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左端と右端の意味
鉄格子に額を付けて左側に聞いてみたが、何も返事がなかったので今度は右側に聞いてみた。
“ユキの事を教えてくれ”と。
すると暫くして左側から返事が返って来た。
「君、あの子の知り合い?」と。
“そうだ”とだけ答えると、相手は俺の返事などどうでも良かったように話を続けた。
「あの子は、もう永くないよ」
“永くない?”
「ここに来てから、何度も奴らに歯向かっていてね、この前の……ほら君が掴まった時の野外活動でもあの子は反抗的でね、今や地獄の一つ前の檻だと言うのに可哀そうに。そうか彼女ユキって名前だったのか」
「地獄の一つ前の檻?」
聞き返した俺に隣の奴は教えてくれた。
この檻が命の期限順に並んでいることを。
つまり、俺は入ったばかりなので一番左端の独房に居る。
だから左側に話し掛けても、誰も居やしないから返事も返らない。
そしてユキは一番右端。
その向こう側は、もうない。




