6.ジャンル別の作品数
ジャンル別の解析ですが、まずジャンルごとの作品数を掲載します。
それぞれの特徴や人気の有無については次話以降で取り上げます。
ジャンルごとに作品数は大きく異なります。しかも10万文字以上に限定すると、その差は更に広がるようです。
なお、以下のジャンル分けでは「異世界転生/転移」を区別していません。そのため各ジャンルには「異世界転生/転移」に該当する作品も含まれています。
表27: ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~)
※塗りわけ例
なんと四割以上がハイファンタジーという結果になりました。これに恋愛の異世界と現実世界、ローファンタジーを足すと、74%です。
ただし文字数の制限を撤廃して連載小説と短編小説の双方を足したもの、つまり『なろう』全体を対象にすると随分と異なります。
表28: ジャンル別の作品数(文字数制限なし,連載小説と短編小説の双方含む)
※2018年3月下旬取得
今度はハイファンタジーが24%少々、恋愛の二つとローファンタジーを足しても58%少々です。
このデータは2018年4月1日に公開した下記作品に用いたものです。
作品群の多様性とは? 『小説家になろう』をカクヨム、アルファポリス、エブリスタと比較してみた
上記は『なろう』の多様性が他の三つに比べてあるか否かを調べたもので、その評価基準に『Simpsonの多様度指数』というものを採用しています。
これは数値が1に近いほど多様度が高く、0に近いほど低いというものです(詳しい説明は上記作品にありますので、一読いただけると幸いです)。
表28のSimpsonの多様度指数を計算すると0.873ですが、表27の「連載中&完結済み」は0.772です。つまり数値でも多様度が大幅に低くなっていると分かります。
10万文字以上の小説は、昔からハイファンタジーが多かったのでしょうか?
ここでは今までに用いた期間別の区分で推移を確かめてみます。
表23(再掲載): 時期の区分
※調査時点の2018年5月上旬だと、最新作品のNコードは「N0000EU」より少し後。
以下では、初期、勃興期、直近一年の三つを表として掲載します。
なお表の下に恋愛とファンタジーの推移をグラフで示したので、概要のみを把握したい場合はグラフまで進んでください。
表29a: 【初期】ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~)
※「連載中&完結済み」のSimpsonの多様度指数=0.836
表29b: 【勃興期】ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~)
※「連載中&完結済み」のSimpsonの多様度指数=0.816
表29c: 【直近一年】ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~)
※「連載中&完結済み」のSimpsonの多様度指数=0.751
どうやら最近になるほど、ハイファンタジーの率が上昇しているようです。それに多様度も徐々に下がっています。
そこで推移をグラフにしてみました。ただし多くのジャンルは率が非常に小さいので、恋愛とファンタジーのみを掲載しました。
図34a: ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~)
図34b: ジャンル別の作品数(連載中10万~)
図34c: ジャンル別の作品数(完結済み10万~)
グラフを見る限りでは、ハイファンタジーは伸びているものの他三つは横ばいか微減傾向です。もっともハイファンタジーも直近一年は微減なので、傾向が変わりつつあるのかもしれません。
今までの調査では、一定の評価を得た作品(上位25%)と全体で傾向の差が出る場合がありました。
そこで今回も、上位25%(総合ポイント770以上)に限ったデータを示します。
表30: ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~,上位25%)
※「連載中&完結済み」のSimpsonの多様度指数=0.726
ますますハイファンタジーに集中して47%を超え、恋愛とファンタジーの合計も80%を超えています。それに多様度も全体のとき(0.772)より下がっています。
つまり上位になるほど特定の傾向が強くなるようです。
それとSFのVRゲームが全体より率が高くなっています。全体では2%~3%程度でしたが、上位25%では倍近くなりました。
では上位25%に限定した推移はどうでしょうか?
まず全体と同様に初期、勃興期、直近一年の三つを表として掲載します。
こちらも表の下に恋愛とファンタジーの推移をグラフで示したので、概要のみを把握したい場合はグラフまで進んでください。
表31a: 【初期】ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~,上位25%)
※「連載中&完結済み」のSimpsonの多様度指数=0.776
表31b: 【勃興期】ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~,上位25%)
※「連載中&完結済み」のSimpsonの多様度指数=0.771
表31c: 【直近一年】ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~,上位25%)
※「連載中&完結済み」のSimpsonの多様度指数=0.727
やはりハイファンタジーが徐々に増えていると分かりますが、全体に比べて恋愛の異世界の率が高いようです。ただ多様度の低下は全体より激しく、特定傾向への集中が著しいことに変わりありません。
なお、こちらでも徐々にSFのVRゲームが率を伸ばしている様子が窺えます。
図35a: ジャンル別の作品数(連載中&完結済み10万~,上位25%)
図35b: ジャンル別の作品数(連載中10万~,上位25%)
図35c: ジャンル別の作品数(完結済み10万~,上位25%)
ハイファンタジーへの集中が目立ちますが、全体に比べると上位25%では恋愛の異世界が健闘していると分かります。特に完結済みに限ると、ハイファンタジーに迫る勢いです。
このことは恋愛の異世界の完結率が高いことを意味しています。それも最近の作品になるほど完結作品に占める率が上がっています。
これをどう読み取るかですが、大きく分けて以下の二つが考えられます。
1.恋愛の異世界は、ハイファンタジーに比べると完結させる作者が多い。
2.恋愛の異世界はハイファンタジーより短めで、早く完結する作品が多い。
ここではどちらとも、あるいは全く別の要因とも判別できません。そこで次回以降の課題とします。
ジャンル別で纏めると、ハイファンタジーの多さが際立ちました。しかも文字数や連載/短編の区別がない全作品と比べると明らかに突出しています。
これは以下の原因が考えられます。
1.ジャンルによって長く書きやすいもの、逆に難しいものがある。
2.多くの作者はハイファンタジーを人気ジャンルと認識しており、作品数も増える。
個人的には双方あると思います。
1ですが、ファンタジーに多い冒険を主体にしたものなら次の冒険、その次の冒険と書き進められます。それに対し恋愛であれば、延々と擦れ違いで引っ張るなどしなければ難しいでしょう。
推理小説も謎解きまで何巻も待たせるなど考えづらいです。もっとも連作推理小説として幾つかの話を続けていくことは可能だと思いますが。
2に関しては総合ランキングなどを見ればファンタジー系が多いと見当がつくでしょうし、コンテストでもファンタジー系の書籍化は多そうです。しかもコンテストの条件に10万文字以上と入る場合も多々ありますから、自然と10万文字以上のファンタジー作品が増えていきそうです。
もっとも今回は作品数でしか見ていません。そこで次回は更に幾つかの項目を取り上げ、ジャンルごとの違いを探ります。
次回はジャンルごとの特徴です。
今回取り上げた多様性に関する作品ですが、以下にリンクを作成しました。ご興味のある方は、ぜひご覧になってください。




