負け犬
去年の7月からズーっと「さよならロン。また会う日まで」を連載しています。
今回は少しコーヒーブレイク的な短編に挑戦です。
「さよならロン。また会う日まで」共々、どうぞ宜しくお願いいたします。
俺は逃げた。
結局、何も抵抗できないまま、捕まったユキを置き去りにして逃げた。
「きっと助けに行く」
なんて言葉は、逃げながら叫んでも嘘にしか聞こえない。
本当に助けたいなら、敵わないと分かっていても戦うべきだった。
だけど俺は、逃げてしまった。
幸い、木々が生い茂った森は逃げるのに好都合で俺は難なく逃げ遂せた。
奴らに捕まったら実験的な手術をされ、概ね一か月ほどで殺されると噂で聞いたことがある。
つまり本気でユキを助けるなら余り時間は残されていないと言うことだ。
暗い森の中に身を潜め、ユキを助け出す方法を考えた。
有効な救出作戦など、いくら足搔いても思い浮かばない。
一日中考えても、何も妙案なんてない。
そして、二日目になると救出作戦を考えるよりも、ユキとの楽しかった日々を思い出していた。
色白でクリッとした大きい瞳が可愛いとか、スッと鼻筋が通っているのが少し生意気に見えるとか、口角の上がった口がそれを相殺して、これがまた可愛いとか。
華奢な体つきと柔軟な身のこなしは誰から見ても美人に見えるとか。
つまりは現実逃避だ。
何も食わずに身を潜めていた三日目には、ただ腹が減ったことばかり考えていた。
空腹に襲われて、ひとつだけ思うことがある。
それは、命を捨てても君を救うなんて言葉は嘘だと。
そして四日目の今日は、空腹のあまり何も考えられなくなった。