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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
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1章-巨躯と領主と奇術師と-②

「エドはあんなではあるが決して、馬鹿ではない。

 むしろ"直感"や"対応力"は優れてるんだ。身内贔屓に聞こえるかもしれないけどね。

 「わたし"たち"は敵ではっ!」まぁ、最後まで聞いてくれよ、奇術師どの。

 入室時わたしもあなたの纏う空気。

 というのだろうか、気配といった方がわかりやすいだろうか。

 以前そういう気配を持った連中が組織組んでいたりしてね、

 何かと揉めた事もあったんだ。

 その俺でも感じたソレをエドが感じない訳ないんだよ。ねぇ、"1柱"殿。」


優しい声音だが、否を許さないその雰囲気に奇術師は呑まれ、

言葉を挟もうにも目線を受けただけで凍りつく。

一方、もう隠す必要もないと諦観したオルトックは苦笑を浮かべるに留まった。

表情を確認した上でレオンは続ける。


「あなたがオルトックに協力していると言う事は、真相の一端はこうなんでしょう。

 今回の件は"名無し"総意ではなく、一部の離反者、背任者たちが糸を引いている。

 提供された情報が確実に"名無し"からの物である事は調べは我々でもついているが、

 それが"総意"なのか"一部の思惑"なのかは、我々では判断がつかない。

 今回の情報も9割は正しいのだろう。

 ただそこに毒針が仕込んであった。

 "オルトック黒幕説"だ。

 我々とオルトック互いに疑心暗鬼にさせるのが目的。

 もしくは、疑心暗鬼を払拭し連携を強める事も計算内かもしれない。

 どちらにせよ、今回の件"襲撃犯は名無しの離反者たち"と言う事でよろしいのかな?」


「恐ろしい。ただただ、恐ろしい。他の言葉が見当たらない。

 先ほど見せつけられた御2人の実力も、それはそれは恐ろしくありましたが、

 今の私はあなたの"洞察力"の方が余程、怖い。

 "敵対を選んだ派閥"に所属していない自身の幸運に感謝を。

 ついつい、私は神に愛されているんではないかと、

 油断すると有頂天になってしまいそうですよ。」


奇術師が急に芝居がかり滔々と自分の言葉に酔う様に、

嬉々として祈りをささげて見せた。

レオンはそんな奇術師に「なるほど、それで。」と短い言葉で本題を進めるよう先を促す。


「どこまで御存じなのでしょうね。いいや、全てご存じなのでしょう!

 では、改めて御挨拶を"闇派閥名無し"一柱を冠する"奇術師"でございます。

 以後お見知りおきを。

 聡明であられ人智を超えた力を奮うレオン様と、

 お知り合いになれた喜び恐悦至極にございます。「お世辞は結構」。

 失礼致しました、レオン様の推測通りでございます。

 我々名無しの内部"4柱"と"8柱"それらの手の者が糸を引いております。」


「8柱衆のうち2柱。それは想定よりも戦力が大きいな。

 ん?……その様子だと、オルトックは知ってたのか?」

「ああ、実際のところお前たちにも伝えるつもりだった。

 だが、その詳細を奇術師どのから聴取しているところにお前たちがやってきて。

 あれよあれよと騒ぎになり、

 愚かな私は化物の逆鱗に触れてしまい説明どころではなくなってしまった。」

「それは悪い事をした。」


「数日前より奇術師を名乗る彼から接触があったんだが、聞けば名はないと言う。

 怪しすぎるほど怪しいのでな。

 バイゼルを通して聴取していたところ「我々から使者がきた…と。」そうだ。

 バイゼルから聴取した内容と使者からの情報を擦り合わせしたところ、

 重要であると考え、即時に招き事情を聞いていた。」


沈黙が流れる。黒幕の標的がなんなのかここまでの話で明確になったからだ。

奇術師は気まずそうに落ち着きがない。

レオンはオルトックを見つめる。

オルトック本人もその答えに行きついている。

そして観念したように口を開いた。


「なるほど、私が標的か。」

「そんなことはないと言ってやりたいのだがな、十中八九間違いない。

 "オルトック黒幕説"に関しても、冒険者が狙われれる動機にしても、

 襲撃者の標的がオルトックであるならば説明が付く。」

「私と冒険者ギルドの間に不和を齎し、それを見破られるのも見越してか?」


「ああ、実際のところ"黒幕説"は暴論に近い。

 それ自体を罠と看破するのは難しくないんだ。

 そこで、我々が相手の策を見破ったと"結束を更に固める"。

 ここが妙手だ。

 "冒険者の行方不明"という囮が効いてくる。

 "結束を更に固める"これによって我々は自然に協力体制をとる事に抵抗がなくなる。」


「当然ではあるが、エドガーとレオンは…いや冒険者ギルド全体がだな。

 現段階でかなり行方不明事件を警戒している。

 今後も続くとしたら、ギルド職員は、常に冒険者たちの安否に気を取られる。

 なんと言っても相手は、若手とは言えパーティ単位で拉致できる組織力がある。

 ベテラン冒険者だって単独なら危険だろう。と考える。だろうな。」


「そういう事ですか…離反者たちの出方が見えない以上、

 予防線を張る程度しか手段はない。

 後手の対応を強制され続ける以上、冒険者ギルドだけで対応するのは困難。

 結束を更に固めたレオン様たちギルドは自然とオルトック伯爵へ協力を願う。」


「奇術師どのの言う通りの展開になれば…なるほどレオンの言う通りこれは妙手だ。

 凶悪な魔物が跋扈する魔境ハンニバル。

 この都市の冒険者の価値は当然よそよりも高い。

 ならば当然、私は要請を受け入れ手を打つだろうな。」


「騎士を動員した警備巡回の強化、そして行方不明者の捜索。

 オルトックの手元にはたいした兵力は残らない。」

「相手は、パーティ毎拉致できる様な戦力だ。

 護衛が薄くければ私の暗殺は容易いだろうな。

 無様に暗殺され、私の周辺から、過去の事件への関与、

 または指揮したと思われる証拠が、わんさか発見される訳か。」


「動機の用意も簡単だからな。

 ねつ造証拠次第では出世欲に駆られた悪の文官の出来上がりだ。

 そして世間は"これにて黒幕は罰せられ一件落着"。

 裏で糸をひいていた離反者たちは、協力者であろう"元伯爵"より、

 多額の報酬と地位、もしくは安全を手に入れ雲隠れ。」


そう締めくくったレオンは深く息を吸い吐き出した。

そうとう苛立っているのであろう、額にはくっきりと青筋が浮かんでいる。

張りつめた空気にオルトックも奇術師も口を開くのを躊躇していた。


「ここまで仕組みが見えているのであれば重畳ですな、

 対応などさほど難しくはない。違いますかな?レオン様」


新しいティーセットを持って現れたバイゼルは、

そうレオンに同意を求め、優雅に紅茶を淹れる。

新たなカップを配り終えるとオルトックの肩に、

優しく手を添えて好戦的な笑みをたたえた。


「ふふふっ、あまりに陰険な計画に頭に血が上ってしまった様だ。

バイゼル殿の言う通り、対応はさほど難しくない。

オルトックを、いや"ハンニバルを敵に回した事"をたっぷり後悔して頂こうじゃないか。」


「左様でございますとも、いかに老いぼれたとは言え、わたくしも主人を殺す。

 などと言われて、はいそうですか。とお答えする気はございません。」

「……あのレオン様、あの執事の方は一体??」


レオンに劣らず物騒な気配を静かに纏うバイゼルに呑まれ、

落ち着かなくなった奇術師は当人の耳に届かないようレオンに小声で問うた。

レオンがどう答えるか逡巡していると、

しっかりその小声を耳に捉えていたバイゼルが更に不穏な空気を纏いほほ笑む。


「奇術師様、私などただの執事でございます。お気になさらずに。」

「そ、そうですか。いらぬ詮索失礼致しましたっ。」

「知らずに済むのでしたら、知らぬままでいる方が長生きができます。

 この老執事の実体験でございます故。」

「ご忠告、痛み入ります。」


今度こそ奇術師はバイゼルに完全に呑まれてしまい委縮している。


レオンは今だ覇気の衰えない執事に心の中で称賛の言葉を述べ、オルトックを一瞥した。


肩に感じる心強さに支えられ、

暗殺される計画があると言う事実に呑まれそうだったその目には、

強い意思の光が灯っている。


「さぁ、行動だ。オルトックはハンニバルの警備の数を増やす手配してくれ。

 私は一度、ギルドに戻りオルトックの護衛を用意する。」

「もちろん、信用できる戦力なのだろうな。」

「A級の冒険者パーティ、3班用意させてもらう。

 まあそれでも暗殺されたら成仏てくれ。」


「なるほど、そんな護衛たちがついても暗殺される様な事があったら、

 私のクビをとった暗殺者に褒美をやらんといけないな。」


先ほどまでの重い雰囲気を振りきり軽口を叩けるまで回復した様だ。

バイゼルもいつもの気配に戻り少しだけ成長を感じさせる主人に満足そうに頷いた。


「では、私は一度、離反者たちを監視している他の柱たちと、

 合流し情報の共有を図ります。

 何か動きがあった場合は、オルトック伯爵へお伝えしましょう。」

「同じ陰行が得意な者同士。下手するとその場ですぐ戦闘になる事もあるだろう。

 あまり無理をせず、状況によってはギルドを頼ってくれ。」


「レオン様、ありがとうございます。その時は頼らせて頂きましょう。

 では、私も急いで行動にうつるとしましょう。失礼致します。」


芝居がかった物言いや、軽薄そうな発言など当初は胡散臭さを、

醸していた奇術師ではあったが、

エドガー、レオン両名の実力の一端に慄き、

レオンの隙のない洞察力に驚き、

最後には、まったく警戒していなかった領主の執事バイゼルの、

異様にな気配に触れ心身が疲れはてたのだろう。

応接室を出て行く背中はくたびれ、足元もおぼつかない様に見えた。


「さて、俺も動こう。護衛の連中は夜には合流するだろう。

 それとオルトック。執務室の修理代の請求は冒険者ギルドへ出しておいてくれ。」

「ふっ、気にしなくていい。あれは私にも原因がある。」

「そうか。……わかった、エドにはあとで詫びさせる。ではな。」

「外までお送り致します。」


バイゼルの先導で屋敷を歩く。

家人たちの姿がないのを確認し、レオンが声をかける。


「エドは、紅茶にたっぷりハチミツいれてましたか?」

「ええ、それはもうたくさん。」

「それは良かった。それでエドは?」

「用が出来た、夜まで戻らない。お前の事だから、きっと何か掴んでるんだろ?

 そっちの対応は任せる。ただ、いつでも動ける準備をしておけ。

 との伝言をお預かりしております。」

「…まったくどいつもこいつも。」


伝言を聞きレオンはこめかみに軽く手をあて、小言を漏らす。

その様子が余程、おかしかったのかバイゼルは口元を隠して笑っていた。


「レオン様は、今も皆さまの面倒を見てなければならない損な役回りなのですな。

 個性的で自由な気風な方ばかりでしたから気苦労は多いと思いますが、

 それもレオン様しかできない事でしょう。」


「損な性分だと自覚してます、それに手間がかかるのがもう一人合流するみたいなので、

 今からそれを考えるだけで頭が痛いですよ。」

「なるほど、察するに"あの根なし草"ですな。

 相も変わらず、余所様の家に無断で入り込む癖が抜けてない様子ですな。」


レオンの仲間たちの中で、唯一その男だけはバイゼルによくお小言を食らい。

「何故、自分だけが…」とよくこぼしていた。

もともとは思慮深く、仕事の能力の高い人物ではあるのだが、

天邪鬼な一面がありいい加減な振る舞いをするところがある。

バイゼルから見るとそういうところが、

幼く見えてそれでついつい小言が出てしまうのだろう。


「それは叱りつけてやらないといけないな。」


「ホッホッホッ、厳しく頼みますぞ。

 あの根なし草でも能力は皆さまのお仲間だけあって非常に高いのは、

 認めざるえないですからな、老婆心ながらレオン様の肩の荷が、

 少しでも軽くなるよう。お祈りするといたしましょう。」

「……神にですか?」

「あの根なし草の中に住んでるに天邪鬼に祈るんですよ。

 「表面に出てこないでください」と。

 残念ながら神に知己はいないもので、

 信用なりませんからな。ホッホッホッ」


「天邪鬼にですか、それはいい。私も祈るとします。」


バイゼルと別れ、門番たちに軽く挨拶を済ませ城門を潜ると、

眼下に広がる家屋や広場からは、夕飯の支度であろうか。

いくつもの煙があがっていた。


すっかり日が傾いた中央通りを歩きつつ、

事態が動くであろう事を確信したレオンは対応を頭の中で精査していた。


「食べるっすか?美味しいっすよ。」

「……もらおうか。」


香ばしい匂いをさせた肉串を手渡され、レオンはそれを口に運んだ。

頬張りながら声をかけてきた男へ向き直る。


レオンほどではないが、背が高く、手足がすらりと長い。

筋肉がついていない訳ではないのだが全体的に"細い"と印象を受ける。


そして軽薄そうに喋る男だとレオンは知っている。


「レオっち、ひさしぶりっすねー。

 なーんか、色々大変な事になってるみたいじゃないっすか。

 わがまま王様の依頼で手伝いにきたっすよー。」

「ああ、不快な事件だ。

 出来ればさっさと片付けて鍛冶場に籠ってのんびり槌を振るってたいんだがな。

 "狂王"は達者か?」


「隠居の爺様みたいなこと言うっすね。

 まぁ、できるだけ工房に籠れる様にお手伝いするっすよ。

 お土産はもちろん肉串だけって事はないんで、期待しとくっす。

 それより、その呼び名は止めたがいいっすよ。

 誰かに聞かれたら不敬罪でとっ捕まるっす。くくくっ。」


互いの共通の知人を揶揄した呼び名を口にしたレオンに、

軽薄な男は笑みを浮かべて大げさに辺りを見回してそう口にした。

そして少しだけトーンを下げて続けた。


「俺っちもこんな事件さっさと終わらせてやりたい事あるっすからね。」

「片手間で適当な仕事は…いやいい、お前が仕事に手ぬかりなどしない。

 そう考えると珍しいな仕事中に別の事に興味を持つなんて珍しいな。」


「あはは、信頼激あつっすね。ご期待に沿える手土産か心配になってきたっす。

 まぁ仕事中滅多によそ見なんてする気は起きないんすけどね。

 でも、レオっちもあの場にいたらびびってたっすよー!

 落ち着いたら一緒に見に行くっす!」


仕事の報告に関して、本人はおちゃらけて不安を口にするが、

レオはこの男がくだらない報告などあげてくる訳がないと聞き流した。


顔にかかった鬱陶しそうな前髪を揺らした"ルーファス・ルクシウス・ソー" は、

残った肉串を口の中に詰め込み頬張る。

その子供染みた食い意地にレオンは苦言を呈す。


「串をその辺に捨てるなよ。」

「ん!んんんんっんん!」

「文句があるなら、口の中呑みこんでからにしろ。」


心強い味方である事には変わらないが、

胸の中でバイゼルに「肩の荷は軽くなりそうもないようです。」と告げ、

軽く空を仰いだ。


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