007. 風を奏でる者
フエフキが私をちょくちょく訪ねるようになったのは、あれから2年くらいしてからだった。
まだふらついていた私に驚き、あのときは2週間ぐらい私のそばにいた。
「まさかこんなになっているだなんて」
エフキはかすれた声で言った。
フエフキとはあだ名で本当の名前があり、何度か聞いたけど到底私には発音できる名前ではなく、みんなが呼んでいる「フエフキ」と私も呼ぶようになった。
彼の名前の意味は「風を奏でる者」なのだと、教えてもらった。
その名の通り、彼は一つ所にいると落ち着かなくなり、また一度訪れた場所には滅多に行かない。
そんな彼が4~5カ月に1度、私を訪ねてきて2日くらいで旅立っていっていたのが、最近は2~3カ月に1度、それも1週間近く滞在することが増えてきた。
本来なら、もっと遠くへ、風の渡る草原で笛を吹きたいんだろうなぁ、と思いながらも、どうしてこんなに来るのかは気にはなるが尋ねたことはない。
この間、
「まだ待っているのか?」
と聞かれたのは、本当に驚きだった。
次の日、なにかの拍子でまたその話題になった。
前の日、自分でもよくわからなくなっているのだと答えたけれど、まだもっと言いたくなった。
「男の人って、黙って行っちゃうのよね。
私は聞きたいことがあるのに、聞いても
『ごめん』
って言うだけで、そのままいなくなっちゃうの。
私の質問には答えてくれないし、
なにに『ごめん』なのかもわからないし、
もやもやして、
むしゃくしゃして、
すっきりしなくて、
持て余して、
動けなくなっちゃったの」
それを聞いたフエフキはぷーっと吹きだすと、苦笑いに変えて言った。
「まぁ、俺もそのクチだからなんとも言えないな」
そうよ、フエフキ。
あなたは私のことが心配でふらりと来てふらりと去っていって、それはそれであなたの優しさなのだと、本当に心配しているのだと知ってはいるけど、去るたびに私は寂しくなって、次はいつかと待ってしまうの。
いつ来るかわからず、いつ去るかわからない友達を待ってしまうの。
たまにあなたは彼を責めるように言うけれど、あなたも同じなのよ、フエフキ。
「笑ってないで、なんとかしてよ。なんで男の人ってそうなの?」
フエフキはにやにやしたまんま。
そうやってまたごまかして、問い詰めたら「ごめん」って言って、どこかに行っちゃうんでしょ。
私は面白くなくて、つーんとそっぽを向いてやった。
フエフキは素知らぬ顔をして空になった自分のグラスにワインを注ぎ、ちびちびと飲んでいるだけだった。