第19話 寂しいよ
その夜、バーのカウンターでエイスケはフエフキと軽く飲んでいた。
「行っちまったか」
フエフキは面白そうに言うと、またアブサンの角砂糖に火をつけた。
「それで、俺に伝言は?」
え?
エイスケは困った。
「なんだよ、あいつ、俺には何も言わずに行っちゃったのかい!」
フエフキは大きく笑った。
が、目が笑っていないのに、エイスケも気がついていた。
「俺も突然言わずに旅立ってしまうタチだからなぁ、仕方ないか」
「寂しいですか?」
「ん?」
フエフキは緑色のアルコールを口に含んだ。
「そうだな。これまではそんなもんだと思っていた。俺も俺が出会うやつもそういうやつばかりだったから」
フエフキは遠くを見ながら続けた。
「やっぱり、サラだけじゃなくて俺も結構こたえていたのかな。
それとも年を取った、ってことかな」
どこを見ているのかわからなかったが、フエフキはこれまでの流れを見ているのだろう、とエイスケは思った。
「寂しいよ」
ヤラレタ!
エイスケは左胸のあたりをつかんだ。
あのフエフキがこんなことを言うだなんて!
この人はサラのことをどう思ってる…?
黙ってしまったエイスケを知ってか知らずか、フエフキは言った。
「俺も明日、出るよ。
サラがいないなら、俺はここに留まる意味はない。
彼女が帰ってきたら、よろしく伝えておいてくれ」
エイスケはぎこちなくうなづくのが精一杯だった。
エイスケのビールはどんどん泡を失っていく。
フエフキはアブサンをちびちび飲んでいくだけだった。




