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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
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■■1章-街を駆ける-■■①

■■1章-街を駆ける-■■


「……報告は以上だ。」


 ハンニバル支部の大会議場には、いつもの面々が席に付き、配られた資料に目を通している。

 今日も豪快な振動と轟音を響かせた加害者は、報告書を読み上げ、仏頂面でいまだに強い酒精を漂わせ不機嫌そうな空気を纏い、呪詛めいた言葉をぶつぶつ唱える被害者を睨みつける。


「おい、朝帰りマスター。なにか補足はあるか?」

「ちっ…毎度毎度、他人様の頭をなんだと思ってんだ。ボコスカボコスカと、まぁ飽きもせず…「まだ、シャキッと出来んようなら…」シャキッとしてんだろーが!ったく…まあ、報告書も全員、目を通したな?レオンが口頭で補足までしたんだ。話に着いてこれないヤツは一発こいつに吹っ飛ばしてもらえ。相手の狙いも手口も全部丸裸にしてやった。後は俺たちの働き次第だ。ルーファスの野郎まで駆り出されてんだ。これで失敗でもしようもんなら俺も含めて全員解雇だ。…ん?悪くねーな。「エドっち、真面目にやるっす、」うるせーよ!…決行時間までは、通常業務を各自でうまく調整して、交代で仮眠取れるようにしとけ。今夜で、狂った祭も終わりだ。」


 レオンとルーファスから、あれこれ指摘されつつもエドガーは、今いちしまらない檄を飛ばす。

 昨日までの雰囲気と違い、緩慢とした雰囲気ではあるがその事に文句を言うギルド職員はいない。

 3人の働きにより事件の全体像に欠けたピースは見当たらず、決められた仕事を各々がこなせば、事件は必ず解決する。

 今までも何度も経験している者たちだからこその信頼と確信。

 我らが"大将"が断言したのだ"今夜で終わる"。


「作戦時の班編成はシェラとタイタスに一任してある。各自確認し、同じ班の者同士で軽い打ち合わせは済ませておいてくれ。以上だ。」


 レオンが改めて会議を締め、皆一様に自分に割り当てられている作業の確認と連携の確認を始めた。

 ルーファスは懐かしそうに笑みを湛えている。

 すると淀んだ空気を纏ったエドガーが睨み付けるような視線を送ってくるので呆れた顔を向ける。


「エドっち…お酒が残ってて辛いのは、顔に出さなくても見れば分かるっす。そんなアピールはもう良いから、さっさと寝るといいっすよ。ぶっちゃけそのままだと役立たずっす。その間に俺っちは、オルトックにシェラちゃんがまとめてくれた報告書を持っていって、今夜の対応の指示出してくるっす。その後は、予定通り夜まで現地で待機して、さっさと片づけて、王都に報告に向かうっす。俺っちが近くにいないからってさぼったら駄目っすよ。」

「誰が役立たずだ、誰が!さぼる気もねーよ!さっさと済ませて王都でも"狂王"のとこでも勝手に行け!てめぇに言われなくても寝るわ!ボケッ!…んじゃ、そういう事で俺は寝る。行動開始時間の前には起きてくっから、執務室進入禁止!」


 好き勝手ルーファスに噛みついて、痛む頭を抑え会議室を去って行った。

 そんな後姿を青筋を浮かべたままレオンが職員たちに向けてため息混じりに声をかける。


「…あいつが予定より一秒でも遅れてくる事があれば俺に伝えてくれ。二度と目覚めない様に俺の手で引導を渡す。」


 その底冷えする様なレオンの言葉に、ギルド職員の男性陣は縮み上がり、女性陣は苦笑を浮かべ頷いた。

 レオンはルーファスに歩みより手を差し伸べる、それを笑顔でルーファスも握り返す。


「ルーファス、なんだかんだお前に、多くの仕事を押し付ける形になってしまって申し訳ないな。」

「まぁ、状況が状況だから仕方ないっすよ。レオっち、寝坊したエドっちの頭きっちり叩き割るっすよ。」

「ああ、叩き割っておく。またな。」

「狂王に報告したら、すぐ戻ってくるっすよ。じゃあ。」


 レオンと職員たちに軽く手をあげ、ルーファスは冒険者ギルドを後にした。


 早朝といってもまだ差し支えのないこの時間帯にも関わらず、ハンニバルの朝はとても賑わっている。

 一般的に日が昇ると共に活動する冒険者が多いため、オルトックの元へ向かう途中にある屋台街からは、朝食をそこで済ませる冒険者や冒険者向けの仕事についている住民でごった返していた。ルーファスも列に並び、馴染みの店で肉串を数本買って口へ運ぶ。


 視界に入った男の子が、パンにソーセージを挟み込み、目いっぱい口を開き頬をぱんぱんに張らせている。

 その子の姿をルイに重ね、ふと昨夜の仇花との会話を思い出し、行動力溢れる後輩がほんの少しだけ心配になった。


 ■■■


「寄り道はすんだの? 」


 ルイとの邂逅を終えたルーファスは今度こそ目的地の"夢繰りの館"に辿り着いた。

 "溶けた"まま屋上から、五階の座敷へ窓から滑り込む。

 ルーファスは甘い香りと酒精がほんのり香る室内から場違いな殺気を向けてくる声の主に苦笑いを浮かべた。


「寄り道は無事すんだっすよ。だから、そんな殺気振りまかないでもらえるっすかね。ご無沙汰っす"仇花"。相変わらずお奇麗ですね。・・・とか言われ慣れてそうなんで省略するっすよ。」

「久しぶりね、ルーファス。まぁ寄り道の件は、取りあえず後にするわ。それにしても相変わらず奇麗に"溶ける"わね。家族の中でもここまでの者はいないわ。…それにしても、お客様がいらっしゃったのに反応ないなんて、困った従業員たちね。」


 ルーファスの技術を褒めるべきか、従業員の能力に嘆くべきなのか…と仇花は少し困った顔を浮かべるが口元には笑みを湛えている。

 ルーファスは相変わらず悪戯好きの友人が変わりなく元気でやっているようだと苦笑する。


「溶けずにうろついてたら、可愛らしい番人に見つかって寄り道する羽目になったっすからね。別れてからは結構、気を引き締めて溶けたっすから。これで仇花以外にぽんぽん勘付かれていたら、今後の仕事に支障出るくらい落ち込むっすよ。」

「あら、私はいいのかしら。うふふ・・・ありがと、余計な気遣いさせちゃったわね。」


 仇花はルーファスが言下に「従業員に否はない。」と伝えてきたので、感謝の言葉を口にした。

 それを気恥ずかしそうに小さく頭を振って、少し憮然とした表情でルーファスは先ほどから視界に入っている足元で横たわっている友人に似た物について訪ねる。


「んで、俺っちはそこで顔を真っ赤にして幸せそうに寝てるソレに報告がてら、お向かいにあがったんすけど。…これは、どう状況っすか。」


 ソレと指さされた顔を真っ赤に染め上げたエドガーは、さも幸せそうに笑みを浮かべ寝息を立てていた。

 仇花を半目で路傍の石でも見る様な目をしているルーファスに、仇花はころころと口元を隠しながら笑い弁護する


「久しぶりに会ったから、つい楽しくなっちゃって飲ませすぎちゃったみたい。」

「みたい…って。よくもまぁ、昔殺されかけた相手の前でそんな無防備に寝れるっすね。俺っちは絶対無理っす。」


 茶目っ気たっぷりに艶っぽく口を隠しほほ笑む仇花に"殺されかけた"時の事を思い返し、ルーファスは小さく身震いをした。

 そんな彼に、仇花は「また、随分と懐かしい話をするのね。」と笑みを深くした。


「失礼致します、女将。隣にお布団の用意ができましたので、エドガー様はそちらでお休み頂きますね。」

「おお、もしかしてサミュルちゃんっすか。ご無沙汰してるっす。すっかり美人お姉さんが板についたっすね。」

「これはルーファス様、ようこそおいで下さいました。うふふ、美人だなんてお世辞でも嬉しいです。それにしてもルーファス様もお変わり無いようで。エドガー様より、いらっしゃるとはお聞きしていましたが、窓からいらっしゃるとは思いませんでしたよ。エドガー様にお休み頂いたら、新しいお酒の用意させますので、少々お待ち下さい。」


 障子戸が開き現れたサミュルは、ルーファスに気が付き一度、恭しく頭を下げそう口にし、彼女に続いて入室してきた数人の女中がエドガーの肩を優しく抱き抱えて退出する。

 そのうちの一人にお酒の手配を指示する。

 ルーファスは、まだ中身がなみなみ注がれた提子を手にして手酌しようとしたところ、サミュルに取りあげられ苦笑いを浮かべて言った。


「新しく用意しなくても、残ってるのでいいっすよ。」

「じゃあ、せめてお酌はさせて頂きます。少しの間、エドガー様飲み止しで恐縮ですが。」


 渋々ではあるが、ルーファスの提案を受け入れてサミュルは酌をする。

 口に運び一息に飲み干したルーファスは「これはうまいっすね。」と感嘆の声を漏らし、仇花とサミュルの杯に返杯する。

 一息ついたところで仇花が、真面目な表情を浮かべ本題に入った。


「エドに報告って言ってたけど、なにか進展があったのかしら?それともよくない報せ?」

「…さすがに、真面目な話もしないで酒盛りしてエドが潰れた訳じゃないっすよね?」


 エドガーが寝かしつけてられるだろう部屋の方に視線をやり、ルーファスは疲れた声を出す。「うふふ」と相貌を崩し首を振り、ルーファスの問いを口にする代わりに、アイテムボックスから取り出した報告書を見せる。


「なるほど、俺っちの報告書が手元にあるって事は、無事にエドっちの提案に乗ってくれたって事っすね。いやいや良かったっす。仇花を敵に回して帰ってきたら、レオっちと2人がかりでエドっちを処分しなきゃならなかったっす。」

「エドも同じ様な事言ってたわね。うふふ。」

「おっしゃられてましたね。くすくす。」


 可笑しそうに笑う2人にルーファスは苦い顔をする。

 仇花は、サミュルに説明を促し。居住まいを正したサミュルはエドガーがここに訪れお互いに情報交換した内容を丁寧に説明した。

 説明を終えるとサミュルが仇花に視線を送ると「補足することはないわ。」と仇花は口にした。

 ルーファスは冒険者ギルドで擦り合わせた内容と誘拐され無事に戻ってきた女性冒険者たちから聞き取った情報を説明した。


「なるほど、その子たちの証言で、相手の手口は間違いないと判断した訳ね。それにしても運が良かったわね。欲にまみれた馬鹿な連中のお陰で命拾いしたなんて。」


 報告を受けた仇花はそう漏らし煙管を口に運んだ。

 そんな仇花を悪戯が思いついたとばかりに笑みを浮かべたルーファスは口を開く。


「運は良かったってのは同意っすね。"お互いに"っすけど。」

「お互いと言うのは?」


 サミュルが疑問を口にし、紫煙を燻らす仇花も怪訝な表情を浮かべる。


「たまたまではあるんすけど、そこに偶然居合わせたんすよ俺っち。そこでなかなかお目にかかれない出来事を目にしたっす。ちょっとした冒険譚の一節みたいだったんすよ?異変に気付いた一人の少年が、オオカミの群れに囲まれている人攫いたちを発見。人攫いたちは20引きを超えるオオカミの群れを前に、欲よりも命を選択する。4人の憐れな囚われの冒険者たちは手足の自由を奪われたまま、人攫いが逃げる時間を稼ぐために囮としてその場に捨て置かれる。冒険者たちがあわや、食べられる!って時に颯爽とオオカミたちの前に立ちはだかる少年。その少年の"髪はとても柔らかそうな銀糸"のよう、その瞳は深い夜の闇の様な"青い瞳"だったっす。」


 興がのって芝居がかった語り口調で一気に語りだしたルーファス、2人は彼が口にする物語にうっすら笑みを浮かべて耳を傾けていた。…少年の特徴が登場するまでは。


「「ちょっと!」」


 しばし凍りついた後、2人らしからぬ大声をあげた。

 そんな2人を見て満足気な表情を浮かべたルーファスだったが「きちんと説明して。」と目が笑っていない仇花から、過去に殺されかけた時感じた殺意並みの圧力をかけられ、ルイの小さな大冒険を臨場感たっぷりにお伝えして、ぐったりと疲れた顔をしていた。


「あの子ったら・・・」


 サミュルは額に手をあて天上を見上げる。その横で仇花は珍しく青筋をたてて笑顔を硬直させていた。

「無事だったんだから、そんな怒らなくてもいいじゃないっすか。」と軽口を叩こうとしたが、

 良くない未来が訪れる予感が過り、ギリギリで思いとどまったルーファスは弁明の道を選んだ。


「も、もちろん危なかったら割って入るつもりだったんすよ。軽くルイ…その時は名前は知らなかったっすけど、ダン爺がくれる手紙にルイの事が良く書かれてたっすから。それにしても、もう少しきちんと管理する事をお勧めするっす。行動力があって活発な子。って範疇超えてるっす。…って、ちょっと脱線が過ぎたっすね。そんな訳で、その子達のおかげで俺っちとレオンは手口の謎に辿りついたっす。エドが会いに行った商会の丁稚が証言した内容とも一致するっす。」

「私も同意見ね。むしろそれ以外の手口だったらお手上げよ。これで、はずれクジだったら"某国"を地図から消した方が早いわ。って貴方たちに提案したくなっちゃう。」


 仇花の発言に、ルーファスも「そうなったらそうっすね。」と答えた。

 そんな2人が、世間話でもするかの様に大国の崩しを口にする事に、サミュルは些か恐怖を感じる。


「まぁ、仇花の前でエドっちが自信満々だったんなら十中八九当たりクジっす。予定通り冒険者ギルドと俺っちは行動するっす。そっちもそれでいいっすね?」

「ええ、私も異存ないわ。私たちも打ち合わせ通りに分散して動くわ。手配には誰がこっちに来るのかしら。」

「多分、シェラちゃんが来るっす。クロエちゃんも考えられるっすけど、こういう時はシェラちゃんのが適任っすからね。エドっちとレオっちはギリギリまで動かずに、現地に直行すると思うっす。さすがに半日仕掛けの罠っすから、細かいところで粗がでると思うっすけど、そこはオルトックも含めて、なんとか上手く立ち回るしかないっす。」

「問題ないわよ、知らない人ばかりの集まりじゃないんだし。多少想定外の被害は覚悟してるわ。シェラにクロエかしばらく顔見てないわね…。今度ゆっくり顔でも見に行こうかしら。…サミュル、エドとの打ち合わせ通りに進めるは、ここからの手配、お願いできる?」

「かしこまりました。ではルーファス様、失礼致します。またいらして下さいね。」

「もちろんっす、仇花はともかくサミュルちゃんはいらない怪我とかしない様に気をつけるっすよ。」


 サミュルはルーファスの言葉に笑みを浮かべ頷くと一礼して座敷を後にした。

 では、「俺っちも」エドガーを叩き起こしてギルドに戻ろうと立ち上がろうとしたところで仇花から殺気が漏れ出し、まだ帰れそうもないと嘆息する。


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