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ランプ売りの青年  作者: ふん
闇の柱と光の柱編(下)

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第十八話

 運の良いことに、帰りは浮島二つと浮遊大陸一つを経由するだけでホワイトリングまで戻ることができた。

 運が悪いのは、暖かくなり天望の木を登ってきた冒険者や商人の数がピークを迎え、宿の空きがないことだ。

 それはホワイトリングに着いても同じことで、リットは仕方なくバストナ・イスにあるメディウムの屋敷を訪れて、宿が空くまで一室貸してもらうように頼んだ。

 屋敷は小さいので、メディウムは言葉以上でも以下でもなく一室を貸した。

 最初の一晩は全員が一室で過ごしたのだが、次の日から男女分けて二室があてがわれた。

 うっかりと初対面同士の自己紹介をさせてしまったからだ。

 マックスが自分の孫だとわかると、メディウムは自分も含めて総出で空き部屋を作り始めた。


 そして、それから数日後。槍が降り注ぐような肌を刺激する暑く眩しい日。

 ホワイトリングの中心にある穴の上で、マックスが翼をはためかせていた。

 地上にいるときよりも飛ぶ機会が増えたものの、まだ長時間の飛行は慣れておらず、気を抜くとすぐに翼と体のバランスが崩れ、ふらつきながら高度が落ちていく。

 羽根のようにふわふわ落ちていたのが小石が落ちるように速度が上がると、マックスの影にもう一つ影が重なった。

「焦ることはないぞ。空気を翼でかくのではなく、打つのがコツだ。翼を水平に打ち下ろせ。そして今度は翼の先を後ろに打ち上げ、体のバランスをとるんだ」

 メディウムに言われたとおりにすると、落ちかけていたマックスの体が浮き上がった。

「こうですか?」

「そうだ、うまいぞ。風を読もうとするな。それは慣れてきたら自然に身につく。まずは空にいることに慣れていこう」

 メディウムの優しい口調に、マックスは「はい」と笑顔でこたえた。


 そんな二人の姿を、リットは遠くの岸からなんともいえない顔で眺めていた。

「なぁに不貞腐れてんスかァ?」

 ノーラは吹き抜ける強い風に、甘い匂いを流しながら言った。

 手には薄く焼いた生地を何層にも重ねたお菓子を持っており、かじりつくたびにポロポロとくずを落としていた。

「不貞腐れるってのはな。下唇を尖らせて、眉をしかめてるツラのことをいうんだ」

「今まさに旦那がしてる顔のことっスねェ」

 リットは伸びてきた顎髭を触る動作に混ぜて、唇を触って確認した。

 ノーラの言うとおり、確かに下唇が突き出ていた。

 リットは「食うか喋るかどっちかにしろ」と言葉を発したついでに下唇をひっこめた。

 そして、手に持った本の続きを読み始めた。

 何度か読んだ書きかけの本だが、改めて読むと他の本や誰かの言葉を引用して書かれているのがわかった。

 メディウムが書いている本の冒頭は、『四大精霊が生まれた場所と言われている。メグリメグルの古代遺跡』というものだ。

 浮遊大陸に住む天使なのに、なぜか始まりは地上のことからだった。

 そして、『メグリメグルの古代遺跡の真上には、嵐がこようが、日照りが続こうが、一つだけ空に頑丈に縫い付けたかのように動かない雲がある。その雲のことを、浮遊大陸でははじまりの地と呼ぶ』と続く。

 天使族の観点から見るのならば、『はじまりの地の真下には、メグリメグルの古代遺跡がある』が正しいはずだ。

 他にも気になるのは、『メグリメグルの古代遺跡』『動かない雲がある』『はじまりの地と呼ぶ』というワードは、ディアドレの地下室から出てきた羊皮紙にも書かれていた。

 浮遊大陸でディアドレがなにをしてたか、唯一わかっているのは『天魔録』を書いていたことだけ。

 そう考えると、この羊皮紙は天魔録を書く時に使ったメモのようなものなのかもしれない。

 そう思ったリットはメディウムに参考にした本のことを聞いてみたが、メディウムは本を読んだのではなく、昔に冒険者から聞いて耳に残っていたものを書いたということだった。

「それ、おもしろい?」

 ラージャがリットの後ろに立ち、肩から顔を覗かせて、本に目を落とした。

「まぁな」とリットが素っ気なくこたえると、ラージャはリットから顔を離した。

「おじい様が地上から来る人たちに向けて書いてる本よ。浮遊大陸の成り立ちとか、島への移動法とか、初級者から中級者に向けて書いてるみたい。誰も興味がないって思ってたけど、そんなに食い入るように読む人もいるのね」

「冒険者が嫌いなのに書いてるのか?」

「だから、ずっと書きかけのままだったのよ。最近はまた書く気になってるみたいだけど……」

 ラージャは遠くで楽しそうに飛び合うマックスとメディウムを見つめて、複雑な表情を浮かべていた。

「旦那と同じ顔してますねェ。こう下唇を突き出して」

 ノーラは上唇についたお菓子のくずを取るようにして、下唇を突き出した。

「そういう顔をしたくもなるわ」

 ラージャはますます下唇を突き出した。

「マックスはいい子っスよ」

「そこは問題ないのよ。問題なのはおじい様の態度。ちょっと甘やかしすぎじゃない?」

「ただ飛び方を教えてるだけっすよ」

「違うのよ。聞いてた? 飛び方を教えるって誘った時の言葉。私の時はいつも頭ごなしな態度なのに、マックスにはちゃんと聞いた。「暇か?」とか「ムリはしなくてもいいぞ」とか。「嫌いなものはないか?」とかも聞くし……。私は耳が痛くなるほど、好き嫌いなく食べなさいって言われ続けてきたのに」

 ラージャは下唇を突き出すだけではなく、眉間にもしわを寄せ始めた。

「口ではどう言ってても、本当は会いたい。そんなお孫さんがきたんですし、意識なく甘やかしちゃうんじゃないっスかァ? きっと家族とはそういうもんスよ。ねぇ、旦那ァ」

 ノーラはどうやってついたかわからない菓子くずがついた肘で、リットの脇腹をつっついた。

「オレが知るか」

「またまたァ。旦那もマックスに甘いじゃないっスか。家族をダシに浮遊大陸に誘ったものの、門前払いを受けたら可哀想だからって様子見までして、結局自分の予想とは違ったから不貞腐れてるくせに」

「オレは無駄な時間を過ごしたことに不貞腐れてんだ」

「おんなじことっすよ」

 ノーラの全てわかってるという笑顔に、リットはもうなにも言う気が起きなかった。

「そういえば、あなたはマックスのお友達なのよね?」

 自己紹介の過程で、マックスとメディウムのエロスという名字が一致し、それで家族だということがわかったのだが、リットの名字はアールコールなので、リットはこの件には関係なくマックスの友達ということで通していた。

「まぁ、そういうことになるな」

「それじゃあ、あなたもどこかの国の王子様なの?」

 ラージャに期待を込めた眼差しを注がれたリットは、ノーラと一瞬顔を見合わせてから、脇腹をくすぐられたかのように二人で大笑いを響かせた。

「面白いことを言ったつもりはないんだけど」

 ラージャはリットを見たまま、顔だけムスッとした表情に変えた。

「あまりにメルヘンチックな言い方に笑っただけだ。どこかの国と来たもんだ」

 リットはまだ引きずるように口の端に笑みを残している。

「どこの国かわからないから、どこかの国じゃない……。そんなに笑わなくても……」

「本の中でしか聞いたことのないようなセリフを言うからだろ」

「期待してたのよ。本来お城に縛られているはずの王子様が、あなたみたいに自由に生きてる。それって素敵なことじゃない?」

「決めつけられるのが嫌いなんだろ? 城に縛られてない王族もいる。少なくともオレが知ってる王族は自由に生きてるぞ。まぁ、その中の一人は籠の中に入ったままだったから引きずり出したんだけどな」

 リットはまだ飛び方の指導を受けているマックスに目をやった。

 その時、バストナ・イスの管理塔から、背骨に直接響かせてくるような低い鐘の音が鳴り響いた。

 どよめきがバストナ・イスの街がある方角から、穴の岸際にいるリット達の元へと波のように押し寄せてきた。

 リットが振り返ると、街では地上から来た冒険者や商人が、天使達に指示されて自分の宿へと足早に戻っているのが見えた。

「なにか始まるんスかねェ」

 ノーラもリットと同じように振り返り、ただならぬ様子の街を見ながら言った。

「あれは――」とラージャが説明しようとしたが、それよりも通るメディウムの低い声にかき消されてしまった。

「あれは警鐘だ」

 いつの間にか岸まで戻っていたメディウムは、リットが振り返るのを見ると「闇の柱にぶつかる時に鳴らす決まりなんだ」と続けた。

「闇の柱って、闇に呑まれた地域の上を通るってことか?」

 リットの問いにメディウムは頷く。

「そうだ。心配はいらないが、念のため屋敷に戻ろう。今日は風が強い。こんな穴の近くにいたら風に押され落ちてしまうかもしれん」

 メディウムは「さぁ、急ごう」と、言葉を取られて立ったまま睨んでくるラージャの背中を押して歩かせた。



 屋敷に戻ると、先にリンスプーとチルカの姿があった。

 リンスプーはリット達についていったせいで、宿泊の更新をする暇がなく、同じく宿なしになってしまい、メディウムの屋敷に世話になっていた。

 その全員が、椅子とテーブル以外なにもない部屋に集められた。

「本当に大丈夫なんでしょうか……」

 マックスが不安に眉を寄せながら、窓から遠くの景色を見ていた。

 雲一つない天気の空が、余計に不安を煽った。

「一日中闇の柱の中にいるわけではない。今日の風の強さから考えると、一曲歌う間には通り過ぎるだろう」

 メディウムはマックスの不安を和らげるために「なんならなにか歌うか?」とおどけてみせた。

「本当に大丈夫なら、屋敷の中になんて入れねぇよ」

 リットは自分の鞄にぶら下げていたランプを取り外した。

「本当に心配はいらん。軽風の時は雲の流れが遅く、闇の柱にいる時間が長くなってしまう。その時は慣れない地上のものが錯乱して暴れまわったり走り回ったりして、浮遊大陸から落ちてしまうことがある。だが、今日は強風だ。闇の柱もあっという間に通り抜ける」

 まだ疑いの眼差しのリットに、ラージャが付け加えた。

「本当よ。だから警鐘が鳴ると、天使族が建物の中に入るように指示をするの。もし、錯乱して暴れてしまっても建物の中なら落ちる心配はないわ。怪我もしないように、宿の中はできるだけ質素な作りになっているのよ」

 たしかにリット達が泊まっていた宿にはほとんどものがなかった。最初にバストナ・イスに来た時にメディウムにとってもらった高級な宿も、ベッドやテーブルの質が良いだけで、ものが少ないのは同じだった。

 ふつう高級な宿には無駄に装飾品が飾られているものだ。

「なるほど。だからこのなんもねぇ部屋に集められたのか」

 自分の説明でリットが納得したのを見て、ラージャは勝ち誇った笑みをメディウムに向けたが、メディウムはそれがなんのことかわからず首を傾げていた。

 メディウムは咳払いをして気を取り直すと、「リンスプーは好きに過ごしてもらってよかったのだが、君達の為に見慣れた顔があるといいと思って、ここに来てもらったんだ」とリンスプーに感謝の意を込めて頭を下げた。

 リンスプーはメディウムに付き合うような形で頭を下げるだけで、それ以上なにか言うこともすることもなかった。

「見慣れるほど長え付き合いじゃねぇけどな」

 リットが言うと、メディウムは「あとで嫌でもわかる」と意味ありげに返した。そして、テーブルに目を向けた。

 テーブルの上には何度も修理を重ねたオンボロのランプがあり、リットが今まさにマッチを擦って火をつけようとしているところだった。

「なにをしている?」

 メディウムが不思議なものを見るような視線で、灯ったばかりのランプを見ている。

「なにって、念のため明かりをつけといたんだよ」

 リットはランプの火屋を戻しながら言った。

「ならば念のためにこちらに寄せてもらう」

 メディウムはランプの取っ手を掴むと、自分の方へと引き寄せた。

「こっちの念のためは意味がわかるだろ? そっちの念のためは意味がわかんねぇよ」

「もし、暴れてランプを落としてしまったら、火事になるかもしれないからだ」

 メディウムが言うのと同時に、合図もなく、黒い染みが投げられた網のようにあっという間に部屋中に広がった。

 そして、その網で首を絞められたかのように息苦しさが襲う。

 まばたきをする僅かな瞬間の間に、目の前にあった景色は消えていた。

 ランプの光は元から存在していないかのように消え、いつもは暗闇で光るチルカの羽明かりも、ただ黒という色。いや――全てを無にするような黒という塊に押しつぶされて消えてしまっていた。

 自分が揺れているか、床が揺れているのか、そもそも床に足をつけているかもわからない不安定さが、足元から引きずり込むように襲ってくる。

 黒という空間に投げ出され、誰もいなくなったではなく、自分さえもいなくなってしまったかのような錯覚に陥る。

 感じるのは、死人に抱きつかれたかのような心を凍えさせる冷たさだけだった。

 時間にしてたった数分の出来事。しかし、それは何時間も過ごしたように感じた。

 一瞬にして太陽がてっぺんに昇ったように明るくなり、リットの目に最初に飛び込んだのは時間が経ち、安定して揺れるランプの炎だった。誰かが消したあとも、つけ直したあともない。

 そして、それからすぐに自分以外の生き物がいるかを首だけを振って確認した。

 それはリットだけではなく、マックスを除く天使族の三人以外全員が同じだった。

 見知った顔を見て、はじめて息を吸う。

 メディウムの『あとで嫌でもわかる』という言葉が身に染みた。

 全員が緊張と緩和の入り混じった表情が顔に張り付いたままだった。いつもはお気楽なノーラも例外ではない。

 誰もなにも言わず、心臓の音が耳に詰まったままだった。

 ラージャが窓を開けて、部屋に風が通り抜けると、ようやくリットが一言こぼした。

「汗か……」

 リットは言葉と同時に額に手を当てる。季節のせいではない大量の汗が顔中を濡らし、顎から滴り落ちていた。

「鼻水も出てますよ……」

 ノーラに言われリットは鼻に手を当てる。たしかに鼻水が垂れ流れていた。それを親指と人差し指で拭うと、その手をノーラの肩に置いた。

「オマエも出てるぞ……」

「本当っスね……」

 ノーラはリットのシャツの裾を掴んで顔に寄せると、チーンと音鳴らして鼻をかんだ。

「大丸葉の準備がしてある。浴びてきなさい。いくら暖かくても、そのままでは風邪をひく」

 メディウムはラージャに言って、先にノーラとチルカの二人を水浴び場に案内させた。

「緊張で口が乾いてるだろう。飲みなさい」

 メディウムはリットには酒、マックスには水の入ったコップを差し出す。

 慣れたアルコールが喉を通り、熱く胃を焼くと、リットはようやくこわばった表情を崩すことができた。

「暗闇ってもんじゃねぇな……」

 リットは立ったままのマックスの背中を強く叩きながら言った。

 ヒリヒリと痛む背中で実感が呼び戻り、マックスも自分の額の汗を拭った。

「なんでしょう……。夜がとても明るいように思えました……」

 マックスは一気にコップの水を飲み干す。

「初めて体験したものは、皆同じことを言う」

 メディウムは空になったマックスのコップに水を注ぎながら言った。

「よくこんなのに慣れたな」

 リットは絞れるほどシャツの首元を指で剥がしながら言った。

「慣れたわけではない。我慢強くなっただけだ。通り過ぎることはわかっているからな」

 そう言ったリンスプーの額も汗で濡れていた。首元にも湿った布が張り付いている。だが、リット達よりは遥かに少ない量の汗だった。

「闇に呑まれりゃ、国も土地も滅ぶはずだ」

 リットは半分以上も残っている酒を一気に飲み干した。


 しばらくすると、「いやー、まいりましたねェ。汗でパンツまでぐっちょりでしたよ」と水を浴びていつもの調子を取り戻したノーラが部屋に帰ってきた。

 チルカはまだ調子が悪そうに静かなままだった。

「君達も浴びてきなさい」とメディウムに言われ、リットとマックスはラージャに水浴び場に案内された。

 浮遊大陸では珍しい石造りの部屋に、大丸葉が二つ天井からぶら下がっている。

「使い方はわかる?」

 ラージャは太い針のようなナイフを二人に渡す。

「刺せばいいんですよね」

 マックスはナイフを受け取ると丸葉に刃先を向けた。

「そうよ。それじゃあ、私はタオルを取ってくるから」とラージャは部屋を出ていった。

 それから二人は服を脱ぎ、丸葉にいくつかナイフで刺し傷を作る。

 すると、その穴から雨のように水が落ちてきた。

 体に張り付く汗が流れ落ちていくと、さっきよりも気分が良くなる。ノーラがいつもの調子に戻っていたのも納得だった。

 リットが頭を洗っていると「兄さん、ありがとうございます」というマックスの言葉が、石床に水が落ちる音に混じって聞こえた。

「皮肉がうまくなったもんだ。言っとくけどな、別に闇に呑まれるために連れ回したわけじゃねぇよ」

「違います。おじいちゃんとのことです。色々気を使ってくれたみたいで」

 リットは黙ってナイフを持つと、マックスの頭上にある丸葉に穴を増やした。

 落ちてくる水の量が増えたせいで、マックスの言葉の最後は溺れたようになっていた。

「黙ってやってたってことは、気付かれたくねぇことだってことに気付け」

「ちゃんとお礼を言っておきたかったんです。それに……」

「なんだよ」とリットが聞く。

「ずっと睨まれていましたし、怒っているのかなと……」

 マックスが言っているのは、穴の上をメディウムと飛んでいた時のことだ。リットの視線は遠くから感じていた。

「怒りゃしねぇよ。理由がねぇ。ただ、思い出してたんだ」

「なにをですか?」と今度はマックスが聞いた。

「親父が死んだ時のことだ。オマエには教えたいことがいっぱいあったって言われてな。それと重ねて見てたんだ。教えられてたら、オレはオマエと同じ顔をしてたのかってな」

 リットが自分の丸葉の穴を大きくすると、滝のように勢い良く落ちてくる水を頭から浴びた。

 マックスがなにも言えずに黙っていると、穴を広げたリットの丸葉の水が先になくなった。

 リットは前髪をかきあげて、髪の水気を軽く拭い取ると、早々に水浴び場を出ようと身を翻した。

 しかし、扉の前に立つと足を止めてマックスに振り返った。

「今のうち聞いとくことはねぇか? 後はいつものオレに戻るぞ」

「今はもうないですけど……どういうことですか?」

「それ以上冷たい水を浴びて縮こまったら、使いもんにならなくなるぞ」

 リットはマックスの股間に目を向け、それに向かって嘲笑を浴びせると、そのまま水浴び場を出て行った。






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