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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-冒険者ギルドの働き者-■■①

 ■■2章-冒険者ギルドの働き者-■■


 "辺境都市ハンニバル"。オーカスタン王国の南部領地の沿岸部にほど近い場所に位置する都市である。その周辺は、大陸屈指の凶悪な魔物たちが生息する危険な地域に囲まれており、他都市からハンニバルを訪れる事は、腕利きの"冒険者"の護衛があったとしても容易ではないと言われている。さらに大陸中に点在する"魔窟-ダンジョン-"と呼称される難攻不落の積層型魔境の中でも、その脅威度と難易度がそれら魔窟と一線を画すとされる最大規模の魔窟"伏魔-パンデモニウム"。大陸に5箇所数えられているそれらの内、3箇所はハンニバル周辺に存在する。そのため辺境都市ハンニバルは、魔境都市ハンニバルとも呼ばれていた。

 夜明け前の静けさが漂う冒険者ギルドの裏庭で、1つの小さな影が銀髪を弾ませ大剣を振るっていた。夜の闇を思わせる深蒼の瞳で虚空を睨みつけ、大剣を下段に構え、静かに息をゆっくり吐き出し、一気に振りあげる。切り上げから連続して虚空を数度切り裂き、鋭く突くとその動きを止めた。周囲に小気味よい風切り音を響かせる"ルイ"は、一度、纏って張り詰めた空気を霧散させる。

 何か納得出来ないといった風に、しばし首を傾けていたかと思うと、大剣を構え直しゆっくり振りはじめる。丁寧にひと振りひと振り確実に思い描いた剣筋をなぞるように幾度となく繰り返す。


「…次。」


 額に薄らと汗が滲むとそれを手の甲でぬぐいさり、ぽつりと口にし口早に"詠唱"する。ルイの足元の"影が蠢き"吐き出す様に、その身から短槍が姿を現した。柄を何度か掴み感触を確かめながらルイは瞑目し、脳裏で"師匠"が短槍を振るっている姿を思い浮かべる。脳内の師匠が突く。ルイもそれを倣う。払う。倣う。そして、どんどん加速する。そしてイメージと自分の身体の動きがずれる。ルイは大剣の時と同様に、思い描いた剣筋を辿れる速度まで落とし身に染み込ませる。



 その作業は、斧槍に持ち替え、それが終わると次に短剣、長槍、剣…と続く。太陽が昇る気配がし出した裏庭には、無心で訓練を続けるルイを中心に、10数本の訓練用の武器が所狭しと突き立てられていた。


「そろそろ夜明けだ…急がないと。」


 明るく成り掛けている東の空を眺め、独りごちた。自分の周囲を軽く見渡しながら詠唱する。影はルイを中心に大きな円を描く様に広がり、次々と訓練用の武器たちを呑みこんで行く。回収を忘れた物がないのをもう一度見渡し影を戻す。ルイは"仕事"前に、汗を流すべく冒険者ギルドに隣接する寮へ足を向ける。


「忘れてた。」


 裏庭の端にルイのために立てられた投擲用の的を見てそう零す。投擲ナイフを6本取り出し投げつけて再び寮に向かって行った。的に突き刺さったナイフたちを細長く伸びた影がぬるりと近寄り呑み込んで消えて行く。

 冒険者ギルドハンニバル支部マスター"エドガー・ルクシウス・ワトール"とオーカスタン王国冒険者ギルド統括"レオン・ルクシウス・オーペル"。ルイがこの2人の弟子となり、ここ冒険者ギルドでの生活をはじめて2カ月が経過した。

 すっかり日課となった先ほどまでの個人訓練を済ませ、ルイが足を運んでいるのは、これまた日課となった寮の一階に広々とした空間に作られた大浴場。奇麗な木材と丁寧に研磨された石材で埋め尽くされた浴室は、たっぷりと湯が注がれた浴槽が数種類設置されており、心地よい湯気を漂わせている。ルイは教わった言いつけを守り、石鹸を慣れた手つきで泡立てていき、汗とよごれを奇麗に洗い落とす。ぬれた髪をうしろに撫でつけ、静かに浴槽へ身体を沈め、包み込むお湯に身を任せた。


「はぁ…贅沢。至福の時。魂の洗濯。」

「また、妙な言葉を教え込まれたものだな。ルイ、おはよう。」


 大浴場に巨躯の偉丈夫が姿を現し、呆れた顔でそう声をかけた。ルイは恥ずかしいところを見られたと照れ笑顔を向け挨拶を返す。


「おはようございます、レオンさん。この間、タイタスさんたちとお風呂で一緒になった時に、教えてもらったんです。風呂とはそういうものだって。」

「なるほど。気持ちは分からないでもないが、ルイくらいの子が口にするには些か年寄り臭く、違和感を抱く言葉だ。あまり人前で使わない事をおすすめする。ルイも奇異な視線に晒されたくはないだろ。」


 レオンの言葉に「そういうものですか。」と顎に手を当てるルイに、「その仕草も子供にらしくはないな。」と胸の内で独りごちて、レオンは苦笑を浮かべて体を洗い流す。浴槽に浸かりながらルイはじーっと、レオンの身体を観察する。


 2メートルを優に超える巨躯。だが"ただ大きい身体"ではない。冒険者たちと触れ合う機会が増え、脳裏に浮かぶ体格のいい者や、筋肉が盛り上がった力自慢の者とは根本的な身体付きが違うとルイは思う。視線を感じ「どうした。」と問われ、ルイは笑顔で首を横に振る。

 レオンは不思議な表情を浮かべながら浴槽に身を沈めた。その姿は近くで見ると更に迫力を帯びる。全身を覆う筋肉全てが硬く引き締まっているのがわかる。ルイはそんな筋肉の鎧を纏いそれでも重鈍さを微塵にも感じさせないスマートな巨躯をまじまじと観察し、自分の体に目を向けるとルイは静かに、かつあからさまに落胆した。レオンはその様子を見てルイが自分を観察していた理由に行きつき笑い声を漏らす。その笑い声にルイは顔をあげた。


「く…くくくっ。いや笑ってすまん。そんな顔をしなくてもルイもすぐに大きく育つ。筋肉だっていくらでもつく。だから、そんなに落ち込むな。身体の成長ばかりは焦ったところでどうしようもない。」

「僕もレオンさんみたいな身体になりますか?」


 レオンの言葉にルイの表情が明るくなる。逆に同じようになるかと問われたレオンは、少し眉をひそめ考える素ぶりを見せた。


「もちろん努力し鍛えはしたが、だが俺は人種とは違う。というかそもそも"混血-ミックス-"だからな。人種のルイはその特性を持たない。まんまこの身体付きを目指すのは、難しいかもしれん。」


 そうレオンは優しくルイに説いた。レオンが口にした"混血-ミックス-"とは種族が異なる者たちの間に生まれた者を指す。グラウス大陸ではかつて、その存在自体を否とし忌み嫌う傾向にあったが、異世界から訪れた勇者が"種族を超えた友愛の証"と提唱し、その解釈が広まり、そういった差別意識は薄れている。そのため現在では混血はさほど珍しくはない。だが、レオンはそんな混血の中でも"巨人族-ジャイアント-"と"小人族-ドワーフ-"の混血という稀なものであった。片や5メートルを超える者が当然の様に存在する巨人族と、成人しても150センチ程度しかない小人の混血。他種族を圧倒する身体能力と巨躯。小柄ながらも他種族と比べても非常に強い筋力を有する小人。各々の種族の特性を引き継ぐレオンだからこその恵まれた体格である。レオンの言葉を受け少し残念そうな顔をルイは浮かべる。


「…そうですか。」

「そう落ち込むこともない。それにルイには私の様な身体では些か重すぎるだろう。速度と軽妙な動きこそルイの持ち味だ。ルイにあった身体を作っていけばいい。エドガーとは子供の時からの付き合いだったが、あいつも子供の時は自分の小ささに悩んでいたが、今ではあの図体とあの態度だ。態度を見習われても困るが、あのくらいにならルイもなれる。」

「師匠も小さかったんですか?そっか…。」

「だが、筋肉を無駄につける運動や訓練はまだ許可しない。せっかく成長する身体に悪影響があってはいけないからな。」

「"仇花"様にも、大きくなれないからって禁止されてました。今も言いつけは守ってます。」

「身体が大きくなってから、無理なくやっていけば十分効果が出る。だから今はたくさん動いて、たくさん食べて、たくさん寝ることだ。それも立派な訓練であることは間違いない。」

「わかりました。」

「よし、そろそろ上がろう。湯あたりしては仕事に響く。」


 ルイが頷くのを見て、レオンは立ち上がり脱衣所に足を向ける。その背中を追いながら、頭の中でエドガー程の身長と体系に成長した自分の姿を想像してみるが、いまいち現実味を帯びないその容姿に困惑する。どんな姿になるかそのうちわかるだろうと考えるのを止めた。

 濡れた身体をきれいに拭き、しっかりとのり付けされた白いシャツに袖を通す。それだけで少し大人になった気になるのを楽しみながらルイは制服に着替える。レオンは自分がルイに仕立てた制服の様子を確かめる。このくらいの歳の子どもは成長が早いため手直しが必要かを確かめるためだ。ベスト、シャツ、短パンの丈共に問題ないと頷く。最後にルイに声をかけ、まだ不慣れなのだろう少したわんでいたボウタイをきれいに結ぶ。


「よし、立派なギルド職員だ。俺はまっすぐ工房に向かう。張り切るのは構わないが、きちんと周囲の大人たちの言葉に耳を貸すんだぞ。さあ行ってこい。」


 レオンはそう告げルイの肩に軽く手を載せた。ルイは笑顔で頷きレオンに別れを告げ、ひとり冒険者ギルドへ向かった。


「おっ、おはようさん。」

「ルイ、おはよう。今日もよろしくな。」

「毎日ちゃんと早起きできて偉いわね。ほんと"師匠"の片割れに似なくて良かったわ。」

「あははっ、皆さんおはようございます。」


 まだ始業時間ではないため、まばらではあるが先に到着していたギルド職員たちに声をかけられ、ルイも元気よく挨拶を返した。するとゆっくりと背後から忍び寄る気配に気付き、ルイは小さく嘆息した。次の瞬間、後ろから勢いよく抱きあげられる。


「おはよーっ、ルイ君。今日もかわいいねーっ、うりうりっうりうりっ!!」

「…おはようございます"クロエ"さん。…ほっぺた痛いです。ほんとに痛いです。」


 ルイに執拗に頬ずりする猫種の"獣人族-ビースト-"のクロエは、ルイが預けられた当初から事ある毎にルイにくっつき甘やかしていた。今では名無しの家族たちに全く引けを取らない程に、ルイを甘やかす者の筆頭と化している。この朝の襲撃も誰かが諫めて止めるか、本人が満足するまで止むことはない。何度か気配を察知したルイが回避し逃亡を図った事もあったが、獣人族の嗅覚からは逃れられず、次第に追い詰められ、ついには疲労で力尽きたところに猛烈な頬ずりが待ち構えていた。

 気配は消せても匂いを消せないルイにはクロエはまさに天敵であり、最後には捕獲されていいようにされるのであればと今ではすっかり諦観し初めからされるがままを選択するようになっていた。


「んーっ!!ルイ成分補充出来たから、今日もクロエお姉ちゃん頑張れるっ!!」

「がんばってくださぁい…。さてと。」


 すっかり見慣れた微笑ましい光景に職員たちは頬を緩ませ仕事の準備を進める。満足そうに声をあげたクロエは、心成しその肌を艶つかせルイに手を振り去って行く。手を振り返し見送ったルイは、受付カウンターのある広間の中心へ移り口早に詠唱を始める。影から"先輩"から譲り受けた鎖を抜き放ち、吹き抜けになっている天井の梁へ巻き付け宙へ舞う。


「おいで…百舌-モズ-。」


 広間に宙吊りなったルイを目がけ、大小様々な黒槍が影から迫る。その異様とも言える歪な槍衾を一瞥してルイは「よしっ」と満足そうに頷いた。あの夜の一件以来、原因はわかっていないが影の制御が、ありありと実感できる程に上達していた。20本程度の制御で手一杯だった時と違い、今ではどの程度の魔力を流せば、自分の想像通りに力を行使できるか容易にわかる。実際広間を覆い尽くす黒槍たちは建物に傷ひとつとつけていない。

 掃除用具を影から取り出し、黒槍の先端を足場にし宙を駆け、時には鎖で身体を制御しながら高所の掃除を丁寧にこなしていく。

 この大道芸染みた掃除風景も、当初は掃除をルイ頼んだ"タイタス"が顔を青く染め上げ、慌ててレオンを呼びに走るなんて事があったが、すっかり職員たちにとって朝の見慣れた光景となっている。

2章の目途がついたので投稿開始でございます。2章の中盤戦闘シーン書いてる時にメガ●ンのサントラ聞いてる内に気分が高揚して書きなぐってしまい。大半を書きなおすはめになりました。どれが好きって?ソウルハッ●ーズに決まってるじゃないですか!!目黒●司様、マ●ラ様が大好きです///

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