■■1章-そして邂逅、明ける夜-■■①
邂逅と同じ展開になります。台詞を多少変更しようとも考えたのですが。
それはなんとなく違う気がするので、元の台詞のままルイの視点だけ伏せて、
書いてみました。
そゆのいいよ。続きはよっ。て方は読み飛ばしてくだせぇ。
救世教の教会へ辿り着いたエドガーとレオンは、大聖堂の扉が開け放たれているのに気付き中へ滑り込んだ。
「おいおい、どうなってやがんだ。…おい、レオンあの嬢ちゃん。」
エドガーが不機嫌そうに口にする。
自分たちが間に合わなかったのではないかと、エドガーが考え自分に腹を立てているのだろうと察しているレオンは口を開くことなく、長椅子に短剣で刺されたまま横たわる女性の容体を確認する。
呼吸は弱いが死ぬ事はないだろう。
「…問題ない。手持ちのポーションで対応可能だ。だが、出血が多すぎる造血剤はさすがに持ち合わせていない。エドお前持ってないか?」
「というか造血剤など持った事すらねーよ…。まぁ、何とかしてくれよ相棒。死なせるなよ。」
レオンは彼女の容体を口早に告げ処置を開始する。
エドガーは、名無しの構成員であろう者の無事に安堵の息を漏らす。
捕縛、または抹殺対象はナノスリスらしき者は、祭壇に叩きつけられ、心臓の辺りを貫かれている。
足元の血の量を見るに、もう出血する血がないのだろう。息を引き取っているのが伺えた。
そこで改めてイレギュラーへ目をむける。
(じゃあガキはなんだ。あいつがアレを始末したって訳か?おいおいどう見てもちんちくりんのガキじゃねーか。)
エドガーはイレギュラーの観察を続ける。
過去の経験から見た目が年齢に該当しない種族の知り合いもいるエドガーは少年-ルイ-が害があるのか、ないのか見極めようとしていた。
しばらくそうしていたが、考えていても仕方ないとエドガーはイレギュラーに声をかけることにした。
「んで、そこのやつ。カカッ、そうお前だよ。口きけそうなの俺らとお前くらいだろーよ。初対面で警戒しちまう気持ちは、俺にもすげぇ理解できる。だけど、このまま睨めっこてのも芸がない。手にそんなおっかないモノ握りしめてんだ。俺たちに、ビビって動けません、声も出ません。なんて泣きごというヤツにも見えねー。だからちょっとでいい説明してくんねーか?」
しかし、反応は薄い。いや、少し重心が落ちた。
(なんだこいつ。随分と身体の使い方に慣れてやがる…これで実は長命種だって言われても驚かねーが、そんな特徴も見当たらない。これ見たままガキでこの実力だったらおもしろすぎるな。)
「カカカッ、良い目してやがるな。お前くらい実力があるなら、俺らをなんとかしようって考えるのも無理はねーけどな。でも、やりあうにしても何がここで起きて、その後ろのヤツがくたばってやがるか聞きてーんだ。俺らはそいつに用があってここに来たからな。」
面白い物を見つけた。エドガーは心を躍らせる。
しかしレオンが先ほどから視線で叱責してくるのにも気づいていた。
そんな視線喧しい視線に多少イライラしつつ対話を試みる。
「ああ用があるからって言っても勘違いすんなよ。その死体と俺らは仲間じゃねぇ。むしろここで殺すか、とっ捕まえて情報吐かせて殺す。そんな間柄だ。…んだよ、無視か。根暗で照れ屋で嫌なやつなのか?…全然返事しねぇ、おいおい…めんどくせーな。」
「これで、いいんだろ。」とお前の臨む様に対話してやったぞ。とレオンに目を向ける。どうやら気に入らなかった様でレオンはしかめっ面を浮かべていた。イレギュラーはイレギュラーで訝しむような視線を送ってくる。その視線が癇に障ったエドガーは更に口調を荒げる。
「…オレタチ、オマエカラ、ハナシ、キキタイ、アレ、コロシタ、オマエツエー。だあああああっっっ!!ああ、わかった上等だ。肉体言語だな!!てめーとはそれでしか分かりあえない気がしてきた!!ああ、そうだよ!!もっと早くそうしてりゃ良かったんだよな?!そうだろ?コラッ!!このお澄まし野郎っ!!」
(よし、しばく。)
「エド、お前は子供相手になんて口のきき方をするんだ。」
「はぁーっ?!レオンてめぇ、何をどう見たら俺の方に文句つけんだよ!!いいか、俺は今からこいつとみっちり身体を使った楽しい"お・は・な・し"を開始すんだ、邪魔すんじゃねー!!」
「…まて、まてまて。なにが"お・は・な・し"だ。そんなもの認められるか、そこでおとなしくしていろ。…はじめまして、私はレオン。「っ!!」…こうしたら、そこから見てとれるだろうか。私は、このお嬢さんが、取りあえず死んでしまう事態は回避した事を伝えたい。」
エドガーが「取りあえず殴ってみよう」と決意する事を予め想定していたレオンは少年に近づき、声をかけた。
レオンの姿を間近で見たためか、驚きを浮かべるイレギュラーにエドガーはつい笑みを漏らす。
「かっかっかっ!!お前こそやりすぎだろ…くくくっ。腹よじれるククッ。そんな速度で移動したら"ここ"から"そこ"に、いきなり"転移"でもした様に見えちまうだろ。「なにが、おとなしくみてろ」だ。お前のがびびらせてりゃ世話ねーぞ。」
「今すぐ、その腹立たしい口を閉じねば叩き潰すぞ。」
「あー、はいはい、盛大に笑かしてれたことに免じて黙って見ててやんよ。」
レオンは物凄い形相でエドガーを睨みつけた。
からかい過ぎても後が面倒なので、エドガーもほどほどでからかうのを止める。
どうやら"鑑定-オピニオン-"で見ても"人種の子供"の様だ。
レオンは相手が長命種であればこの様な喋り方をしない。
そうエドガーは認識すると同時に衝撃を受ける。
(おいおい…じゃあ、あいつ。)
彼の動きは確かに子どもらしく拙い部分が目にはつく。
しかしエドガーは同時にこうも思う。
何故、返り討ちにあったか理由はわからないが、あの構成員の女は、少なくとも仇花が、ここに送り込んでも対応できると考えられている者のはずだ。
仇花が実力の無い者の単独行動を許すはずがない。
では、その実力者である構成員が打ち漏らす程の相手を、目の前の子どもが始末したしたと言う事になる。
そこまで思い至り背中がぞくっと何かが走るのをエドガーは感じた。
「改めて私はレオンと言う。君も良ければレオンと呼んでくれ。私とあそこにいるエドガーは"とある事件"を追ってここにやってきた。端的に言う、君と彼女が我々に襲いかからない限り手を出す気はない。信じる信じないの判断は君に委ねるが、ここまでの私の話は"理解"はしてくれたかな?」
「…。」
レオンは丁寧に言葉を選び小さな彼に伝わる様に心がけた。
問いかけに少年が首を縦に振ってくれた。
レオンは表情にこそは出さないが、ホッとしているだろう事はエドガーには見て取れた。
ひとまず、コミュニケーションが取れる相手だと判断したレオンは言葉を続ける。
「私が彼女の容態を君に伝えようと思ったのは、一つは彼女と君の黒装束の材質が、同一の素材"黒斑蜘蛛-ドット・スパイダー"の糸だと言う点、そして、君のそれは彼女が君に作ってくれた物だろう。サイズは少し大きいが君が成長した時も使える様に、君の身体に合わせて配慮した遊びが見受けられる。私はこれでも工房を持つ職人なんだ。それを贈り物を受け取り身につけている者が、彼女の容態を気にしない訳がないと結論に至った。だから、容態が安定した事を君に告げるべきだと考えて近づいたのだが…、あの馬鹿の言葉を肯定するのは癪ではあるが、配慮が足りてなかったのは事実だ。済まなかった。…それにしても、まったく素晴らしい反応だった。特に回避の直後の動きは見惚れるほど流れる様な隊捌きだ。」
エドガーはレオンが話す内容を聞きながら苦い表情を浮かべる。
長々と回りくどい言葉を並べる神経を疑った。
大人である自分が耳にしても疲れる話し方に、しっかりしていそうには見えるがその歳の者にも苦痛だろうと視線を向ける。
「…お姉ちゃん、息、落ち着いた、わかる。ありがとう。」
予想に反して、イレギュラーは返事をした。理解ができない。
その瞬間、それまでイレギュラーの特異性に頭の大半を割いていたが、一旦それ停止する。
よくよく思い返し自分が話かけていた間、散々無視されていたのだと理解し、エドガーは大人気なく怒りをぶちまけた。
「おいっ!!てめぇ、俺のありとあらゆる努力を、馬鹿にするような目だけよこして、無視し続けてた癖に、そんな堅物レオンの説教みてーな話には、返事するなんざ!!どういう了見だてめぇ!!」
「誰が堅物だ。お前も彼の様にもう少し落ち着きを払った言動が出来ないのか?」
「そーいうとこが説教くせぇんだよ!!」
エドガーが喚き散らす様に呆れるレオンは、諭す様にエドガーに言葉を投げかけるが、余程、頭に血が上っているようで、一旦無視する事にした。
「あの男が、大人気ないのは今に始まった事ではないんだ。きっと何かの病気だ。相手にする必要はない。君の情操教育にも悪影響を及ぼすに違いないからな。「おいコラ、糞相棒。聞こえてんぞ。」見るな、見なくていい。感染るぞ。「感染んねーよ、病気じゃねーよ、てめぇ、ぶっ殺すぞタコスケっ!!」…あれはあとで処分する。今は一端、無視することにしよう。」
エドガーを純粋に始末する事も一考したレオンであったが、エドガーとのやり取りが可笑しかったのか年相応の笑顔を見せる少年に安堵し、もう少し少年と話をしてみようと言葉を続ける。
「そうか、君のお姉さん…なんだな。しかし、その年齢で"この呼吸"を見て、安定していると見極められる観察眼には恐れ入る。君の様な将来有望な者に感謝されるほどの事はしていない。当初、私は君を子供として扱っていた。私の方こそ無礼を詫びよう。」
レオンも同様に、イレギュラーが人種の子供ではあるが、どこか普通とは違う何かを感じ始めているのではないかとエドガーは感じとった。
そして改めてイレギュラーに目を向ける。
少し腹立たしい視線を返されイラッとする。
「あーあーあー!!やっぱり時代は"お・は・な・し"なんじゃないですかねぇ?!青筋タコスケと、そこのお前も、まとめて相手してやんよっ!!だいたいよ、俺が先に質問したんだから"うん"とか"すん"とかあるべきじゃねーかなぁ!!そこんとこどうよ!!糞ちみっこ野郎っ!!」
イレギュラーが今度は明確に睨みつけてきた。
どうやらきちんと感情はあるようだ。
だが、自分の対応が思ったより大人気なかったようだ。
レオンがそろそろ本気で怒り出しそうなのでエドガーは一旦引く事にする。
「おい、お前そろそろ本当にいい加減にしろ!!そもそも、ここに来た目的を忘れているんじゃないだろうな!!君も済まないが落ち着いてくれ。」
ただどうしても言っておかなければならない事がある。
真剣な面持ちでエドガーはイレギュラーを見据え口を開く。
「…別に忘れちゃいねーよ。わーった。ちょっと悪乗りが過ぎたよ。だが、お前よ。一つだけ言わせろ。レオンはてめぇにちゃんと名乗ったよな。ガキ扱いした事もしっかり詫びた。だがてめぇは名乗りもしねーのか?一人前と扱ってくれた男に対してそれは情けねーぞ。」
エドガーの言葉にイレギュラーの感情が大きく揺れたのがわかった。レオンも察した様だ。こちらを睨み付ける圧力が薄らいだ。
「ルイ。名前ルイ。レオン、教えるの。遅い。ごめんだった。」
「ちょいちょい態度悪くなってねーか…こいつ。まぁ、いいわ。お前が根性腐った男じゃねーってわかったから俺からは特に言う事はねー。」
(案外素直じゃねーか。)
エドガーはその対応に満足した。
子供が子供みたいに「そんなの知らない」「関係ない」と開き直ってもエドガーは「やっぱガキか。」と切って捨てる。そこに特に感情はない。
だが、自分の非を認めて自分の意思で謝罪出来る者は、彼の中では子供ではなく立派な大人として評価した。
「そうか。君の名前はルイと言うのだな。なにも謝罪する事はない。…ルイ、君は賢い。恐らくだが、私たちに名前を教えてくれた事。それは君からの俺たちへの信用と受け取らせてもらう。だが、先ほども言ったが私たちはここにとある事件のためにやってきた。だから、聞かなければならない。私たちが来る間になにがあったんだ…その人を手にかけたのはルイ、君ということで間違いないのか?」
レオンとイレギュラーの会話が続く。
"纏う匂いが変わった。"明確な違いをエドガーは嗅ぎ取った。
レオンも薄々察しはいるが、子供と侮っている様だ。
「あの馬鹿。」と内心、レオンを叱責し、いつでも動ける様に身構える。
レオンが「殺したかのか?」と質問をし、イレギュラーは頷いた。やはりあの女を殺したのはこのイレギュラーで間違いないらしい。
そこで、匂いが"濃く"なった。イレギュラーの表情にしっかりとした決意、いや覚悟が浮かび上がる。
「では次の質問だ、ルイとお姉さん。君たちは"どこの組織の者"だ?」
「…話さない、何も。そう決めた。」




