003. フエフキ
ふらりとフエフキがやってきた。
私は彼を歓迎し、簡単な料理で彼をもてなした。
食後、二人でソファに座り、ワイングラスを揺らしながら近況の続きを話していた。
ふと、会話が途切れる。
私は何気なく窓の外に視線を遣った。
暗い空には星が出ていたが、月の姿はなかった。
「まだ、待っているのか?」
フエフキの問いが突然だったので、私は何も言わずに彼の目を見た。
今まで一度も聞かれなかったこと。
「さぁ」
私は視線を逸らすとワインを口に含んだ。
「自分でももう、よくわからないの」
諦めのような、捨てきれないような。
「困ったもんだ」
フエフキは苦笑した。
「長すぎるんだよ」
「うん。わかっているつもりなんだけどね…
よくわからないの」
「それが困ったものだ、と言っているんだ。
アイツもオマエも、なぁ」
どうしようもなくて、私は笑ってみせたつもりだったが、顔の筋肉は思うように動かず、くしゃくしゃになった。
「オマエは自由なんだよ」
フエフキは私の肩を抱き、髪に優しくキスをした。
肩の力が抜けていった。
我慢しているつもりはなかったのに、涙がほろほろと流れていった。
フエフキは静かにサンポーニャを吹き始めた。
柔らかく震えるパン・フルートの音色は大空を飛ぶ鳥の様子を吹いていた。
オマエは自由なんだよ。
フエフキのことばが響く。
あんまりにも長すぎて、私にももうよくわからなくなっているの。
私はフエフキのそばで泣きやむことはなかった。
サンポーニャの音色に一晩中包まれていた。