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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
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1章-エドガーは1人で動く-①

■■1章-エドガーは1人で動く-■■


「お待ちしてました、エドガー様。」

「あー、バイゼル爺さん。…わりぃ、ちょっとやり過ぎた。」


エドガーは執務室をあらかた吹き飛ばした後、バイゼルの元を訪ねていた。

少しバツが悪そうな顔をしているエドガーにバイゼルは、

柔らかい態度を崩すことなく席へ促した。


「お気になさる必要などございませんよ、エドガー様。

 正直ルクシウスの家名をお持ちの御2人に向かいあのような暴言。

 主人が実は自殺志願者なのではと私も疑った程です。」


「それでも、部屋すっとばす気はなかったんだけどな。ちと訓練不足を痛感した。」

「向上心を持ち続ける事はよろしい事です。

 さっ、こちらをどうぞ。

 たっぷりハチミツをいれておきました。」


「おっ、ありがたい!バイゼル爺さんくらいだからな!

 他だと「せっかく淹れた風味が!」とか怒るやつもいるからよ。」


先ほどまでの剣呑とした空気など、

とっくに消えうせエドガーは自分特製の紅茶を堪能する。

そして、執務室で目にした男の姿を思い起こしてしばしの瞑目。


バイゼルはエドガーの集中を邪魔しないように一度退室した。


先ほど大暴れしていたとは思えない程、穏やかな空気を纏い、

口の中の甘さを楽しみつつ更に深くまで集中して行く。


その凄まじい集中力は、エドガーを知る者たちが皆舌を巻く程だ。

それほどの事を成している当人はと言うと「じーっとしてると、誰でもできるだろ。」

くらいにしか意識していない。


(あいつは、まぁ名無しの関係者って事なんだろうな。

 オルトックが自分が標的になる可能性が無い。

 なんて能天気なオツムはしてねーだろ。

 あいつなりに時間に猶予があるとは考えねーはずだ。

 だからあの男は、名無しの関係者、または名無しの構成員。

 これは確定。)


思考を続ける、自分が気付いた事、違和感を感じた事を浮かび上がらせる。

そして、それに対し、客観的な答えを生み出し、それを的確に整理していく。


エドガーは戦闘の際、魔道具など癖のある物を除き、武器を選ばずに戦える。

剣であろうが槍であろうが、斧であろうが鎌であろうが。


もちろん、当人の努力による積み重ねの果てに至った技量であるのだが、

直感に優れたエドガーは、手にした武器がどんな物であろうが、相手との間合い、

その武器を使った際の己の技量や速度を、戸惑う事なく堪だけ如何なく発揮できる。


それだけでも天才と評される事は間違いない。

ただエドガーは、その自分の能力に対し客観的に評価を下し修正する。

そして積みあがった技術に絶対の確信を持ち迷わない。

それが、エドガー・ルクシウス・ワトールの強さなのだ。


(…ってとこか、あとでレオンと擦り合わせしねーとな。

 まっ、的外れって事ではないだろう。)


時間にして5分程度、

騒動のあと応接室に移動したレオン、オルトック、奇術師を称する3人が、

1時間以上も時間を費やし辿り着いた結論に辿り着く。


「淹れなおしましたので、少し休憩されたら如何ですか?」


ゆっくり目を開けるエドガーに、バイゼルは笑みをたたえてカップを差し出した。


応接室の3人にお茶を淹れ、

この部屋に戻ったバイゼルはエドガーの思考の邪魔にならぬよう、

じっとその様子を伺っていた。


「助かるぜ、身体動かしてる時よりも、こうして頭使うためだけに"潜る"と、

 やっぱすげーしんどい。

 バイゼル爺さん、軽く考え纏ったからよ、聞いてておかしいとこあったら、

 指摘してくんね?……まずな。」


バイゼルが頷くのを確認して、エドガーは自分の考えを口にする。

冒険者ギルドへの情報共有から考えられる事柄、

そこにあったオルトック黒幕説、冒険者の行方不明。


自分が辿り着いた考えをバイゼルに語りつつ、

自身も違和感がないか再度精査していく。


「わりぃ、バイゼル爺さんの気分を害しちまうよな。

 あくまでも可能性の一つだから、頭の隅において注意だけしててくればいい。

 どちらにせよ、レオンがA級辺りの冒険者数パーティを警護につけるだろうから、

 バイゼル爺さんはオルトックが、

 1人でふらふらしねーよう見張っててくれれば問題ない。」


主人が標的であるかもしれないと聞かされ、

不快な表情を出してしまった事を恥バイゼルは苦笑を浮かべる。


そして、相も変わらずこの目の前の青年に敬意と畏怖を感じた。


「ここまではいいんだ。そもそも襲撃なんざ現場でタコ殴りにすりゃその場は解決する。

 問題は単発で解決したところで、また別の事件を別のアホどもが起こしちまう事だ。」


「仮に襲撃を阻止しても根本的な解決に至らなければ意味がない。

 そして、その原因である何かは…。」


「ああ、確実にこの街の中にいやがる。それだけは間違いない。」


エドガーは断定した。

それは堪などではなく、事実だと言う確信が彼にはある。

それは、春先に、とあるの商会が標的となった事件。


冒険者向けの野営道具の数々は魔窟(ダンジョン)に潜る冒険者たちに評判がよかった。


もちろんエドガーも何度か訪れた事があり、先代の会頭を亡くし、

成人して間もない若い会頭が苦労の色など見せず、

振舞っている姿に感心すらしていたほどだ。


ある夜、その商会が他国にも支店を多くもつ大店より依頼が入り、

多額の金貨が齎されたことを掴んだたちのの悪い同業者が複数の人間、

そして私兵を用いて凶行に及んだのだ。


動機は、金と嫉妬。その場にいた者たちを皆殺し、後に火を放った。


しかし、この事件。これまでと違った経緯をここからたどる事となる。

1カ月程経過した頃、事態は急展開を迎える。

ハンニバルから半日ほど南へ行くとクィマ村という村がある。


穏やかな気候に恵まれ豊富な海産物を特産とする漁村。

内陸にある都市や街からたくさんの商隊が海産物を仕入れに訪れる。


クィマ村を訪れた商隊の一つに、ハンニバルに店舗を構える商人が同行していた。

その商人は被害にあった商会と先代から取引があり、

若い会頭とも親交が深く事件の事で心を痛めていた人物だった。


いつもの様に取引先へと赴いた彼は、見知った少年を発見する。

少年は、件の商会の丁稚であった。


驚いた商人は、少年に声をかけ事情を聴き、

商隊の護衛任務にあたっていた冒険者たちの提案を受けハンニバル支部へ報告。


即エドガー、レオン両名が現地に赴き、少年を保護するに至る。


少年の証言によると、いつの間にか意識を失い、

意識を取り戻した時にはどこかへ移動している馬車の上。

何が何だか分からない内に、奴隷紋をすでに植え付けられてしまっていたと言う。


そこには、自分以外にもたくさんの奴隷が載せられており、

数人の商会関係者も同乗していたのを覚えている。


奴隷たちは一様に、いつの間にか意識を奪われ奴隷にされた恐怖に混乱し怯えて過す。どこに向かっているか分からない馬車に揺られて数日経過したところで、

馬車は魔物の群れに強襲される。


武器を持っていた見張り達は、油断していたのか魔物の群れに一呑みにされ、

奴隷たちも後を追うこととなった。


少年は、大人たちに庇われる様に下敷きになった事で意識を失いこそしたものの、

唯一生き残り、その後、通りかかった奴隷商人に拾われクィマ村で売られた。


「ならよ、坊主はどこで意識を失った?商会の丁稚だぞ?

 この街から出たりしねーだろ。じゃあ答えは簡単だ。

 坊主の意識奪ったヤツはハンニバルにいた。

 んで、今もいる。」


窓から見渡せるハンニバルの市街地に目をむけると、忌々しそうな顔で睨みつける。


「さて…と、うまかった御馳走さん。じゃあ、いくわ爺さん。

 悪いけど、用が出来た、夜まで戻らない。

 お前の事だから、きっと何か掴んでるんだろ?そっちの対応は任せる。

 ただ、いつでも動ける準備をしておけ。って伝えといてくれ。」


エドガーがカップに残った紅茶を飲み干し軽く伸びつつ伝言を頼む。

バイゼルは恭しく一礼をとり了承した旨を応える。


「腑に落ちない点は大きく3っだ。第一に、遺体の数があわない事。

 じゃあ、見つかっていない人々"いつ"そして"どこへ"消えたんだ?

 第二に、襲撃犯たち、または襲撃犯に情報を流したやつらは、

 なぜ孤児院や商会に多額の寄付金や売上金が"確実にある日時を特定できたんだ?

 第三に、襲撃犯は容易に捕まるのに背後に存在するであろう黒幕に繋がらない。

 襲撃犯たちは駒になっている事すら理解していない。

 どうしたら"自分の思う通りに襲撃犯たちを操れる"?」


扉に手をかけたエドガーが、悪戯を思いついた。

とでも言いそうな笑顔でバイゼルに向き直る。

バイゼルは少し思案して左右に首をふる。


「これが解ければ、あとは力技でふっ飛ばしてイライラ解消すりゃいいだけだ。

 オルトックに少しは自分で考えて答え出せって言っといてくれ。じゃあな!」

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