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scene02 Ⅱ その瞳


 そこら辺の平凡な小学校の二年の四組。二学期が終わって、三学期からそこに転校してからまだ一ヶ月どころか一週間を十分に過ごせていなかった。すぐに冬休みに入り、今は八日目の夜である。

 海紫は、家を初めて抜けだした。俗に言えば、家出というものである。

 また、転校するそうなのだ。せっかく、三日ほどで人が近寄ってこないように自分から避けるようにして空気に成るための努力が実ってきていたというのに。他の学校でも、それ以上の努力を強いられるという、そんなところが面倒だ。とか、そんな理由。

 人から話しかけられるのは、嫌いじゃない。別段、怖くなんてないが、自分以外の人間を信じてはダメだ。それが、この九年間の人生の中で導き出した答だった。

 しかし、近づいてくる同年代の子を突き放し、教師からも目をつけられないように、人と遊ばないのは読書が好きだから。とか、そんな理由をつけて関わらないようにする。結果、読書は好きではないけど、本が溜まっていくことがわかった。売るのは好きではない。どうせなら貯めようと思っている。

 

 とにかく、転校なんて面倒くさいことはお断りだという誠意を見せつけようと今回の家出である。

 友達といえば、朱ちゃんがいちばんだ。しかし、今朱ちゃんは、どこに居るかなんてわかるはずないし、別にどうでもいいことだ。――あれ?舞華姉に殺されたんだっけか?……どうでもいい。

 

 家から数百メートル行けば、そこに少し錆びれた公園がある。最近、死体が発見されたとか何とかで人は、ほぼ近づいていない。まぁ、したいと言っても『猫』のであるが。

 何故か、手元には本がある。好きでもない読書が癖になりつつあるのには少し対処が必要だ。まぁ、読んだところでマイナスになることはない。好印象は持たれないだろうが、運動も勉強も人並みにできる。ほんとに平均で取った自分も驚くのだが。テストなんて、平均点がそのままなので偏差値とか五十から一向に動きそうにない。

 それはそれで、学校で読書をしていた時、先が気になれば帰りにこの公園によって続きを読んでいたりしていた。この三日ほどで、この公園はお気に入りと言ってもいいくらいの場所でもあった。この頃立ち寄っても無かったのだが。

 公園のブランコは、鎖の部分がおかしくて、正常に前後に動作することができない。海紫にとってはそのほうが読書がし易いと、気に入っている遊具だ。そんなところ。

 まぁ、家出した、と言っても、行き先は義両親に伝えているのだ。ならば、家出とは言わないのかもしれないが、海紫の感覚的には家出に分類される。


 とにかく、海紫は、そこへ向かったのだ。小さくまとめた家出用のバックにはジュース二本と活字の本が五冊以上も入っている。夜に外で本を読むなんて暗いだろうと思うだろうが、本当にその公園は便利でちょうど、ブランコの上にはライトがある。LEDなので虫も寄ってこない。どれだけ便利なのかといえば、ホームレスなのに電気が使える、というくらいである。

「もし、読んでしまった場合は、どうしよう」

 お金なんて、一円たりとも持っていない。本一冊につき、原稿用紙に感想文を二枚書けば本を三冊買ってもらえることになっていて、口を聞かないまでもそれはしっかりと守っている。何故か、警戒心が義理であっても身内にだけ甘いのは、歳の性でもある。

 独り言を呟くのは、過去二年程度、そんなに経ってないのかもしれないが、人間不信になった原因の学校からの癖であり、もう治らないかもしれない。

 一人の時間つぶしといえば、3BSが一番なのだが、現実世界と言うこの世界には、まだBSiが出たばかりらしい。あと何年でそれが出るのかと言われるが、開発者にでも問い合わせればいい。自称友達もどきは「3BS?なにそれ?」なんて鼻で笑われた。別段悔しくもないな。

 

 外灯は点滅しながら、公園までの道、ずっと照らしている。不気味と言われれば頷くが、海紫にとって不気味=恐怖ではないので、どうってことない。恐怖=姉、なのでこの世界に恐れることはない。この世界において姉より恐ろしい者はないし、でも姉より信頼できる人間もいないようで。

 どうやら、悲しいことに、この世界では海紫は孤独ならしい。


 少し歩けば公園に付いた。結局いつもの倍くらいの時間を要したのは、考え事に時間を割いていたからであろう。無駄に。

~~~~~♪

 ハッと。その公園から歌が聞こえてきたのだ。だれでも知っているようなうた。「?」と首を傾げてから声の方を向いた。

「この~背中に~♪とり~のように~~♫しろーいーつ~ばさ-付けてくだサーイ!!」

 歌だったのは序盤だけだったようで、最後はもう叫びながら、唯のお願いになっている。海紫は、静かにその公園に入り、いつものブランコの方に歩いて行くのだ。

 良しか、歌っている人は海紫には気づいていないようである。

「この大空に~つばさを広げ~ なんか分んないけどFLY a WAY――――!!!!」

 あれ?なんて言った?普通に「飛んでいきたい」とか歌えばいいのに。その声は女性のもので、聞き惚れてしまいそうな、――小学二年生には分からないが――そんな声だ。ほんとに、美しいのは確かで。

「ふん ふん ふ~ん♪ふ~ん♪……あ、間違えた、じゃない忘れた!?」

 国民的なその歌を忘れるなんて、逆にびっくりする。その娘はジャングルジムの一番上に座っている。海紫は、その隣のブランコにいるのに、彼女は降りてくる気配すらない。

 海紫にも気に留めていない。いや、まだ気づかないのだ。どれだけ鈍感か知らないが、なんとなく人の気配とか分んないかな。第七感くらいで。

 本には、第六感は『霊感』である。と書いてあった。多分、人の気配を感じれるのは、『生感』とか、そんなんで第七感に部類されるのではないか?なんて海紫は思っていたりする。

 その女の子には見覚えがあった。多分、同い年で、同じクラスである。そして、結構可愛いので記憶にある。名前は、覚えてない。

 

 ガチャン

 ブランコに座ると音がした。「あっ!!」と思ったが、別段悪いことはしていないので気づかれることぐらいどうでもいいだろう。そして、もう引っ越すことは決定済みなのでここで何があってもどうでもいい。

「えっ!?誰?誰?」

 なんて、彼女は辺りを見回して「誰もいない」と呟いてから胸を撫で下ろす。まぁ、君が居るのはジャングルジムの天辺だ。下を見ないことには誰だかわからないだろ?襲われるぞ?襲わないけど。

「ま、今日は帰ろっかな―。最期の日くらい友達と話たかったけどな~」

 なんて、ジャングルジムの上で、立ち上がって空を見上げる。彼女はスカート――かなり短い――を履いていて、なので下にいる海紫は結構、めっちゃ見えるのだ。この公園には、外灯は沢山あって明るい。少しくらい、その光景に、海紫は目を逸らすことはできなかった。

「よしっ、と」

 下を向いたその娘と覗いていた海紫の目が合った。

 「あ」とそこで止まる彼女に対して、海紫は無言のまま、膝に広げた本に目線をおろした。すると、急いでジャングルジムを降りる音と、ドサッという彼女が落ちたような音が同時に聞こえた。

「ねぇ、……たたた」

 おしりを抑えながら彼女は海紫に近づいてくる。ちょっと、海紫は本から目線を上げて彼女を一瞥する。そして、数秒、目が合ったまま黙っていて、それで本に目線を戻す。

 しかし、彼女はまだ、じ――――――――っと海紫を見る。そんなに見られると穴が空きそうだというほどに。――何か、変なものでも付いているのか?それとも。


「ちょっと、こっち向いて?」

 ベシっと頬を両手で掴まれて無理矢理に顔を上げさせる。そしてそのまま、彼女が、海紫を吸い込みそうなほどに、その大きな瞳でじっと見つめる。

 そのまま、何分経っただろうか、ずっとその状態のまま動かなかった。誰も、海紫に触れようとしてこなかった。接触は転校初日だけで、それ以外は読書。小学生に合わないような言葉遣いと、行動。人を寄せ付けないような雰囲気全ては自然に出来たもので、誰もそれを破ってくれなかった。

 けれど、彼女は関係無いように、海紫を見る。



「ねぇ、あなたはどうしてそんな目をしているの?」

「………どんな?」

 声を掛けられるのは、久しぶりである。義両親にも口を聞いていないというのに。

「何もかもを、真っ黒にしか写してないの。深い闇があなたを包み込んでる」

「………うん」


 そんな彼女も、翡翠の瞳で、その奥は曇っているように見えるのだが。

 無理矢理に、その手を振りほどいてから、手元の本に目を戻した。どうでもいいのだが、彼女はどうしてか心の花壇に踏み込んでくる。土足で。そして、花には傷を付けないで花壇を作るレンガだけを破壊していく。つまりは優しいということ。

「あたしねー、明日引っ越すんだ―。ここらで《異変》が発生したでしょ。父さんが派遣されて私もそこに着いて行くことになったの」

「………うん」

 彼女は、そう言ってから海紫のブランコの隣に座る。ぎぃ、と少し引いてほとんど動かないが、少し前後にブランコで揺れながら、そして続ける。

「あのね。君が秋野君って分かるよ。ずっと見てきたからね」

「………なんで?」

「最初はね、すごく怯えていたからさ。ね、なんでそんなに人を拒むの?」

 「ねぇ」と、彼女のブランコが止まって横から海紫を眺める。さっきとは違うがじ――――っと見るのだ。次は、地味にプレッシャーを感じる。

 バチバチを一回、外灯が点滅して、海紫は一旦深呼吸した。そして、話題を変えるように

「おれも……引っ越す事になってる。なんでか知らない、けど……おれも引っ越す」

「秋野君のお父さんも調査兵なんだね!!アハハー一緒一緒!!!!」

「うん………」

 彼女は、足をバタつかせながら笑って、そして、海紫を見てニッコリと微笑む。

 黒髪で、少しタレ目気味の潤んだ翡翠の瞳をしていて、小学生ながら少し艶っぽい。そんな彼女は「ねッ」っと頷くのだ。


「知ってる?私の名前。――あ、そうだこれから、かいしくんって呼ぶね」

「………あ……藍瑠だった」

「お~。知ってるんだ~。そう、私、川原藍瑠あいる。アイルって、好きに呼んでね」

「じゃあ、アイル。……ありがとう」

「へ?何が??」

 少し黙って、遠くを見つめるようにしてから、海紫は言う。

「話しかけてくれたこと」

「ああ。そんなことか。――うん。どうもどうも」

 

 それから何分経ったか。元が午後八時だったのが夜中の一時になるまで、二人で話込んでしまっていた。姉のことや、朱ちゃんのこと。そして、今まで読んだ本のことだって。

 人に話したのは初めてで、これほどまでにスッキリするとは知らなかった。しかし、それは、アイルに対してで、義両親や他の人間に対してではない。多分、彼女になら心を開いても、大丈夫じゃないかな?なんて思うが、そんな人に限って裏切られた時のダメージは大きいのだ。

 そんな、どうでもいいことなんて、彼女――アイルは気持ちよく聞いてくれた。もう本当に。



「じゃあね。かいし。また縁があったら一緒に遊ぼうね」

 また、満面の笑みを見せるのだ。海紫の少しぎこちないが、初めて笑うことができた。それ以降はできない、貴重な笑顔を。

 「バイバーイ」と、手を振ってから、そこで別れた。公園の門に、彼女の両親の車っぽい車両が停まったのだ。それに乗って、彼女は行ってしまった。

 ふぅ、と息を吐き出す。自分の孤独をわかってくれる、ただ一人の、大好きなアイル。海紫の初恋は、そのまま消えてしまいそうだった。もう、会うことはないと、決定していたからだ。再開なんて望んでいても、神様は案外ひねくれものだから。

「ノーパンか」

 そうやって、誰も聞いていないその公園で海紫は言う。

 それから、本を、――全く読めていない本をバッグに詰め込んで、ブランコを立ち上がる。帰ろうと思ったからだ。



 家の扉を開けると、まだ起きていた義両親が「お帰り」と言ってくれる。

「ただいま」

 海紫は、初めてではないがこの頃はずっと言ってなかった両親のその言葉にそう返した。

 義両親は少し二人で顔を見合わせて「意外」というふうな表情を作るのだ。そうだろう、そうだろう。そういった海紫自身も不思議であるのだ。

 しかし、しゃべることができても、真剣な悩みが解決するはずもなく、『姉』のそれはわからない。早く忘れるべきなのだろうが、頭にこびり付いたように、記憶は消えてくれないのだ。

 どうしてか、その時両親が「食べる?」と、夜食だろうロールケーキをお皿に入れて持ってきてくれた。

 首肯してから、皿を受け取った。こんな悩みがなければ、あの二年間の悪夢がなければ、もっと気持ちのよい人生になりそうなのに。どうしてか、もったいない。






 引っ越した先は、岐阜の端で、中学の二年生までそこに居た。その年齢になって気づいたのだが、自分、秋野海紫は、周りの人より歳が二つほど多かったのだ。肉体的には中学二年生だが、自分の中では数えると歳が十七歳なのだ。

 この際周りに合わせようと、その事実を忘れることにした。ちょうど、二年間の人間扱いをしてくれなかった、死にたいと思っていた、絶望していた小学二年生の――――。ここで記憶が可怪しいことに気づいた。

 小学二年生から、二年経って小学二年生をしていたことを。電脳世界。そこが海紫の大事なすべてがあると、思った。

 それから、お義父さんが出世した。皇国の調査兵の第三中尉に任命されたそうで、首都の近くである『第二東京区24支部』に引っ越した。中三は、そこの公立中学に通っていて、そこから近くの私立の高校を受験した。

 そこは、私立櫻花凪美高等学園、という名だったはずだ。24支部の中心にあって、凪美なぎみというところだから、凪美高等学園で。その地名に過去聞き覚えがあったが、もう忘れてしまった。

プロローグ完です。これから、シリアスバトルの学園コメディが始まる予定です。

頑張りますので、これからも、読んでくれると嬉しいです!1

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