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鍛冶師の冒険記  作者: 伯慶
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出会い

「...い、大丈夫か?...って、おい!」


 誰かが私を呼んでいる?

 程よい力で揺さぶられるのって何時くらいから無くなったのか。

 んー。思い出せない。

 てか、誰? 私を呼ぶ人は...


 薄らぼんやりとした瞳に見える景色は全く白い。

 確か、木陰に腰を下ろして――ああ、陽射しも気持ちよかったからつい、うとうとして昼寝しちゃったんだ。

 そうそう、昼寝もとい転寝。寝転がって、ごろごろして? かっと見開いた私の意識の前に突如現れたのは、キノコだった。

 キノコは前屈みになって、私の肩に手?を置き軽く揺さぶって話しかけている。珍妙な?!


「な、何奴っ 貴様っ! トラップ如何にしてすり抜けた!!!」


 思わず要らんことまで口走ったような気がする。

 目の前のキノコは、左右に傘を振って、胞子を飛ばしながら向き直すと、


「奥に2、右に1のキノコが刺さってたから、それを避けながらここへ来た」


 と、しれっと言う。

 このキノコ、やけに冷静にしかも真っすぐ私のところに来たな。何という知能!何という豪胆な肝だ。

 しかも食えそうにない色しやがって。


「...まあ、あれだ。こんなところで寝てると、暴漢に襲われて身包み剥がされるぞ」


「ああ、いや。ご親切に... っじゃあ、ねぇ!キノコの分際で何をっ 寝こみを襲ったのはお前じゃないか!!!」


 若干、ヒステリックだったかも知れない。

 私は懐からナイフを抜き放つと、それを構え直して今、起き上がろうとする時間を作ろうとした。

 しかし、キノコは手?を体の前に広げて。


「そんなに、鼻息を荒くせんでも。なあ?」


 と、困った顔をしている。

 ん? こいつの顔ってどこ?


「無防備な冒険者を見つけると、年齢のせいかどうにも声を掛けたくなる性分なんだよ。血気盛んなころは...」


 とうとうと、キノコが語りだす。

 そのキノコは私の前に胡坐をかいて座り、手? で自分の周りの草をむしって話を続ける。そもそもキノコってこんなに知性的なのか。


 キノコの年齢って?


 キノコが血気盛んってどんな時だよ


 などと自問しつつ私が片膝を突いて、身構えた瞬間――


「どうだろう! 私と冒険してくれないか?!」


「...おい、脈絡もなく、どうだろうじゃない!」


 不思議そうな顔になるキノコ。

 だから顔ってどこだよ。

 

「今しがた話したばかりだが?」


 警戒しながら怪しいキノコの内輪話を聞く冒険者がどこに居るんだよ。

 私のナイフは未だ、最速の攻撃を行える胸元の位置から下げてない。普段、ショートソードやブロードソードで戦いなれている剣士、或はレンジャーなどの冒険者ならば、私の警戒が解けていないと判るはずだ。

 剣に疎い魔法使いや教会の人間なら意味を解するまで時間もかかるだろうけど、人間なら目を見て表情で《間》というか《空気》を読んで対処できそうなものだ。

 魔物に其処まで期待するのは無理そうだが。


「全く、最近の若いのは年寄りの話を聞かん奴ばかりじゃの...」


 やれやれと言わんばかりに傘を振って、肩?を落とした。

 キノコはずいっと、私に近寄り顔と茎?茸かの面が触れ合う寸前。


「儂のパーティを一緒に探してほしい」


「近いっ! てか、くせぇー!!」


 反射的に蹴り飛ばした。

 キノコは豪快に吹っ飛び藪の中へ。


 トラップ発動――地中から朱槍が天に突き刺さらんばかりに飛び出し、キノコが串刺しに。

 やったか?

 藪を揺らしすっくと立ち上がり、膝、腹、腰の土誇りを払いながら、先ほどのキノコが大層ご立腹の様子で戻ってきた。


「年寄りを蹴り飛ばすとは躾が足りん! が、しかし儂にも非がある。これは失敬した...改めて申し込む、儂の名はアルフォンソ、アルフォンソ・ロメツォと申す。パルミラの大学教授をしておってな、故あって学生らとパーティを組んでいたのだが、はぐれてしまった」


 と、言うキノコは茎?の窪んだところから身分を証明する財布入れを差し出した。

 身分証には立派な人間が移っている。

 勿論、本人を写した職人による絵であるが、目の前のキノコではない。

 むしろ、新手の狩猟方法かと見間違うような巧妙な手にしか思えない。


 やはり警戒が解かれないと察知したキノコは傘をおもむろに引っぺがした。

 キノコの下に絵のおっさんがいる。


「これで信用して貰えたかの?」


 言葉の返しようのない微妙な《間》がそこにあった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 アルフォンソ教授の一行はパルミラにある大学で生まれたサークルで結成されたパーティである。それまでにいくつかの冒険を熟し、近くの大迷宮の殆どを踏破して名声を高め、新天地開拓にも参加する実力を兼ね備えていたという。

 そんな一行にも小さな不満があった。

 それが教授である。


 アルフォンソ教授のロールは回復魔法主体のアルケミスト。つまりは本業がそのまま冒険者のロールになっている――分かり易い。

 しかし、教授は無類の魔物フリーク。

 特にキノコ類における著作も多く、菌類の生態に目がなく、パーティの休憩にキノコを発見し没頭すること数時間。

 ものの見事に迷子になった。

 教授の強力な回復魔法はパーティの生命線であり、更には蘇生魔法も国内随一という貴重な戦力をあっさり放逐した彼らの憤りは分からなくもない。


 しかし、学生のことが気がかりだという教授も放っておけない私としては、自分の仕事の次いでにパーティを組むことにした。

 これで良かったと誰かに言ってもらいたい。


「――アブリルさん、お前さんのその短剣」


 教授の興味は今、カブトムシを捌いている私のナイフに向けられている。


「これ?」


 ナイフを彼に。


「何と、軽い。これがドラゴンの鱗か...」


 そう、私のナイフは火竜の鱗から鍛えたもの。

 丁度、顎下から喉にかかる鱗を吟味して幾振りかのナイフを仕上げ、その一振りを売らずにずっと調理用に使っている。

 確かに売ればひと財産、稼げる代物だけど。

 私、お金に困ってないから。


 教授から返してもらうと、再び調理開始。

 カブトムシのような甲虫は殻となる外骨格が非常に硬い。特にモンスター系のカブトムシとなると、キノコが人型なのだから大きさは想像以上ある。

 これで普通は4人前、3日の食糧に。

 甲虫の身肉は外骨格の強度に比例する。


 外骨格の繋ぎ目にナイフを入れ、筋目に逆らわず一気に削ぎ落とす。殻の内側に張り付く身肉は柚子塩で焼いて食べるも良し。

 カレー粉や、刻んだ薬草と混ぜて炒めたりするのも美味しく食べるコツといつかの宿屋で聞いた。

 今回は塩で食す。

 香り付けはワイン酢で。


「はい、甲虫のワイン酢焼き」


 ぷりぷりの身肉が火を通して程よく弾力をました。

 塩味にレモンを加えると、ワインの香りが広がって感じた。


 教授も美味とご満悦。

 森の中で一夜を過ごすのは今日で最後。

 明日からは本街道に戻って、街へ。


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