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001. paper bag
ドアを開けると、小さな紙袋を差し出した男の子がいた。
その紙袋は上等のつやつやの紙でできていた。
突然のことに驚いていると、
「渡すように頼まれて」
と短く彼は言った。
「誰から?」
彼は困った顔をした。
「名前は聞かなかった。
渡せばわかる、と言われて」
私は紙袋に近づいた。
ほんのりチョコレートの香りがした。
もしかして…
「わかったわ。ありがとう」
私が紙袋を受け取ると、彼はほっとした表情を見せた。
そんな彼にお礼として、テーブルの上の小さなリンゴを渡した。
「いや、お駄賃もらってるし」
と受け取ろうとはせず、ジーンズのポケットを探ると銀色の硬貨を手のひらに載せて、私に見せた。
「1日1個のリンゴは医者いらずよ。
よかったらもってって」
私が少し古めかしいことを言うと、彼は面白そうに笑って、
「じゃあ」
と私の手からリンゴを受け取り、帰っていった。
ドアを閉めて、オレンジの紙袋をテーブルの上に置いた。
さっきより強く濃くチョコレートの匂いがした。
やっぱり
私はそのまま椅子に座った。