下衆とカラスとそれから小鳥
翌朝。
「んーぅ?」
イレーニャは頭を撫ぜる手の感触で、目を覚ました。まぶしい朝の光にぱちぱちと瞬きをして首を傾げたイレーニャの視界に入ってきたのは穏やかな笑みを浮かべて、見下ろすウィルの姿だった。
「マスター?」
寝ぼけた口調に返される穏やかな朝の挨拶。ほっとしてまた眠くなって、二度寝してしまった。そして、ひどく珍しいことに、ウィルは、それを許して、また、目を覚ますまで、隣についていた。
はっと起き上がると、隣で紅茶を飲みながら新聞を読んでいるウィルがそこにいた。
「マスター?」
「大丈夫です。今日はゆっくりしてください」
「……?」
首を傾げたイレーニャに、ウィルはふっと笑っていた。覚えていないらしい。鳥頭とはすばらしいものだ。そう思いながら、そっと柔らかい銀色の髪に指を滑らせた。
「マスター? えっと?」
「もう怖い奴はいませんからね?」
言い含めるような言葉に、イレーニャは、昨日乱暴されそうになったことをようやく思い出した。
「……? はい」
はっきりとした断言にうなずきながら、不思議な色を目に宿してウィルを見た。
「君は何も知らなくていいですよ。ただ、……君に危ないことがあれば、私がすぐに駆けつけます。心配しなくていいですよ?」
その言葉だけで、十分だった。
こくんとうなずいて、嬉しそうに笑うイレーニャに、ウィルは、微笑み返して、ブランチを渡した。
袖机に無造作に置かれた新聞には、久しぶりの暗殺体がごっそり見つかったという記事がトップに躍り出ていた――。
みんなちがってみんないい。……じゃなーい。




