■■2章-陽気な狂王は颯爽と現れる-■■②
「穏やかじゃないね。そんなにルーファスとルイ君が顔見知りなのが気に入らないのかい?何か悪さを彼にした訳でもないのに、さすがにその態度はちょっとルーファスが可哀そうではないかな?」
「あ?…ああ、そうか。そうだよな、ルイと俺らがどう出会って、どういう流れで弟子になったかはルーファスの野郎も知らねぇから、マサルも知ってる訳ねーよな。」
「事情があるってことか、良かったら詳しく聞かせてくれるかい?」
「あの夜。俺とエドは救世教会に花街から軽傷者を装って向かう、犯人どもに雇われた馬鹿共を殲滅した。そんでよ、その足で救世教会に向かったんだ。予定では仇花が手配した名無しの手練れが対峙する事になっていたが、一応、救世教会に居やがるのが、犯人側の最大戦力が相手だったからな。念には念をってやつだ。」
「ああ、その内容は報告書にも、そう書かれてあったから耳にしてるよ。」
エドガーがその時をゆっくり思い起こしながら、マサルに伝えて行く。マサルはルーファスから報告を受け取った内容と齟齬がないかを確認しながら、エドガーの言葉に耳をかす。
「実際、現場に行ってみたら、まあそれは偉いことになっちまってた訳よ。仇花の手配しただろう名無し手練れは、腹から短剣生やして虫の息だわ。その手練れを返り討ちにしただろう向こうさんの最大戦力は心臓貫かれて死んでるわ。勝手に名無しんとこ飛び出してきた、この馬鹿弟子は血まみれの短剣握りしめてぼけーっと突っ立っるわ。想定外の雨あられだ。んで、事情聞こうとしてたら相棒がうっかり名無しのこいつに"あなたはどこの誰ですか?"って聞いちまってよ、この馬鹿弟子は、こいつなりに名無しの存在と矜持を守るために俺ら相手に単身、覚悟の足止めよ。かっかっかっ!!すげー馬鹿だろ?!」
「なっ…それは流石に言葉を失うね。大陸広しと言えどこま2人相手にそんな事できる猛者なんてそういないよ。…良く生きていたね、ルイ君。」
「…初耳なんですが。」
その説明を受けマサルはそれまで浮かべていた穏やかな笑みを消し去り、真剣な表情でルイをやや見つめ、苦笑いを浮かべてそう口にする。ルイとの出会いや弟子に至るまでの過程を「まぁ、あれだ色々あって預かる事にした。こいつは俺とレオンの弟子だ。」としか聞かされていなかったシェラは、席を立ちルイを後ろから守るように抱き締め、エドガーとレオンに、はっきりと怒気を込めて睨みつける。
「なんつう目してやがんだ、てめえはっ。当然、俺もレオンも馬鹿弟子の事を殺そうなんざ端から考えてねーよっ!!そもそも、こんな危なっかしくて直情的なちみっこが、名無しに育てられてるなんざ思いもしねーだろ!!ルーファス野郎が馬鹿弟子の事を知ってたんならよ、報告すべきだろっ?!俺たちだって知ってりゃ、これと顔あわせた瞬間に、ルーファスの名前だして解決万々歳っ!!そしたら、こいつだって下手な覚悟は決めなくて済むわっ、俺とやりあってボコボコにならなくてすんだんだしよっ!!どう考えてもあいつが悪いっ!!」
「「手出したって言うの(か)?!」」
マサルとシェラの追及する目線が強まる。それどころか、シェラに至っては怒気どころか殺気まで視線に込めている。エドガーは失言だったと気付きそっぽを向いて誤魔化そうとするが、当然、2人は収まりそうもない。その様子に呆れたレオンが額に手を当てて大きく息を吐き出し説明を補足する。
「否が俺たちにないとは言わん。だから少し落ち着いて話を聞いてくれ。」
初めはルイともちろん交戦する意思などはなかった事、レオン自身が交渉していたが、子供と侮り名無しの掟に抵触する内容を安易に訪ねてしまったことで、逆にルイを追い詰める形になってしまい、ルイに覚悟を決めさせてしまった事。手加減と言うものに縁遠いレオンに代わってエドガーがルイと交戦を始める。
ルイの善戦も見られたがその交戦の末、ルイが全身を打撲、数か所の骨折、浅いとは言えない裂傷を負うもレオンの所持していたポーションをエドガーが必死にかつ大量に降り注ぎ治療した事で無事快方に向かい事なきを得た。その後、その場に現れた名無しの者たちと合流し、ルイを引き渡し本来の事件とは関係ない大騒動は幕を閉じたと、レオンは"エドガーがルイとの交戦を途中で楽しみだした"件や"レオンの度重なる制止を2人が無視して交戦を続けた"件など、余計な火種になり兼ねない内容を上手く伏せ淡々と説明した。
それを黙って聞いていたマサルは会話の中で何度かルイやエドガーの表情を窺う視線を向けていたが、納得した様子を見せる。だが一方でシェラの殺気は収まる気配を見せない。レオンの言ってる話は当然、理解はしたがこの2人ならばルイを怪我させずに納める方法などいくらでもあるとわかっているからだ。
背中から受ける強い怒気が、自分のために2人に向けられている物だと理解したルイはシェラが自分を抱き締める腕にそっと触れ、顔をあげた。
「2人はあの夜一度だって僕の事を殺そうと動いたりはしません。僕より付き合いの長い2人ならばわかりますよね?そうであったら僕はここにいませんもの。交戦している中で僕もそれに気付きました。それに師匠と僕が闘ってる間、レオンさんは何度も僕に語りかけてくれました。「もう止めろ。」と。それを拒絶したのは僕です。そして師匠は、僕が"家族"の掟と矜持を守ろうとしている事を最初から最後まで馬鹿にすることなく、僕の覚悟を全て受け止めようとしてくれました。ですから、陛下、シェラさん。これ以上2人を責めるのであれば、僕こそ責められるべきです。」
ルイが必死に説明するその姿にエドガーもレオンも表情には出さないものの、胸が熱くなるのを感じた。ルイは不安そうにシェラを窺うがシェラの抱き締める力が少し強くなりうまく振りむけない。だが背中に感じる気配が、とても優しく温かいものに変化したのを感じてルイは胸を撫で下ろす。マサルもそんなルイの言葉をじっと見つめたまま聞いていた。そして、この小さな身体の持ち主の強い心としっかりした意思を感じ感嘆していた。ルイがこちらを窺っている事に気づき笑顔で大きく頷いて見せる。
「…俺たちにはもったいくらい立派な弟子だ。ルイ、お前の気持ち嬉しかった。礼を言う。」
「はっ……まあ、なんだ。武器の扱いは、まだひよっこだけどな。…心意気は買ってやる。でも調子のんなよ、ちみっこっ!!」
レオンは穏やかな笑顔でルイに軽く頭を下げる。ルイを1人の人間として扱うとあの夜ルイを子供扱いした自身の浅慮により追い詰める結果となった事を戒めとしている彼なりのけじめである。一方でエドガーは照れを隠すために必死なのか表情をころころ変えつつ褒めたり悪態をついたり忙しない。レオンはそんな相棒に呆れた視線を送る。
「お前というヤツは……。こいつの事は放っておくとしてだ。事件後に、名無し達から俺とエドはルイの事を託される事になる。理由は色々あるんだが、彼ら自身自分たちの生業の事でルイの将来を憂いていたのがひとつ。そして、彼らの一番の願いであるルイ自身の更なる成長を願ってと言うのが理由だ。俺とエド…と言ってもこの件はエドが決めた事だが、ルイ自身どう考え、どう感じるか。その事をルイに訪ね、ルイが我々と共に来ると覚悟を決めたので引き取った。あとは成人後、ルイが自分で進みたい道を進めばいい。ルイが育てられていた孤児院がそう言う方針だったらしいからな。俺たちもルイにはそうしてやりたいと考えていると言う訳だ。」
「確かに…ルーファスが2人に報告怠ったのは失点だね。まあ親代わりたちに黙って鉄火場にルイ君が突撃するとは考えなかったって言うのが大きいのかもしれないけどね。でも…不思議な縁だねぇ。ルーファスが仮に2人にルイ君の事を伝えていたらきっとエドと交戦する事もなかっただろう。そうしたらルイ君は2人の弟子になると覚悟できただろうか。そして2人はルイ君を弟子にしようと考えただろうか。……考えようによっては、知らなかったからこそ、互いが互いをしっかりと見据えこういう形に収まったのかもしれないね。……世の中ってのは、本当にままならない物だねぇ。」
マサルが目を細めて淡々と自分の考えを口にする。師である2人は、その語りに耳を貸し、最後は苦笑を浮かべて「確かにそうかもしれないな。」と口にした。ルイもマサルの話を聞きながら、あの場でルーファスと知り合いだと聞かされていてエドガーと打ち合う事もなく、その場が終わっていたのなら今ほど2人を慕う事はなかっただろうと思う。そして2人の弟子となったこの二か月程の日々に思いを巡らせ、結果としては良かったんだなと納得した。ひと段落といった空気が会議室を満たすとルイを抱き締めていたシェラは立ち上がる。
「話はわかりました。私自身全てを納得した訳ではありませんが、当事者であるルイの心からの言葉を蔑ろにしてまで納得する気もありません。では、私は一旦失礼します。この話はきちんと全職員に周知しなければなりませんので。」
「全職員に周知って……それほど騒ぐようなの事かよ?」
「ご自身で説明なさりますか?少なくとも今後、私のようにこの内容を知る者も出るでしょう。その際に伝え方を誤まると全職員が敵に回りかねませんが。特にクロエを筆頭にハィナ、リルネッサ辺りは相当こじれると予想しますが。」
「……悪かった任せる。俺が本当に悪かった。」
シェラがあまりにも大袈裟な事を口にしだしたとエドガー呆れた声をあげた。しかし、シェラの突き刺すような視線と言葉を受けて脳内で自分が説明した際に、集められる侮蔑の視線と浴びせられる罵声を想像してみる。そして名前が挙がった3人が確実にキレるであろうことが容易に想像がついてしまったエドガーは、素直に頭を下げて詫びた。シェラは「当然です。」と言い残し退室していった。
マサル
「あはははっ、どうしよう。後書きのネタがないやっ!
エドガー
「かっかっかっ、しらねぇよ!!笑っとけっ、笑っとけっ!!




