ダブリス国と赤き悪魔 3
ダブリス国というこの国は、正式名称はダブリス・ユエ・ドルヴェ国という。
元々は、傭兵いえ・・海賊・・・ええーとならず者。
とにかくあまり良い言葉では表せない人々の集まり豪族だったものが、いつの間にか国という体裁を持つ事になったのは、既に200年以上前の事になる。
国の成立ちがそういう人間の集まりだからか、異様なまでに戦争に強かったとここに説明する、だが本当は、たった一人の男がテキトーな感じで指揮を執ったら国ができちゃったという建国記を読んで、あんまりだと思ったのは私が齢8を過ぎた年の事だったりする。
このテキトーにの血を継いでいるのが、現国王であるフランツ・ユエ・ダブリス陛下。
そしてそんな彼の姉であったのが私の母アイエス・ホップキンス・ダブリス。
美しいリコリスを思わせる鮮やかな赤色の髪、それに負けない程の輝きを持つエメラルド色の瞳。
傾国と謳われる程の美女である彼女を巡る戦争があったというのは、嘘のような本当の話。
20年以上前の話らしいのだが、ダブリスを囲む4国の国がそれぞれに彼女を望み、そんな彼等に彼女は極上の笑みで告げた。
『ダブリスに最も貢献する国に嫁ぎましょう』と。
そんな条件を立てたのが悪かった。彼等は、その意味を測り損ね互いが互いに争い・・最後には戦火を生むとは誰も想像さえできなかった。
まさかコレこそが彼女の目的であったと知るのは、彼女を娶ったホップキンス伯爵だけである。
彼女は、まさしく傾国の美女であったのだ。
ただそれが自国でないだけの毒華。しかも一国では足りず周囲4ヶ国を巻き込む程だった。
伯爵の地位を持ちながら、陸軍の総司令の地位も持っていた父は、彼女の本質を知りながらも彼女自身に望まれたのと、王からのたっての望みにより彼女を妻に娶る事になる。
その際には、公爵という地位を得ようとは、思いもよらなかったと父が嘆くのを私は短い18年の人生で3度聞いている。
さて元々が好戦的な性質を持つこの国は、他国との小さな小競り合いの絶えない大きな軍国家となった。(ものすごくオブラートを使用して表現すると)
だがここ数年らいには大きな戦争は起こってない。
母を巡るくだらない戦争を数にいれなけらば、約40年は、国を揺るがす戦争はないのだ。
それは何故か?
その理由はたった一つ。
ダブリスには国を守護する赤い悪魔が憑いているというのが周辺の国に知れ渡ったからだ。
その一人が先ほど話した通り、私の母アイエス・ダブリス・ホップキンスその人だ。
赤髪をなびかせて歩く彼女を自国の民は、”赤のニケ„と呼んだが隣国では彼女を“紅の魔女”と呼んだ。
彼女の髪と元々類まれなる魔法力を持つ母の特異魔法よりそう呼ばれている。
そして“赤のニケ”は自身の手腕により夫を公爵にまで押し上げ、彼との間に3人の子を授かる。
自身と同じ赤髪の子を。
数十年後
彼等はそれぞれに通り名を持つ事になった。
”紅帝の魔王"“赤黒の悪魔”“ホップキンスの悪姫”
三人ともあまりよい通り名とは思えないモノだがこれが全て誤解から生まれた通り名だったりする。
そして最後の悪姫という名を持っている私は、唯一母の赤髪を継がず、父と同じプラチナブロンドを受け継いだ。
だが容姿は母の若い頃に良くにていると言われて、ある意味一番の有望株という訳である。
だから、傾国なんてしません。
国を滅ぼすなんてしません・・・、私は母ではないの。
そう何度も周囲に伝えようと努力はした。
期待しないで下さいと。
だが未だその努力は報われる事がない。自領の民ですら、私を母と同じ“白銀のニケ”と呼び、周囲の令嬢たちは、私のために様々な事を画策してくださる。
時には、それが行き過ぎる事もしばしば・・・それに振り回される事18年。
私の人生は、たくさんの波乱に満ちているのだ。
平穏がほしいと思っても、公爵令嬢という自身の身の上のためにそれは難しい現状である。
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思考の海に溺れようとも、私の体は、完璧なステップを踏んでいる。
15年以上受けてきた貴族の子女教育の賜物だ。
たくさんの思惑が渦巻く社交界の中。
私は現在渦中の中心に身を置いている。
原因は、目の前の王子様だ。
私の従兄弟でもあるのだが・・・彼は、王妃様ソックリの天然タラシの性質を存分に発揮してくださって、現在他国も含めたくさんの令嬢から一身に注目と好意を向けられていらっしゃる。
だがそんな彼は、全くの無意識に私という地雷原を選ぶ事が多い。
「やっぱり・・君が一番踊りやすいなぁ」
「5歳から相手を務めておりますから」
「うん・・うまくなったよね、僕ら」
そんな風にほほ笑まないで下さい。周囲のご令嬢が次々と倒れてますよ、脳性貧血は安静が第一です。
あなたの魅力で。
傾国というのはまさに目の前の人を言うのだ。
最高級の金糸とそれに負けない緑柱石。
沁み一つない白磁の肌にバラ色の頬。
最近は、少年から青年期の合間にある独特の艶まで身に着けてきた彼に誰もが魅了されてしまうのだ。
ここ数年は侍女までが、仕事が手に着かないような事態にまでなってきている。
「どうかしたの?」
黙ったままの私に彼が気遣わしげに首を傾げた。
・・・現在のこの国の内情を彼は知っているのだろうか。
彼の選択一つで大きく変わるであろう世界の政情。
本人は無自覚。
この国の先行きが未だに定まらない中、私は公爵令嬢としての使命に駆られている日常だった。
そんな私を・・他国ではホップキンスの悪姫と呼ぶ。
これにはたくさんの事情と誤解があって、私自身この名を背負うことを不名誉だと知っている。
だって、私は他国へ嫁いで、多くの益を生むための・・令嬢であるべきなのだから。