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どうしてですの?2

今夜は、舞踏会。

貴族という地位を得たものにとって、ここは戦場と言える。

豪奢なシャンデリアが煌びやかに照らし出し、美しい音楽と豪華な料理も並び自身を着飾る事で武装する人間がひしめく大広間。

喧騒の中には、情報と商才を持つ人間や、権威と財力を持つ人間・・その内に秘める悪意と好奇心と善意。


そしてそんな戦場を楽しめと上座より告げた王が、王妃様と談笑しているのを、私はただただぼーっと見つめていた。


「久しぶりだな、ココット」


そんな私にかけられた声。

まだ少年と青年の合間にあるその方は、美貌の王妃様の容姿をしっかりと受け継ぎ、陛下のおおらかな気性を受け継いだある意味理想の王子様の体現者であった。


「はい」


「今宵は、随分と落ち込んでいるね。どうしたの?」


ほんわりと微笑んで、そっと飲み物を差し出す姿に周囲がため息を吐いた。

彼はそんな周囲を歯牙にもかけず・・いやその姿も日常の風景として受け流す事に慣れていた。


「いいえ、なんでもありませんわ・・・ありがとうございます。」


そう返してグラスを受け取る。

本当に私を心配してくれたのだろう、差し出された飲み物は私の好きなピンクのシャンパンだった。

本当の事など言える筈がない。私とあなたの中を勘違いして令嬢の一人があんたが先日茶会でお声をかけたリリス様の毒殺を企てたなんて・・・とてもいえない。


純粋培養のこの人には。


「君にとって僕は、相談もできない相手なの?」


そんな捨てられた子犬のような目をなさらないで。

ついつい声をかけてしまうでしょう。


「違いますわっ・・・その・・・おっ乙女には色々ありますの」


焦って変なフォローになった。


「乙女・・・確かに君は、女の子だしね」


おう、さすが天然。おかしな返しにそれでいいのか。


そう、我が国の王子は、天然王子です。

ほんとに将来が怖いと思う今日この頃・・・。今夜の舞踏会はこの王子のために開催されていたりする、王子と年の近い令嬢を集めて、その中から将来の国母が選ばれる筈なのだ。


「・・・それよりもアレクシア様、今宵のお相手をお決めになられましたか?」


「相手?・・・あぁ、ダンスなら、父上は確かドルテ家とフォーメン家・・・後セレス家のご令嬢を選べって言ってたよ。あっ君でもいいって。」


「陛下が?」


「うん。」


彼はそう言ってほほ笑む。

まさかの人選だ、他国にまで悪姫の名を轟かせている私までもまさかのご指名ですか、陛下。

外交には不向き過ぎる人選ですよ。


まさか兄上の差し金かしら。

現在王の護衛として近衛の総指権を持つその人は、敵国から『赤黒の悪魔』と呼ばれていた。

10年前の初陣で敵の血に全身を赤と黒に染め、たった一人で捕虜となった同胞を救い、その後逆に敵陣を一つ責め落とし、捕虜を捕縛し、その身を返還する事なく八つ裂きにしたという逸話がある兄である。


実際は少し違うのだが。諸外国ではそういう風な武勇が語られる。


「私は、御止めになられた方がよろしいかと思います。」


「何故?」


「・・・アレクシア様、もうそろそろお時間ですが」


2人の会話を断ち切ったのは、彼の従者であり、私の従兄弟でもあるエリオット・フラヴァンだった。


「エリオット、もうかい?」


「はい。ご歓談中に大変申し訳ありませんが、陛下より申しつかっておりますので」


「エリオットお兄様、私の事はお気になさらず、速く王子を」


お連れしてという言葉は呑みこむ事になった。

何故ってそれは、王子が私に向かって手を差し出してそっとそのこうべを垂れたからだ。


「っ!!」


ちょっと何をなさってますの王子。


「私と一曲お願いできますか?ココ」


ああああああああああっ!!なんてことをしてますのとそう内心叫びを上げたがそれを漏らす事はできなかった。

衆目の視線が集まり、私とそして王子を見つめる。

ここで断ってしまってもいいかしら・・・そんな出来ない事を僅かに考えながらも、それは現実が許さないとひしひし感じる殺気の篭った視線達からのプレッシャーが来る。


期待と羨望、嫉妬、憎悪の感情が周囲を覆い尽くす。

貴族とは恐ろしい者だ。

たかだが、生まれ持ったその地位が私を苦しめる。


「・・・はい、喜んで」


(訳)マジで勘弁して下さい。


内心の悲鳴を震える指先だけが表しているのに、それを見てクスっと王子はほほ笑む。


「緊張しないで、ココ。久しぶりにダンスしよう?」


完璧な誤解を有難うございます。なんて言えるかと思いながら、彼に笑みを返す事しかできなかった。

私達の周囲がだんだんと人が道を空けて行く。

そして愛称でも呼ばないで下さいませ。


ダンスホールの中央にまで完璧なエスコートで導かれた。

痛いです、皆様、そんな突き刺すような視線は止めていただきたい。


せめて陛下がどうにかしてくれまいかと思い玉座を恐る恐る見上げれば、王妃様と仲睦まじく談笑をしていらっしゃる。

ちょっと!!大事な場面で何をしてるの王様・・いえ叔父様。


私の声は決して彼等には届かなかった。

そして目の前には、微笑を浮かべる天然王子。


無情にも今宵の楽団が曲を奏で始める。

周囲は、それなりに年の近い少女と男子がこちらの様子を伺いながらも、互いに牽制をしてダンスを始めていた。


なんでこんなことに。

ほんとなら、私ここに居なかった筈なのにっ!!


そう本当なら体調不良を理由にこの舞踏会には出ない筈だったのだ。とんでもないハプニングというか事件が起きてしまったので無理だったが。


全ての元凶である王子は天然。


美しい所作で、誰もが憧れる王子様が私に差し伸べる白磁の手。


抗う事は出来ないそれに覚悟を決めて、そっと手をあずける。

柔らかに引かれて、その腕の中に体をあずけるのは、久しぶりだった。

端正な容姿の彼に心から思う。

何故私を選ぶと・・・。


数多の少女や面の皮の厚い狸や狐共が忌々しいという風に私に視線を送るのが分かる。




・・・どうしてこうなるのですの!?










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