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鍛冶師の冒険記  作者: 伯慶
3/9

盗賊退治

 宿屋の主人があまりにも懇願するので、腑に落ちないまま依頼を引き受けた私たち。盗賊の逗留、その状況、もろもろ何も分かっていないのが現実。これでは、他の冒険者だって片手落ちの以来は引き受けにくいだろう。

 しかし、こんな切実な請願も断る勇気が私にないと、来た。

 じゃあ、仕方ないってことになる。


 キノコの情報も当てにならいし。

 半乾きのこの異臭にも耐えながら、私の冒険はまだ道半ば?

 半乾きの衣類の匂いというのはどうも好きになれない。何というか、カビ臭いというか、水の腐った、雑巾のような匂いって。

 生乾きのキノコが目の前を珍妙な歩き方をしていると、どうにも《怒り》とか《殺意》が湧いてくる。不思議なものだ。


 キノコが生乾きでキノコらしくなった訳だが、中のひとがその生っぽさに慣れないらしく、股の湿った部分を摘まんで伸ばして、ぎこちなく歩く。

 キノコの背中を見ると、ダンジョンによくいる《歩き茸》そのもにも見える。


 ふと過る――このまま放置したら、他の冒険者に...


「物騒な考えは...儂は好かんな...」


 テレパシー?!

 キノコすげぇーとか感心してたが、本人も気にしていた様子。


「済まんな、年頃の娘だと気が付かなくて...リビングアーマーっぽくて...其処まで気が回らなかった」


 お互い何かの魔物だという認識。

 あー、いやいや。出会いからして私を人間として声を掛けているのだから、こやつ...。


「教授、転寝の私に何をした?」


「...なあに、中を覗いただけじゃよ。吐息を立てるリビングアーマーも珍しいと思うてな...色白の可愛い娘が中におって、驚いたのー」


 とか、かなり余計なことを口走っているキノコ。

 鎧の中は服は着ていると言ってもインナー。

 この国は気候的にも熱めなので、肌着も薄くなっている。そりゃ、見え方によっては...って、白い肌? 娘と分かる??? ってこらっ!


「っこんにゃろー!」


 キノコ蹴り飛ばした。

 最早、習慣になりつつある蹴り飛ばし。

 キノコの尻に当たる部位を蹴りあげた。

 悶絶――傘が逆さに跳ね上がり、全身の菌繊維に電流が流れたように脈を打つ。

 突っ伏したキノコが尻を両手で覆い隠している。


「な、なにを...」


 涙目。

 ハンカチを出してすすり泣く。


「...天罰よ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 村は緑濃い森に囲まれた中にある。

 人口200人未満のこの国では中規模にあたる、特産品は良質の木材であるという。ここから出荷される木材が、先ほどの宿場町で角材や建築材などに加工され、4里ほど離れた別の街にある市場で全国に出荷されるのだ。

 教授情報が正しければだが、盗賊が逗留してもこの村から盗める金品は無く、仮に盗めたとしても木材では嵩張って運べないだろう。


 また、ここの村の木材は良質だが、それは仲買人が入って値を決めて居るからであって切り出しただけの木材には未だ金に代わる価値は無い。

 そんな村に盗賊がいる。

 何とも不思議な話だ。


 私らふたりは村の情報を探るために森側から村に近づいてみた。

 良質の木材というだけあって、村の西側に広がる森の豊かさは驚きに満ちていた。特に教授の目が輝いたのは《歩き茸》のテングダケVer.がいたことだ。


 《テング歩き茸》と名前を付けるとして、彼らの生態は謎に包まれている。教授曰く、豊かな森にしか居なく、主食は動物。人間は怖いから時々――だそうな。

 てか、かなり物騒なキノコじゃないか?


「...望遠鏡、持ってくるんだった」


「そんなに目が悪いのか? 儂には見えるぞ」


 キノコの自慢が始まった。

 こいつ結構、話が長い。


「――盗賊が逗留している...と、言うわりには何だか賑やかじゃない?」


「ふむ、確か...儂のカレンダーに間違いが無ければ、そろそろ祭りの時期じゃな」


「祭り...」


「そうじゃ! この時期の祭は各村々、街ごとに出し物が違うてな。これが面白くてなー アヴリルは良いときに来たのぅ」


 いや、今、そんなことを呑気に説明している場合じゃないだろうに。村のお祭りとは別じゃないのか? この有様は...と、ひとり突っ込みを問答しつつ、何気に態度の大きなキノコを見下ろしている私。


「どれ。儂もひとつ手を貸して...」


 等と、家屋の影に身を潜めていた私たち。

 キノコが腕をぶんぶん回しながら出て行った。

 とっても明るい道の真ん中へ。


 村人のような影が数人、動くキノコに気が付いた。というか松明をこちらに向けて目を凝らしているようにも見える。


「おい、そこの影のお前も出てこい」


 松明を掲げる影のひとつが私にも気が付いた。

 なんて目のいい連中だ。

 と、感心したのもつかの間。

 キノコが私の隠れていた影に手招きをしている。

 それはバレるって。


「ほう!《歩き茸》に《リビングアーマー》の逢引とは感心せんな?! こんな人里に下りてくるとはいい度胸だ、いっちょ狩ってやろうか?」


 影はライターで煙草に火を付けた。

 ライターの原理は至極簡単で、火打石をこすって出来る火花をオイルに沁みこませた芯に火を起こすものだ。

 やや高価だが、冒険者でも持てなくはない代物で、かたや盗賊ならば奪うか手に入れた金で購入すれば大したものではない。


 さて、キノコは私をこの道へ引っ張り出すと、しきりに手を繋ぐよう催促してきている。

 どうやら本気でモンスターの逢引と見せたいらしい。


「いや、待てよ? この異臭...さては、アルフォンソだな? とうとう人間の女にも見捨てられてモンスターに走りやがって。どこまでキチガイなんだよ!!」


 その異臭に晒されている私は...悲しい。

 てか、眼が痛い。


「儂の成りを見ても眉根を動かさぬお前さんは...もしや? パイロか?」


「んああ、如何にも。夏祭りの警護に借り出されてこの有様よ。ま、教授に比べればまだ、平和だがな」


 キノコが私の手を突き返すと、身振りを大きくパイロにこたえる。


「いやいや、儂にはまだ《青》過ぎるよ...そうさな、後10いや、せめて15は熟成せんと《女》には見えん」


 キノコの分際で大層な口を叩く。

 相手のパイロも私(鎧)を指さして『そいつは女か?』という質問が飛んだ。キノコは即座に《女ではないガキだ》と返し、ふたりは和む。


「おいっ! いい加減にしろよ!!」


 ついに私がキレた。

 パイロの方はあたかも私が怒髪天にいたる事を予想していたようだったが、キノコは私の怒声で思わずお尻を両手で覆い隠した。


「何者かは知らないが、いい殺気を放ちやがる」


「はん? 殺気? 単なる怒りですよー」


 多少は出来る冒険者の類らしい。

 私がモンスターではない事は先刻から感づいていたといったところか。食えないやつ。こんな奴とも知り合いなキノコの人脈か実力はやはり驚かされる。

 伊達に異臭を放つキノコではないらしい。


「盗賊の影に怯える村人たちの為にも...教授の異臭から住民の鼻を護るためにも、このパイロ様が、お前らを刈り込む!! いざ、我が炎に呑まれるがよいっ!」


 ライターの炎が大きく揺らぐと、大火となって私の方へ向かって飛んできた。どうやら、魔法剣士の類らしい。

 この世界の魔法はシンプルだ。

 精霊からその持てる力を貸してもらうというもの。

 精神力の類は使役する精霊の数によって影響し、術者本人には肉体的な疲労がもたらされる。

 しかし、精霊を使役できない人間は、精霊の代用としていくつかの道具を用いる場合がある。

 しかも使役できる上限も決まり、自ずと専門的な魔法使いへと落ち着いていくものなのだ。


 これらとは逆に、回復魔法などはその限りではないので、こちらはほぼ知識、或は信仰といったもので積み重ねた能力である。


「炎だから、パイロか...」


 私は左手を目の前で真一文字に薙ぎった。

 パイロの放った炎を一瞬で私が作った炎の壁で吸収。そのまま、左回りのひと回転した頃には頭上に巨大な火の玉になっていた。


「ほんじゃ、《ファイヤーボール》!!」


 彼にお返し。

 ていうか、そのままこの火球を投げつけたら、殺人だからそれは避けたい。と、なればこの火球は彼の足もと、地面に叩きつけて爆散。


 パイロの目は点に。

 もちろん、キノコは失神している。


 村人らしい人らも腰を抜かしている。


「あらら、やり過ぎちゃった???」

 炎の冒険者、パイロ。

 生臭いキノコ、アルフォンソ。

 可愛いリビングアーマー、私。


 いや、もとい。

 なんでモンスターなんだ?! 私、鍛冶師のアヴリル・ラビ。

 夏祭りの応援に村への参加が認められたけど、どこに盗賊が? この村、平和そのものじゃん?

 この話は思った以上に長引きそう……

 まだ、続くよ!

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