再会
正門の向こうにあるのは来客者用の広い駐車場だが、平日のこの日は、その車もまばら。
車に乗せられて、男の家に向かうものだとばかり思っていたら、男は駐車場を通り過ぎて、その向こうにある運動場に向かった。
“オイオイ、いきなり何のトレーニングをさせようって言うのかい?”
そう思いながら男の顔を見上げていると、男は大きな声で誰かを呼んだ。
満面の笑顔で、長い手を振り回して。
男の顔が向いているほうに目を向けて驚いた。
“あの女だ!ユキを連れて行ったあの女”
更に良く見ると、投げられたボールを追いかけて行く白くて可愛い後姿。
“ユキだ!”
「ユキー!」
大声で叫び真新しい赤いロープを引っ張ると、男も俺の歩調に合わせて走り出す。
俺の声に気が付いたユキもボールは放っておいて一直線に駆けてくる。
「アキラ!」「ユキ!」
猛烈に再開を喜び合う俺たち。
男と女は、そんな俺たちをベンチで腰掛けて眺めていた。
「結婚してからだと一匹しか貰えない所だったけど、結婚する前にこんなに仲の好いカップルに出会えるなんて素敵だわ」
「俺たちの新婚生活同様に、彼等もまた同じ家で新婚生活を始めるのさ。ところで、名前なんにしたの?」
「ユキよ。色々考えたんだけど、ユキ以外は全部この子に却下されちゃった」
「いいねぇ。白いスピッツ犬でユキ。可愛いじゃないか似合っているよ」
「あの子の名前は?」
「ミックス犬だけど、運動神経が凄く好いからイチローなんてどうかな?」
「フフフ。よくあの子と相談する事ね」
この家に引き取られて、いつの間にか二年。
ついこの前まで、俺たちと同じように四つ足で歩いていたサユリも彼らと同じように立って歩くようになった。
サユリは何度言っても、物を散らかすのでいつも俺とユキが片付けている。
それから年に数回、あの収容所……いや、正式名称は動物愛護センターにも行くんだ。
監視人じゃなくて、職員さんたちも俺たちの事を覚えてくれていて行くたびに喜んでくれる。
俺がユキを助けるためにウ〇チしたときにリードを放したドジな職員さんは、今じゃ立派な獣医さん。
行くたびに俺とユキの事を可愛がってくれる。
「コダイ君もユキちゃんも相変わらず健康そのものね」
獣医さんに呼ばれた俺の名はアキラではなく、コダイだ。
小鯛?古代?
どうも人間界では、ユキの彼氏はコダイってことになっているらしい。
幸せなら名前なんてなんだって良いじゃないと、ユキが寄り添ってきた。
読んで下さり有難うございます。
直ぐに気が付かれた方もいらっしゃるかと思いますが、このお話はどうしても犬目線で進めたかったので、このように回りくどい表現を使っちゃいました。
実は我が家にも犬が居ます。
ラリーって名前です。
老犬で、今年になってから急に三半規管がおかしくなって、立つことも座る事も出来なくなりました。
入院も二週間しましたが症状は良くならず、今は自宅療養で毎日点滴を打っています。
三月になった頃、獣医の先生から安楽死も出来ると言われましたが、ラリーはまだ介護職を自分で食べます。支えは必要ですが生きようとしています。
だから私たち家族も、この家族のために頑張ります。
これから犬や猫を飼おうと思っていらっしゃる方がいたなら是非一度動物愛護センターにも立ち寄って、この物語のユキやアキラのように救える命を繋いでみて欲しいと思います。
話が逸れてしまいましたけど、最後まで読んで下さったこと誠に有難うございました。




