不覚
けたたましいクラクションと、ブレーキの音。
タイヤの焼け焦げる嫌な臭いのあと、激しい衝撃が体を襲う。
気が付いた時には道路に投げ出された体があった。
「この野郎!」
罵声を浴びせる運転手は、俺のことよりも自分の車に傷がついていないかを先ず確認していた。
俺は直ぐ起き上がり、元居た森に逃げ込む。
そうしないで横たわっていたら、次に運転手からとどめの蹴りを喰らうのが、その言動で予想できたから。
森に身を潜めて、体の具合を確かめた。
少し背中が痛む。
だけど幸い大事には至っていないようだ。
俺を跳ねた運転手は、しばらくバンパーやフロント周りの傷を確認すると運転席に戻り車を発進させた。
車が去り様子を窺うと、ユキはもうグラウンドには居なくて、車に付けられた格子状のドアが閉められるところだった。
“チャンスを逃した”
そう思って直ぐに思い直した。
“まだチャンスを逃したわけではない”と。
ゆっくりと動き出すユキを乗せた車。
今度は慎重に道路の確認をして、その車の後ろに回り込む。
格子にユキが掴まって叫ぶ「来ちゃ駄目!」と。
あの格子に飛びついて、鍵を開ければ俺の勝ち。
勝利は直ぐ目の前にあるはずだった。
格子に飛びつこうとしたその瞬間、車は動き出す。
一瞬タイミングを逃して飛びつけなかった。
途端に車は勢いよく走り出した。
「逃がすものか」
俺は必死で車を追う。
ちくしょう。
さっきの事故で痛めた背中が悲鳴をあげる。
それでも俺は車を追った。
走っても走っても、車との距離は近づくどころか、逆に離れて行く。
それでも走ることを諦めない。
しかし、激痛と酸欠で目の前が真っ暗になり、ついに道路に横たわってしまった。