■■1章-そして弟子と師匠になる-■■②
仇花の前に庇う様に立つ末の子、ルイがそこに立っていた。
エドガーはルイが姿を現せた途端にまるで何もなかったかの様に、先ほどまで猛威をふるっていた殺意と怒気の嵐を霧散させる。
仇花はルイの後ろ姿を見つめながら困惑していると、自身を見据えるレオンの視線に気づく。
レオンは首を小さく横に振り口元だけ動かし「落ち着け。」と伝えてきた。
「これで役者は揃ったな。悪いな、ちみっこ。急に呼び立てちまってよ。」
「悪い。呼ぶ、方法。」
状況が飲みこめない仇花の前で、エドガーがルイに謝罪の言葉を口にし、ルイは首を横に振って「呼び方が悪い。」と困った顔を浮かべている。
「実はな、ちみっこ。今、お前の親たちから頼み事をされたんだがよ。それを聞いてるうちに俺はムカムカしちまってよ。だから、俺がキレて殺しちまわないようにお前にいてもらおうと思ってよ?ちょっと付き合ってくれるか?」
「ころす、だめ。短気もだめ。でも短気なぜ、エドガー。」
「そうだな、短気はわり―ことだな。ちみっこの言う通りだ。気を付ける。手出したりしねーから、レオンの横にでも座ってろ。」
レオンは数日ぶりに見るルイが、エドガーと普通にコミュニケーションがとれている事に小さく驚いた。
だが、それ以上に仇花とサミュルとオーリが驚愕を浮かべていた。
ルイはレオンに小さく笑顔を向け、エドガーの言葉通り横に座る。
「さてと…なぁ、仇花、サミュル、それからオーリっつったか?」
仕切り直しだと言わんばかりに、エドガーは再び口を開き三人を、じっと見据え言葉を続ける。
「それから、ここにいない他の家族たち。お前ら全員よ…、ルイをなんだと思っているんだ?お前ら…何様だ?」
やっと呼吸が安定したサミュルは、その言葉を聞きエドガーが何に怒っているのか理解に至る。
オーリは理解できないでいた。と言うよりも思考が恐怖で働かない。そんなオーリをエドガーは睨みつけて口を開く。
「こいつは自分で考え、あの場に行き、あの場で考え敵を討った。その後、突然現れた俺らに対して、自分で考え対峙した。いいか良く聞け、てめぇとサミュルがさっきあてられて死にかけた圧力を放つ俺とレオンの前に自分で覚悟を決めてこいつは立ちふさがった。何故かっ!てめぇだよ、オーリ!てめぇを守るためにこいつは身体を張る事を選んだっ!」
仇花の混乱は溶けて行く。
そして自分を恥る。「ああ、そうか。だから、エドは怒ったのだ。」と得心がいった。
レオンが落ち着けと伝えてきた意味も理解できた。
私は…私たちは酔っていたのだ。親であると言う事に。
「しかもだ、やけくそなんかじゃねーぞ。不得手の武器を振るいながら自分の速度を俺に誤認させるように立ち回って、油断させた俺に最高速度ぶつけて、仇花仕込みの匂いが染みついた掌底を「これが僕の最大火力っ」なんてツラでぶち込んで、散々引っかき回して、それすら布石だっ!それらは全部!勝てない俺達に対して黒い魔法を少しでも優位に使って時間を稼いで、てめぇを運び出すためだ!想像できるか?俺にしこたま吹っ飛ばされて、痛む身体を引きずっててめぇに向かっていたこいつの姿がっ!!なぁ…そんな事を選択して実行できちまう奴は、お前ら大人たちに、軽んじられ子供扱いされるような、甘ったれの坊っちゃんなのか?!ああ?!」
レオンは知っていた。
エドガーはルイと対峙してから一度もルイを"子供呼ばわり"していな事を。
彼の矜持がそうさせた。
子供であろうが、なんであろうが相手が意思を持って何かを成そうと立ち塞がる。
それは子供ではない。同じ目線で対峙するなら敵として討つ。
並び立つのであれば、それは頼れる友である。
他人である自分がルイにそうであるのに、家族を称するお前たちはどうなのだ。と叱責しているのだ。
オーリにもその想いが徐々に伝わる。疑問も氷解された。
エドガーが言葉がただただ痛い。
自分が述べた言葉がなんと薄く脆いのかと悔恨の棘となって身に刺さる。
「…なに今更しけたツラしてやがんだオーリ!てめぇを守るために、こいつは殺したぞ?てめぇを守ってなっ!称賛される事はあっても憐れまれる事なんかじゃねっ!!守られたてめぇが、後になって親ヅラさらして、こいつを子供扱いなんざできんのかっ!」
「……ありがとう、エドガー。オーリ許して、わかってる、もう。だからやめる短気。」
オーリの前にルイが立ち、エドガーに懇願する。
「もう許してあげて。」と、ルイの胸にもエドガーの言葉は強く響いていた。
自分のためにこんなに怒ってくれているとルイにもわかっていた。
「おめーのが余程大人だよ、ルイ。俺は人を褒めるのも励ますのも苦手だから一回しか言わねぇ。俺の目ん玉良く見て、良く聞け。お前のその手は、人を殺したんじゃねぇ。お前が姉と慕う馬鹿を救ったんだ。いいか?お前の手は救ったんだ。」
ルイは目の奥が熱くて熱くて痛くなった。エドガーの言葉は終わらない。
「オーリにも言ったが、称賛されることはあっても、後ろ暗いことなんざひとつもねぇ!仇花!サミュル!こいつは人を殺したんじゃなくて、そこのバカタレを守ったんだ!そう思わねぇか?!おいっ!オーリ、てめぇ泣いてねーで言ってやれ!守ってくれてありがとうだろうがよっ!かっかっかっ!」
ルイは何故かわからないが涙が止まらなかった。
4柱が泣いている。3柱も泣いている。またオーリお姉ちゃんが泣いている。
みんなに抱き締められてルイはわからないまま涙を流している。
獰猛な野獣は、ルイに笑いかけ口を開いた。
「ルイっ!てめぇは胸を張れ。俺がそれを許してやる。」
それからしばらく、泣きあった家族たちが落ち着くのをエドガーとレオンは静かに見守っていた。
人を殺した初めての体験はエドガーもレオンも今でも容易に思いだせる。
オーリを守るためとは言え、ルイも生涯忘れる事はないだろう。
だがルイは幼いため、その心の痛みに気付けていなかったのだ。
立ち直った仇花たちが酒と食事の用意をしてくれるまで、エドガーとレオンとルイは3人で床に寝転がっていた。「エドガーが座敷ってのはこういうもんだ。」とルイに言ったのがきっかけである。
「なぁ、ちみっこ。」
「うん?」
エドガー天井を眺めながらルイに声をかけた。
「お前よ、俺とかレオンより強くなれるとしたらなりてぇか?」
「うん。」
「そうだよな。守れるもの増えるもんな。」
「うん。」
「俺くらい強いのが、まじで敵で現れたら死ぬな。お前。」
「…うん。」
「それわかってても、守るために動いちゃうもんな、お前。」
「うん。」
レオンはそのやり取りを不思議な気持ちで聞いていた。
「よく考えて答えろ、ルイ。お前を俺よりもレオンよりも強くしてやる。それでいくらでも守りたいもの守ればいい。一緒にくるか?」
ルイの返答に、エドガーは呵呵と笑った。
グラウス大陸にその武勇と名声を馳せた英雄"頂きの無槍"エドガー・ルクシウス・ワトール、
そして"不沈の城塞"レオン・ルクシウス・オーペル。
この日、異世界から召喚された勇者と共に、世界に平和を齎せた英雄たちに弟子が出来た。
一章-FIN-
ヒャッハー!!
一章なんとか完結できました!!
登場人物まとめみたいなのを1っあげた後、
一週間ほどお時間頂いて、2章をあらかた書き上げてから載せるつもりでございます。
(一章も草稿は一週間だったからいけるはずっ!)
たくさんの方に読んで頂けて大変嬉しく思ってます、本当にありがとうございます!!
次回予告:狂王がやってくる。ルイ魔法を知る。師匠が増える。あと、なんか事件起こします。でお送りします。(確定ジャナイヨ)




