■■1章-エピローグ-■■
キャラ一覧作ってたら、エピローグ書きたくなって書いたっす。
これで正真正銘一章終わりっす。
■■1章-エピローグ-■■
「戻ったっすよ。」
白亜を削り出した床材に、上品さを感じさせる落ち着いた本棚や執務机が置かれた部屋。
開け放たれた窓から、秋口の心地よい風が室内を通り抜ける。
執務机で書類を手にしていた男の動きが止まった。
「やぁ、ルーファス。なかなか早く処理がついたようでなによりだね。」
「エドっちとレオっちが、いい働きしてただけっすよ。それに、仇花まで参入して来たっすからね。過剰戦力もいいところっす。」
ルーファスは、執務机の上に報告書を置く。「紅茶飲むっすか。」と男に声をかけて、返事も聞かずに勝手にお茶を淹れはじめる。
男はそんな彼に報告書に目を向けながら口を開く。
「お茶が飲みたいなら、誰かにやらせようか?」
「正規に入城した訳じゃないのに、誰か呼んだら騒ぎになるだけっすよ。紅茶くらい俺っちでも淹れられるっす。…どうしたっすか?なにか気になる点でも?」
細いフレームの眼鏡をかけ、さらりとした黒髪を後ろに流し両サイドを奇麗に刈りそろえた黒い瞳の男が、報告書の一部を興味深そうに何度も繰り返し目を通している事に気がついたルーファスはそんなに興味を引く報告などあっただろうかと訝しむ。
「いやいや、そうじゃないよ。ルーファスの報告書がこんなに読みやすくなるのなら、シェラをこっちに引っ張っておくべきだったなぁって思っただけだよ。」
「そういう冗談はいらないっすよ? "狂王"陛下。」
「あははっ、誰もいないところならいいが、誰かいる時は控えてくれよ。不敬だなんだと騒ぐ輩たちに「彼らはいいんだ。」って言ったところで君たちばかり贔屓していると、お小言をもらうのは僕なんだ。それは流石に勘弁願いたいからね。」
ルーファスに"狂王"と呼ばれた"マサル・ルクシウス・コンドー"は、笑顔を歪めてそう口にした。
異世界から法国と女神によって呼び出された勇者であり、オーカスタン王国、現国王、狂王マサルはルーファスに見えるように報告書を傾けて、指で示す。
「この子…髪の色と目の色は?」
身の毛が弥立つ低い声音に、この部屋の空気が歪む。
にこやかにしているマサルの目は少しも笑っておらずルーファスは、マサルが指している部分に目を向ける。
ルーファスはマサルが興味を示した内容とその質問の意図を理解して真剣な表情を浮かべて口を開く。
「エドと同じ銀髪、目は黒に近いが青だ。安心しろ、仇花にもそれとなく訪ねたがマサルの様に、別の世界の知識を有していたり、記憶を持ち越して生まれた様子もないそうだ。実際、俺も直接話した。ルイは唯の子供だ。」
「良かった…。くだらない召喚に巻き込まれて絶望を知るのは、僕で最後にしたいからね。…でも、ルーファス。これを読むに"唯の子供"と言うのは無理がないかな。僕にはルイって子が"化物"のように評されてる気がするんだけど。」
ルーファスの言葉にマサルは纏っていた緊張感と静かな怒気を取り払い悪戯っぽい笑みを湛えてそう口にした。
ルーファスもその言葉に表情を戻し、ルイ自体に興味を持ったマサルに嬉々として報告書には記載していない2人が邂逅した時のことを語り出す。
「"特異-ユニーク-"持ちなのかいっ?!それでルーファスみたいに気配を消せちゃうとか、反則の塊みたいな子だね。」
「やっぱりそうなるっすよね?!俺っちもびっくりしたっすよ。それに聞いただけっすけど、仇花曰く、ルイの影は"仇花"みたいな事まで出来ちゃうらしいんすよっ!」
ルーファスの口にした言葉にマサルは苦虫をつぶした様な顔になる。
その表情を見て、気持ちが痛いほどわかるルーファスは「うんうん、そういう顔になるっす。」と同意した。
「仇花は、本当に強かったものね…。正直2回ほど心が折れかけたのを今でも覚えてるよ。彼女と再戦だけは慎んで御断りしたいね。んーでも、ルイ君は名無しの子なのか…会ってみたい気がしたけど、なかなか難しそうだね。駄目もとで仇花に手紙出しておねだりしてみようかな…。どう思う?ルーファス。」
「暗殺派閥のトップに、興味ある子に会いたいからいいかな?なんて軽い気持ちで手紙送ろうとか、とち狂った事を言い出すから狂王なんて物騒な呼び名つくっすよ。まぁ、でもハンニバル行って仇花の店にでも顔出した時にお願いしたら時間作ってくれるんじゃないっすか?ダン爺やサミュルもマサルが顔出したら喜ぶっすよ。」
真面目な表情で、馬鹿な事を口にするマサルにルーファスは呆れた顔で苦言を呈した。
だが、そんな事おかまいなしとマサルは本気でどうにか会えないものかと思案しているのに気付き、仕方なく仇花の店に行って、直接頼んでみたらどうだと提案する。
「ダン爺に、サミュルか。確かにそれはいい提案だね。僕も2人にはしばらく会っていないなぁ…タイタスやクロエたちの顔もみたいし…。ってルーファスっ!!君もしやハィナのご飯食べただろ!!」
「いや、そりゃ食べるっすよ。なんでそこで怒られないといけないっすか。」
「君が、そんなに薄情者だとは…どうしても食べたくなってきてしまった。」
マサルがハンニバルにいるであろう知人たちの顔を思い浮かべているうちに、ハィナの食事を自分だけちゃっかり口にしたルーファスを非難する。
そんな国王陛下ら嘆息し話を聞き流すと不穏な事を口にしだしたのでルーファスは仕方なく釘をさす。
「…狂王陛下が、お忍びでハンニバルに行ったりしたら"ガンヤス"近衛長がストレスで吐血するっすよ。そう言えば、久しぶりに会ったオルトックも似たような顔色してたっすね…。」
「あはははっ、うまいことを言うね。確かにガンヤスとオルトックは何処か似た雰囲気を持ってるね。駄目だって怒りながらも結局折れてくれるところとか、頼まれると嫌な顔する割には断らないところとか、文句を言いつつもやり遂げてしまうところもそっくりだ。エドとレオも結構、わがままだからねオルトックにも労いの言葉をおくってあげないと。」
「いやいや、なんか自然にオルトックに会いに行くこと前提で話してるっすけど、お忍びで国王が来た途端、オルトックを労うどころか弔うことになるから止めるっす。」
ルーファスの脳裏に「お忍びできちゃった。」と陽気にほほ笑むマサルを見た途端、白目を向いて後ろに倒れるオルトックの姿が浮かんだ。
そのルーファスの物言いがツボに入ったのかマサルは執務机に突っ伏して震えている。
そんな国王陛下を冷めた目で見つめながら、紅茶を口に運んだ。
「あー・・ははっ、久しぶりにこんなに笑った気がするよ。「いつもそれくらい笑ってるっすよ。」そうかなぁ、自覚はないんだけどね。それよりルーファス、この事件にルイ君は被害者としてしか関与してないよね?」
突然、マサルが不穏なことを口にしたのでルーファスの表情が若干硬くなる。
そんな彼の変化に気付いたマサルは、「深い意味はないよ。」と首を横に振り続ける。
「ただ、君から聞くルイ君の印象が、些かわんぱくが過ぎる側面がある少年だなぁと感じたものだからね。周囲の家族たちが積極的になにか行動に起こす事に気付いたら、お家で素直にお留守番するイメージを持てないんだよ。むしろ家族の動きを察知したら、後先考えずに、力になろうと突っ走って行く。そんな印象を受けるのだけど、間違っているかい?」
マサルが少し真剣な眼差しで「君はどう思う?」と訪ねる。
ルーファスは無意識に苦悶の表情を浮かべる。
マサルの口にしたルイの人物像が的を射てるからだ。
自分が暮らしていた孤児院を失ったルイは家族への依存度が高く感じられた。
まぁ、ルイの依存度に輪をかけて仇花たちの依存度の方がおそろしく高く感じたが。
家族の者たちが、花街で起こった事件に、関与していると考えたら…。
または花街の異変に向かう家族たちに気付いてしまったら…。
「…確実に首突っ込んでる気がするっす。郊外の部隊鎮圧した段階で、こっちに戻ってきたのは失敗だったっすかね。ちょっと後悔してるっす。」
「それだと、この教会のどちらかかな?向こうの戦力は危険度高いのかい?」
「いや、仮にルイであっても制圧は容易い相手っす。搦め手が得意らしいっすから、油断しなきゃって条件付きっすけど。でも、そう考えると事件関係者でルイが手も足も出ない相手なんて、敵側にはいないっすね。仇花、エドっち、レオっち。この3人くらいじゃないっすかね。」
ルーファスが下したルイへの評価が、マサルの想像より高く設定されている事に驚愕の表情を浮かべた。
長い付き合いでその言葉に偽りがないのはわかっているが、ルーファスは仲間内の中でも厳しい評価を下す方だ。
その彼がそこまで絶賛するとは…と更に、マサルはルイに興味を持つ。
「そんなになのかい?そう聞くとハンニバルの冒険者なんかでは相手にならないと言っている様に聞こえるんだけど。さっきは冗談で口にしたが、本当に化物なのかと疑ってしまうよ。」
「逸材である事は確かっすけど、化物ってほど高く評価してないっすよ。そっすね…暗殺者、斥候職として気配を気取らせない技術に関して言えばS級でもあそこまでは、そういないっすね。ただ直接戦闘となると話は別っす。見てないっすけど速度は高いスピードタイプ。だけど5歳っすよ?技術が高くても"まだ"戦闘向きではないっす。」
「まだ…ねぇ。5歳で気配消す技術が並のS級より評価高いだけで逸材で済ませていいのか悩むけども。」
「まあ、そうっすね。仇花にも少し話たっすけど、ルイがこのまま育って成人を迎える頃にはちょっと見物っすね。下手したら俺っちでも生かしたまま止めるのは難しいくらいには平気でなりそうっす。まぁ、俺っちの贔屓目もあるっすから本気で会いに行く気があるなら自分で確かめるっすよ。」
反応が悪いマサルに「贔屓目」と思われていると勘違いしたルーファスは素っ気なくそう告げる。
マサルはそれに苦笑いで応えるが、内心は違う。
反応が悪いのは驚愕しているからだ。
ルーファスに贔屓目で見ている部分があるのかもしれないが、それを鑑みても5歳の少年に対して評価としては異常なのだ。
「そう言う面も考慮した上で、さっきあげた3人を除けば、離脱程度なら容易いっすよ。」
「なるほど…エドとレオの前だと離脱も難しいと。」
「そういうことっす。」
「…なんかの手違いでぶつかりあったりしないといいね。」
「…不吉な事言うのはよして欲しいっす。」
マサルの予言は、不吉なものに限って的中率が高かったりする。
ルーファスは急に不安になってハンニバルに向かおうかとすら思えてきた。
「僕も一緒に行こうか?」と笑顔のマサルに深い嘆息をつく。
「俺っちも、マサルもやる事があるっすよ。それを放り出す訳にはいかないっす。それでどうするっすか。俺っちはすぐにでも動けるっすよ。」
「じゃあ、行こうか。何件くらいまわれば済むかな?」
「頭潰すだけっすからね。5件も回ればいいっす。あとは騎士団にでもやらせるっす。」
「了解したよ。では、道案内頼めるかな?ルーファス。」
「確かに、承りましたっす。陛下。」
そうして2人は執務室の窓から飛び去っていった。
執務机の上には奇麗な字で書かれた短い伝言が残されている。
しばらくして、執務室を訪れたガンヤスは、何度ノックしても返答がないことを訝しんで、執務室に入室。
執務机の上の伝言を見つけ、膝をつき力なく項垂れた。
そんなガンヤスをを巡回していた騎士たちが発見し、"狂王に仕えると心労で病む。"と言う新しい噂が駆け巡る事になる。
後にその噂を耳にし面白おかしく笑って「あながち間違いじゃないから、怒るに怒れないね。」と口にした。
それを聞いたルーファスは呆れ、ガンヤスは烈火の如く怒ったという。




