カラスの意趣返し
「なんだ、ほそっこい形をしているから、すぐへばると思ったが」
「これでも、魔法騎士の出ですよ。魔術師ではなく」
「え?」
「ええ?」
目を向くレオン君と、吹っ飛ばされた青年を見て察した。兄弟でここに送られたらしい。
「人狼のバーナード。知っているでしょう?」
「ああ。あの、人懐っこいあんちゃんだったな。確か、三つ年上の」
「あれと同期です。カラスのウィル、とも言われていました」
「カラス?」
「こうやって、しょっちゅう古代遺跡を巡っては魔晶石をとってきて父やおじい様に渡していたのを、ちょうど光物を巣に運ぶカラスとかけられましてね」
この黒髪、と指すと、メイスの彼は地面に響くような笑い声を上げた。どこか崩れたかもしれない。
「そりゃ、災難だったな! そうか、先輩なのか」
「一応。体質か、いくら鍛えても体は細いままでね。歴代で一番貧相な体つきで卒業した魔法騎士といわれました」
「まあ、見たことねえもんな。だって、そんな貧相な体つきじゃあ三日の地獄演習耐えらんねえだろ」
「そこは知恵ですよ」
と、卒業生の昔話をしながら遺跡の奥、ちょうど中央にある、朽ち果てながらも一際高い建物に入っていった。
「崩れて来ねえか?」
「一応、今は、私が魔力で支えています。君のメイスが降ってこなければ大丈夫ですよ」
「おう、そうか」
メイスは私と同じようで体に寄り付かせているらしい。手ぶらで暗いあたりを見回して、何かを詠唱したそれより早く、レオン君が光の精霊を呼び出して、あたりを照らし出した。
「おう、気が利くな」
「俺これしか役に立てませんから」
「そういえば、なぜ、父は君を?」
危険な場所というのに、魔術師を補佐として入れたのは何かわけがあるだろう。そう思って尋ねると、彼は困った顔をして私を見た。
「いやあ、古代魔法に興味があって……。こんなに危険だとは思わなかったんです」
「古代魔法に興味があった? すたれた魔法なのに?」
「ええ。なぜ、すたれてしまったのか。しかも、なぜ、この世に伝えられていないのか。すごく興味があります。それに、どの文献にも、それが誰によって、どのような目的で、そして、誰にも伝えられていないのか、それが書いてないんです」
「……」
それはそうだろう。私の一族が一括して管理して、ばらそうとしたらぶっ壊れる魔法をかけていたんだから。
それを口にしかけたが、押しとどめて私はため息をついた。
「それの研究者はいるんですか? 前駆者は?」
「それは……」
「見つけられませんよね。当たり前です。何のためにカラスという名前を使ったんだか」
肩をすくめて、建物の地下の部分に入る。
「なぜ地下なんだ?」
「技術が盗まれそうになったとき、いざとなったら、この建物を壊して埋められるから、古代魔法を制御する核は地下にしまっているものなんですよ」
「なぜ、知っているんですか?」
「……」
さっきの言葉で察せなければ、彼の能力はその程度。それを見せるために父は彼をここに招いたのか。危険性を知らしめる気で。
「まったく危ない真似をする」
下手をすれば一族の秘が漏れるのに。それほどまでに、父は私を信用している。




