第9話 water
私は長椅子に横たわっていた。
動けない。
でもやっとの思いで一口、ペットボトルから水をすする。
だめだ、頭が回る。
目が回る。
「一体、どういうつもりなの?!」
ミヤの尖った声がする。
「すみません」
と小さく謝っているのはエイスケだ。
本当は「まぁまぁ」とミヤを止めたいところだけど、
私はすきっ腹に入れたビールで結構酔っていたところに、
音楽に合わせて会場内を歌い踊り出した列にひっぱりこまれ、
これ以上どうにもならないほど酔いが回って動けなくなっていた。
ミヤは私のことをとても心配している。
あれほどボロボロになった私を知っているので、
ショコラティエのこともギャンギャン怒っていたし、
フエフキのこともあまり快く思っていない。
「もうこれ以上、サラがボロボロになるのを見たくないのよ」
そう言わせるくらいだったし、
ミヤがいなかったら、私は今でもビール祭りに出かけようとはしていなかったかもしれない。
だから、ミヤがエイスケのことを警戒して、声を尖らせているのもよくわかる。
「サラにもっと楽しくなってほしくて」
エイスケは言葉を続けている。
「あなた、お酒を飲んでもいい歳なの?」
ミヤの怒りを抑えた声も続く。
「うん。誕生日がきたから大丈夫になりました」
ぐるぐる回る頭でぼんやりとそんなやりとりを聞いている。
そうか…
エイスケはお誕生日だったのね。
おめでとうも言ってないわ。
知らなかった。
と、そこまでで思考は止まった。
うーん、気持ち悪い…
私は真っ赤にほてったほっぺに水のペットボトルを当て、横になっているしかなかった。
ほんとは水が飲みたい。
ごくごく飲んで、すっきりしたい。