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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■1章-そして弟子と師匠になる-■■
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1章-ルイの小冒険-③

「もが…ももももが!!もが!!」

「「「「グルルル…ッッ」」」」

(…後ろの人たち忘れてた。)


緊張感漂う静寂を麻袋のひとつが打ち壊す。


それまで気を失っていたのだろうか、突然、暴れ出した。

オオカミの群れに再び警戒心と緊張感が走る。


ついつい時間を忘れ、群れの長の姿に見惚れていたルイは、

どこかで攫われた被害者たちの存在を忘れていた事を麻袋ごしに胸の内で謝罪した。

周囲の群れたちは、のどを鳴らしルイを伺っている。


そんな中で、やはり動じずルイを眺めている群れの長に、ルイは歩み寄った。


ゆったりとした足運びで胸を張り誇る様な気持ちで。

それを眺めていた群れの長の口元が笑った顔の様に歪んだ。

それを見てルイも笑みを浮かべる。


その距離は、ルイの顔と群れの長の鼻先が触れる程の距離まで接近した。


(食べる物、今から持ってくるから僕とこの人たち食べるの諦めてくれないかな。)

「……。」


ルイが群れの長の目をしっかりと見つめ、誠意をもって伝える。

もちろん言葉などは通じない。

そもそもルイは言葉を発する事も苦手である。

ルイをしばらく眺めていた長も「了承した。」と言わんばかりに、

その場にしゃがみ込み尻尾を大きく2度程揺らす。


それを遠巻きに眺めていた群れたちも、群れの長と同様に尾を振る者、

好奇心の強い者は匂いを嗅いだり身体をこすり付けたりして戯れてくる。


ルイは周囲の者たちの身体を一撫でし、先ほど暴れていた麻袋を解いて中を覗き込む。

袋の中には、目隠し、猿ぐつわをされ、

両手両足をロープで縛られて窮屈そうにしている女性の姿があった。

それも皮鎧を身につけているところを見ると恐らく冒険者ではないだろうか。

ルイは、目隠しに手をかけてゆっくり外し、

苦手なりに丁寧な言葉を選んで声をかける。


「僕、話す。あなた、聞く。苦手、僕言葉。静かに聞く、お願いします。」


目隠しをはずしてもらった相手が、あまりに小さな子供であった事に、

一瞬驚きの表情を浮かべる。

それでも、たどたどしい言葉で話しかけてくる子供から害意は感じない。

真剣に語る子供を見つめながらしっかりと頷いた。


「悪い、三人。オオカミたち、追い払った。

 オオカミ、約束、僕あなたと袋、食べない。

 あなたぼく用意する。ごはん…。んー・・・わかる?」


伝えたい内容が長くなると、もともとの苦手意識に拍車がかかり、

声も本人の顔も不安を浮かべて消沈する。

そんなルイを安心させるように彼女、何度もゆっくりと頷いている。

そんな彼女の姿に安堵し、ルイは猿ぐつわに手をかける。


「口はずす。手もとる。あと人説明。お願い。」

「…ふー、ありがと。私は"ナルシャ"本当に助かったわっ。」


口と手が自由になったナルシャは、

袋から出るよりも足を自由にするよりも先にルイに礼を述べてその頭を優しく撫でた。

少し驚いているルイを見つめこう続けた。


「じゃあ、勇敢な君が私に伝えたかった事の確認。間違ってたら指摘してね。

 私たちを捕えた3人組は、あそこのオオカミたちが追い払ってくれた。

 ただ、その場に残された私たちが食べられそうになって、

 君があの大きなオオカミに「代わりの食べ物を持ってくるから見逃して」って、

 交渉してくれた。それをオオカミが許してくれたから、

 助けられた私あそこに転がってる麻袋の3人に私から今の事を説明した上で、

 食料を調達してきた欲しい。ってところかな?」


するすると麻袋から抜け出して、口早に説明を続けた。

足を拘束していた縄を解いたナルシャがそう言い終えて、

またルイの頭に手をおいて確認した。

伝えたかったことを正確に言葉にして見せた彼女にルイは称賛の拍手を送った。


「うんうん、よかったよかった。君の伝えたい言葉を聞きとるのに、

 ちょっとした"技術(スキル)"を使って補足したのよ。

 "魔物使い(テイマー)"って言うって技術(スキル)なんだけどね。

 動物や魔物でも友好な態度の相手とか、口を塞がれて言葉を出せない、

 相手の伝えようって気持ちが強いと、しっかりとした言葉に聞こえるのよ。」

「ナルシャさ…ん。」


ルイもいくつか所持しているが、親代わりから技術(スキル)は家族であっても易々と、

見せてはいけないとも教わっていたので、自分に伝えてしまっていいのか。

と不安になった。


「命の恩人にそんな些細な事、隠したりしないわよ。」

「すごい!!」


ルイが頭の中でナルシャを心配していた事を、

言い当てられてルイは思わず感嘆の言葉をもらした。

そんなルイを再び優しく見つめる。


「凄いのは君の方だよ、君は私を助けてくれた恩人なんだから。

 って、それより!!私たちを助けようとして怪我とかしてない?」


ついルイの雰囲気に呑まれ普通に会話を楽しんでいたナルシャが、

慌ててルイの身体を確かめる。

これといって怪我が見当たらないことを確認するとホッとした表情を浮かべた。


「…。(初めは隠れて様子を伺ってました。ナルシャさんたちが捕まってるんじゃなくて、

 草むらに隠れて、援護するのかとも思ったから。

 でもオオカミに囲まれてるのに少しも動かないから、

 変に思ってたら3人が攫ってきたみたいな事言ってるのに気がついて。)」

「こらこら、そっちの方が楽だからって、

 言葉を口にする練習もちゃんとしなきゃダメだよ?」

「はい…。それ。んー。(様子を見てたらオオカミが3人を追い払って、

 残ったナルシャさんが入った袋に飛びかかろうとしたから、

 食料届けるからってお願いしたら。あの大きな彼女が「いいよ。」って

 尻尾ふってくれた。だから危なくない。)無理、まだ長いの。」


「今度あった時は使わないからね。…そんな顔してもダーメ。くすくすっ。

 んじゃ残りの3人助けてパパーっと食糧用意してこなきゃね。」

「はい。お願い。…練習がんばる。」


それから順にカリィ、スリン、カチェスの3人が、

ナルシャの手により解放されルイに関する簡単な事情を受けたのち、

ルイとオオカミたちに礼を述べ、ハンニバルへ食糧の買い出しに向かった。


それから小一時間ほど、身体を擦りよせてくるオオカミたちの毛並みを楽しんだり、

じゃれて飛びかかってくるオオカミたちの顔をいなして転ばせたり、

足運びの練習台になってもらったりルイは大いに満喫して楽しんでいた。


だが、今むかってきた若いオオカミが興奮のあまり少し爪をルイに、

当てそうになった事を群れの長に、怒られている様な姿を見て我に返った。


(これは、また怒られる予感しかしない…)


5柱からの提案で"外に散策に来た"まではいいが、"人攫い"と"オオカミの群れ"を、

近距離から迫力のある光景を見学していた事、

人助けとは云え20数匹のオオカミの群れの前へ無防備に飛び出した事。

この2っは、お小言案件であるとルイは恐怖した。

実際は"外で遊んできたら"の範囲に城門から出た郊外"が含まれるはずもなく。

こちらも同様に叱られる案件ではあるが、ルイの中では外に散策に出ただけだから。

と含めていないところは子供らしいとも言えるかもしれない。


お小言に戦々恐々としているルイの元へ、こちらに向かってくる気配が4っ。

注視するとその気配の主たちが、

たくさんの食糧を担いで向かってきているのが見えた。


(重そうだから手伝ってきてもいいかな。逃げたりする気はないんだけど。)


ルイはそう意思を込めて群れの長を見つめる。それに、また大きく尻尾をふり応える。

その姿はまるで「いちいち確認はいらない。」と言っているようだった。

ルイは軽く笑いかけ、ナルシェたちの元へ駆けて行く。

ナルシェたちもルイを笑顔で迎えていた。


ルイが一般的には牧歌的と異なる日向ぼっこを楽しむ様子を、

離れた場所から佇み眺める人影があった。

意識的に存在を消しているルイのそれよりも、

更に希薄で生者であるかどうかも定かではない。


薄灰色のローブを頭からすっぽりの深くかぶったその男は、

先ほどから声を殺してはいるものの腹を抱えて笑っていた。


「さらっと報告は受けてたけど、想像のななめ上に行く子だね。

 いやぁ退屈しのぎに郊外に向かってるを見かけてつけてきたけど、

 お陰様で思ったよりも楽しめちゃったねぇ。

 アハハ…はぁ、笑いすぎてお腹痛いとかいつ以来かなククク。

 きっと今、戻ってきた彼女たちが帰りは、

 ちゃんとハンニバルまでは送ってくれるだろうからもう安心だね。

 無事で何よりだフフッ。

 癖になっちゃいそーだから、また見かけたらつけてみるとしよう。

 じゃあね小さな英雄君。」


眼下で4人の冒険者が閉じ込められていた麻袋を再利用し中から、

次々に肉の塊や燻製ソーセージ、

パンや果物を出しオオカミたちは群れの中でも身体の小さい者から食事をはじめた。


その様子を見て仕事を終えた顔をしたルイが、

1人で帰路に着こうとしたのを4人が押し留め、

ルイはしぶしぶ5人で帰る事を了承し、

改めて群れの長と群れに別れを告げハンニバルへ歩き出した。


そこまで確認を終えた灰色ローブの男は、一方的な別れの挨拶を口にする。


「…おやおや。これはこれは。」


ルイが不意にこちらを見た…いや、ルイ確かに視線を向けているが首を傾げている。

灰色ローブの男を感知したのでは無いのであろう。

ルイは恐らく"堪"がいいのだろうと灰色ローブは判断する事した。


「今度つける時は油断はしない方がいいのかもね…。将来楽しみな英雄君だ。」


そう口にした言葉と薄い笑みを薄灰色のローブの下へと隠し、

ルイの後ろ姿を少しだけ一瞥する。

刹那、背景に溶け込んで行き、景色に呑みこまれ姿を消す。


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