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スイートピーの花束中編




 ひらひらとしたレースの様な花が飾られている。

 近付いて薄いピンク色の花弁を撫でると甘く柔らかな香りがして、新名は目を細めた。


「どうなさったんですか、このお花」


 窓際の棚の上に花が飾られるのを新名が見るのは二度目だった。

 一度目は紫陽花を一輪、水を張った皿の上に新名が浮かべた。今回は透明の花瓶に何本もの花が生けられている。


「……それ、毎年飾ってるの。可愛いでしょ」


 杏子はパソコンの画面から目を離し、花瓶を一瞥した。


 可愛いでしょ、なんて言葉が杏子の口から出るのを聞くのは初めてで、新名は目を見張って花と杏子を交互に見た。


「確かに可愛いですけど……。なんのお花なんですか?」


「スイートピー」


「あれ、スイートピーって春に咲くんじゃないんですか?」


「品種が沢山あって、これは冬に咲くの」


「へえ。詳しいんですね」


 新名が感心してみせると、杏子は赤くリップが塗られた唇にふわりと微笑をみ浮かべた。


「受け売り」


 こんな風に誰かが笑うのを、新名は何度か見たことがある。

 どんな時だっただろうかと新名は記憶を探る。そうだ、確か――。


 瞬間、新名の思考を遮るようにドアがガチャリと音を立てた。


「こ、こんにちは」


 少し開けられたドアの隙間から、晃が顔を出した。事務所から二駅ほど離れたところにある私立小学校の制服を着て、マフラーを巻いている。


「あの、変わったことがあったら話して、って言われたから……」


 不安そうに声を小さくする晃を事務所内に招き入れ、新名はホットチョコレートを用意した。


 甘い匂いがすると、晃はそわそわと新名の手元を見つめた。前に飲んでから、晃はすっかりホットチョコレートを気に入ったようだった。


「熱いから気をつけてね。……変わった事って、何があったのかな」


 新名からマグカップを受け取って、晃は新名と杏子を上目遣いに見た。


「獏が喋ったんだ」


「へえ。喋ったのは初めて?」


 新名は目を丸くしてみせた。晃は大きく頷く。


「うん。びっくりしたんだ。だって、獏って動物でしょ? 動物は普通喋らないもの」


「確かにそうだね。獏は何て言ったの?」


「急にぼくの方を見て、「生意気言うな」って言ったんだ。すっごく怖かった」


 思い出したのか、晃は怯えた様子でマグカップに視線を落とした。華奢な膝に大きな擦り傷がある。きちんと治療して貰わなかったのか、すっかり赤く腫れていた。


「あれ、怪我してるね。どうしたの?」


「……忘れちゃった」


 マグカップをテーブルへ置いて晃は唇を尖らせた。


「その獏の声、聞いた事ある声だった?」


 ふいに、じっと二人のやりとりを聞いていた杏子が割って入った。

 晃は言いにくそうに口をもごもごさせてから消え入りそうな声を出した。


「ぼくが悪いことした時のマリさん」


「……マリさん?」


「お母さんの代わりにご飯作ったりしてくれてる人。いい人だってお母さん達は言うけど、怖いんだ」


 晃の手が僅かに震えているのを見て、杏子は黙り込んでしまう。

 新名は手を伸ばして晃の手を握った。握った手の冷たさに驚く。


「どうして怖いの?」


「……よく、わかんない」


 晃は力なく首を振った。







 夕焼け空を見て、晃は門限があるから、と駅へ駆けていった。

 その背中を事務所の窓から眺めていた杏子は、洗い物に取りかかろうとする新名を引き止めて言った。


「獏の正体はきっと畠中はたなかマリよ」


「畠中、ですか?」


 突然出て来た名前に新名は首を傾げる。


「譲さんに調べて貰ったの。晃君の家は両親と晃君の三人だけど、両親は家に居る時間が少ないから通いの家政婦を雇っている。その家政婦が畠中マリ。晃君が生まれる前から家政婦として働いているそうよ」


「でもどうして畠中マリさんが晃君の夢に?」


 杏子はいつの間にか棚の上に落ちてしまっていたスイートピーの花びらをほっそりした指先で拾い上げた。短い黒髪が彼女の頬に影を作っている。


「前に晃君がここで財布を開いた時、水色のカードが見えた。全部は見えなかったけど、『ルーム』って書いてあるのは見えたから、調べたの。近くにあるカウンセリングルームのカードだった。少なくとも一度はカウンセリングを受けた事になるわ。つまり晃君の記憶がなくなるのは心因的なものである可能性が高い。獏が記憶を食べる話は、それが夢として現れたものと考えられるわね。もし晃君が解離性障害だとしたら、ストレスの原因がどこかにあるはず」


「――その原因が畠中マリさん、ですか」


「ニーナ君も見たでしょう、晃君の怯え方。何も無いとは思えないもの」


 杏子の言葉に、新名は晃の手の冷たさを思い出した。名前だけであんな風になるのは、確かにおかしい。

 新名は杏子の推理に納得しながらも、違和感を持ち始めていた。しかし正体がわからない。


「とにかく、畠中マリについて調べてみましょう」


 そう杏子が言って、新名が少しほっとしたのもつかの間だった。


 すぐ翌日に、再び事務所へやってきた晃は新名達に昨日と同じ口調で言った。


「獏が喋ったんだ!」


 杏子が大きく目を見張るのを横目に見て、新名は晃の顔を覗き込んだ。


「昨日と同じ事を言われたの?」


 晃はきょとんとして、怪訝そうに新名に言った。


「同じ事? 獏が喋ったのは初めてだよ」







 昨日とほとんど同じやりとりを交わして、晃はまた門限だと言って帰って行った。


 ビルの前まで晃を見送りに行っていた新名が戻ると、杏子はソファに上半身だけで寝転んでいた。


「獏を捕まえなくちゃ。畠中マリを今すぐ」


 杏子の口調は冷たく濁っていた。


「え、でも昨日はもう少し調べるって………。まだ畠中マリさんが原因かは決まったわけではないんでしょう?」


「可能性は高いわ。今すぐ晃君の親にこの事を話してクビにさせるしかない」


 きっぱりと言って、杏子は体を起こした。彼女の目は本気だった。


「ちょっと待って下さい。今のまま話しても、僕らが不審に思われるだけなのでは? もしビトーさんの仰っていた事が本当なら、晃君はカウンセリングにも行っているんでしょう? なら畠中マリさんが問題になっていないのはおかしいですよ」


「じゃあ畠中マリ本人に会ってくる」


「……それなら僕が行きます。今のビトーさんは冷静じゃない。きちんと調査しましょう」


 新名が杏子に近付こうとすると、彼女は目をつり上げた。

 譲に対して見せるような不機嫌さとはまるで違う、心からの拒絶だった。


「なに。私の考えが間違ってるって言うの?」


「そんなこと言ってません。慎重に行動しましょうって言っているだけです。晃君はまだ小学生なんです。何があの子のストレスになるか、わかりません」


「こうしている間にも、記憶が消えてしまっているかもしれないのよ。早く助けてあげなきゃ」


「それは僕だってそう思ってます。ただ、乱暴なやり方じゃもっと傷つけるかもしれないと……」


「これ以上忘れさせちゃ駄目。駄目なの。もういいわ、私一人でやるからニーナ君はもう帰って。……どうせもうすぐ冬休みでしょ、しばらく実家にでも帰ってればいいわ」


 杏子の鋭い声音に新名は胸の奥を突き刺される感覚がした。

 ここで折れてはいけない。杏子が本気で自分を邪魔に思っている筈はないのだ。

出会ったからまだ一年も経っていないし、彼女は新名に自身のことを何も教えてくれない。それでも、ずっと近くにいた。


 ぎゅっと拳を握りしめると、新名は彼女の唇が僅かに震えている事に気が付いた。


「ビトーさん、晃君に会ってからおかしいです。何があったんですか? 何をそんなに怖がってるんですか?」


「怖がってなんかない。……ニーナ君が来るまでは一人でやってきたわ。心配しないで」


「じゃあどうして僕を雇ったんですか」


「前にも言ったじゃない。譲さんが勝手に募集したの」


「そんなの、適当な理由を付けて落とせばいいじゃないですか」


「気まぐれよ」


「嘘だ。ビトーさんはいつも本当の事を言わない。僕が信用できませんか? 頼りないですか? でも僕を選んだのはビトーさんでしょう」


 杏子は新名の形相を見て、短い髪を掻き上げため息を吐いた。いつの間にか杏子の瞳から怒りの色が消えている。


「何も、泣くことないじゃない」


 言われて、新名は眼鏡を外しセーターの袖で頬を拭った。頭がくらくらする。


「……一日だけ、下さい。僕がどうにかします」


 新名は真っ直ぐに杏子を見据えた。逃げようとする彼女の視線を追いかけて、唇を噛みしめる。

 杏子は「私ももう一日調べてみる」と言って新名に背を向けた。







 店内はオルゴールにアレンジされたクリスマスソングが流れている。

 クリスマスイブが二日後に迫っている事に、やっと気が付いた。


 新名は運ばれてきたカフェラテに息を吹きかける。


 杏子に貰ったのはたった一日。彼女の解決方法は間違っていると新名は感じている。しかし、それならどうするのが正解なのか、と聞かれるとわからなくなった。


 悩んだ末に新名が電話を掛けた相手は譲だった。彼は深く追求することはせずに、すぐ行くから、と事務所近くの喫茶店を指定した。


 待ち始めて十五分。ちょうどカップが空になった時、譲は姿を現した。


「やあ、お待たせ」


「ジョーさん、ありがとうございます」


 譲が柔和な微笑みでココアを注文すると、ウエイトレスは僅かに頬を赤く染めた。


「それで、杏子ちゃんに啖呵切っちゃったんだっけ」


 新名はうっ、と言葉を詰まらせた。

 ココアを一口飲んで、譲は新名に笑いかけた。


「俺、どうして杏子ちゃんがニーナ君を助手にしたのか、わかるよ」


 想定外の発言に目を丸くする新名に、譲は続けた。


「裕司さん――あ、杏子ちゃんのお父さんね。あの人は昔、あそこで霊媒師として依頼を受けていたんだ。腕の良い人で一部では結構有名だったんだよ」


「霊媒……ですか」


「信じられなくても構わないよ、裕司さんが本当にそんな能力を持っていたかなんて、俺にだってわからないからね」


 思い返せば、美籐探偵事務所で働き出してから不思議な体験をしてきた。勘違いや記憶違いだとは考えられない、鮮明な経験を。


「その、ビトーさんのお父さんは、今はどこに?」


「――杏子ちゃんが高校一年生の時、裕司さんは失踪してしまったんだ。だから杏子ちゃんはずっとあそこで、裕司さんが帰ってくるのを待ってる」


「……どうして」


「前向性健忘、って知ってる? 脳の一部が損傷して機能しなくなって、『記憶する』事が出来なくなるんだ。新しいことが覚えられないってこと。裕司さんはかなり重傷で、ほとんど記憶が持たなかった。覚える端から忘れていくんだ。裕司さんの時間だけ、その度巻き戻されてしまうみたいに。……発症して三ヶ月後くらいだった。裕司さんは書き置きだけ残して、消えてしまった。どうして失踪したのか、どこに行ってしまったのか、俺にも杏子ちゃんにもわからないんだ。ただその日から、杏子ちゃんの時間は止まってる」


 心臓が膨れあがってしまったように苦しく、新名は言葉が出なかった。


 どうして杏子は晃の記憶に固執したのか。どうしてあそこに事務所を構えたのか。どうして毎日ほとんど変わらない髪型と服装なのか。

 ただ一つの事が彼女を動かしていたのだ。


 譲は子どもをあやすように優しくゆっくりと言った。


「そろそろわかったかな。……ニーナ君は、裕司さんに似てるんだ。あの事務所で、杏子ちゃんがたった一人で待ち続けてる裕司さんに。初めて会った時はびっくりしたよ。裕司さんが若返ったのかと思っちゃった」


 ぐちゃぐちゃと掻き回されていく頭の中で、新名は杏子がたった一度だけ見せたふわりとした微笑みを思い出していた。そうだ、あの笑顔は、人が大切な記憶を思い浮かべた時に見せるんだ。


 新名は掌に額押しつけて空っぽのカップを見つめた。

 自分の姿に、杏子は父親の姿を重ねている。それなら、杏子がいつも見ていたのは新名自身ではなかったのだろうか。


「僕は味方でいてあげなきゃ駄目だったんですね」


 新名の呟きに譲は何も言わなかった。その代わりに、「一つアドバイスしてあげる」と新名の目の前に人差し指を伸ばした。


「裕司さんの調査方法は一つだけ。でも、俺でも手に入れられない様な情報をあっさり手に入れて解決してみせる事があった。あの人は話をするだけで、人を動かしてしまうんだ」


「話をするだけ……?」


 そろりと新名は顔を上げる。譲はふわりと微笑んでいた。


「面と向かって言葉を交わすことが、一番大切なんだって裕司さんは言ってた。話してごらん、みんなと。それから、杏子ちゃんを助けてあげて。ニーナ君になら出来ると思うんだ」


 本当だろうか。新名は不安に駆られた。自分に出来るのだろうか。本当に。


「……どうしてジョーさんはビトーさんにそこまでするんですか?」


 新名が訊ねると、譲はうなじを掻いた。


「裕司さんの娘だから、っていうのもあるけど、実は俺、杏子ちゃんに最低なことしちゃったんだ。裕司さんがいなくなって落ち込む杏子ちゃんが可哀想で、裕司さんの振りして手紙を送った事がある。初めは杏子ちゃんも喜んだんだけど、すぐにバレてまた杏子ちゃんを傷つけちゃった。このままじゃ裕司さんが戻ってきた時に顔向けできないからさ」


 譲は寂しそうに笑った。

 彼にここまで想われる裕司とは、どんな人物なのだろう。会ってみたいようで、怖い気がした。


 それから、新名は愕然とした。

 何も知らなかった。何も。杏子の人生の、ほんの僅かにしか自分は存在しない。どうしたって埋められないものがそこにはあった。いくら昔話を聞いたって、その時自分が彼女のそばにいなかった事実は揺るがない。遠いままで、近づけない。そこまで考えて、頭を抱えた。

 近づいて、どうするというんだろう。







 日曜日、晃は毎週昼すぎから英会話教室に通っている。

 新名は以前に会話の中で何の気なしに聞いていた事を思いだし、教室のあるビルの前で晃を待っていた。


 吐く息が白い。昨日譲がしてくれた、単純明快なアドバイスを回想する。

 話すだけで人を動かす。そんな事が自分に出来るだろうか。いくら似ていると言われても、それは顔や背格好の話だ。けれど、今の自分が他に何の方法を取れるだろう。


 暫くして、晃がビルから出て来た。彼は新名を見つけると駆け寄って、嬉しそうに笑った。


「ニーナさんだ! こんな所でどうしたの? 今日はひとり?」


「……ビトーさんと喧嘩しちゃったんだ。晃君に聞きたいことがあって、ちょっといいかな?」


 晃は元気よく頷いた。


 寒いので、少し歩いて近くのドーナツ屋に入った。晃は無邪気にドーナツを選んで、しきりに店内を見回している。休日だけに店内は混雑していた。


「こういうとこ、あんまり来ないから嬉しい!」


 晃はそわそわしていて、新名は「よかった」と笑いかけた。


「僕も弟が出来たみたいで嬉しいなあ。晃君は兄弟はいるの?」


「ううん。お父さんとお母さんだけ!」


「そうなんだ。お父さんとお母さんは好き?」


「好きだよ。優しいし、カッコいいんだよ。……でもあんまり会えないから寂しいや」


 チョコレートのドーナツを囓って、晃はむくれてみせた。新名はその姿に幼い頃の自分を重ねた。今なら、子どもを置いて仕事をする母も苦しんでいたのだとわかる。しかし昔は、どうしても気に入らなかった。どうして自分だけ、と思ったものだ。


「僕も小さい頃は家で一人のことが多くて寂しかったなあ」


「……ずっと一人じゃないんだ、マリさんがいるから」


「マリさんのこと、苦手?」


「だって怖いんだもん。すぐ怒るし。お母さんかお父さんがいる時は優しいけど、僕と二人だと恐い顔するんだ」


「どんなことで怒るの?」


「色々だよ。怪我とかテストとか……あれ?」


 急に押し黙って、晃は首を捻った。乾いた唇をへの字に曲げる。


「最近なんで怒られたのかわかんない。怒られてると思うんだけど……」


「……また獏のせいかな?」


「きっとそう! マリさんが来る日は夢に獏が出ること多いもん」


 新名はドーナツを一口囓った。やはり杏子の推理は当たっていたのだろうか。畠中マリから受けるストレスが晃の記憶を奪っている、可能性はかなり高い。けれど、この違和感の正体はなんだろう。


「マリさんにもう来て欲しくない?」


 新名の問いかけに、晃はばつが悪そうに下を向いた。


「そんな事言っちゃ駄目、ってお母さんに言われたんだ」


「どうしてだろう」


「……お母さんはマリさんが好きなんだ。ぼくより」


 晃の口調はさっきの拗ねた時ものと、少し違っていた。まるでそう信じて疑っていないような、子どもらしくない諦めが滲んでいる。


「そんな事ないよ」


「だって、お母さんはマリさんを信じたんだ。ぼくが「マリさんはすぐ怒って怖い」って言ったら「晃が何か悪いことしたんでしょ」って」


「お母さんはマリさんのこと信頼してるんだね」


「いつも、マリさんの言うこと聞きなさい、って言うんだ。ひどいよ。ぼくだって頑張ってるのに。お母さん達に褒められたくて、いっぱい我慢してるのに」


 晃は丸い目に沢山の涙を溜めた。泣くまいとしているんだろう、強い子だと新名は思った。


「きっとお母さんは、晃君に甘えてるんだよ。晃君がとっても良い子だから」


「そうなのかな」


 晃の頭を新名が撫でると、晃はくすぐったそうに目を細めた。


 新名はようやく獏の本当の正体に辿り着けた気がした。こんなに近くにあったのに、ずいぶん遠回りしてしまった。


「実はビトーさんから獏をやっつける方法を聞いてきたんだ」


「ほんとに!」


 新名は晃を手招きして、顔を近づけた。内緒話のように囁く。


「獏は勇気とか幸せが苦手なんだ。だから、勇気を持った幸せな子になれば現れなくなるよ」


「えーほんとに?」


 疑いの眼差しを向ける晃に、新名は何度も首を縦に振った。


「ほんとほんと。――今日はお父さんとお母さんと喋る時間ある?」


「うん、今日は一緒に晩ご飯食べるって約束だよ。クリスマスは忙しいから今日お母さんがご馳走作ってくれるって」


「じゃあ、勇気を出して話してみて。さっき言ってたことをお母さん達にも」


「さっき言ってたこと?」


 新名はにんまりと口角を上げた。


「マリさんが怖い、って話から、お母さんは酷いって話まで。大丈夫。今から僕と一緒に練習しよう。お母さん達に本当のことを言うんだ。信じて貰えるよ、きっと」


「……それで獏が来なくなるの?」


 もちろん、と新名が首肯する。晃はしばらく悩んでから大きく頷いた。






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