする。


「王国建国史上、最大規模の"大氾濫(スタンピート)"。果ては、あの頃みたいに大陸全土で戦争勃発。

 可愛いところで、()()()()が、高笑いしながら、厄介事でも持って来る……。

 そう思ったら、この姿は、まさに平和の象徴って事になりますよ」


「……そんな厄介事が、たびたび起こらぬよう、ここで息の根でも止めておくか?」


「間違って殺したりしないで下さいよ、大将がいなくなると仕事が増えそうだ」


「学生の頃からの付き合いにだが、心から殺してやろうと思った事など数知れない。

 それでも、この馬鹿は、ここで元気に寝ている」


物騒なレオンの言葉に、お手上げだと両手をあげたタイタスは、一足先に退室した。


―― ドッッッゴッッッッン


一拍ほど置いて、扉の向こうから清々しいほどの破砕音が、微振動を伴って響き渡った。


「さあ、今日はどんな一日になるのかね」


いつもの一日が始まったと、タイタスは笑みを湛えながら階下へ降りて行く。


階下にも音が届いたのだろう、タイタスの姿を目に止めた顔見知りの冒険者が、

「またか?」と呆れた笑みを湛えて問うてきたのは、1人や2人ではない。


この支部にやって来て、間もない者たちなどは、突然、響き渡った轟音に、

思わず立ち上がり周囲を窺う者や、中には、慌てて武器に、手をかけた者も見える。


そんな彼らに、先達の冒険者たちが、にやにやと笑みを浮かべながら、話しかける。

さも愉快気に説明でもするのだろう。その様子を見ている者たちもまた笑っていた。


冒険者たちの朝は、早い。

恒例と化した破砕音が響く頃には、ハンニバル支部は冒険者たちでごった返す。


種族然り、性別然り、年齢も然り、千差万別の彼ら。


共通点をあげるとするのならば、さまざまな意匠ではあるが、

皆一様に、"戦うことを生業とする者の身なりをしている"という一点のみ。


冒険者に求められる資質は、"魔物"を打倒出来る力の有無のみ。

戦えない者、戦う意思のない者は、そもそも冒険者などにはならない。


そんな、冒険者たちが憧れ、そして目指す地こそが、

ここ、オーカスタン王国南辺境領、唯一の都市、辺境都市ハンニバル。


"魔境"と呼ばれる魔物が群生する危険領域が、数多存在するため、

魔物同士の生存競争も苛烈を極め、その脅威度は測りしれない。


それに加え、周囲の空間や地下などを歪ませつつ拡張する魔境の亜種である"魔窟(ダンジョン)"、

悠久の時を経て、その魔窟(ダンジョン)が変質したとされている大規模魔窟"伏魔(パンデモニウム)"。

これらもハンニバルのすぐ傍らに、幾つも存在する。


そのため、他国はもちろん、王国内の者達ですら、容易に訪れるのを躊躇う。


だが、冒険者は違う。


魔物が強ければ強い程、討伐報酬は高くなり、素材の買い取り額も跳ね上がる。


実力次第で、容易に至る一攫千金。

何よりこの地で名を馳せる事が出来れば、それは英雄と等しい存在となる。


そんな泡沫な生を謳歌する冒険者たちは、依頼書が張られた掲示板に人だかりを作り、

美人職員が居並ぶ、受付台にいくつもの列を成し、支部に併設された、酒場に詰め掛ける。


今日とて変わらない、いつもの風景。


魔物や、盗賊の類を討つ、討伐依頼を選ぶ者。

薬の材料や、資材になる素材、魔物の部位調達、それらの採集依頼を選ぶ者。

依頼人と酒場の一画で打ち合わせをして握手をする者たちは、護衛依頼だろうか。


そして、そんな喧騒の影でいくつかの暗欝とした表情の者たち。


朝から酒を嗜む陽気な者たちに隠れて、失った仲間へ黙祷を捧げ、

静かに、酒を口に運ぶ者たちもいれば、頬につたう涙をぬぐい歯がみする者。

悲しみに打ちひしがれる者や、嗚咽を漏らしている者もいる。

そんな別れを告げる彼らに、別れを告げずに逝った者たちもいるのだろう。


"誰よりも生を謳歌し、生を簡単に手放す、それが冒険者"


歌劇などでそう抽象されるように、彼らの命は容易く潰える。


他にも、夢破れ去る者、実力の差を見せつけられ心折れる者。

そんな者たちは、死に往く者たちよりも多くいる。



だが、それでも彼らはここへ集う。



ここ、冒険者たちの楽園(辺境都市ハンニバル)へと。

(よ…読んでくれてる人がいるだと。)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ