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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-師は驚き、そして笑う-■■①


■■2章-師は驚き、そして笑う-■■


「起きやがれ。昼飯喰って眠たくてしょうがねーってか?さっさと立て、馬鹿弟子っ。」


大剣を杖代わりになんとか立ち上がりエドガーを睨みつける。2カ月間でどれだけの数、吹き飛ばされ、叩き潰され、打ち込まれただろう。訓練時、本来であれば刃を潰した武器を使う事が多いが、エドが使う、訓練武器はルイの要望もあってレオンが作った魔道具だ。といってもそんな複雑な仕様ではない。まず打撲や擦り傷を負う事はあっても大きな裂傷や骨折はしない様に与えたダメージは"身体"には感じない。だが"脳"を通じて"痛み"だけが伝わる仕組みになっている。例えば、腕を飛ばされかねない剣撃をルイがかわし損ねると、腕は飛ばないが"腕が飛んだ痛み"を疑似的にルイは体験する事になる。変なところで息が合う師匠と弟子曰く「「腕がなくなったからって武器を手放さないためには、痛みに慣れる。」」その言葉にレオンは頭を抱えたが、的外れか?とルイに聞かれると強ち間違ってもいないので、結局作成に踏み込んだ。


「…師匠の攻撃がっ、子守唄みたいにトロいからっ…つい寝てました。」

「かっかっ、そいつは悪い事した。お詫びにしっかり目覚ましてやるから、さっさと構えろ。…ふーん。まあ総評と反省は後だ。」


痛みと疲労で立ってるだけで足が震えているにも関わらず、親の敵でも見る様な目で睨みつけ軽口を叩くルイに、エドガーは笑みと軽口で返す。かれこれ3時間程、切られ突かれ潰されと回避せねば常に受け続ける痛み。錯覚とは言えそれは確実に神経を蝕み疲労させる。実際試作品でタイタスが腕を飛ばされた痛みを体験した時は、額に玉の様な脂汗を浮かべ青白い顔をして腕を押さえこんでいた。それを目の前の弟子は、何度受けたところで止まらない、怯まない。本人曰く「師匠とある夜闘った時に、色んな覚悟しちゃって呼吸でも止められたりしない限りは動けそうです。」とケロッとした顔で言っていた。実際、試しに喉を突いたり、背中に"戦鎚"を叩きこんだ際は行動不能になっていた。そしてレオンにめちゃくちゃきれられた。「お前の武器を信じてたんだが。」と軽口を叩き殴られもした。

エドは大剣を地面に突き刺し、拳を何度か握りしめて数歩前に出ると「かかってこい。」と笑みを浮かべて手招きする。ルイはそれを受け同様に大剣を床に刺し、軽くその場で数回跳躍して首を一周させた。刹那、一気に背面から掌底の動作に入る。エドガーは腹部に拳を振るう…2カ月前の再現にはならない。動作を止めたルイが拳をスレスレでかわしもう一歩踏み込み間髪いれずに今度は腹部めがけて掌底を放つ。エドガーが後方に軽く飛びそれを回避する。回避方向に鋭い前蹴りを繰り出すもその場で半円を描くように容易く回避しルイの身体を叩き潰す勢いで拳が上方から打ち落とされる。これをかわしたところをまた狙い打ちされて手詰まりになると考え、ルイは思い切った行動に出る。その場で軽く体勢を低くしその拳を踵で迎撃した。全体重を乗せて踵で蹴りあげたのにも関わらず、力負けしている事は接触した瞬間に理解しているルイは拳に触れている足を軸足にして、もう一方の足でエドガーの顎に向けて蹴りを放つ。


「すらっと長いこの足は、お前には見えないのか?馬鹿弟子。」


ぞっとする様なエドガーのその言葉で自分の失策にルイは気付いた。つい得意な体術だからと言って無駄に攻め込み過ぎて致命的な隙を自分から作ってしまったと気付いた時には強い衝撃に襲われる。目があったエドガーは「バカタレ。」と口にして笑っていた。背中を蹴りあげられルイは、少し宙に浮きそのまま、返す足で地面に蹴り倒された。エドガーの足下にから衝撃音と砂埃が舞った。いつの間にか周囲で各々訓練に勤しんでいた冒険者たちがその手を止めて、2人の様子を息を呑んで見守っている。


「ここまでだ。」

「ありがとうごさいました。…まだやれるのに。」


全身の痛みに耐えながら、それでもどうと言う事はないと装うルイは形式上の感謝を口にし、小声で不満を漏らす。エドガーは「やれやれ」と頭を掻き、ルイに向き直り問題点をあげて行く。


「武器の扱いに関してだが、大剣と短槍、短剣あたりは"まぁまぁ"だな。それ以外は"やっと並"。全体通して言える事だが、型の意味を理解して振れるようにはなってやがるが、お前の持ち味の足とまだ結びついてねぇ印象だ。てめぇの努力は認めてやる、また明後日だ。」

「最後の失敗は…。」

「そのツラ見てたら、きちんとわかってんだろ?お前が身にしみて理解してる悪手を指摘する意味はねぇ。この後、続けるなら"足運び"と"体術"、それからさっきあげた3っの武器の使用禁止。夕飯前には風呂入って小ぎれいにしておけ。以上だ。」


エドガーはそう言い残し、ルイに背を向けた。立ち去るエドガーの背中を強く睨みつける。肩にかかる癖がかった獅子を思わせる銀髪。少し身体を動かすとエドガーの視界はそれによって妨げられる。それであってもルイの攻撃は届かない。激しく髪をゆらしながらもその奥からじっとこちらを覗きこむ捕食者然とした獰猛な光を放つ深緑の瞳はルイの動きだけではなく、考えすら見通している様な凄みがある。レオンと比較すると細身の体躯。だが決して非力さを感じさせる身体つきではない。超えるべき相手、ルイは弟子になった今も強くそう思う。そして、確かな憧れも抱いている。粗野な態度、横柄で傲慢な口ぶりとてもではないがそう言う部分は好きにはなれない。だが時折見せる強い信念、意思、矜持。その輝きからルイは目を離せない。


「だ、大丈夫か?ルイ。」


ルイは声をかけられ我に返った。エドガーに凄まじい程に大敗したルイを心配して訓練していた知人が声をかけてくれたのだろう。ルイは笑顔を向け平気だと伝える。考えていても超えられない。それは夜の教会で思い知っている。それならば、足を止めている暇などない。ルイは気合を入れ直し武器を握りしめる。


「すみません、どなたか訓練のお相手してもらえませんか?」

「おいおい、散々大将とやってたろ。」

「まだ足りないんです。馬鹿師匠を早くぎゃふんと言わせたいですからっ!」


ルイは砂まみれの顔でにこやかにそう告げた。周りで様子を見てた剣士風の男がルイの前に立ち頷く。ルイは感謝の言葉を口にし集中する。

背後から剣檄のぶつかり合う音を耳にしたエドガーはふと足を止めて振り返る。ルイが槍を振るって気勢をあげる姿を目にし、前に向き直る。


「そうだ、それでいい。」


独りごちたエドガーは満足そうに笑みを湛えている。ルイを拾ってからと言うもの、時折こうした充足感を覚える。これが弟子を持つと言うことなのだろう。自身と同じ色をした糸のような髪を弾ませ、噛み殺す様な意思を感じさせる深く青い瞳。驚嘆に値するその強い意思を小さな体躯に詰め込み、その全てをぶつけるように挑んでくる弟子。決して強者とは言えないルイだが、エドガーはどんな相手と闘うよりも高揚する。決して折れない姿に見惚れる。旅をしていた時にはそんな相手が数多くいた。だがここ数年はまともに挑んでくる者はおろか、名を知るだけで怖気づき挑んでこない者が多い。エドガーは飢えていたことに気付いた。どんな強者であろうが、英雄だろうがあの弟子は喰らいつこうと必死に追いかけてくる。それがなにより心地いい。そんな風にルイの事を考えていると視界の隅に憮然とした表情で腕を組んでるレオンの姿みつけた。


「……お前もルイも加減と言うものを知らん。良くない部分ばかり似た者同士だな。」

「かかっ、仕方ねぇだろ。あいつ手を抜くとすぐに気付きやがるからな。一回手抜いたらへそ曲げやがってよ。不貞腐れると長いんだ、これが。」


ルイの模擬戦の様子を眺めているレオンに、エドガーはその時のことを思い出したのか肩を竦めてげんなりした顔をする。レオンはそれにほんの少しだけ笑みを浮かべ、ルイに視線を戻し少し気にかけている事をエドガーに訪ねた。


「我らが自慢の弟子は、何に焦っているんだ。ここ数日は特にその様子が顕著だ。俺の気のせいならばといいが。そうではないようだ、今の立ち会いに挑む姿も少し危うく見える。当然、お前も気付いているんだろ?」

「んー…まあな。気付いてるし理由も想像できる。だがレオンが感じてるほど危ういとは思ってねーよ。ただこればっかは仕方ねぇ、誰もが通る道だと俺は思って放置してる。まあ、朝軽く様子を窺ってみたが、業務には楽しそうにやってるしな。時間が解決すんだろ。」


エドガーもルイに目を向け様子を窺う。口にした通り危うさを感じる程の症状ではないと思うが、レオンが口にすると若干不安にはなってくる。


「お前が気にかけて"わざわざ早起きして"様子を見に行く程か。…その理由とはなんだ?」

「俺が早起きしちゃいけねーのかよ。ちっ、あれだあれ伸び悩んでんだろ?自分の中で勝手によ。俺もお前もあいつが努力を続けている事を知ってるし、成長の早さにゃ舌を巻いてる。だが当の本人はそれがわかってない。"努力はしてる。だが成果が付いてこない、目に見えない"。だから焦り出す。ここに来たばっかの時は、剣ひと振り、受け流しひとつ。どれを教わっても全部が初めての体験で、その新鮮さ故に成果も自覚しやすい。だがそれらに慣れてきて軽く煮詰まってやがる状況ってこった。」


早起きの件で、嫌味を言われ眉を顰めつつもエドガーが感じているルイの不調の理由を口にする。それを聞きレオンは更に難しい顔を浮かべる。


「俺にも当然、過去に似た経験がある。しかしだ、ルイはお前に師事してまだ二カ月だぞ?武器を振る事を学び、自己鍛練に勤しむ。そういう日々を積み重ねて、そこで初めて目の前に壁がある事を感じるものだろう。それこそ3年も5年経って初めて停滞を実感し、抜け出せずに戸惑いもがく。いくらルイが成長が早いと言って……それほど早いというのか?!」


レオンは自分で言っているうちにエドガーが言わんとすることを理解した。数年努力を積み重ねて壁に当たる期間を、ルイは一足飛びに駆け抜けたとエドガーは言っている。この男が弟子とは言えども贔屓目で判断する者ではないことをレオンは誰よりも理解している。こと武器の扱いに関しては評価も厳しい。そんなエドガーがルイはそこに至っていると口にする。レオンは背筋にぞわりとした何かを感じた。


「…びびるだろ?実際、早いどころの騒ぎじゃねーけどな。まずあれは頭が良い。やたらと目も良い、順応も適応も笑えるほど早ぇ。軒並み水準が高いそれらを全部霞ませちまうくらいに、俺はアイツの体を操る能力の異常さにびびる。」

「体を操る能力?」


悪戯を思いついた子供の様な顔をして、ルイの評価をレオンに説明する。レオンはルイの賢さや目の良さ、順応速度と適応能力の高さは確かに理解できる。だが最後にそれらが霞むほどの資質については理解できなかった。レオンに問われエドガーは頬を掻きながら言葉を探す。


「説明が難しいんだよなぁっ。んー、例えばな?ひと通り剣の型をルイに見せるだろ。あいつはそれを見て真似して動く。その完成度が異様に高いんだわ。」

「それが可能だと体の操る能力が高いということになるのか?」


エドガーの説明ではいまいちぴんとこない。その説明を聞いてもただ模倣が巧みなだけにしか聞こえないからだ。説明がうまくいかない事をエドガーも理解しているのか苦悶の表情を見せ唸る。そんな2人に背後から声がかかる。


「悪タレ、なんじゃその説明は…。そんなんでレオンの坊主がわかるはずあるまいて。」

ナグリ

「髪型を表現するって大変じゃな…書けば書くほど正解がわからなくなるのぉ…

 レオンの坊主はその分、楽でいいのぉ…

レオン

「戯れを。

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