1章-プロローグ 【2019/10/18 改稿】
復帰にあわせてTwitterも再開致しました。
もうすぐ100話目も見えて参りましたので、
それを機に、1話から改稿しようと企んでいます。
処女作ということもあり、開始当初はただ黙々と作成していたので、
今でこそ改行など、PCだけでなくスマホで閲覧して頂いている方が、
少しでも読みやすいよう工夫するようになりました。
そう言ったところの改善をできたらと考えております。
2019/10/14 おおまか良好。
■■1章-プロローグ-■■
「さて…転生だ、勇者だ、なんだと持て囃される環境から離れたのは良いとして。
さりとて状況は好転の兆しはない・・・と。」
白を基調とした法衣に、簡素な部分鎧を身につけた少年は零す。
見た目にはそぐわない大人じみた口調と、
眉間に寄った濃い皺には違和感しか感じない。
眼下に広がる大自然のあちらこちらに、
砦らしき建物や、方々へ伸びる街道の様な物が広がっていた。
その広大さに、彼はさらに辟易とした表情を浮かべる。
時折吹く、顔を打つ強い風がさらさらと黒髪を舞わせ、
たびたび視界を妨げることもまた、彼を憂鬱にさせた。
これも、何度目になるかわからないが、
視界を守るため、黒髪を耳へかけ後ろへ流す。
「もういっそのこと、切ってしまおうかな」
腰にぶら下がる長剣に視線を向け放った独り言は、
再び強く吹き付けた風に掻き消えた。
ふと、背後に視線を向ける。
「追手がかかるのは時間の問題だし…ふむ。
砦に向かえば人だろう。
加藤君、君から取りあげた本の勇者はこんなにも苦労していたんだね」
授業中に取りあげたシリーズを、翌日返す前に読み終える。
ささやかな嫌がらせだったはずが、
このままだといつ帰れるかもわかったものではない。
「あの本はもう買い直したのかな。加藤君には悪い事をした」
記憶に未だ鮮明に残る生徒たちの顔。
"元いた世界"で教師であった頃、利発的でお調子者の生徒に胸の内で謝罪した。
―― ぐがあぁ
すっかり聞きなれたあちらでは聞く機会がなかった獰猛な声。
振りむくと醜悪な顔でこちらを睨みつけているゴブリンたちの姿。
首を動かし数を確認して行く。
「追手よりは、マシだけど、多すぎだよね。君たち」
10を数えたところで、数える事を止め深く嘆息した。
彼の本来の居場所である"元いた世界"
都会と違い、何処か時間がのんびり過ぎていく、そんな田舎で彼は生まれ。
漁船が就く港が、ほんの眼と鼻の先にある北国で育った。
成人した後も、その街を離れることなく、
母校である高校で、教鞭を振るう日々。
ようやく突き刺さる様な寒さが和らぎ、
吐く息こそいまだ視認出来る白さではあるが、心成しか温かみを感じる季節。
笑顔で卒業生を送り出し、笑顔で新入生を向かい入れた。
教鞭をとるようになって10年と少し。
些細な変化と変わらない日々が、ただ繰り返される。
退屈と唾棄する者もいるかもしれない、そんな生活を彼自身はとても楽しんでいた。
誘拐される直前もまた、彼はいつものように教鞭をとっていた。
その彼、本来の容姿は、柔和な印象をもたらす瞳が印象的な人好きする顔立ちに、
長年の読書好きが高じて、落とした視力を補う眼鏡が良く似合う。
奇麗に刈りそろえられた両サイドに、ややかかるさらりとした黒髪。
取り立てて美形ではないまでも、誰にも不快感を与えない造形。
「…おーい、いつもの加藤くん。僕の授業はつまらないかもしれないけどね。
それでも、テストは待ってはくれないんだよ。
ちょっとだけ君のそっちに傾いた情熱を、
僕に傾けても損はしないと約束しよー。と言う訳で、はい没収」
軽やかな足取りで、国語辞典に執拗な情熱を注いでいた、
加藤少年へ近づき、流れるような手つきで獲物をかすめとる。
「だーっ!なんで、ばれるんだよっ。
今日のは絶対うまく隠せてる自信あったのによ!俺の四時間返せっ」
頭を抱えて抗議する加藤少年の手元には、件の国語辞典の中身が露わになっていた。
そこには、並々ならぬ"無駄な努力"が行き着いた執念めいた物すら感じる。
中心を奇麗に四角く切り取られ、
なんの性)か、ライトノベルをその身に隠す羽目になった憐れな辞書。
彼の言葉を信じるのであれば、作成時間四時間の大作なのだろう。
「その四時間があれば読めたんじゃないのかい?」
「ぐぬぬ」
的確な指摘に黙るしかない加藤少年は悔しげな声を漏らし撃沈した。
そんな加藤少年の様子を優しげな笑みを纏い見つめる。
「それにね、工作の云々の前にとても大きな落とし穴があるよ。
いつもつまんねぇなぁ、早く終わんねぇかなぁ…ってしてる君がね。
授業開始から必死に国語辞典を睨めつけている。
違和感しか抱かないよ。サスペンス小説なら妖しすぎて逆に犯人に思えない。
それくらい胡散臭かったよ?」
そんな言葉に加藤君は、あーまじかっと声をあげ再び沈む。
生徒たちの中には加藤少年の蛮勇をあらかじめ知っていた者もいたのか、
限界と言わんばかりに噴き出す。
笑いは伝播し、今では生徒みんなで大笑いをはじめた。
「ところで、この力作?これ図書室から持って来た訳じゃないよね?」
「そこで疑問符いれんなよっ」
「司書の町田さん、怒ると怖いんだよ。
本を借り過ぎて、返却時期が迫ると鬼の形相で圧力かけられるんだ」
「知らねぇよ!…大学いった兄貴が使わないって置いてった辞書。
こっちのが俺の辞書」
「…今すぐ本屋に持っていったら返金してもらえそうに奇麗だね」
「レシートがねぇよ!ああ続きが…すげぇ、もやもやする」
「さて、物語の続きをに悶々としている加藤君は中間は絶望的。
期末で帳尻あわせて、夏休みの補習は死ぬ気で回避する気みたいだね。
計画性、これはとても大切。他のみんなは真似しないようにね」
教室内に再び、笑い声が響く。
声音も口調も優しい彼を、容易いと感じ入学当初舐めてかかる者も少なくない。
入学当初の加藤少年もその1人だ。
身長もそこそこ高く、30代も半ばに差し掛かるにも関わらず、
20代のような肌のつや。それでいて優しげな物腰に憧れを抱く女子生徒も多い。
それが更に彼らの様な生徒に火をつける。
だが、決まって二学期に入り夏が終わろうとする頃には、
そう言った雰囲気はまるで嘘のように霧散する。
傾向としては2っ。
加藤少年のように、無邪気な悪戯を繰り返す様な生徒はすぐに陥落する。
どれだけ悪ぶろうと、どれだけ邪見な態度をとってみせても、
煙たがるようなことはしない。煙たがっている彼らに率先して近づいてくる。
その内、彼を相手取って自分は何をしているんだ。と混乱すらする。
そして、何かしらのきっかけで、それに気付く。
生徒としてではなく、1人の人間として接してくれていることに。
もう一方で、暴力的な思考の生徒も存在した。
そういう彼らだけは知っている。
底冷えする様な恐ろしい圧力を放つ彼を。
彼は他人の足を引っ張る者を許さない。
彼は他人を貶める者を許さない。
それもまた、そんな彼らを人間として扱うから。
また、それは生徒たちに対してだけではない。
同僚の教師もまた、道を違えれば彼は決して許さない。
チャイムが鳴り、授業を終えると数人の生徒たちが彼を囲む。
その中に、加藤少年の姿もあった。
「先生、勘弁してくれよー」
「だめだよ、明日いつも通り職員室に取りにきなさい。
と言うか…加藤君。これこの前、取りあげた本の続きだよね。
あ、もしかして…わざと取られるようにして、僕に読ませたいの?」
「んな訳ないだろ!続きが…あー糞っ」
「ふふっ、続きが気になるその気持ちは、痛いほどわかるよ。
後半まで、うじうじと弱音を吐いて毎度塞ぎこむ主人公よりも、
彼の側で、いつもそんな彼に嫌味を吐き、叱咤する。時には殴ってでも…。
そんな友人騎士のファンだからね。続きを楽しみにしてたんだ」
「…まじで読んでやがる」
「僕は乱読家だからね。共通の本を愛する同士としての忠告だ。
僕に読んで欲しいなら、遠まわしな事しないで素直に貸すといいよ」
「ちげーってのっ!」
加藤少年は顔を真っ赤にして否定した。
そんな様子が、ついつい可笑しくて笑う。
つられて周囲にも笑い声が起きる
そんな彼ら、生徒たちのこれからも続く長い人生。
ほんの一コマだけに登場する自分。
この時間を共有した誰でも良い。
大人になり、不意に思い出す学校生活。
そんな時、こんな風変わりな教師がいた事を思い出してくれるかもしれない。
そう思いを馳せるだけで彼は、教師でいる事に満足していた。
そして、その幸せな日々は唐突に終わりを告げた。
―― キィィィィィン
(耳鳴りかな?)
不意に耳を襲った奇怪な音。
ついで感じたのは激しい発光。
誰かの叫び声がした、だが誰のものかはわからない。
周囲の音が遠ざかる様に消えて行く。
(まずい、さっきの悲鳴は誰だっ)
「「「「「「先生っ」」」」」」
生徒たちが呼ぶ声が、聞こえた。
―
――
―――
背中に硬い平面状の物を感じる。
どうやら、仰向けになっているらしい。
目を開けると、真っ白な空間が広がっている。
(加藤君の本が原因かな)
呆けた頭に、そんな考えが過った。
途端、最後に耳にした声を思い出す。
身体に力を込めて一気に置き上がる。
「みんな、無事か!」
それは、自分でも驚くほどの大きな声だった。
周囲を見回しても誰もいない。
そこにあるのは、ただただ白い空間。
「貴方様ひとり。それ以外の方はお呼びしていません」
そこへ、凛とした聞き覚えの無い声が響く。
振り返ると、"誰も何も無かった"はずのそこに、
笑みを湛えた女性が静かに佇んでいた。
彼女は、混乱する私に女神だと名乗りをあげる。
まさかと笑う私。
事実なのだから、仕方が無いと笑う彼女。
訝しむ私に、凄腕のマジシャンのように放電現象や、発火現象を見せ、
自分の身で味わってみるかと問われた。
そして、異世界へと渡り魔王を討伐しろと口にした。
「貴女が神、または人の範疇を超えた存在と言うのは理解しました。
ただ、私は只人。その上、大切な妻も子供もいます。
そして、大切な生徒たちもいる。
貴女のいう魔王と言う存在を倒せと言われても、ご期待に添えぬでしょう。
だから、私を…「元の世界へ戻してくれと」…そうです」
「出来ぬ相談だ」
そう素気無く拒絶された。
何故と声を荒げる私に彼女が告げた、その理由は2っ。
異世界から人を招くには、多大な魔力と言う力が必要になる。
その必要量を捻出するための動員数は私が生まれ育った街の総人口の約半分。
神を自称する彼女であっても、到底用意できる物ではない。それが1つ。
そしてもう一つ。
"これ"を成した者は、私が赴く先の世界の住人だと言う。
呼び出した者の儀式、様式がどの様な物かが分からなければ、
例え必要分の魔力があっても不可能だと告げられた。
「"彼の世界"への帰還を求めるのならば、召喚した者たちの願いを叶え、
その上で、協力を乞うしか道はない」
最後にそう告げた神を自称する女は、口元に柔らかな笑みを湛えた。
私の目にはその笑みが醜悪に写った。
「女神…悪魔か何かの間違いではないのですか?」
最後の皮肉は効果があったようだ、
最後に目にした彼女の表情は歪み、醜悪に見えた。
―
――
―――
それからどれだけ時間が経過したのかは分からない。
やや、眩しさを感じながら目を開けた。
「ようこそ、勇者さま」
そう白い法衣を纏った若い女性が笑みを浮かべた。
一瞬、随分と大柄な女性がいる物だと驚いた。
だが、本当に驚くのはこれからだ。
「あぅあ(キミは)」
慌てて自分の手を見る。
紛れもない赤ん坊の手だった。
「あいあああ(ふざけるな)っ、ああぃ(あの女)っ」
身動きも取れぬまま、中世ヨーロッパを思わせる寺院で過すことになる。
親のいない子と敬われ、崇められる一方で、
魔王との聖戦に備えるため、武術、魔法の厳しい教育が施された。
魔物を殺し、時には罪人を殺した。
"元の世界"への思いが、私が完全に壊れる事を許さない。
ただ、救いの時間もあった。
乳母代わりの巫女。
この世界に初めてきた時に目にした女性。
彼女はとても聡明で良心的な人物だった。
言葉を操れるようになった私が吐露したこの世界への怨嗟。
今思えば、聞くに耐えない内容だったに違いない。
だが、彼女は純粋に私の心を気遣い、そして涙してくれた。
そんなある日、法王と謁見する事になる。
私は意を決して、法王へ訴えた。
―― 帰りたいと、私を帰してくれっ
だが、返ってきた答えは望む物ではなかった。
曰く、送還方法については研究を進めることを約束する。
曰く、魔王がその方法を秘匿している。
それらは、想定していた最低の答えに限りなく近い物だった。
解明されていない片道切符を用意にしようする愚か者。
「魔王が秘匿などするものか・・・俺に帰って欲しいのは向こうだ。
その方法を秘匿する理由がないだろっ」
怒りに任せて、そう叫び。
法王を一瞥して退出した。
女神なのか、この法王なのか、はたまた両方か。
私を帰す気などそもそもない事を理解した。
そして同時にこうも思う。
"送還方法がわからない"もしくは"送還方法がない"のではないか。
その事を思うと足下から全てが崩れてしまうようで怖くなる。
気が狂いそうな怒りを必死に噛み殺し、そして飼い慣らそうと決めた。
いつか、この国を出る。
そのためには力が必要だ。
帰還方法は自分で探し出す。
私は覚悟を決めた。
そして、八年の歳月を経てこうして私は法国を出て、
隣国であるオーカスタン王国の地を踏んでいる。
「女神崇拝の法国が敵認定する魔王か…会ってみたいな」
後に狂王と呼ばれ、法国に恐れられる彼は1人呟き歩きだす。
ゴブリンの骸の山は、そんな彼の背中を静かに見送った。
彼はこの先、出会うであろう。
異世界から来た顛末を知り、己が事の如く、怒りを発露してくれる3人の友と。
彼らはこの先、出会うであろう。
若い彼らの行く道の険しさに、心を痛め、叱咤し、共に歩んでくれる信じられる人と。
また、彼らは出会うであろう。
自身生まれた境遇と自身が手に入れた力があまりに強大でそれに苦しむ魔王と。
そして、手をとるだろう
愛すべき肉親が狂気に魅入られ、己の手で止めたいと叫ぶ彼女と。
そして、知るだろう。
"帰還できない"と言う現実を。
だが、今も彼は諦めてはいない。
愛すべき家族のため。
生徒たちと再会するため。
そして、彼は出会う。
この世界で唯一、彼を先生と慕う生徒に。
2019/10/18
大幅に書きなおしてみました。
改行も増やし、見やすくなったら光栄です。
あ、当然ですが、内容の変更はございません。




