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電脳なおれと翡翠の彼女  作者: 藤乃宮遊
君の声が聞こえたから
15/19

scene09


そんな朱梨の技を見ていると、レイド戦を思い出す。第二回最強ギルド決定戦。

 第二回ではやっとの思いで、30位に入ることが出来た。その次から上位5位圏内をキープしていた。フラッグを守りぬけ、そうと戦っていた戦場では、朱梨がこの技を使いフラッグを守備していた。

 それを乗り越えれるプレイヤーは少なかった。有効時間とのクールタイムに基本フラッグを取られ負けていた。と、まぁ思い出にひたるのは後にしよう。


 朱梨が技を使えるのであれば、自分だって使えないわけがない、と足元に散らばっていたナイフくらいの大きさのガラスの破片を手に取った。制服の下に着ていたTシャツを破り、そのガラスの握る所に巻いた。それを短刀のように逆手に持つ。

 そのゲームのランキングとは、戦闘ランクとレベル、それに魔物の討伐数や、イベントなどでの活躍ポイント全ての累計だったりする。単純に戦闘力だけでランキングの上位には食い込めない。

 何故、そんなことを言うのかとすれば――――海紫は、朱梨のレベルの倍であるからだ。ランクは、対人バトルを申し込んでも負けると分かっているので断られ続け、一向に上がらなかった。しかし、実力だけならランキング一桁のヒトとも闘りあえた。

 そして、イベントの討伐戦は時間が合わずに不参加が続いていた。魔物は、自分より強そうな相手を選んでいたために雑魚をスルーして討伐数は上がらない。


 つまり、この「 ゲーム 」は海紫が本気になれば優にトップだっただろう。と、言うこと。

 久しぶりに思い出してみようと思うのだ。過去に戦っていた武器はないが、詠唱を詠んでみるのだ。


  ――旭光きょっこうに輝く黒芒 射影しゃえいの真剣 秋水しゅうすいに白刃を刺す

「 碧霄へきしょうに剣閃を 穿て――――『鋭鋒えいほう光明こうみょう』ッ!!!!」

 瞬間光りに包まれ、同時に床を全力で踏み込む。力の加わった方の床は30cm以上のくぼみができる。短刀の刀身が一光を煌めかす。

 半身になって、その状態のまま結界から出た。そして、ヤンキー先輩の後ろから全力で斜め上に飛び上がった。もちろん目標は朱梨である。

 

 『鋭鋒の光明』。それは全ステータスを五倍する、ある意味チートな制限技である。そして、マグマのように煮え立った教室の端から中心近くの朱梨までジャンプする。

 半径1m。海紫はその安全圏に割入った。そして、短刀を朱梨の首元に近づけた。そして、『鋭鋒の光明』で光る刀身には特殊な能力があって、それは空間に斬撃を残すことである。それは、透明で見えないものではなく白く発光している。

 軽く首元でそれを振る。薄く傷ができた。この世界で受けた傷が、こんな技の使えない世界に戻ればどうなるのだろうと考えるが、まぁ、どうでもいいかと思考を強制終了。

 

 『紅蓮慈炎華』は、術者に危険が回ると中断をせざると得ないという。そして、自分からは終了できない。つまり、この方法がベスト出会ったということだ。


「いたーい。いたいよー、しーちゃん」

「そんな棒読みで言われても分からないし、罰だ」


 白い薄皮に、紙で剃ったような後ができている。痛みも五倍。受けたことがないから、痛みなんて分からない。

 ブシューと煙を上げてマグマは止まった。よく溶けなかったなと、教室はコンクリートが剥き出しになっていて焦げているし、ボコボコになっていた。そして、ヤンキー先輩がヘタレて蹲っているのが見えた。

 すすだらけでボロボロの刀を地面に挿して、それに寄りすがって肩で息をしている。とても疲れているのが一目で分かった。

 

 特に関心はなくて、海紫はこのステージを見回した。

 プラゴン○エストⅩに出てきたようなステージ構成で、それをムーンライト・オンラインでプレイしたような記憶があった。そして、この教室にも入っていた。こんな状況で思い出すとは、昼には気付かなかったし、気にする雰囲気でもなかったが。

 でも、なんとなく嫌であるし、皮肉だ。


 海紫は短刀に魅せていたガラスを捨てた。手から離れると、身体を覆っていた光もガラスの刀身を包んだ光も消えた。朱梨も黙りこんで、そして両手をポケットに突っ込んでため息を付いた。

「はぁ~♪ 楽しいね楽しいね。何ッこのアトラクション??」

「知るわけ無いだろ」

 座り込んでいた朱梨の手を引いて立たせると、ヤンキー先輩達のいる入口付近に戻ると「スミマセン」と謝る。

 

 巫女はそんなのを見ていない。どうしたか、しゃがんで生徒を甚振っている。そして、ヤンキー先輩が睨んできた。結構つぶらな瞳だった。

「お前たちは何なんだ? ……俺らは何のために力を付けたのか分からなくなってきた」

「そんなの知らないし」

 朱梨がそっぽを向くように呟いた。まぁぶっちゃけその通りであるのだ。このヤンキー先輩に同情する義理もないし、第一関係ない。

「その力はなんだ? おい。教えろよ、俺とお前たち。何が違うんだよッ!?」

 心からの叫びとかなんかだろうが、別に知らない。適当に「年齢」とかって答えればいいのだろうか。特に変わるものなんて、この世界に似たゲームをしたことがあるということだけで。

 ボロボロの刀を地面から抜いてから、鞘に収めた。

「どうなの? しーちゃん」

 と、状況がよく分かっていない朱梨はキョロキョロと辺りを見回して、川原を見つける。どうにか、驚きを隠しているがそれを表面に出しているような、訳分からない表情をしている。


「……何も変わらないし、知らないよ」

 舌打ちして、貧乏揺すりのように右足が動き始めた。イライラしているのが態度に出ていて、そしてヤンキー先輩は悔しがるように拳をプルプルと震えさせる。

「お……ちつけ、俺。深呼吸」そして息を吐き出してから「く……く……悔しくなんてないんだからなッ!!」

 と、人差し指を一本立ててそれを、海紫と朱梨に向けた。その瞳にうるうると涙が溜まっているのがワンポイント。


 正直、引いた。全力で引いた。ヤンキー先輩が体張って皆を守ろうとしていた時に少しでもかっこいいと思ってしまった自分が恥ずかしかった。と、その光景を見て川原が海紫に対してジト目をしていた。

「まぁ、どうでもいいわ。とにかく、情報交換でもしましょう? まずは先生に会いに行きましょう」

 と、巫女さんがウィンクする。「おぅふ」と朱梨が呻く。

 なんとなく、それが年代を喰ったおばさんっぽく見えたのは少し黙っておこうか。多分、そんな歳ではないはずだ。同い年のようにも見えるし、まぁ少し古いアイドルのようにも見えたわけで。




 その赤い月が輝く世界を出た。時間は立っていないようで空は夕暮れにオレンジ色に焼けていた。そして、目の前に――――サギ師、桜坂が立っていた。

 シルクハットを取って胸の前に持って行き、そして深く一礼。

「お疲れ様です。そしてお二方、実力の差がはっきりとわかったでしょう?」

 ぱちんと指を鳴らした。するとどこからともなく桜坂のシルクハットが救急箱になった。何の前触れもなく、瞬きの一瞬にも見えたし、それもサギ師の手癖の悪さの一環だろうか?

 それから、包帯などを取り出して、ボロボロに焦げたヤンキー先輩に処置を施していった。

「先生、部室に行きません? 座って彼らと話をしたいです」

 巫女の声だが――姿が違っていた。服装が違うだけだが、口調も少しだけ変わったようなきがするのは気のせいだろう。多分、真城鈴姫ましろすずきと言ったっけ。

 杖を持っていたはずの片手にはシャーペンを握っていて、それをポケットにしまった。

「あ、それもそうだね。よし、行こうか」

「どこにです?」

 川原だった。そう、どこに連れて行かれるか何をしているか、全くわからないのは彼女だけだろう。海紫も朱梨もなんとな悟った表情をしているのだ。


「部室かな、異端調査部。今日から君たちは強制だよ」

 桜坂はそう言って、ポッケからキャラメルの箱を取り出す。そして内一粒を口に含んだ。美味しく無いと噂の、キャラメル味だった。なんか、粉っぽいらしい。

「どうする? 朱ちゃん」

「どうしよう、しーちゃん」

 ん~。と考える二人を見て、それでも川原は「行きます。全て説明してくれるんでしょ」と言った。それから、海紫に向かって


「二回目だけど、『ムーンライト・オンライン』と『プラゴン○エスト』について追求するからね」

 付け加えるように川原がそういうのだ。少し寒気がした。


 あ、そういえば。と思ったのだが、ヤンキー先輩を見る限り、向こうの世界で受けた傷は帰ってきても残ったままなんだなと思った。その視線に気づいたのか真城鈴姫が

「外傷は残るけれど、少し違うのよ。それも含めての情報交換だから」

 海紫は頷くしか無かっただろう。行きたくないと今更ほざいても、川原が決定権を何故か持っていたのだから。つまり、無理矢理に連れて行かれただろう。

 

 


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