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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
とある師団員の記述①
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とある師団員の記述。

 わが国の、国防を担う組織の中に、魔法騎士魔術師師団というものがある。

 これは、本来違うギルドに入る、つまり別組織の一員である、魔法騎士と魔術師を同じ隊にぶち込んで、指揮を取り、時に前線、時に後方の支援を行う、切り札的な師団。

 一般に、魔法騎士と、魔術師の仲は悪いことで有名だ。

 魔術師は、魔法騎士のことを、筋肉バカと呼び、魔法騎士は魔術師のことを、頭でっかちのハゲができそうな連中、縮めて、ハゲ連中と呼ぶ。

 こんな二者をまとめ、一つの隊に仕立て上げようと考えた先々代の団長はすごい方だと誰もが思っている。

 そして、今の団長、先々代の孫息子であるディラン・ラインベルグ殿は、全団員の尊敬を集めていた――。

 少し前、この国は戦争があった。

 

 魔法騎士魔術師団の我々も前線で戦い、それなりの戦績を残していた。だのに。


 ウィルフレッドという軍師が構築した魔術によって、停戦が余儀なくされた。


 彼が行使した魔術は非常に悪趣味なもので、その場にいる、もしくはある、魔力をすべて吸い上げて消すというものだった。

 その結果、我々も、もちろん敵方も、魔力が使えないとしても、持っている歩兵ですら魔力を吸い上げられて動けなくなり、結果的に停戦、そして、無理やりだったが終戦へ持ち込んだ。

「生きて帰れたのはよかったけどなー」

 たまたま魔晶石のストックを持ち合わせていた俺たちは、報告のために、翌朝には王都に帰還し、帰還するまでの馬車や宿で書き上げた報告書を持って団長の元を訪れた。

 そして、報告書を上げて、回復が早かった俺たちは首を傾げた。

「団長?」

「……その、ウィルは、いや、ウィルフレッドと名乗る軍師は、いずこに?」

 どやすのだろうか。

 それなら幸いと隣にいる同僚に目を向けるが、首を横に振る。

「それが、彼の魔術を手伝っていた魔術師に聞いたところ、魔術を展開、そして行使、終了した時、こつ然と、姿を消してしまっていたと」

「は?」

「おい、お前何言ってんだよ?」

 その言葉に、団長が口をはさむ前に俺たちが、報告を上げた同僚につかみかかっていた。

「……ああ、いや。俺もそう思ったんだけどさあ……。後でつぶされた魔法陣を確認して一部だけど書いてみたんだ。これ、相当術者に負担がかかる術式になってて……」

 曰く、吸い取った魔力を消したんじゃなくて、吸い取った魔力を自分の魔力と同化するというものらしい。

 雑に書かれた魔法陣を見るからに、無茶な術式だと思った。教科書に乗せられるほど綺麗な術式だが、机の上でなければこれは無理だと一目でわかるものだった。

「しかも吸い取り切れなかった魔力を自分の魔力をぶつけて相殺したみたいで……」

「……おい、それ……」

 一番の禁じ手だ。

 魔力は水のようなもので、ぶつけて相殺しようとするとどこかに波紋が生じて不安定になる。だいたい、不安定になって避けるのが自分の体なわけで、魔法騎士学校では、その危険性を教えるために、わざわざやらせる。そして、何人かくたばりかけるやつも出る。

 数年前、それをやらせたのに不安定なところにもぶつけてうまく釣り合いを取らせて、教官たちの顔を真っ赤にさせた天才的な生徒がいたらしいが、そんなん眉唾もんの伝説だ。常人ではできない。

「俺は到底無事じゃないと思います。こつ然と姿を消したというのは、もしかしたら、魔力の反発によってどこかに吹っ飛ばされたか、転移魔法のように次元が歪んでどこかに飛ばされたか。次元が歪んで飛ばされていたとすれば、よほどこの世界に縁が深くなければ、最悪ほかの世界や、過去、未来に飛ばされている可能性もありまして……」

「……もういい」

 これまで静かに聞いていた団長の声が、わずかに震えていたことに、俺以外気付けただろうか。

「彼は、しばらくの間見つからない可能性があるんだな」

「ええ。いかがいたします? 指名手配など……」

「……いや。この件は緘口を敷きたい。いいな」

 静かな声なのに、どこか震えている。団長の表情は何も変わらないはずなのに。

 ふと、報告書を受け取った手を見ると、小刻みに震えていた。

「団長……?」

「すまないが、下がってくれ」

 明らかに動揺している団長に首を傾げながら、俺たち三人は一礼して団長の部屋を出た。

「どうしたんだろうな?」

「ウィル、って言いかけたから知り合いだったのかな?」

「かもしれねーな。団長の知り合いだったら、あんな無茶な術式はともかく、かなり腕のいい魔術師なのかもしれねーな」

 まだ、ふらふらするが、人気のない廊下を三人であるいて、食堂に戻る。

 そして、席について久しぶりに食べる食堂のばっちゃんの味にほっとした俺たちは、その時の団長の様子を忘れて舌鼓を打っていた。

ちょっと思いつかないので、親父さんたちの話を。

時系列としては23~28話の間の話です。

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