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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
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■■1章-ルイと先輩は夜に出会う-■■①

■■1章-ルイと先輩は夜に出会う-■■


「……。」

「……。」

(これは想定外っすねー。)


 ルーファスは銀髪の少年ルイと見つめあったまま、どうしたものかと悩んでいた。

 ギルドでの聞き取り調査を終えとレオンとの情報共有を済ませたルーファスは、花街門を正規の手続きで通り、エドガーが向かった花街の一画へ向かっていた。

 ……のだが、つい視線を感じいつもの様にそちらに視線を送ると、その先で気配を殺してこちらを伺っている人物と目があってしまい。

 その視線の主としばしの睨めっこを強いられていた。


(すんごい見てるっすね……いっその事、手でも振ってみるっすかね。)


 周囲には、すっかり陽気に仕上がった酔っ払いたちが、肩を組み危なげな足取りで通りで手を振る遊女たちに、だらしない笑みを浮かべる者や興味を引かれる遊女でもいるのか、はたまた贔屓がいるのか、わき目もふらず遊郭へと姿を消す者。

 声を張り上げ自慢の遊女たちに客をつけようと通りを歩く男たちに声をかける下郎の姿も少なくはない。

 そんな多種多様な行き交う人々の群れの中で、辛うじて今のところ目を引かれずに済んではいるが、あまり長い間、その場で立ち止まり屋根の上にじっと視線をむけているルーファスは現状はよろしくない。

 この奇妙な状況下に自身が置かれていることに若干、辟易としていた。


「おっと、失礼した。」

「いえいえ、こちらこそこんなところでボーッとしてたのが悪いっす。お勤めの邪魔して悪かったっす。」


 案の定、花街で働く者たちや花街を訪れる客たちが寄った勢いでいざこざを起こしたり、たちの悪い者が連中が、要らぬ言いがかりをふっかけ問題を起こさない様、厳めしい表情を浮かべ巡回する騎士たちの一人と肩がぶつかった。

 幸いその騎士は肩がぶつかった程度のことで声を荒げる事も訝しむ事もなくルーファスに謝罪の言葉をかけて去っていく、ルーファスも自分に否があったとその背中に軽く謝罪しことなきを得たことに、ふうと小さく嘆息する。


(このまま状態は、さすがに目立つっすね。)


 だが問題は、そんな彼らではなく。

 闇に紛れ気配を殺しこのススキノの治安を影ながら守る者たちの存在だ。

 彼らの注目を浴びる事は好ましくない。

 いっそ酔ったふりでもしてみようかと考えるが、そんなこと考える自分を含めて一笑に付す。

 視線の主からしてみれば、突然酔っ払いの真似事をしだした自分がどう映るかなど、深く考える必要すらない。

 自分の前でそんなことする者を見れば警戒するなという方が無理だ。


(仕方ないっすね……。)


 頭を軽くかき軽く周囲を見渡し、4階建ての建物の上から"じっと見下ろすルイ”から目を外さずに悠然と一歩踏み出し……溶けた。


「!」


 突然その男は姿を消した。いや、"溶けた"のだ。あまりに自然になんの前触れもなくなく溶けた男に胸の内で思わず称賛を送ってしまった程だ。


(いやいや感心してる場合じゃない。こっちに向かってくるのかな?厄介な人だったら困るから、移動しなきゃ……。)


 先ほどまでルイはその男を不思議な生き物を観察する様な気分で眺めていた。

 気配を消す訳でも特別な歩法を使っている訳でもない。

 ましてや認識阻害の魔法でもないだろう。

 魔力の揺らぎも見受けられなかった。

 それなのにその男は、気を抜くと見失ってしまうと錯覚するほど存在の希薄だった。

 ルイはなにか仕組みがあるのでは?と興味を持ち、つい夢中で視線を送り続けてしまった。

 その男は、やはり只者ではなかった様で、これだけ距離をとり気配を消していたルイの視線に気づき、しっかりとこちらを見据えてきた。

 驚きはしたが、こちらを見据えたまま別段動き出す素ぶりも見せなかったため、ルイ自身どうすべきか対処に困りしばらくの間見つめ合うハメになっていた。

 しかし、その男が巡回していた騎士とぶつかったと思ったら、頭をかくそぶりを見せた途端、溶けたのだ。


「……驚かなくていいっすよ。」

「っ!」

「だから驚かなくていいって言ったじゃないっすか。」


 ルイは息を呑んだ。

 先ほどの男がいつの間にか隣にしゃがみ込み声をかけてきた。

 男が溶けた瞬間、ルイは最大限に周囲を警戒していたにもかかわらずだ。

 ルイが驚きのまま硬直していることを察しながらも、ルーファスはルイへ顔すら向けることなく先ほど自分が立っていた方をぼんやり眺めながら言葉を続けた。


「あー、そのまま警戒はしてていいっす。知らない大人を簡単に信用しないのは、とてもいい事っすよ。」


 ルーファスはなるべくルイを刺激しない様に、心がけ言葉を選んで口にする。

 ルイは一度もこちらに顔どころか視線も送らないこの男が、自分を害するつもりがないのだろうと男の言葉に耳を傾けながら確信していた。


(こんなすごい人が悪い人だったら、もう殺されてる。)


 そうと分かれば、この男への好奇心が収まらず、その場に座り込みルーファスと同じ方をぼんやり眺めて次の言葉を待った。


「いやいや、警戒はするべきって言ったんすけど。聞いてるっすか?」

「…。」


 ルイはやっとこちらを向いたルーファスの言葉に頷いて答える。


「聞いてはいるけど、おかまいなしっすか。まぁ、いいっすけど。それで?君みたいな小さな子どもが、こんな夜のこんな場所で何してたっすか?」

「いつも、ここ。街・・人みて・・る。」


 ルーファスは再度、眼下に広がるススキノへ顔を向け、ルイに質問をする。

 そう質問されたルイも同じように街へ目を向けたどたどしい言葉で答える。ルーファスは思わず額に手を当ててため息をつく。


「いつもねぇ…。日課の散歩道に、4階建ての建物の屋根の上ってのは適切じゃないように思うっすけどね。大人にばれたら………あぁ、なるほど。ばれると怒られるような事をしている自覚はあるんすね。」


 散歩は大人しく昼間にした方がいい。

 と迂遠な物言いで伝えようとしたが「大人にばれたら」のくだりで横に座るルイの気配が硬直したのを感じ、顔を向けると同じように街からこちらに顔を向けたルイは声にこそ出してはいないが「ばれると、すごくまずいです。」という顔をしていた。

 その情けなくも年相応の可愛らしい姿につい声を出して笑ってしまった。


「あはは、やっぱ怒られるっすか。そりゃそうっすよね。お兄さんも君が知り合いだったら結構きつめに叱ってるっす。まぁ、今日は初めましてだから、俺っちから説教はしないでおくっすよ。」

「……ふー。」

「なに安心してるっすか。(次に夜中に抜け出して、うろちょろしてるのを見つけたらたっぷり説教するからな。)」

「っ!」


 ルーファスがお説教しないと伝えると安心して深く息を吐きだしたルイに苦笑いを浮かべ、手信号で「次はない。」と軽めの釘を刺す。外で出会った初対面の男が、家族内だけで使われていると教わった手信号を使った事にルイは驚いた。


「(家族の人だったんですね、ごめんなさい。)」

「(なるほど、俺の仕事の邪魔をしたのかと考えているのか。気にしなくていい。気配を消して歩いてたのを邪魔した訳でもないんだ。)」


 一瞬、何をルイが謝っているのかわからなかったルーファスだが、すぐに謝罪の理由に行きつきそう返す。どうも手信号だけだと言葉が刺々しくなるので続きは口出した。


「君の様な小さな子があんな遠くから気配を消して、こっちを見てるなんて考えもつかなかったっすからね。安易に反応した俺っちも悪いっすよ。」

「……。」

「そんな顔しなくても、わざわざ家族に君とここで会ったことを告げる気はないっすよ?」

「(どうして?)」


 ルイの不安そうな顔を見て、思わず苦笑いを漏らしそう告げる。するとルイは顔をあげてそう訪ねてきた。


「どっちの答えが、君に聞かれた事の答えになるかわかんないっすけど「どうして言いたい事が伝わるの?」って質問なら、君は自分が思っている以上に考えが顔に出るっす。「どうして告げ口しないの?」って質問なら、俺っちにも悪戯して怒られた経験があるっすからね。悪戯は止めない限りは、いずればれてしっかり怒られるっす。たまたま君が怒られるのは今日ではないってだけっすよ?・・・誰にも気づかれてなければっすけどね。」


 ルイを見つめながら丁寧にルーファスは質問に対して回答を述べていった。

 そして最後に迂遠な言い方ではあるが「悪戯はもうしない方がいいっすよ?」と付け足した。

 ルイも、ルーファスの意図が伝わったのかちょっと照れくさそうに笑いながら「もうしない。」と返した。


「しっかし、君・・・えーっと。」

「(ルイ。)」

「ルイっすね。俺っちはルーファスっす。気楽に先輩って呼ぶっすよ。後輩ちゃん。」

「こー・・はい?(ってなんですか?)」

「("名無し"という組織で、俺が君より経験が豊富だから先輩。僕より経験が少ないから後輩。君の教育係が誰かは知らないが、その人も俺の後輩で、その人の俺は先輩だ。)んー、いまいち説明が難しいっすね。わかったっすか?」

「(なんとなく。頭領も僕の先輩。)」

「そんな感じっす。その人は俺っちの先輩でもあるっすね。あっ!でも本人に対して「先輩」なんて呼んだらだめっすよ?教えた俺っちが怒られるっす。」

「(よくない言葉?)」

「んー、気軽に呼びあえる相手に使う言葉っすね。難しいようだったら俺っちと会った時だけ使うといいっすよ後輩ちゃん。」

「(そうする、ルーファス先輩)」


 そんな微笑ましい会話を2人がしていると、不意にルーファスは疑問を口にする。


「後輩ちゃん。後輩ちゃんの陰行だと夜の散歩結構、周りにばれちゃうんじゃないっすか?」


 そんな疑問にルイは行動で答える。ルーファスより気配が溶けるまで多少時間を要するものの。

 その実力は手放しで称賛できるほどの出来だ。


「そこまで"溶ける"ことが出来るなんて大したもんすね!あっ、なるほど(どの程度の陰行なら家族に気付かれるか試していたのか。)」

「(どうしてわかるんですか!?)」

「あははっ!俺っちもよく似たようなことをして、ばれて大目玉くらったっすからね。」

「(ルーファス先輩は、どれくらいから溶けられる様になったんですか?)」

「ん?・・・覚えてないっすねー。ただ少なくても後輩ちゃんくらいの時は、気配の消し方すらよくわかってなかったと思うっすよ。家族相手にそんな上手にかくれんぼが上手だったら怒られる回数が劇的に少なかったはずっす。」


 自分の悪戯を言い当てられて驚くルイに、ルーファスは、肩を大げさに落としおどけてそう口にした。ルイもそれがおかしかったみたいで笑顔を浮かべた。


「それにしても後輩ちゃん、言葉が不自由な訳でもないのに手信号だよりはいただけないっすねー。」

「あ・・今日・・・(今日も別の人にそう言われました。)」

「ほむ、ちゃんと言ってくれる人がいるなら俺から言う事ではないっす。・・・けど、(俺が知ってる中で、君より陰行がうまい人物をあげろと言われても10人はいない。その努力を俺は評価する。だから言葉も努力してみるといい。)少なくても当時の俺ちは陰行じゃ後輩ちゃんにぼろ負けだけど、口だけは達者だったっす!」

「あはは、が・・んばります!」

「いい返事っす。」


 ルイの言葉が少し気になったルーファスは余計なお世話とわかっていながら、ほんの少しだけ後押しをすることにした。

 その効果は多少あったようでルイは少しの笑みをもらし元気に応え、ルーファスはそう口にして背中を軽く叩いた。


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