とある師団員の記述。
その、数か月後。
「ご心配をおかけしました」
灰色の髪をした男が、団長の部屋を訪ねてきていた。
「……お前、その髪は……?」
「魔力が今、ほとんどない状態ですので、その後遺症でしょう。一生なのか、一時的なのかはどうも私でも読めないもので……」
俺は、ちょうどその日団長の部屋の当番で、内番として詰めていた。この男が誰なのかもわからないが、ただ一つ分かったのは団長の声が震えていることだった。
「……魔力はロッドでどうにかしている状態か?」
「ええ。それでも、ロッドの魔力を全部吸っても元の魔力には戻らないかと」
「……とりあえず使う分だけということか?」
「ええ。もったいないですしね。一度、そちらに戻って、魔晶石に込めた余剰分を補給してから、今回の術式に影響があった場所を直しに行きたいと思います」
「お前な、もう少し休むということを知ったらどうだ」
「もう、二か月も休みました。そろそろ直さないと、ひずみが大きくなって直せなくなりますから」
そういって、彼はずいぶんと古しいロッドを召喚して団長を見た。
「ずいぶんやつれさせてしまいましたね。父上」
「……誰のせいだ」
「……俺のせい、ですか?」
「当たり前だ。お前を心配しないわけないだろうが」
その言葉に、俺はようやく得心がいった。彼は団長の息子さんの、あの有名なカラスさんだ。名前は知らん。
ということは彼も戦争に駆り出されて、団長とは違うところで戦っていたのか。
「……」
ふ、と影のある笑みを浮かべて、まだ青白い顔色をほころばせた彼には、何か、暗いものが見えた。
「ウィル? どうした?」
「……いえ。父上」
「なんだ?」
「あの小さな小鳥を、よろしくお願いできますか?」
「は?」
「……俺はもうあそこに帰るつもりはありませんので。彼女をできれば同族の元に。この森に解き放ってやってください」
そういって、カラスさんは紙を一枚団長に投げやって、そして、逃げるようにロッドに仕込んであるらしい転移魔法でどこかに飛んで行ってしまった。
「おい、ウィル!」
がたんと立ち上がった団長が、すぐにたたらを踏む。
「団長!」
倒れそうになる団長を俺は支えて、痩せた肩を抱き上げる。団長、こんな細かったっけ。
「……あの、バカ息子。また何か思い詰めよって」
椅子に座らせ、とりあえず薬と水を手渡すと、憤然と団長がつぶやいて、水の入ったグラスをたんと机にたたきつけた。
「あの、いかがいたします?」
「……とりあえず、帰る」
ポツリとした言葉に、俺はうなずくしかなくて、団長の帰宅の支度を整えて見送る。




