1章-邂逅-③ 【2019/11/03 改稿】
4923字⇒7585字 えっ…いやいや…
増えた物は仕方ない。
なんか…だって、気分がのっちゃったんだもの。
他のキャラも好きだけど、やっぱりエドとレオのやり取り好きなんだな…。
改稿、亀速度で現在も進行中です ( _・ω・)_バン
(…レオンは、とても良い人だ)
ルイは漠然とだが、そう感じた自分の判断を受けとめ、そう結論づけた
今夜初めて出会い、そして見ず知らずの自分が人を殺めた事を、
ルイが思っている以上に重く受け止め、辛い表情を浮かべている。
それどころか、その表情に出してしまった事自体を悔い、
なんとか取り繕うとすらしてくれる。
幼いルイが考えている事のどれ程のものが、
本当の心情に近しいか、それはルイにも分からない。
だが、いらぬ同情心を当然だと言わんばかりに態度に出されるよりかは、
確実にルイを救ってくれる。
だからこそ、ルイは願う。
短い人生ではあるが、人生で一番最悪な夜。
初めて人を殺めた感触を知った夜。
そんな今宵、初めて出会った尊敬できる人物。
彼とは敵対したくない。
今の今まで祈った覚えの無い神に、初めて心からそう縋った。
(助けてくれなくて良い、だからこのままオーリ姉さんと2人で逃がして下さい)
その願いは届いたのか、届かなかったのか。
願いを聞き遂げたと答える者もいない。
ただの静寂だけが、月の光と共に降り注ぐ。
―
――
―――
ルイは自我を持つ頃から、とある孤児院で過ごしていた。
そして、ある日突然、その孤児院は焼失した。
運良くその後、とある組織に引き取られて育てられる事になる。
そこでは、皆が父親で母親、姉であり兄だった。
子供ながらに、ルイは組織が普通でない事に薄々ではあるが気付いていた。
陽が高い内の仕事を"仕事"と言い、陽が落ちてからの仕事を"お勤め"と言う。
仕事の時は、仕事場に顔を出しても困った顔を浮かべる事はあっても怒られはしない。
だが、お勤めについて行こうとすると普段優しい家族は、顔を赤らめて怒る。
更に言えば、家族の皆は修練場と呼ばれる場所で、
大粒の汗をかき、怪我をしてまで武器を振るう。
これらが、普通ではない事は、世間をあまり知らない幼いルイにでも察しがついた。
父も母も姉も兄も、全ての家族はその事をひた隠しにしているのも分かった。
それならば、自身も家族たちに倣って同様にルールを守らなければならない。
それは至極真っ当で、ルイには当然の事のように感じた。
そして、自分も家族を守るべきなのだと、守れる者でありたいと願った。
いつかは、大人になり自分の様な子供の兄となり父となる。
漠然とそんなことを考えていた。
そのためには、絶対順守しなければならない。
組織そのものの隠蔽、存在しなければ危険がない。
幼いルイが行き着いた答えは、真理とも言える答えだった。
それ自体を知り得なければ、害など訪れるはずもないのだから。
そして、それは家族たちの訓示でもあった。
【我々は存在しない。存在しない我々は、過度に怯え隠れ暮らす事もない。
何故ならば、そこに在ることを誰も知らないのだから】
修練場に足しげく通い身ぶり手ぶりを模するルイに、家族の一人が伝えた訓示。
それを伝え彼女は笑った、"これでルイも立派な家族の一員ね"と。
その時、頭に優しく触れた手の感触を忘れない。
そんな温かい時間をくれる家族のために、ルイはもう一度オーリに目をやる。
そして、レオンをまっすぐに見つめる。
そんなルイは瞳は、輝きを曇らせ暗く妖しい色を纏っていた。
その事に気付かなかったレオンは、自身も気付かずに決別の言葉を口にする。
「では、次の質問だルイ。…君とあそこで傷つき倒れている女性。
こんな夜遅くに偶然ここにやって来たとは思えない。君たちはどこの組織の者だ?」
「……ごめん、もう話さない、何も。そう今、決めた。」
ルイは最後にそう告げ、地面を蹴りレオンに肉迫する。
ふと、その瞬間。
ルイはこのままレオンの手で殺される自分を想像した。
そして自分を手にかけた事を悔いる様に悲しむレオン。
見ていてとても痛々しく、見ているルイが泣きそうになる程のひどい顔。
(ああ、悲しんで欲しくないのにな)
ルイは、漠然と、そして心からそう思った。
今の今まで暗い雲に姿を隠していた月は煌々と輝き姿を現す。
それは、大聖堂の大窓に飾られたステンドグラス越しにルイとレオンを照らした。
その神々しいまでの光の雨に、ルイは胸の内で呪詛の言葉を吐く。
(…神様なんてものは、やっぱりなんの仕事しないんだ……)
胸の内で、初めて祈った神とやらに、そう皮肉をこぼす。
ルイは苦々しい笑みを浮かべ、レオンの瞳を真っ直ぐ見つめ、囁くように口にした。
「さよなら、レオン」
次の瞬間、手には覚えたばかりの肉を裂く感触ではなく、硬い物を叩いた鈍い痛みが響く。
遅れて耳を掻き毟る甲高い金属同士が擦れる悲鳴。
驚きに目を開けると、長い銀髪をゆらゆらと揺らす獰猛な瞳と視線がぶつかる。
手元を窺うといつの間にか割って入ったエドガーの手にした剣と自身の短剣。
ほっとした気持ちと、邪魔された事に対して憤りを感じる気持ちが綯い交ぜになる。
それらを振り払うように、力いっぱい短剣を押しつけ、大きく後ろへ跳躍した。
そんなルイの瞳から、目を逸らさずに背後で呆然とするレオンにエドガーは口を開く。
「楽しいお話の時間は終わりだよ、相棒」
淡々とそう言い放ったエドガーにレオンは何か口にしようとするも、
すっと手をあげエドガーがそれを制す。
「お前の誠実さも優しさも全て飲み込んだ上で、こいつは覚悟を決めた。
ここから先はお前が対応できる分水嶺は越えたんだよ…それだけだ」
背後のレオンへ振り向く事なくエドガーはそう言い切る。
その声音、そして纏う気配から先ほど纏っていたふざけた雰囲気は霧散している。
それでも逡巡するレオンだったが、見つめる先でルイが首を横に振るのを見て押し黙る。
「…銀髪の方が楽」
ルイがそう漏らした言葉に侮りはない。
純粋に、レオンを相手取るよりも自分の気持ちが楽だったからこそ口をついた言葉。
エドガーは見つめ合う瞳で、そんなことはわかってると笑っているようだった。
刹那、無数の剣線が飛び交い甲高い音を響かせる。
一気呵成に飛び込んだルイは、苛立つ気持ちを叩きつける様に幾度となく切りつける。
一方でエドガーはその場から一歩も動く事なく、ルイの激情を受けとめた。
十数合にも及んだその悉くを弾き返し、エドガーは距離をとったルイを睥睨する。
「待てエドっ!ルイ…私の配慮が足りなかった。よく俺の話を聞いてくれ」
「そんなことない。でも…レオンの相手。これの後、黙って。」
レオンが懇願するように声を張り上げ、エドガーを遮るように前へ出る。
だが、そんなレオンに、ルイは拙いまでもはっきりと拒絶の言葉を口にした。
「何故だ、何故なんだルイっ!」
悔恨の想いに顔を歪め、レオンはルイの名を呼んだ。
しかし、ルイはそれに答える言葉も、応える事もない。
ただ、じっと敵として見定めたエドガーを見つめる。
「あー…取りあえずよ、邪魔だからすっこんでろ。タコスケ」
レオンの感情などどうとでも良いと髪をかき上げエドガーも素気無く告げる。
何度か、手にした剣の具合でも確かめる様に振るエドガーはなおも言葉を重ねる。
「さっきの俺の言葉が悪かったのか?楽しいお話の時間は終わりって言ったよな?
伝わってねーのか?相棒。下がってろって言ってんだよ、俺は。
こいつはの指名まず俺だ。んで、俺をやったら次はお前だとよ。だから、黙って見とけよ」
そう口にするとポンポンと軽くレオンの肩を叩き、ルイの目をしっかり見つめる。
「わりーな、せっかく良い感じに火点いたのに、相棒ががたがたと言ってよ。
まあ、それはともかく、生意気な口を聞くだけあるぜ?ちみっこ」
「ちみっこ…初めて聞くけど…悪口なのわかる」
「かかっ、実際ちっせーだろ、お前。まあ、んなことはどーでも良い。
お前さ、本来虚実を織り交ぜて突っ込んでくるタイプだろ?
なんでそれをしねぇの?おつむが熱くなりすぎて単調になってんのか?
…それとも、俺を舐めてるのか?」
「変。手抜く、何故。する?…油断する馬鹿。死ぬ、お前」
「油断だあ?生憎だが生まれてこの方、んなもん、誰が相手でもした事がねぇよ。
俺の勘ではお前は、俺より断然弱い。それが事実だろうが幻想だろうが、
俺は少しもお前を見縊らねぇ。それは絶対だ」
「本気ない…油断、なにが違う」
「本気出すまでもねーって言ってんだよ、それが気に入らないってんなら、
出させてみろよ、その手で。出来ない癖に文句ばっかたれんな、てめえはただのガキか?」
そんなくだらない問答の間もルイは、エドガーが隙を作るのを待っていた。
結果、そんな物は生まれはしなかった。
エドガーもまた、ルイが少しでも隙を作れば飛びかかってくるとわかっていた。
疑似餌の様な隙を作り、誘い出すのは難しくは無かったが、そんなつもりは毛頭ない。
ルイもエドガーも思わず笑みを浮かべた。
「…お話のあとは睨めっこか?子供らしい遊びがしてーなら、ここじゃねぇとこでやれ」
そう悪態をつきながら、エドガーは半身に構え、わざわざルイが切りつけやすい様に構える。
あくまでも先手はお前に譲ってやる、そんな聞こえるはずもない声をルイは聞いた。
「…ばけもの、ほんとうに」
「馬鹿野郎、急に褒めるなよ。照れるじゃねーか」
「ほめてない、ばか」
「んな事、わかってるわ馬鹿。…だが、俺からみたらお前も化け物だよ」
エドガーが不意に窺わせた笑みに釣られ、ルイも再び笑う。
それと同時に、冷静にエドガーを見つめルイは自問自答を繰り返す。
(何をしても見切られてると思った方がいいかな…)
そして、仮にエドガーを打倒し、その後レオンも倒す。
一度そこまで考え、都合が良すぎるとその考えを捨てる。
力量差は歴然、理屈ではなく身体がそう訴えて来る。
そんなものは、唐突に姿を現せた時から、嫌と言うほど理解している。
(最悪、家族の情報が守れて、オーリお姉ちゃんが無事であれば、それで勝ち)
ルイは大きく息を吐き出す。
色々考えたり、驚いたりしている内に、随分と思考が曇っていたらしい。
漸くやる事が明確になってすっきりした気分になっている事に気付く。
恐らく、最初の攻撃と今の攻撃から、ルイの実力を"把握したつもりでいる"はずだ。
それならば、やりようはあるとルイは自分に檄を飛ばす。
ルイは様子見をやめて、自身の最高速度で地を蹴った。
(ちょっとは驚いてよ、化け物っ!)
直前で急停止し、側面へと再び急加速。
そして急停止、三度、急加速して肉迫する。
家族たちには、安易に使ってはいけないと、口酸っぱく釘を刺された。
急加速と急停止を繰り返す事は、身体に負担が大きい。
成長にいい影響を与えないのだと。
停止しては、後ろへと景色が流れ行く視界の端で、
ルイの動きに驚いたようなエドガーを捉えた。
(とりあえず驚いてくれて良かったけど、少し気が早いよ。まだまだ、早く出来るんだ)
エドガーには届かない言葉を、胸の内で吐き出す。
その届かぬ宣言通りルイの速度は、徐々に、徐々にではあるが増して行く。
ルイの動きを追うエドガーの瞳は、予想以上の性能を魅せるルイに喜色を浮かべる。
刹那、ルイの気配が霧散する。
極薄く希薄な気配。
気配を消すために必要なのか、幾ばくか速度が落ちるもむしろ早いだけの状態よりも、
捉えるのが難しい。エドガーは口元を大きく歪め犬歯を剥き出しにした。
獰猛な笑みを湛えたエドガーの足元に、気勢を膨らませたルイが飛び込む。
腰溜めに逆手に短剣構え、ルイはその小さな身体ごと腹部を穿つ……と思われた。
「おいおい」
ルイの短剣が届かぬように身体を開いたエドガーは苦笑を漏らす。
身体ごとこちらに向かってきたはずのルイが、まるで煙になったように消えた。
ルイの短剣に対処しようとしたエドガーの動きにあわせて、
即座に気配を断ったルイが、地面を這うように一気に駆け、
ガラ空きのまま晒された背に、手にした短剣を力いっぱい振るった。
だが、手に伝わるのは再び硬質な金属を打ち付けた痺れを伴う感触。
「初めん時も相棒に飛びかかった時も、手抜いてやがったのか?…いや、ちげえな。
少しでも油断を引き出そうとした訳か。んで最高速をわざわざ見せつけて、
やけにうめえ、気配遮断で懐に入ってわざと気勢をあげて陽動と……」
淡々とルイの瞳を睨みつけるように、エドガーはルイの行動を言語かして行く。
たった一合の間に、ルイの思考を完全に読まれた事も当然ルイは驚きを感じたが、
それよりも自身の短剣をはじいた、異質な存在に声を失う。
ルイの視線に気付いたのか、エドガーは背面に無造作に突き立て、
攻撃を弾いてみせた大剣を、良く見ろと言わんばからりに引き抜いてみせる。
(収納…でも、何かを引き出す素振りなんて見せなかった。
見えなかった?いやそんな訳ない…僕の知らない、別の何か……)
作成者によって収納規模や性能にばらつきがある"魔道具"、"収納"。
それ自体は、家族たちが袋型や背嚢型、箱型など、使用して見せてくれた事があるため、
ルイも当然、目にした事が多々ある。
そして、どの型も収納に手をいれ取り出さねばいけない。
ルイは何度も自身の記憶を辿るも、やはりその記憶は正しいはずだと結論づけた。
だが、そうなるとエドガーが突如"大剣"を手に出来た理由は収納ではない。
ルイの知らない何か、または彼特有の何かだと。
実際、先ほどエドガーが、手にしていた長剣が何処にも見当たらない。
「おいおい……格上相手にしてる時に、のんびり考え事なんて最悪だぞ?死ぬのか?」
その声で我に返ったルイは、轟と迫る風切り音を感知した。
咄嗟に、肉迫する大剣を下がりかわすのではなく、
振るったエドガー足下へ転がり込み、置き上がる反動を利用して一気にすり抜ける。
地面を滑る様に着地しながらも、体勢を低く維持してエドガーを睨みつけた。
「かかっ、寝ぼけたツラしてやがったから、叩き起こしてやろうと思ったんだがよ。
まさか、こんなに綺麗にかわされるとは思わなかったぜ」
呵呵と笑い声をあげ、大剣を足元に突き付けると、ぱちぱちと手を叩き称賛した。
「そういう、いらない」
「ああ、そうだな」
ルイの言葉に素直に応じ、大剣を抜き放ちルイへと剣先を向ける。
それは、構えたなどとは決して言える代物ではない。
ただ、大剣を両手で握り、剣先を向けただけ。
それだけだと言うのに、エドガーが身に纏う圧力が、数段階跳ね上がる。
そんな圧力に怖気づく事も、屈する事もなく、まるで呼応でもするかのように、
ルイは集中力を研ぎ澄まして行く。
だが、そこに水を差す者がいた。
「エドガー・ルクシウス・ワトール…いい加減にしろ。そろそろ許容出来んぞ」
「あ?何を今更しゃしゃり出てきやがった?レオン・ルクシウス・オーペルっ!」
レオンの放つ強烈な怒気に、真っ向から荒ぶる怒気を叩きつけるエドガー。
両者の目には明確な殺意が込められ、その余波がルイを襲う。
互いに愛称で呼びあっている時の穏やかさはそこには微塵も感じない。
"こんな狭い処"でこの2人が本気でぶつかれば、この大聖堂は崩壊する。
ルイは不意にそう直感した。
そして、その直感は、間違ってはいないと確信すら持てた。
そうしている間も、ぐんぐんと殺気と圧力が増して行く。
重く暗澹とした重圧に、ルイは息をすることすら忘れそうな錯覚に捕らわれた。
ふと、遠のく意識の中で、オーリが笑むの姿が脳裏をかすめた。
「っ」
ぶつんと、とても小さな肉が切れる音が鳴り、ルイの小さな唇から顎へと血が伝う。
噛み切った唇がじんじんと痛みを訴える悲鳴と、
口内にじわりと広がった鉄の匂いが、いつしか恐慌状態に陥っていたルイを覚醒させる。
「…相手ちがう。僕が子供、レオン、さっき言った。なめない、でもなめる?」
すっと2人の間に立ち、レオンを見据えそう口にする。
そして、今度はエドガーに向き直る。
「おまえ、ない、集中ない。レオン見ない、相手僕、そう、じゃないの?僕を見ろ」
先に夥しい圧力を解いたのはエドガーだった。
気まずそうな表情で頭を掻く。
次いでレオンが悲しい表情でルイを見て怒気も圧力も霧散させた。
「あー、まじで悪かった。お前の言う通りだ、俺が見るべき相手はお前だ。
聞いたな相棒?"あの状態の俺達"に割って入ってきたこいつの言葉だ…引くよな?」
ルイに対して謝罪を口にし、真剣な目を向けてレオンを見つめるエドガー。
"あの状態の俺達に"そう口にした真意をレオンは正しく受け止め、頷いて見せる。
互いに互いを容易には殺す事はできない、それはある種の信頼であり信用。
そのため先ほどの2人は、感情に身を任せ、相当な殺意と圧力を放っていたはずだ。
大人ですらその間に入る事はおろか、余波だけで意識を手放してもおかしくない。
そんな中、その唇から血を滴らせた幼いルイが、割って入った。
ちらりと彼が姉と口にした少女を見やる。
すっかり怒りで失念していたが、ここで暴れれば、彼女は危険に晒されたかもしれない。
恐らくそれを感じ取ったが故に、己を奮い立たせたのだろう。
心からこの小さな男に、レオンは感嘆と尊敬の想いを胸に抱いた。
「ルイ、君を蔑にしたいなどと微塵も思っていない。それどころか尊敬すら感じている。
それでも、もう一度だけ言わせてくれ。……退く事はどうしても出来ないのか?」
「終わり、まだ。負けてない、勝つ?レオン、次」
しっかりとルイはそう告げて、エドガーへ向きなおる。
「ありがとう」
振り返る事なく最後にレオンへ感謝の言葉を口にしたルイ。
「次に、俺が止めに入ると決めた場合は、君の意思もエドの意思にも依存はしない。
私の意思と想いで、独善的な行動を取ってでも止める」
ルイの背に、そして、エドガーの目をしっかり見据えそう宣言して口を閉じた。
「ああ、そんときは好きにしろ相棒」
「ああ、そうさせてもらう相棒」
互いに声をかけあいレオンは2人の邪魔にならぬよう、
そして、ルイの憂いを減らすためにとオーリの傍らで立ち止まり顔を向けた。
(最初に、この2人をまとめて相手にしようなんて馬鹿な真似しなくて良かった)
背後から感じる、オーリの気配に近づき、庇うように立つレオンの気配に感謝し、
胸の内でそんな事を考え、小さく笑った。
この2人が最初から先ほどの様に、暴力めいた殺意と圧力を撒き散らしていたら、
抗う事すらしようとせずに、心が折れていただろう。
ルイは小さく頭をふり深く息を吐き出す。
(戦わないで済む方が良かったはずなのに、折れるも何もないじゃないか)
だが、同時にこうも思った。
もし、戦えなかったらそれはそれで何処か物足りない。
そこまで、考えたところで、ふと自身の変化に気付く。
身の内から湧き出る高揚感。
(ああ、今自分は楽しいんだ…"レオンがオーリを守ってくれているのだから"、
ただ、目の前のこの人に自分の全部をぶつけるだけだ)
いささか、矛盾を感じるものの、自分の中で熱を佩びた高揚感の正体を掴んだ。
ゆっくりと目を閉じ、ゆっくりと開く。
水が行き渡る様に視界が広がり、身体を蝕んでいた無駄な力が抜けて行くのがわかった。