005. はんぶんこ
私に紙袋を届けてくれた男の子とは、ほどなくして再会した。
彼は日曜日の朝のマーケットで果物と野菜の店の手伝いをしていた。
ほしいものがあるから、とお金を貯めているらしい。
ほしいものについて聞いてみたが、
「秘密」
と言って、教えてはくれなかった。
開店時の忙しさがひと段落し、昼前の片づけになるちょっと前になると彼は15分程度の休憩をもらう。
幸運にもその時間帯に会うと、私たちはおしゃべりをするようになった。
「はい、サラ」
エイスケは自分の店で買ったバナナを半分に切って私にくれた。
バナナ1本、たまねぎ1個から量り売りをする店だ。
たまに店の主人がちょっぴり傷のついた果物をくれるときがあった。
エイスケは必ず、私に半分くれる。
最初は遠慮していたけれど、最近は押し問答になるので素直に受け取って食べることにしている。
その代り、と言ってはなんだけど、果物と野菜はこの店で買うようにした。
初めてエイスケとマーケットで会ったとき、あの紙袋の中身のことをとても知りたがった。
そして、贈り主のことも。
私は淡々と答えたが、なにか物足りないらしく思い出したようにそのことについて聞いてくることがある。
今日も噂になっているお菓子屋さんについて話していたら、その話題になった。
「あのショコラティエはサラの恋人だったの?」
「ううん。恋人にもならなかったわ」
「でも最初、あの紙袋の中身は絶対指輪だと思ったんだよ」
そう、ちょうど指輪が入るくらいの箱と、上等でつやつやした紙袋。
贈り主はショコラティエ。
「チョコレートだったんだよね」
「そう。だって彼は新作のオレンジのチョコレートに使うオレンジを見つけるためにこの街に立ち寄ったんだもの」
そう、私にはちょっぴり苦い思い出。
「エイスケ、そろそろ時間だ」
店の主人の声がした。
エイスケはまだまだ聞きたそうだった。
いつもならこれでさよならするのに、今回は違った。
「サラ、もっと話がしたいよ。いつか会ってくれない?」
エイスケと話をするのは好きだ。
迷いがなさそうな勢いでまっすぐのびていく彼は気持ちがいい。
「いいよ」
彼は店の手伝いが終わる頃、ソーダ屋で会おう、と言い残し、店に戻っていった。