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カラスとセイレーン  作者: 真川紅美
カラスの意趣返し
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カラスの意趣返し

「お、腹黒帰ってきたよー」

 のんきな声はサラさん。どこか甘やかで香ばしい香りがすると思ったら、イレーニャが真っ白い毛並みを茶色に汚してパタパタと出てきた。

「お帰りなさい! マ、……ウィル!」

 また、マスターといいそうになった、とじっと見て、いじめるのはよそうかと、ごまかした笑みを見て笑う。

「ただいま。イレーニャ。……それは?」

「あ。これ!」

 と、不器用にラッピングされた箱に入っていたのは洋酒の香り漂う生チョコ。形はいびつだが、まあ、味はサラさんが見ているだろう。イレーニャは、よくお約束な間違いをする。砂糖と塩を間違えるなんて、ざらにある。

「イレーニャが作ったんですか?」

「はい! サラさんと一緒に」

「そうですか。ありがとうございます」

 今年も一緒に過ごそうといっていた、神の御子が広めた、お菓子を送りあう風習の日。それが父につぶされたのだった。昨日は非番。今日も急きょ休みをもらったのだ。文句なら父に言ってくれとロジャーさんを丸め込んだのは父には内緒だ。

「そういえば、サラさん」

「なあに?」

「ショコラを渡すのは今年が初めてですか?」

「ええ」

「過剰摂取させるのは禁物です。せいぜい一日一個ぐらいにとどめておきなさいと、言っておいてください」

「……なぜ?」

「ショコラは薬としても使われることもあります。そこらへんは、お父上に聞いた方が早いでしょう」

「わかったわ」

 真面目な提案には素直にうなずいてくれる彼女はとてもいい子だ。お転婆なのは、父の影響か知らないが、あのひねくれ者からここまでまっすぐな女の子が出てくるとは、と時々関心に思う。

「マスター?」

「いえ。彼女のところも、うまくいくといいでしょうね」

 本来、ショコラには高揚させる効果がある。人には気づかないほどの小さな作用だが、犬猫など動物にとっては大きな効果になって、毒となる。人狼には毒にはならないが、薬になるでしょう。そして、その高揚の作用は――。

「うまく?」

「明日丸一日、サラさんのところに行くのはやめましょうね」

 きょとんと首を傾げている彼女の頬に口づけを落としながら、私は、明日、バーナードは満足げな顔をして出勤してくるんだろうなと、腹の中で笑っていた。

犬に毒だというチョコレートは人狼には毒なのでしょうか?(笑)

ウィルがいきなり呼ばれちゃったーって、サラに泣きついて、どうせならと、作りかけていたチョコレートを一緒に作っただけっていう鳥ちゃん。

翌日、ウィルの言葉を忘れてサラのところにお礼を言いに行って、気まずい思いをするのでしたー(笑)

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