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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-狂える美姫と諦観する男装麗人、嘆息する女帝

その頃、1人別行動をとっていたリズィクルは"仇花(あだばな)"と会うため。

商業区内に構える薬問屋"健やかなる日々"を訪れていた。


訪問理由を告げ、応接の間に案内をとの申し出は、

約束を取り付けた訳でもないからと、角が立たないよう断った。

その代わり、店内を見て回っていいかと許可をとり、

商品やそこで働く者たちを見て回り時間を潰していた。


回復薬(ポーション)魔力薬(エーテル)などは、自分で使用する事もあり馴染みがあるが、

ここには見慣れない薬も多い。


魔法、魔術の研究に傾倒するリズィクルにとって、

畑違いではあるが、興味をそそられる物も多かった。


訪れた客に対して薬効などを諳んじて見せる店員も質の高さを感じ、

どこを見渡しても塵のひとつも見当たらない徹底ぶりに感動すら覚える。


そこで不意に、ギルドの清掃を嬉々として行い、

玉の様な汗を額に作り、満足気な表情を浮かべる弟子の姿を思い浮かぶ。


「ふふ、なるほど。さすがはアレの原点(ルーツ)と言ったところか。

 あれが奇麗好きなのは、ここの者たちの影響なのかもしれんな」


ふと思った言葉が口から零れ、リズィクルは微かな笑い声を漏らした。

そんな彼女の独り言に数人の店員が反応を示したが、

"なんでもない"と首を振り、店の奥からやってきた人物に目を止めた。


「大変お待たせして申し訳ありませんでした」

「かまわん、報せもなしに急に出向いたのは妾のほうじゃからな。

 店も見てて飽くことがない、良い物を見せてもらった。

 ふふ、久しいな。サミュル」


執事服を身に纏いし男装の麗人、三柱サミュル。

頭領である仇花の右腕であり、闇ギルド"名無し(アンノウン)"のまとめ役。


彼女もまた、リズィクルと同様に笑みを浮かべる。


「うふふ、10年以上、お会いしてませんでしたものね。

 お会い出来てサミュルはとても嬉しいです」

「妾もだ、すっかり立派になったものだ。見違えたぞ」

「ありがとうございます、リズィ姉様にそう仰って頂けて・・・」


幼い頃、リズィクルを姉様と慕い、

べったりついて離れなかった頃のサミュルの面影を思い返し、

改めて立派になったサミュルをリズィクルはあの頃のように抱き締めた。


「姉様の匂い…懐かしい」

「ふふふ、立派になったのは見た目だけで中身は童のままか?」

「ふふ、そうかもしれませんね」


束の間の抱擁を楽しんでいたサミュルは、

居住まいを正し、いつもの凛とした気風を纏い一礼した。


「いつまでもこうしていたいものですが、頭領がお待ちです。

 ご案内させて頂きます、リズィクル様」

「ああ、よろしく頼むとしよう三柱殿」


2人の抱擁と、普段のそれと大きくかけ離れた上司(サミュル)の態度に、

興味津々と言った眼差しを向けていた者たちは、

いつものサミュルに戻った彼女に一瞥され、慌てて業務に戻って行く。


そんなところからも分かるサミュルの成長ぶりに、

リズィクルは胸に温かい物を感じていた。


サミュルの後について辿り着いた御所。

側仕えが、御所の扉を開く。

暗き空間を、ささやかに照らす幾つもの提灯が出迎えた。


趣きのある空間には似つかわしくない、奥から感じられる"懐かしい圧力"。


「久しいな、朱華(しゅか)。便りもなく、面会してくれた事、感謝する」


通り名の"仇花"ではなく真名を口にしたリズィクルは、

履物を脱ぎ、下段の間に座して礼を口にした。


「うふふ、礼なんて止めてよ。数少ないその名で呼んでくれる貴女だもの。

 面倒事も物騒事も全部丸投げしてでも時間を作るわよ」

「ふふ、あまりサミュルをこき使ってくれるなよ」

「あら、失礼しちゃう。最近じゃサミュルだけじゃなくて、

 他の子たちも優秀なんだからね?」


仇花こと朱華(しゅか)は、2人の間を遮っていた御簾をさっさとさげさせ、

頬を膨らませながら下段の間に降り、リズィクルの正面に座る。


「リズ、久々なんだからちょっと付き合いなさいね」


指示されるまでもなく、その言葉で主の意図を把握した側仕え達は、

静かにその場を立ち、優雅に一礼した後、奥へと消えて行く。


「少しだぞ?ゆるりと付きあうのは、またの機会だ」

「あら、言ってみるものねっ!ほら、せっかくだからサミュルも」

「私"も"、まだ仕事がありますので」

「…ちゃんと後でやるわよ」

「当然です」

「はははっ、サミュルにかかれば形無しじゃな朱華よ」


サミュルの凍てつくような笑顔に、憮然とする朱華。

仲むつまじい姉妹の様な、そのやり取りに、

堪らずリズィクルは可笑しくなって吹きだした。


「そんなに笑う事ないじゃないの」


再び頬を膨らませ不貞腐れる朱華。

御所にリズィクルの笑い声が再び響いた。


それからしばらく、再会祝いだとリズィクルからの後押しもあり、

三人でささやかな酒宴に興じながら、過去の話や、三人の近況と盛り上がり、

リズィクルもルイの師に加わった件や、ルイがエドガーの下に引き取られた件に至り、

今は間もなく起こるだろう襲撃について。

そして、そのための準備に明け暮れているルイの事が話題にあがる。


ルイを目に入れても痛くないを地で行く朱華は、

リズィクルの口から語られる、ルイの課題結果に目を輝かせる。

朱華ほどではないにしろ、ルイが可愛いのは当然サミュルも一緒。

2人の邪魔にならぬよう、発言を控え、反応を示さぬように努めてはいたが、

嬉々として表情を浮かべ聞き耳を立てていた。


「…と言う訳でな。腹黒(マサル)立案の"元奴隷の少年執事"は、

 辺境伯の薦めもあり、無事2人の関心を得る事になった。

 悪漢ら、たかが子供執事と侮りて潰されることだろう」

「…事後、ジュリアス擁立派にもシュナイゼル擁立派に探られても、

 ”"ギルド職員見習い(ルイ)”"と"元奴隷の少年執事(ルイ)"を繋げるのは難しいわね」

「ルイを知る辺境伯様の部下たちが買収される事もないでしょうしね」

「うむ、オルトックは強かな男だ。

 他貴族の息のかかっていそうな者はルイに近づけてはいないだろう」

「ふふ、さすがは腹黒な陛下様ね」


恐らく、実行犯を除く両擁立派は、シュナイゼル擁立派が事を起こすも失敗。

その要因となった元奴隷、それも子ども。

その情報を得るのに、時間はそうかからない。


そうなるとシュナイゼル擁立派はその権威を大きく失墜させる事になり、

逆にジュリアス擁立派は、流入してくる戦力を得て大きくなるだろう。


そこまで肥え太ってしまえば、謎の戦力(ルイ)への懸念程度では止まらない。

いや、止まれない。


確実に、ジュリアス擁立派は内乱まで邁進する。


「細工は流々あとは仕上げを御覧じろってね。と、のたまっておったわ」

「あははっ、悪い顔してるマサルが想像できるわねっ」

「ですが、それもルイが無事任務を終えられればと言う事ですよね

 私は実際ルイの成長をこの目にしていないので正直不安です」


酒精も影響してか陽気に笑う朱華とは異なり、サミュルの表情には(かげ)が射す。

そんな彼女に向き直り、リズィクルは笑みを浮かべ口を開く。


「そうであろう、そこで妾の来訪理由に繋がる」

「む、私たちに会いにきたのが本命じゃないっての?」

「わざとらしく拗ねないでください。ご想定されていたでしょうに」

「あはは、流石にわざとらしいか」


サミュルに同調し、リズィクルも胡乱な表情で笑って誤魔化す朱華を睨む。


「悪かったわよっ!こほん、それで?"万魔の女帝様"は私たちになんのご依頼を?」

「報酬は、我らが弟子殿の初陣。その観戦招待」

「のったっ、のったわっ!その依頼」

「頭領っ」


依頼内容も聞かずに、報酬を聞いただけで身を乗り出し、

快諾を口にした朱華をすかさずサミュルが諫める。


「ルーファスから聞いてたが、ルイが絡むとほんにポンコツじゃな朱華」

「失礼なっ!そもそもリズの依頼ってか貴方(ルクシウス)達の依頼って事でしょ。

 変な依頼な訳ないし、そもそもルイを預かってもらってる手前、

 受けないって選択肢はないわ」


呆れた声をあげるリズィクルに、心外だと言わんばかりに声高に言い募る。

その言葉を聞き、ルイ可愛さのあまりの思考停止ではない事にサミュルは安堵した。


「まあ、いい。依頼内容は事件発生時のルイたちの行動を監視。

 これはルーファスから口酸っぱく言われているんじゃが。

 10メートル範囲には決して入らず、またその距離でルイに気取られぬ事」

「あらら、ルーファス。この前来た時に"質落ちてる"って怒ってたもんね」

「なにを他人事のように仰っているんですか。

 …ですが、そうなると柱達。あとはダンサイ様でしょうか」

「ダンサイは駄目。前回の事もあるから罰として連れてかない」


サミュルは口を開くことなく、朱華の言葉に頭を下げて応える。


無駄にルーファスの怒りを買うことになった原因。

まだ朱華の留飲は下がってはいないのだろう。

口調こそ砕けたままだが、微かに怒気を孕んでいたのをサミュルは感じた。


「それは、監視だけって事?安全装置としてって依頼ではないの?」

「基本は監視だけじゃ。手助けは容認しない」

「基本と言うと?」

「他勢力の目を潰して欲しいそうだ。これはマサルからのリクエストじゃな」


師弟関係が露呈し、広まればルイが要らぬ横槍や危険が入る事は想像に容易い。

ルイがせめて成人するまでは、その存在が大々的に広がる事は避けてやりたい。

それは、マサルなりの配慮であった。


「成人まではなんとか。とか言っておったが、妾は時間の問題だと思ってるがな」

「…あら、それほどなの?」

「妾が授けて、1カ月足らずじゃが…2年、いや下手すれば1年あれば、

 王立魔操騎士学校だったか?それの主席卒業程度には軽く至るであろうな」

「今は6歳だから…遅くても8歳でですか?それも主席ですか…」


リズィクルは自信を持って断言した。

オーカスタン王国、最大の学び舎"王立魔操騎士学校"。


試験の結果次第では、平民の子の入学が許され、

貴族の子息が落とされる事もあると言う、徹底された実力主義。


エドガー、レオン、ルーファス。

そして、転生され聖国から出奔したマサルも通った学び舎である。


「強さだけではなく?」

「あれは秘めたる能力の高さがどうしても目を引くが、

 妾は、あの聡さこそ注視すべきと思っておるからな」


朱華が口にした疑問。


それは、かの学び舎は、魔法、魔術の習熟だけに留まらず、

様々な分野での研究にも力を入れている事で有名であり、


リズィクルが口にした主席卒業できるほどの実力者は、

高水準の魔法、魔術の精度だけでなく、

それらを運用する戦闘技術、卒業までに提出する事を義務付けられている論文、

在学中、どこかの研究部門に所属し、その研究成果も評価の対象に含まれる。


その事を踏まえて、リズィクルが口にしたは肯定。


「想像してみよ、朱華。妾は決して子供相手とは故、教えを授ける際は手を抜かん。

 専門的な言葉も多く、難解な言い回しをする事も多い。

 此度の事もそうじゃ、腹黒(マサル)立案の計画をアレが含みを混ぜてルイに伝えたのだぞ?

 さすがに言い回しには気を使っていたが、それを幼いルイは理解してるのだ」


その言葉に朱華は頬を赤くし恍惚の表情を浮かべ、杯を口に運んだ。


一方で、サミュルは戦慄を覚える。

リズィクルが口にしたルイの異常性。


自身の配下の中で、何割の者が今回の概要を聞かされ理解に及ぶだろうか。

半数…いや、もっと少ないかもしれない。


「朱華は何故のぼせあがってるか知らんが、サミュルはわかったようじゃな。

 まあ、そんな傑物をどんなに上手く隠してもその内勝手に目立つだろ」

「のぼせるわよ、ああ愛しいルイ。はやく大人にならないかしら」

「本気で言うとるのか?」

「ええ、当然でしょ?」


頬を染め上げ妖艶な笑みを讃える、朱華。

艶やかな長い黒髪を撫で、爛々と輝く血色の瞳は、

ゆらゆらと辺りを漂う提灯の灯りを反射する。


付きあいがそこそこ長いこの美姫が、

少年にも満たない子供に懸想するとは思わなかった。


「まだ童じゃぞ」

「だから、早く大人にならないかなーって言ってるんでしょ?」

「…サミュル」

「私では止められませんので」


素気無くサミュルが白旗をあげる。

こめかみに手を当て、若干感じる鈍痛を遠ざける。


「依頼がもう1つあるんだが、些か不安になってきたぞ」

「"老いない私はいつまでも待てる"それだけよ」

「まあ、そう言うのもあるのであろうな。妾は口出しせん。」

「それより依頼の追加ってなーに?」


「なに、本番前にな。ルイの模擬戦相手として100人ほど見繕って欲しいんじゃ。

 総仕上げと言ったところじゃな」


刹那、強烈な圧力と暴力染みた魔力が一気に膨れ上がり朱色の風を巻き起こす。

ゆらりと立ち上がり、頬を染め上げ楽しげに笑う朱華は、

嬌声にも近い声をあげながら、優雅に舞い始めた。


「楽しそうなとこ悪いが、くれぐれもやり過ぎてくれるなよ。

 はじまる前に折れても、壊れても困るんじゃからな」


どうやら、朱華の耳には届いていないようだ。

嘆息したリズィクルは、ちらりと見やったサミュルは申し訳なさそうに首を振った。


「なるようになるじゃろ、あとはルイの頑張り次第じゃな」


胸の内でルイに小さく謝罪したリズィクルは、

狂える美姫と化した朱華の舞いを肴に、杯に酒を満たし口に運んだ。


朱華/仇花 「わたし、なんかやばい人じゃない?

リズィクル 「妾は深く考えない事にした。

サミュル  「ルイっ逃げてっ!!


※注意※ 朱華こと仇花は、ルイをとって喰おうとかは思ってません。

     大人になったルイと恋仲になろうと企んでる程度です(え

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